【事例】家族がもめないよう、今のうちから生前贈与をしておきたい(64歳男性 資産5,600万円)【税理士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、家族が相続でもめないよう早めに準備をしておきたい、64歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、岩田志郎税理士事務所の税理士、行政書士・岩田 志郎さんです。
目次
この記事を書いた人
〈税理士、行政書士、AFP、上級相続診断士、上級終活ガイド〉
大阪府八尾市に事務所を構える。医療・介護・相続・葬儀など広範な「終活」に関して情報交換する『笑顔終活Café』と、「相続に関することなら何でも」「どこよりも低料金で高サービス」を目標とする『相続QQ隊』を運営中。
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妻と子どもたちが相続でもめないよう、生前贈与を検討したい
相談内容
そろそろ自分も年を取ってきたので、財産の生前贈与を考えています。今住んでいる家は妻に贈与して、現金を3人の子どもたちに平等に渡すつもりです。自分が死んだとき、家族がもめないかが心配です。うまいやり方を教えてください。
- プロフィール:64歳男性
- お住まい:神奈川県
- 相続人:妻、長男、長女、次男の4名
- 被相続人:相談者本人(健在)
総額5,600万円
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て (土地・家屋) 土地120㎡ |
1,800万円 |
預貯金 | 3,300万円 | |
生命保険 | 契約者・被保険者:相談者本人 受取人:妻 |
500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 年間110万円までの贈与であれば、贈与税はかかりません
まず贈与税の計算には、その年の1月1日から12月31日までの1年間に、贈与によりもらった財産の価額を合計します。
続いて、その合計額から基礎控除額110万円を差し引きます。次に、その残りの金額に税率を乗じて税額を計算します。
この課税方式を「暦年課税」と言い、この基礎控除の恩恵を活用した相続税対策が「暦年贈与」と呼ばれています。
贈与税の配偶者控除
贈与税の配偶者控除とは、配偶者が居住用不動産の購入またはその建築資金を贈与されたときに、贈与された金額から2,000万円まで控除することができるという制度です。
前述の基礎控除110万円とあわせると、年間2,110万円まで贈与税がかからないことになります。この控除の適用要件として
- 婚姻期間が20年以上であること
- 贈与財産は、居住用不動産又は、居住用不動産の取得資金のいずれかであること
- 贈与税の申告をすること
等がありますので注意が必要です。
アドバイス2 相続か生前贈与、どちらが適切かを検討しましょう
本件の相続税を計算してみます。
財産総額は5,600万円ですが、生命保険500万円は非課税(500万円×法定相続人4名=2,000万円まで)となりますから、5,100万円が課税対象になります。基礎控除額は5,400万円ですから、相続税はかかりません。
一方、今回の相談である「妻に自宅を贈与して、現金を3人の子供たちに平等に渡す」という贈与計画には問題があります。なぜなら妻に現金を遺せなくなりますので、妻の老後資金が不足するからです。
加えて妻が自宅を相続しなくても、妻には配偶者居住権(2020年に誕生した、遺された配偶者が自宅に住むことができる権利)がありますので、仮に家族間でもめても、自宅を出て行かなければならない事態を招きません。
生前贈与の注意点
生前贈与するときは「定期贈与」や「名義預金」等とみなされないよう、下記事項に注意する必要があります。
- 贈与契約書を作成する
- 毎年違う金額を贈与する
- 相続開始前3年以内の贈与に注意する(※)
- 受贈者が口座を管理する
(※)現在、3年以内の贈与は相続財産に持ち戻されますが、近い将来、これが「10年もしくは15年以内の贈与まで延長」さらには「相続時精算課税制度へ一本化される」可能性があります。
「相続時精算課税制度とは、親や祖父母からそれぞれ最大2,500万円までの贈与について、贈与税が非課税になる制度です。この制度を選択すると、暦年贈与や小規模宅地特例が使えなくなりますので、注意が必要です。
アドバイス3 家族会議を開催し、どのように預貯金を分割するか考えましょう
相続税がかかるかどうかの心配はなくなりましたので、「家族がもめないために」預貯金をどのように分割するかを検討します。
- 預貯金を生前贈与するか、相続が開始まで待つか?
- 自宅を取得した人と、預貯金を取得する人のバランスは?
- 相談者が認知症になったら?
等について、各相続人のライフプランを考慮して家族で話し合う必要があります。
アドバイス4 遺言書の作成も検討してみましょう
遺言は「自筆証書遺言」「公正証書遺言」等がありますが、「自筆証書遺言」は以下の点で扱いやすくなりました。
- これまで「すべて自筆で作成」が原則でしたが、2019年から「財産目録」に限ってパソコン等で作成することが可能となりました。
- 2020年から「自筆証書遺言書保管制度」も始まり、法務局で遺言書を預かってもらえます。この制度を利用することにより、「形式違反による無効が防げる」「検認が不要になる」など大きなメリットがあります。
また「公正証書遺言」は、公証人が作成する遺言書です。費用や手間が多少かかりますが、公正証書として遺言の内容を確認してもらえるため、確実に自分の遺志を遺すことができます。「自分で作成する手間を省きたい」という方は、行政書士などの専門家に依頼してみても良いでしょう。
家族会議とあわせてエンディングノートや遺言書を作成して、ご自分の思いを遺すことが重要です。
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