【事例】高齢の父と認知症の母。父の相続対策をしたい(53歳女性 資産3,930万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、認知症の相続人がいる場合の相続対策について、53歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、澤田行政書士事務所の行政書士・澤田 誠喜さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、防災士、JGAP指導員〉
仙台駅から歩いて10分くらいの所に事務所があります。静かな室内で、しっかりとお客様の言葉に耳を傾けます。遺言、後見、家族信託、相続、その他生活に関連したお手伝いをしております。
▶澤田行政書士事務所
認知症の相続人がいると、遺産分割協議が大変?
相談内容
高齢の父と認知症の母がいます。父の認知機能ははっきりしていますが、病気があり余命半年と言われています。父が亡くなった場合、認知症の相続人がいると遺産分割協議が大変と聞きました。今からできる対策はありますか?
- プロフィール:53歳女性
- お住まい:愛知県
- 相続人:母、長女(相談者本人)、長男の3名
- 被相続人:父(健在)
総額3,930万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 土地110㎡ |
2,500万円 |
預貯金 | 780万円 | |
有価証券 | 150万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:母 |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
はじめに
認知症のお母様と、余命宣告を受けたお父様。お2人を支える相談者様御家族の御苦労はいかばかりかと存じます。
今回は、お母様を残してお父様が亡くなられる場合への備えについて考えてみます。
アドバイス1 認知症の相続人がいる時の遺産分割協議
もし、何の手立ても講じないままお父様が亡くなられた場合、相続財産は遺産分割協議によって分けることになります。
本来、遺産分割協議は相続人全員が合意すれば、法定相続分にこだわらず、自由に財産を分けることができます。
しかし、認知症の相続人がいる場合そのようにはなりません。というのも、認知症の方が結んだ契約は無効になる可能性が高いからです。
そのため遺産分割協議には、認知症の相続人の後見人等が加わることが求められます(後見人等は判断能力の衰えの程度によって後見人、保佐人、補助人のいずれかが就任します。これらをまとめて、以下、「後見人等」と記します)。
現在、ご家族が後見人等に就くケースも増えているようですが、相続のように家族と認知症の方が財産を分けるような場合には、家庭裁判所は弁護士等の専門家を後見人等に指名します。したがって、相続人だけで自由に話し合って遺産を分け合うことはできません。
また後見人等は、認知症の御本人のために活動をしなければならないので、御本人の不利益になることはできません。このことを相続に当てはめて考えると、少なくとも認知症の方の法定相続分を確保しなければ遺産分割協議は成立しないことになります。
相談者様のお母様の場合、相続財産の2分の1が法定相続分になります。生命保険は受取人固有の権利になるので、遺産分割の対象にはなりません。したがって、お母様の相続分は約1,700万円になります。遺産分割でお母様がこれを下回る額の相続をすることを、後見人等が認めることはないでしょう。
アドバイス2 後見人等のつけ方
以上のように、お父様がお母様を遺して亡くなられ遺産分割が必要になった場合、お母様に後見人等をつける必要があります。
後見人等をつけるためには、家庭裁判所に後見等開始の審判の申立てをしますが、そのためのさまざまな準備が必要です。
医師に診断書を書いてもらったり、財産や収入や支出の状況を調べ書類にまとめたりします。これらの準備をしたうえで、はじめて申立書を家庭裁判所に提出できます。
この審判の申立をしたとしても、実際に後見人等が活動を開始できるようになるまで、そこからさらに約2か月はかかります。
つまり、少なくともこの間の数カ月は、遺産分割はできません。
相談者様が心配されている「認知症の相続人がいると遺産分割協議が大変」という事情は、大まかに言えば上記のような点にあります。
アドバイス3 遺産分割協議を円滑に行うために、今からできる対策を
お父様は余命宣告を受けておられても、認知機能は大丈夫とのことでした。
そうであるならば、お父様の意識がはっきりされている間に遺言書を作ってもらうことをおすすめします。
遺言書の代表的な作り方には、自筆証書遺言と公正証書遺言の2つがあります。相談者様の場合、お父様の現状からして公正証書遺言が適切です。
なぜならば、お父様がお持ちの財産のすべてについての分け方を遺言書に指定しておけば、遺産分割協議をする必要がないからです。
公正証書遺言とは、公証人(法律のプロである公務員)に、遺言内容を伝えて、それを公正証書という書類にしてもらう方法です。この方法なら、相続が発生したら直ちに遺産を遺言通りに分けることが可能です。
また出張料はかかりますが、入院先に公証人に来てもらうこともできます。このことも、公正証書遺言をおすすめする理由です。
公正証書遺言を作る際には、御本人の印鑑証明や戸籍謄本等の書類も必要になりますが、これらは代理人が準備することもできます。
公正証書遺言には、2名の証人が必要です。この証人には、相続人になる可能性のある方やその配偶者が就くことはできません。基本的には赤の他人がなるものとお考え下さい。
もし、行政書士などの専門家に遺言作成の支援を依頼すれば、公証人との事前の打ち合わせや、さまざまな書類の準備、証人の手配などを任せることができます。
人が亡くなった後には、遺産分割の他にも様々な手続きが待っています。お父様名義の契約関係の手続き、年金や健康保険・介護保険等の手続きがあります。お葬式や納骨、衣類や小物の整理など、法律上の手続きの他にもやることは山積みです。
そのうえでお母様の介護が重なると、ご家族が協力して取り掛かっても精神的・身体的な疲労は大きくなる可能性があります。
そうした点も踏まえて少しでも負担が少なくなるように、今からできることを少しずつ準備してください。
関連事例
【事例】今の妻と子どもを守るために公正証書遺言を作りたい(49歳男性 資産4,700万円)【行政書士執筆】
【事例】身寄りのない私。認知症になったときに備えて、任意後見制度を利用したい(62歳女性 資産3,250万円)【行政書士執筆】
相続についてのご相談は「いい相続」へ
いい相続では、全国各地の相続の専門家と提携しており、相続手続きや相続税申告、生前の相続相談に対応できる行政書士や税理士などの専門家をご紹介することができます。
専門オペレーターが丁寧にお話を伺いサポートしますので、お困りの方は、お気軽にご相談ください。
この記事を書いた人
〈行政書士、防災士、JGAP指導員〉
仙台駅から歩いて10分くらいの所に事務所があります。静かな室内で、しっかりとお客様の言葉に耳を傾けます。遺言、後見、家族信託、相続、その他生活に関連したお手伝いをしております。
▶澤田行政書士事務所
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。