【事例】長年母の世話をしてきた。遺産を多めにもらうことはできますか?(66歳女性 遺産2,180万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は長年介護をしてきた母が亡くなり、その遺産分割について、66歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、行政書士FPしゅくわ事務所の行政書士・宿輪 德幸さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
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長年母の介護をしてきました、遺産を多くもらえませんか?
相談内容
1月に高齢の母を亡くしました(現在は4月)。父はずっと前に亡くなっています。私はずっと母の介護をしてきました。弟2人は遠くに住んでいて、ほとんど面倒を見てくれませんでした。自宅もこのまま住み続けたいし、できれば多めに遺産をもらうことはできますか?姪は相続放棄すると言ってくれています。
- プロフィール:66歳女性
- お住まい:秋田県
- 相続人:長女(相談者本人)長男、次男、姪(亡くなった妹の子)の4名
- 被相続人:母
総額2,180万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・家屋) 相談者が居住 土地100㎡ |
1,400万円 |
預貯金 | 280万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:母 受取人:長女 |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 遺言書がなければ、遺産分割協議をする必要がある
遺言がない場合には、相続財産の分け方を相続人が話し合いで決めなければなりません。相談者様は、お母様の介護を一人で続けていたとのことですが、これを理由に財産を多く取得できるとは限りません。
遺産分割協議での検討事項
①相続財産
死亡時に所有していた財産が相続財産となります。生命保険金は、生前は契約者の財産ですが、死亡した時点で保険金受取人の財産となります。相談者様が受け取る死亡保険金は相続財産ではありません。
遺産分割の対象となる相続財産は、不動産1,400万円と預貯金280万円の合計1,680万円となります。
法定相続分は、遺産分割協議においては単なる目安でしかありません。相続人が合意すれば、一人の相続人が遺産全部を取得するとすることも可能です。ただし、借金などの債務は法定相続分で相続しますし、遺産分割協議が合意できず裁判所の調停や審判になったときには、原則として法定相続分で分割されることになります。
③相続放棄と相続分の譲渡
相続人の1人(姪)は相続放棄をするとのことです。これは借金などの債務が多い場合にすることが多く、初めから相続人ではなかったことになります(つまり相続人が3人となり、それぞれ3分の1の法定相続分となる)。ただし今回は相続放棄ができる期限である、相続開始から3か月を過ぎていますのでできません。
相談者様の苦労を見て、自分の分をあげたいというのであれば、「相続分の譲渡」をしてもらうと良いでしょう。譲渡した姪は遺産分割協議の参加者から外れ、相談者様の相続分が2人分になります。
④寄与分
遺産分割で考慮されるべき事項として、生前贈与などの「特別受益」や、被相続人の財産の維持・増加に特別に寄与した者の「寄与分」があります。相談者様の介護を寄与分として認められれば、その分多く財産を取得することができます。
アドバイス2 このケースでの遺産分割(法定相続分で分割)
4人の法定相続人が、4分の1の法定相続分を持っています。 相続財産は1,680万円ですので、法定相続分はそれぞれ420万円となります。
生命保険金500万円は相談者様が当然に取得します。
①法定相続分で分割
相談者様:420万円(法定相続分)+500万円(生命保険金)=920万円
弟・弟・姪:420万円/人
②姪から相談者様に相続分の譲渡があった場合
相談者様:420万円(法定相続分)+420万円(譲渡分)+500万円(保険金)=1,340万円
弟・弟:420万円/人
法定相続分で考えるとこのようになりますが、不動産は分けることができません。共有とすることはできますが、今後の管理処分が面倒になりますので、相談者様の単独所有としたいところです。自宅を取得した相談者様が、他の相続人に金銭(代償金)を支払うことができれば、法定相続分での分割が可能となります。
アドバイス3 寄与分の評価は、話し合いで決める必要がある
相談者様の介護を、お母様の財産の維持に特別の寄与と認めれば、その分多く財産を取得できます。ただし、寄与の評価額については、話し合いで決めなければならず、評価方法も決まっていません。同居親族による扶養義務範囲の介護であれば寄与分とはなりません。寄与分として評価されるのは特別な寄与だけです。
例えば「姉さんは家賃も払わず親の家に住んでいた。自分たちは、家賃を払って生活していたんだ。介護するのは当たり前じゃないか」と主張されるかもしれません。
アドバイス4 話し合いで円満な合意を目指しましょう
相談者様も裁判所の関与までは望まないとのことです。まずは、弟さんたちに遺産分割を相談しましょう。親の介護のことや、自宅は住み続けたいことなどをわかってもらい、円満な合意を目指しましょう。
生前の相続対策がされていないと、親族内のトラブル「争族」となることもあります。相続対策としては「遺言」「生命保険」「民事信託」などがあり、それぞれ一長一短ありますが兄弟が不仲になるような事態を発生させないよう、子から親に相続対策をお願いしても良いのではないでしょうか。
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