【事例】相続人の一人が生活保護を受給している(52歳女性 遺産580万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、相続人の一人が生活保護を受給している場合の遺産分割について、52歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、特定行政書士森田法務事務所の行政書士、宅建士・森田 哲也さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、宅建士、外国人雇用管理士、申請取次行政書士、特定行政書士、2級FP技能士〉
当職は、行政書士業務は勿論のこと、事件の複雑さに応じて、弁護士、税理士、司法書士、土地家屋調査士、宅建士、遺品整理業者等と連携して、当職を窓口とするワンストップサービスを展開し、お客様のご依頼に応じて最適な法務サービスを提供しております。まずはご相談ください。
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生活保護の人が、遺産を相続しても大丈夫?
相談内容
父が病気で亡くなりました。母は3年前に亡くなっています。遺産分割をしようと思うのですが、兄は生活保護を受給しています。遺産を相続することで、受給が停止しないか心配しているようです。このような場合、どうすれば最も良い遺産分割ができますか?
- プロフィール:52歳女性
- お住まい:鳥取県
- 相続人:長男、長女、次女(相談者本人)の3名
- 被相続人:父
総額580万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 300万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:長女 |
280万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 このケースにおける法定相続人と相続税の有無
まずはご尊父様の逝去に際し、誠にご愁傷さまでした。お悔やみを申し上げます。さて早速ですが、ご相談にお答えさせていただきたいと存じます。
相談概要にてお伺いいたしました貴方様の状況によりますと、推定相続人は3名、被相続人はご尊父様で、ご母堂様は既にお亡くなりとのこと。したがって第1順位の推定相続人が3名なので、法定相続持分は長男様、長女様、次女様それぞれ3分の1ずつということになります。
そして遺産の概要として、預貯金が300万円、生命保険金が280万円(受取人は相続人のうちの長女様)であり、他に負債等がなければ、みなし相続財産の保険金を加算したとしても合計で580万円となります。他に加算すべき特別受益等、あるいは相続時精算課税等の事実がないとすれば、相続税の基礎控除額の4,800万円を下回るため、まずは相続税はかからないケースであろうかと存じます。
そうしますと法定相続分で相続するか、あるいは遺産分割協議にて、法定相続分と異なる割合で相続をするか否かは、基本的に相続人間で自由に協議できるということになります。
ただし先の保険金は、受取人である長女様のもとにご尊父様の死亡と同時に行きますので、実質的に分割できる遺産は、預貯金の300万円となります。しかしこの遺産をどのように分割するかは、十分留意する必要があると考えます。
すなわち長男様が生活保護を受給されている、ということで、相続によって生活保護の受給停止があるか否かにつきご心配とのことですが、その点に絞ってご説明させていただきます。
アドバイス2 生活保護を受けていても、相続は可能
まず「生活保護受給者がそもそも遺産の相続が可能か否か」については、現行の民法では相続人の資格について特段の規定は設けておりませんので、当然相続は可能です。そのため法律的に生活保護を受給しているからといって遺産相続ができない、ということはございません。
もちろん、「成年被後見人等になっており意思表示ができない」というようなケースでない限り、遺産分割協議に相続人全員が参加しないと、むしろ、遺産分割協議が成立しない、ということになってしまいます。
その協議において法定相続持分によるのか、あるいは異なった持分により遺産分割をするのか、という問題は別ですが、いずれにせよ相続権はあります。
アドバイス3 生活保護を受けている人は、原則として相続放棄はできない
しかし、長男様が生活保護の受給者であることにより、事実上制限されうることがあります。そのひとつが「相続放棄ができるか否か」ということです。
長男様が生活保護を受給されていることについては、先に述べたとおり、相続人としての権利については阻害される事由ではございません。
そもそも、「生活保護はなぜ支給されるのか?」についてその主旨を鑑みますと、日本国憲法第25条より導かれますところの生活保護法第1条「国が生活に困窮する全ての国民に対し、その困窮の程度に応じ、必要な保護を行い、その最低限度の生活を保障するとともに、その自立を助長することを目的とする」ことから支給されているわけです。
しかし、一方、同法第4条1項により「保護は、生活に困窮するものが、その利用しうる資産、能力その他あらゆるものを、その最低限度の生活の維持のために活用することを要件として行われる」とあります。
つまり、相続により遺産を受け継ぐことは当然できるのですが、受けた遺産については、自身の最低限度の生活の維持に必ず活用しなければならず、活用しないのであれば保護の受給の要件を満たさない、ということに帰結します。
ですから今回のケースに限らず、生活保護を受給されている方が相続人となった場合、実務上、相続放棄はできません。
ただしいくつかの例外的なケースもあり、その場合は相続放棄も可能です。
すなわち、せっかく相続したとしても換金が難しい山林や農地などの不動産が含まれていたり、その他の動産等を相続しても維持費倒れになってしまい、結局相続以前よりかえって生活状況が困窮しかねない、などの場合は相続放棄が認められると考えます(ただし、個別の事情については、必ず福祉事務所に相談してください)。
今回のご相談では遺産が現金なので、その限りにおいて相続放棄はできません。
アドバイス4 相続しても生活保護の停止や打ち切りにならない遺産もある
一方で、相続しても生活保護の停止や打ち切りにならない遺産もあります。
例えば先の生活保護法の受給要件である、最低限度の生活の維持に役立つ遺産であれば相続しても停止や打ち切りにはなりません。
具体的には少額の遺産(一時的な収入と認められうる程度)や、自宅にしか居住先がない場合の自宅、農業を行っている場合の田畑、農業用具など、事実上換金できず、また最低限の生活を維持するため、絶対に必要な遺産であれば相続可能と考えます。
ただし、資産価値が高く容易に売却が可能な、そして、最低限必要なもの以外の遺産などを相続をしてしまうと、例えば「住宅扶助」部分のみの減額等以外に、受給停止、打ち切りなどもあり得ます。
また仮に、そのような判断が難しい遺産を相続した場合、福祉事務所に黙って相続してしまいますと、後日、福祉事務所側に判明した場合、打ち切りはもちろん、生活保護費の返還請求や刑事罰の適用などになりかねません。
ですから今回のケースも含め、生活保護受給者の方の現実の生活環境や、労働可能な状況か否か、また遺産を相続したことにより最低限度の生活を脱し、自活できるきっかけとなりうる金額の相続なのか、によって判断されるでしょう。
いずれにせよ、必ず福祉事務所側に相談をしてください。相続しても生活保護受給が停止、打ち切りになるか否かは個別の事情を判断しなければならないからです。
以上を総合いたしますと、まずは推定相続人の現状の確認と、遺産の正確な状況、資産価値の把握が必要です。そのうえで各相続人の遺産分割内容の意思の確認、また、福祉事務所側にきちんと相談をすることが必須であると考えます。
以上によりご返答申し上げます。
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