【事例】身寄りのない私。認知症になったときに備えて、任意後見制度を利用したい(62歳女性 資産3,250万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、ご自分が認知症になった場合の対策について、62歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、あいりん行政書士法人の行政書士・梅澤 徹さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成26年開業。神奈川東京を中心に相続サポートを行っています。あいりん行政書士法人は、相続、遺言の専門事務所です。相談者に寄り添い共に解決していく「身近な暮らしの法律家」になることを使命としています。無料相談件数600件の実績から、わかりやすい言葉で相談者の「困った」を解決します。
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自分が亡くなったとき、親戚に財産を渡したくない
相談内容
元夫とは10年前に離婚していて、子どもはいません。親戚に兄の子どもがいますが疎遠で頼れず、財産を渡したくありません。自分が認知症になったときのことが心配でいろいろ調べたら、「任意後見制度」というものがあると知りました。もしもの場合、信頼できる方に身の回りのこと、各種手続きなどをお願いしたいのですが、可能でしょうか。
- プロフィール:62歳女性
- お住まい:石川県
- 相続人:姪、甥の2名
- 被相続人:相談者本人(健在)
総額3,250万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション (35㎡) |
1,500万円 |
預貯金 | 1,550万円 | |
有価証券 | 200万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 身寄りのない人は認知症になったときに備えて、任意後見制度を利用しましょう
相談者様は 姪・甥ではなく、信頼できる方に、将来ご自身が認知症になったときのこと、さらに亡くなった後のことを頼めないかと悩んでいらっしゃるかと思います。
そのような時のために、任意後見制度や遺言があります。
任意後見制度を利用すれば、相談者様が認知症になった時に任意後見人が援助してくれます。また信頼できる方に財産を譲る旨の遺言書を作成しておけば、あわせて死後の手続きもお願いできる可能性があります 。
相談者様の不安が解消し、安心した気持ちとなれば幸いです。
任意後見制度とは
任意後見制度とは本人が十分な判断能力を有する時に、将来認知症などで判断能力が不十分になった場合に備えて、あらかじめ任意後見人となる方や将来その方に委任する事務の内容を任意後見契約で決めておく制度です。
任意後見契約は本人と任意後見人となる方との間で、公証人の作成する公正証書によって締結されます。
この契約は 委任契約ですので、公正証書では本人が委任者であり、任意後見人となる方が受任者です。
任意後見契約を締結したことは登記されます。
本人の判断能力が不十分になった場合に、家庭裁判所で任意後見監督人が選任されて、はじめて任意後見契約の効力が生じます。
任意後見監督人の役割は、任意後見人がその責任を果たしているかどうかを監督することです。
任意後見人は 任意後見監督人が選任された時から、任意後見契約で委任された事務を本人に代わって行います。
任意後見人の選び方
特定の資格を問わず成人であれば、本人の信頼できる方を任意後見人に選ぶことができます。つまり、ご家族の方以外でも任意後見人になることができます。
任意後見人が行う事務の内容
本人と任意後見人となる方との合意により、事務の内容を自由に決めることができます。任意後見人が行う事務の内容は、「財産の管理」と「生活と療養看護」です。
財産の管理とは不動産や預貯金の管理、年金の管理、税金や公共料金の支払いなどです。
生活と療養看護とは、要介護認定の申請、介護サービスの契約、施設入所契約、病院への入退院手続き などがあります。
任意後見制度を利用する際の注意点
任意後見事務の費用は、任意後見人が管理する本人の財産から支出されます。
任意後見人の報酬は本人と任意後見人との話し合いで決めますが、契約で報酬の定めをした場合には、本人の財産の中から支出されます。
そして、これらの処理が適正になされているかどうかは、任意後見監督人が監督します。
任意後見監督人の報酬は、家庭裁判所の判断を踏まえ、本人の財産から支出されます。
認知症になる前に任意後見制度を利用することが大切
相談者様は頼りにできる身寄りがなく、ご自分が認知症になった時のことが 心配ということですから、ぜひ任意後見制度の利用をおすすめします。
また、身の回りのことや各種手続きなどをお願いしたいのであれば、信頼できる方を任意後見人として選ぶこともできます。
任意後見人支払う報酬の目安
東京家庭裁判所「成年後見人等の報酬額のめやす」によりますと、成年後見人が通常の後見事務を行った場合の報酬は、月額2万円が目安とされています。ただし管理財産額が1,000~5,000万円までは月額3~4万円、 管理財産額が5,000万円を超える場合は基本報酬額を月額5~6万円とされています。
このケースですと、相談者様の管理財産額(預貯金及び有価証券)は1,750万円のため、おおむね月額3〜4万円が相場となります。
アドバイス2 遺産の行方と死後の手続きについては、遺言書で残しておく
このケースでは、法定相続人が姪・甥となります。したがって遺言書で姪・甥以外の者に遺産を譲る旨の遺言をしておかないと、姪・甥が相談者様の遺産を相続します。
公証人の作成する公正証書遺言は、自筆で作成した遺言書と異なり形式の不備などで無効になることもなく、遺言者本人の意思が反映できます。
相談者様が「任意後見契約」でお考えの「信頼できる方」に、財産を譲る旨の遺言をしても良いでしょう。また、「残りの遺産は寄付したい」などご自身の希望を遺言に残すことができます。
姪・甥の方には「遺留分侵害額請求権」がないため、相談者様がお考えの「信頼できる方」を遺言執行者に指定すれば、亡くなった後の手続きもスムーズに進み、遺言書がある限り相談者様の意思が尊重されます。
死後の手続きも遺言書に明記することが可能
ご自身が亡くなったとき、葬儀や法要の方法、関係者への死亡の連絡、役所への死亡届の提出、健康保険や年金の資格抹消申請、遺品整理、家財道具や生活用品の処分、公共料金の解約など、いろいろな手続きを誰かがしなければいけません。
これらは財産を譲る方にお願いし、理解してもらうのが良いでしょう。そして法的な効力はありませんが、公正証書遺言の付言事項として残しておくことをおすすめします 。
まとめ
以上の方法で相談者様は、ご自身の財産を姪・甥に相続させなくできます。
もう一度おさらいをすると、遺言で信頼できる方に財産を譲り、任意後見契約や遺言の公正証書でその方に頼んでおけば、将来認知症になっても、身の回りのことや各種手続きをしてもらえます。また、亡くなった後の手続きもお願いしても良いでしょう。
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平成26年開業。神奈川東京を中心に相続サポートを行っています。あいりん行政書士法人は、相続、遺言の専門事務所です。相談者に寄り添い共に解決していく「身近な暮らしの法律家」になることを使命としています。無料相談件数600件の実績から、わかりやすい言葉で相談者の「困った」を解決します。
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