【事例】遺言書を使って内縁の妻に生命保険を残せるか?(68歳男性)【行政書士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談をもとに、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は、遺言書を使って内縁の妻に生命保険を残せるかを検討している、68歳男性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、寺岡行政書士事務所の行政書士、CFP・寺岡 克彦さんです。
目次
この記事を書いた人
〈行政書士、ファイナンシャル・プランナー(C.F.P.)〉
大手外資系生命保険会社を経て「より専門的かつ広範囲にわたる優れたワンストップ・サービス」の提供を目標に独立開業。 行政書士としては、主に遺言書起案・作成指導、遺産分割協議書作成などの相続関係書類作成や相続手続き全般、任意後見契約書作成などを手掛ける。 また生命保険に関する総合的コンサルティング業務および生命保険募集業務にも精通。 関連会社:株式会社シリウス(保険募集代理店)。信条は「常に顧客の利益を一番に考える」「顧客に一番喜んでいただける方法・手段を考える」。
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遺言書によって保険の受取人を内縁の妻にしたい。子どもには知られたくない
相談内容
15年ほど前に離婚し、内縁の妻と暮らしています。自分にもしものことがあった場合でも内縁の妻に財産が残せるよう、今入っている生命保険の受取人を「子ども」から、内縁の妻に変更したいのですが、生前に子どもにこのことを知られたくない。遺言で受取人を変更できると聞いたのですが、可能でしょうか。
相談者
- プロフィール:68歳男性
- お住まい:京都府
- 相続人:内縁の妻、離婚した妻との間に子ども1名
- 被相続人:相談者本人(健在)
相関図
アドバイス1 公正証書遺言で生命保険の受取人変更は可能?
生命保険の死亡保険金受取人変更について、保険会社での取り扱いは、内縁関係を証明できる場合に限り、受取人変更できるケースがあります(会社により取り扱いが違うのでご確認ください)。
内縁関係を証明するには、長年にわたり生計維持関係がある・年賀状が内縁の妻と連名で来ている・住民票の提示などの客観的な証拠が必要です(今回は詳細説明は割愛します)。
しかし原則として法定相続人がいる場合には、取り扱いは困難なようです。
では遺言によって、生命保険の死亡保険受取人の変更は可能でしょうか。従来は法的根拠がなく見解が分かれていましたが、平成22年4月1日に施行された「保険法」により明文化されました。(保険法44条、73条、附則2条本文)
遺言作成上の注意点について
民法に定める遺言としての要件(民法960条以下)を満たし有効であり、かつ、保険契約が特定され、その死亡保険金受取人を変更する等の記載(意思表示)がある場合に限ります。
有効となるための遺言の形式に関しては、
・公正証書遺言、もしくは検認を受けた自筆証書遺言等、遺言として要式を満たし有効であること
・契約が特定され(保険会社名、証券番号、契約者、被保険者等の契約特定情報)、その死亡保険金受取人を特定者に変更する、もしくは死亡保険金を特定者に受け取らせる旨の記載(意思表示)があること
なお、保険金請求権は指定受取人の固有の権利であり、被相続人(=契約者)が遺言で処分できる財産の範疇に属さないので、「財産全てを〇〇に遺贈する」といった、いわゆる「包括遺贈」形式の遺言については、遺言による有効な受取人変更とはみなされません。
また、遺言による死亡保険金受取人変更の意思表示後に、新たな遺言によるさらなる死亡保険金受取人変更を行った場合や保険会社に対して死亡保険金受取人変更手続きなどの意思表示をした場合には、遺言はその部分について撤回されたことになるので注意が必要です。(民法1023条2項)
遺言による死亡保険金受取人変更は、その遺言が効力を生じたのちに保険契約者の相続人がその旨を保険者(保険会社等)に通知しなければ、保険者に対抗することができません。この通知は遺言執行者によることも可能です。
ただし、この通知以前に死亡保険金が支払われた場合には新たな死亡保険金受取人には支払われません。
つまり、保険証券記載の死亡保険金の受取人が請求を行い、保険会社が支払った場合には、遺言による受取人変更で指定された者には支払われないのです。
このようなトラブルを避けるためにも、できれば生前に死亡保険金受取人変更の手続きをすることをお勧めします。手続については当該保険会社にご確認ください。
原則として、平成22年の保険法施行前の契約については保険法44条の遡及適用はなく、改正前の商法の規定が適用されます。ただし、保険会社によって、保険法施行後と同様の取り扱いをするところがありますのでご確認ください。
数社に問い合わせたところ、保険法施行前の契約でも、遺言による受取人変更はできるとのことでした。
ただし、保険会社所定の約款上指定できない死亡保険金受取人のケースは、取り扱いができないこともあるということでした。
アドバイス2 前妻との離婚が成立していない場合
では、設問のケースが前妻と離婚しておらず重婚的内縁関係(いわゆる不倫関係)の場合はどうでしょうか。
原則、死亡保険金受取人を既定の親族(2親等以内が多い)以外の第3者にすることはできません。また、この場合は重婚の禁止(民法732条)や夫婦間の貞操義務に反するものであり公序良俗に反し無効(民法90条)となる可能性があります。
状況にもよりますが、生活実態や生計維持関係などを考慮し、総合的に判断することとなります。多くの場合取り扱いはできないでしょう。
遺言による死亡保険金受取人の変更については受け取り時に問題となることが想定されますので、生前に保険会社に確認し受取人変更ができるようであれば変更されることをおすすめします。
まとめ
内縁関係や重婚的内縁関係の場合には、事前に十分に検討されることをおすすめします。特に血縁関係のある子ども等の法定相続人の遺留分を侵害しないよう気を付けましょう。
また、生命保険金については受取人固有の財産として取り扱われ、相続財産とは別の取り扱いとなりますので注意が必要です。
生命保険の活用として、生前の保険料贈与なども含め総合的な対策が必要です。
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