【事例】私が亡くなったあと、障害をもつ長男がきちんと暮らせるよう対策したい(60歳女性 資産2,300万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、ご自身が亡くなったあとの障害をもつ長男の生活について、60歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士ときた事務所の行政書士・鴇田 誠治さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、CFP®、不動産コンサルティングマスター〉
相続・相続対策の専門家として、相続手続きの総合的なご支援はもちろん、遺言書の作成などの相続対策もお客様と共に考え、アドバイスをさせていただきます。また、後見や財産管理、民事(家族)信託などもお気軽にご相談ください。
▶行政書士ときた事務所
障害をもつ長男がきちんと暮らせるよう準備したい
相談内容
私に病気が見つかり、あまり先が長くありません。夫とは30年前に離婚しており、知的障害をもつ長男を残していくことになります。長男は身の回りのことは自分でできますが、お金の管理ができません。私が死んだら妹が面倒を見てくれると言っているので、遺産を渡せるようにしたいです。どうすれば良いでしょうか。
- プロフィール:60歳女性
- お住まい:千葉県
- 家族構成:長男、相談者の妹、相談者の弟の3名
- 被相続人:相談者本人(健在)
総額2,300万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地100㎡ 相談者と長男が居住 |
1,200万円 |
預貯金 | 600万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:長男 |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 長期的な支援を考えるなら家族信託
ご相談者様が亡くなったあと、障害をもつご長男がきちんと暮らせるようにするための対策を考える場合、長期的な視点での対策が重要です。
遺産を受け取ってもご自身で管理ができないご長男の場合、遺言書を作成して、ご長男に財産を引き継がせるだけでは、「きちんと暮らせるようにする」ための対策としては不十分です。
妹さんに遺産を渡して、その代わりとしてご長男の面倒を見てもらう義務を課す、いわゆる「負担付遺贈」という遺言の方法もありますが、今のところ「面倒を見る」と言ってくれてはいますが、いざその時になって何らかの事情によりその義務を果たさない、もしくは果たせない、という可能性もあります。
このような場合に検討してほしいのが「家族信託」という方法です。家族信託とは、不動産や預貯金など財産を持っている人が、ある目的(「将来にわたって長男の面倒をみてもらう」等)を果たすために、その財産を信頼できる家族や親族に委託して、管理・処分を任せる財産管理の仕組みです。
一般的な内容の遺言書だけでは解決できない「家族の長期的な支援と財産承継問題」を解決に導くことができます。
アドバイス2 家族信託の仕組みと利用方法
そもそも信託とは、「信(頼)」できる人に自分の財産を「(委)託」する制度です。財産を委託する人も、委託される人も家族や親族である場合を家族信託と呼んでいます。
さて、その家族信託は、基本的に「委託者」「受託者」「受益者」の3者で構成されます。
- 「委託者」 財産を持っている人で、その財産を委託する人
- 「受託者」 委託者から財産を委託され、財産の管理等を行う人
- 「受益者」 委託者が受託者に委託した財産から利益を受け取る人
委託者が受託者に財産を委託して、受託者が受益者のために適切に財産の管理や処分を行う仕組みです。このとき「信託契約」や「遺言信託」の方法によって信託を設定します。
どちらの方法を選択すれば良いかは、信託を設定する目的によって決定します。
- 「信託契約」 生前から財産の管理等や相続対策を目的とする場合
- 「遺言信託」 死後の財産管理や財産の承継対策を目的とする場合
ご相談者様の場合には、ご自身がお亡くなりになった後の財産管理(ご長男の面倒を見ること)と、財産の承継(財産の一部をご長男の面倒を見てくれる妹さんに渡すこと)が課題であり目的となっておりますので、委託者をご相談者様、受託者を妹さん、受益者をご長男とする「遺言信託」の設定をおすすめします。
これにより、ご相談者様が亡くなった後もご長男はご自身で財産を管理することなく、妹さんからの支援を受けて生活することが可能となり、面倒を見てくれる妹さんには遺言書の中で特定の財産(例えば「預金のうち100万円」)を遺贈するなどとしておくことで報いることもできるでしょう。
なお、今回のご相談者様のように、障害のある子を抱える家族の問題を「親なき後問題」と言いますが、この問題は「障害のある子が高齢になった際の認知症リスク」など長期的なサポートと対策を検討する必要があり、家族信託や遺言だけでは対応が行き届かないこともあります。
その場合は、家族信託と任意後見制度などを併用して、親の死後も障害のある子の長い人生をサポートできる仕組みを構築することがとても大切になります。
※ 信託銀行等でも「遺言信託」という名称のサービスを取り扱っていますが、このサービスは「信託銀行等が、遺言書作成の相談から遺言書の保管、そして遺言の執行までの相続に関する手続きを引き受ける」というもので、ここでご説明している「遺言信託」とは異なります。
アドバイス3 生命保険の受取人を変更する必要がある
最後に、現在ご契約中の生命保険についてです。
死亡保険金の受取人をご長男として契約していますが、ご長男は、保険金を受け取っても自分で管理ができないため、受取人をご長男以外の者に変える必要があるでしょう。
しかし、面倒を見てくれるからと、妹さんを保険金の受取人にすることは、先にご説明したように「必ずご長男のためだけに使ってくれるかどうかわからない」ため不安が残ります。
このようなときに検討したいのが生命保険信託です。
生命保険信託も、信託ですので「委託者」「受託者」「受益者」の3者で構成されています。
生命保険信託は、保険金の受取人を信託銀行等に変更して、万が一の時には信託銀行等(受託者)が保険金を受け取って、保険契約者(委託者)が生前に定めたご親族等(受益者)に、あらかじめ決められた方法で受け取った保険金から金銭を支払う、というものです。
例えばご長男は、死亡保険金を直接受け取っても管理することができないため、あらかじめ「毎月、生活費として支払い専用の口座に10万円ずつ振り込む」「面倒を見てくれる妹さんの口座に10万円ずつ振り込む」などと決めておくことで、信託銀行等がそのとおりに支払ってくれるわけです。
一般的な生命保険では保険契約に従って、保険会社が受取人へ一括で保険金を渡すことになりますが、生命保険信託は、保険契約及び信託契約に従って、「毎月1回」や「年4回」のように分割して渡すことができることから、障害のある子を抱える家族にとって長期間のサポートを期待でき、大きなメリットがあると言えるでしょう。
ただし、生命保険信託の利用には以下のような注意点があります。
①費用がかかる
生命保険信託は、信託銀行等との間で「信託契約」を締結することが必要となりますが、この場合、信託契約時と信託開始後に信託銀行などに対して手数料がかかります。
②すべての生命保険会社で利用できるわけではない
生命保険信託はすべての生命保険会社で利用できるわけではなく、生命保険会社が信託銀行等と共同で取り扱っている場合に利用可能となります。これから契約する場合はもちろん、いまご契約している生命保険契約についても、その会社が信託銀行等と共同して生命保険信託を取り扱っているかどうか確認する必要があります。
以上、ご説明して参りましたが、思いを実現するためには遺言書の作成も家族信託も専門家のサポートが必須です。
特に家族信託は、法律的にも税務面でも専門的な知識が必要となる場合がありますので、ニーズや希望に合った信託を作成するためには、行政書士や弁護士など、専門家の支援を受けてから作成するようにしてください。
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この記事を書いた人
〈行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、CFP®、不動産コンサルティングマスター〉
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