【事例】独身の私、死後は姪たちに財産を渡したい(74歳女性 資産5,850万円)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、ご自身の財産を姪御さんに相続させたい、74歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は澤田行政書士事務所の行政書士、防災士、JGAP指導員・澤田 誠喜さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、防災士、JGAP指導員〉
仙台駅から歩いて10分くらいの所に事務所があります。静かな室内で、しっかりとお客様の言葉に耳を傾けます。遺言、後見、家族信託、相続、その他生活に関連したお手伝いをしております。
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いつもかわいがっている姪に、財産を残せたら
相談内容
昔離婚した後、現在までひとりで暮らしています。兄と妹がいますが、兄とは疎遠にしています。子どもはおらず、普段から妹の子である姪2人をかわいがってきました。ただ最近病気をしたのをきっかけに、そろそろ本格的に終活をしなければと思っています。
私にもしものことがあった場合、姪たちにいろいろと手続きや片づけをしてもらう予定です。そのこともあり、財産はすべて姪2人に渡したいと考えています。この場合、どういう準備をすればいいでしょうか。
- プロフィール:74歳女性
- お住まい:福岡県
- 家族構成:両親死亡、長男、次女、姪2人
- 被相続人:相談者本人(健在)
財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅マンション 65㎡ |
1,300万円 |
預貯金 | 3,800万円 | |
有価証券 | 750万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
元気なうちに終活を始めることで、今後の備えに
一人暮らしの御高齢の方にとって、元気なうちに終活を始めることは、今後の安心につながります。「もしもの場合」への希望がある場合は、そのための手立てを具体的に、そして早めに準備しておくことがとても大切です。
相談者様の御希望は、次の2点にあると理解しました。
- もしものことがあった場合、姪2人にさまざまな手続きや片づけをしてもらいたい。
- 死後の財産はすべて姪2人に渡したい。
御希望を実現するためにおすすめしたいことが、2つあります。
ひとつは、遺言書の作成。2つ目が任意後見契約を結んでおくことです。
アドバイス1 遺言書の作成と、あわせて遺言執行者を指定しておく
相談者様の場合、もし何も準備をしないまま亡くなったときは、法定相続人である兄と妹が財産を相続することになります。そのため姪2人に財産を渡すには、遺言書にその意思を書く必要があります。
通常、遺言書を残す場合は法定相続人の遺留分に配慮した方が良いのですが、兄弟姉妹に遺留分はありません。その点では、安心して姪2人にすべての財産を渡すことができます。
ただ法的な権利と人の感情は別問題です。そこで遺言をスムーズに実行するために、遺言書に遺言執行者を指定しておくことを、あわせておすすめします。
遺言書にはいくつか作成方法がありますが、多くの場合、自筆証書遺言か公正証書遺言のどちらかが選ばれています。
自筆証書遺言とは
自筆証書遺言は、文字通り自分で書く遺言書です。
手軽に書ける反面、民法で定められた書き方をしていなかったため遺言書と認められなかったり、大切に保管しすぎて誰にも見つけられなかったりなど、残念な結果になることがあります。
2020年に自筆証書遺言を法務局で預かってくれる「遺言書保管制度」がスタートしました。この制度を利用すると遺言書の形式を確認してもらえるうえ、紛失の防止につながるので安心して預けることができます。
しかし、法務局は遺言書の内容についてアドバイスをしてくれません。また、本人が法務局に行かなければならないので、出歩くことが難しくなったときは利用しにくくなります。
公正証書遺言とは
一方の公正証書遺言は、公証人という法律のプロが書いてくれる遺言書です。
公証人は遺言書を作るほかに、原本を保管してくれるので安心できます。ただ、証人が2名必要です。推定相続人や遺産をもらう人などは証人になれません。
この点、行政書士や弁護士等の専門家に公正証書遺言の作成支援と証人を依頼すると、費用はかかりますが、手続きはスムーズに進みます。
遺言書を作成するときに、検討しておきたい事項
相談者様が遺言書を作るときに、作成方法のほかに検討していただきたい点が2つあります。
ひとつは有価証券の評価額、2つ目が相続税への配慮です。
有価証券には価格変動が大きいものがあるので、相続発生時の評価額が遺言書作成時と異なる可能性があります。2人の姪それぞれに、どのように財産を渡すのかにも関わる検討事項です。
相続税への配慮については、先ほどの有価証券の評価額も関係するため慎重に検討すべきです。もし相続税がかかる場合には、姪が負担する相続税は2割増しになる可能性もあります。
ですから、今後の生活や医療・介護費用などを見すえた収支計画をもとに、相続税対策を踏まえた遺言書の作成が欠かせません。
アドバイス2 任意後見契約を行い「もしもの場合」に備える
相談者様が心配しておられる「もしもの場合」には、認知症になったり病気やケガで入院した場合のさまざまな手続きや財産管理、死後の事務手続きが含まれていると思います。これらのことには、遺言書の作成だけでは対応できません。
そのため相談者様が元気なうちに、姪と任意後見契約をすることも御検討ください。
任意後見契約とは、認知症になった場合の財産管理や、介護や入院に関わる手続きなどを、信頼できる人(任意後見人と言います)に頼んでおく契約です。2人の姪のどちらかを任意後見人にすることができます。この契約により、介護や入院にかかる費用を口座から引き出すとき、姪が苦労することはなくなります。
任意後見人の活動は、認知症になった時から亡くなるまでの期間だけです。ですから、認知症にならずに足腰が弱った場合や入院したときの財産管理、死亡後のさまざまな手続きには別の手立てが必要です。
一般的に、任意後見契約に認知症にならないときの財産管理契約や、死後の事務を委任する契約を付け加えて、こうした事態にも対応できるようにしています。これらのことも姪と契約書を作成しておくと良いでしょう。
任意後見契約は公正証書で契約書を作成しなければならないので、遺言書とあわせて公証人に作ってもらうと良いかもしれません。
以上のように、相談者様の場合には遺言書と任意後見契約書の作成をおすすめします。しかし、その内容にはさまざまな検討事項があります。お早めに、行政書士などの専門職に相談された方が安心です。
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