【事例】認知症の相続人がいる場合、遺産分割はどうすれば良い?(45歳女性 遺産4,280万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、相続人に認知症の方がいる場合の遺産分割について、45歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、堀江行政書士事務所の行政書士・堀江 寛寿さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士〉
平成11年より東京都大田区で開業しています。わかりやすく丁寧な説明がモットーです。相続業務をはじめとして任意後見契約、金銭消費貸借契約などの契約書の作成や建設業許可、産業廃棄物収集運搬業許可などの許可申請業務を行っております。
▶堀江行政書士事務所
認知症の人がいる場合の相続手続きは?
相談内容
父が病気で亡くなりました。母には最近会っていませんでしたが、軽い認知症かもしれません。実家は母が住んでいます。母の分の遺産はどうなるのでしょうか?遺産分割のやり方について教えてください。
- プロフィール:45歳女性
- お住まい:京都府
- 相続人:母、長女(相談者本人)、次女の3名
- 被相続人:父
総額4,280万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て (土地・家屋) 母が居住 土地120㎡ |
2,000万円 |
預貯金 | 1,560万円 | |
有価証券 | 300万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:父 受取人:母 |
420万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 認知症の相続人には代理人が必要
相続人に認知症の方がいる場合は、その方を代理する人が必要です。代理する人を成年後見人と呼びます。
遺産分割協議は相続人全員が同意しなければ成立しません。そのため、相続人のなかに認知症の方がいる場合には、遺産分割協議を行うことが難しくなります。その人を除外した形での遺産分割協議は、無効となってしまうからです。
しかし、先ほど述べたようにその方の同意がなければ遺産分割協議を行うことはできません。そこで、認知症の相続人を代理して遺産分割協議を行う人が必要となります。それが成年後見人なのです。
アドバイス2 認知症の程度によって、成年後見制度のサポート内容は変わる
成年後見制度は、認知症になった方の権利を守るために作られた制度です。法定後見と任意後見の2つの制度から成り立っています。双方ともに家庭裁判所の監督下で業務を行います。
法定後見とは認知症になった方をサポートする仕組みです。一方、任意後見とは、今は認知症の問題はないけれど、将来認知症になったときに本人が希望するサポートを事前に決めておくための仕組みとなります。ご相談のように、すでに認知症となっている方が利用するのは法定後見です。
法定後見のサポート内容は認知症の程度によって、成年後見、保佐、補助の3つのクラスに分かれており、医師の診断に基づき家庭裁判所によって決められます。各クラスの対象となる認知症の程度と、サポートを行う人は次のとおりです。
- 成年後見 ものごとの判断能力を欠いており、日常生活に係る行為全般についてサポートが必要な状態。サポートを行うのは成年後見人。
- 保佐 簡単なことは自分でできるが、財産の管理や処分といった行為については常にサポートが必要な状態。サポートを行うのは保佐人。
- 補助 日常生活の大概のことは自分の判断でできるが、財産の管理や処分といった行為についてはサポートが必要な場合がある状態。サポートを行うのは補助人。
アドバイス3 成年後見制度は、被後見人の権利を守るための制度
成年後見制度を利用するにあたって、注意すべき点は主に次の2点です。
1.必ずしも希望した人が後見人になることはできない。
後見人を決めるのは家庭裁判所です。そのため、後見人選任の申し立てを行った人の希望通りの人が選ばれるとは限りません。また、家庭裁判所が行った決定について異議を申し立てることはできません。
2.後見人の業務は、被後見人が亡くなるまで行う必要がある
後見人の業務は被後見人の権利を守り、安心して生活してもらうための身上監護とそのための財産管理です。この業務は被後見人が亡くなるまで続きます。そのため、たとえば、遺産分割協議を行うためだけに成年後見制度を利用することはできません。
アドバイス4 この相続における遺産分割のアドバイス
母親が認知症に罹っている可能性がある場合、医療機関に相談して症状の程度を確認することが必要です。そのうえで、既述の法定後見の3クラスのいずれかに該当する場合は、家庭裁判所に対して後見申し立ての手続きを行いましょう。遺産分割協議は後見人が決まった後で行うこととなります。
家庭裁判所は後見開始の審判を行うにあたって、親族からの情報や医師の診断書、さらには医師の鑑定結果の内容を精査して決定します。なお、医師の診断書は家庭裁判所が指定した書式を利用することとなっています。
この診断書には被後見人(母親)の判断能力の有無や程度についてのチェック欄が設けられています。その欄の記載によって後見人の必要性の有無や、被後見人の状態が法定後見の3クラスのいずれに該当するのかを知ることができます。
診断書がない場合、または診断書の作成ができない場合には、その理由を記載した報告書を提出することとなりますが、くわしくは家庭裁判所に相談することをおすすめします。
後見人が選任されたら、その後見人を交えて遺産分割協議を行うこととなります。注意すべきは「この場合の遺産分割協議は法定相続分に従ってなされる」という点です。
成年後見制度は、被後見人の権利擁護のための仕組みです。そのため、被後見人の不利益となる遺産分割協議は認められず、結果として法定相続分に応じたものとなってしまうのです。
なお成年後見制度を利用し、法定相続分に応じて遺産分割がされた後も、成年後見人の許可なしに母親の財産を処分することが出来なくなります。
例えば認知症が進み、介護をしているご家族が、母親の住む自宅を売って介護施設への入居費用にあてたいと考えても、自宅を売ることが母親の不利益になると成年後見人が見なせば売却できず、資金の捻出に困るといったケースも実際あります。
認知症患者の数は、今後ますます増えていくと言われています。
今回のケースのように、認知症になってしまった後では、ご家族が望む形での遺産分割やその後の生活設計が出来なくなる可能性があります。
ご心配な方は認知症になる前、元気なうちに、行政書士や司法書士など相続の専門家に、相続対策を相談してみてください。
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