【事例】2次相続を踏まえた遺産分割がしたい(53歳女性 遺産9,750万円)【税理士執筆】
「いい相続」や提携する専門家に寄せられた相続相談を元に、その解決策を専門家が解説するケーススタディ集「相続のプロが解説!みんなの相続事例集」シリーズ。
今回は2次相続を踏まえた遺産分割について、53歳女性の方からの相談事例をご紹介します。
解説は、日本経営ウィル税理士法人の行政書士、税理士・小林 幸生さんです。
目次
この記事を書いた人
〈税理士、行政書士、宅地建物取引士、CFP®、1級ファイナンシャル・プランナー技能士、日本証券アナリスト検定会員補〉
希望を持てる明るい社会を築くため、税に対する相談や対策はもちろんのこと、ライフプランの作成や資産や事業の円満な承継、寄附文化の定着などに取り組んでいます。
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母が亡くなった場合を考慮して、2次相続対策を行いたい
相談内容
父が亡くなりました。自宅は母が住み続けます。人に貸しているマンションは、私か妹のどちらかが引き継ぐ予定です。2次相続を踏まえた遺産の分け方についてアドバイスをお願いします。相続税もなるべくかからないようにしたいです。
相談者
- プロフィール:53歳女性
- お住まい:栃木県
- 相続人:母・長女(相談者本人)・次女の3名
- 被相続人:父
父親の財産
総額9,750万円財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
不動産 | 自宅戸建て(土地・建物) 土地200㎡ |
2,800万円 |
不動産 | 賃貸マンション(敷地権・建物)敷地権150㎡ | 1,600万円 |
預貯金 | 3,000万円 | |
有価証券 | 850万円 | |
生命保険 | 契約者:被相続人、被保険者:被相続人、受取人:母 | 1,500万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
母親の財産
総額2,500万円財産の内訳 | 内 容 | 評価額 |
---|---|---|
預貯金 | 1,000万円 | |
有価証券 | 500万円 | |
生命保険 | 契約者:母、被保険者:母、受取人:相談者 | 1,000万円 |
※プライバシー保護のため、ご住所・年齢・財産状況などは一部架空のものです。
相関図
アドバイス1 相続税の計算方法
ご相談いただいた目的は、「相続による財産の承継を円滑にしたい」「相続税の額をあらかじめ把握した上で、税負担を出来るだけ少なくする方法を選択したい」ということでしょう。
そこで最初に、相続税のしくみについて簡単に説明させていただきます。
相続税は、相続等により取得した財産等の価額の合計額が基礎控除額を超える場合に、その超える課税遺産総額に対して課税されるものです。
なお基礎控除額とは、平成27年1月1日以降の相続では、
により求められた金額とされています。
相続等により取得した財産等の価額の合計額が基礎控除額を超える場合には、被相続人の死亡したことを知った日(原則、相続開始の日)の翌日から10か月以内に相続税の申告書を提出することが必要となります。
出典:国税庁ホームページ
相続税額の具体的な計算には、前述の課税遺産総額を、各法定相続人が民法に定める法定相続分に従って取得したものとして、各法定相続人の取得金額を計算します。その上で、各法定相続人の取得金額に応じた税率をかけて相続税額を計算し、各法定相続人の算出税額を合計したものが、相続税の総額となります。
なお、実際に各相続人が納付する税額は、原則として、相続税の総額を、各相続人の取得金額が課税遺産総額のうちに占める割合により按分して、税額します。
おって、相続税を計算するに当たっては、主に次のような特例等があります。
配偶者控除
配偶者は、1億6,000万円か法定相続分のどちらか高い金額までの額について、控除を受けることができます。
未成年者控除
相続人の中に未成年の者が居る場合には、10万円×(20−相続時の年齢)で求められる額を控除することができます。
障害者控除
相続人の中に障害者が居る場合には障害の区分によって、次の額を控除することができます。
- 一般障害者:(その障害者が85才になるまでの年数)×10万円
- 特別障害者:(その障害者が85才になるまでの年数)×20万円
相次相続控除
相続開始前10年以内に被相続人が相続等によって財産を取得し相続税が課税されている場合には、その被相続人から相続等によって財産を取得した人の相続税額から、一定の金額を控除することができます。
死亡保険金の非課税
被相続人の死亡によって取得した生命保険金や損害保険金で一定のものは、以下の非課税限度額が設けられています。なお、相続人以外が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
死亡退職金の非課税
被相続人の死亡によって取得した退職金等で一定のものは、以下の非課税限度額が設けられています。なお、相続人以外が取得した退職金等には非課税の適用はありません。
小規模宅地等の特例
相続等によって取得した財産のうち、その相続開始の直前において被相続人等の事業の用又は居住の用に使用されていた宅地等のうち一定のものがある場合には、その宅地等のうち一定の面積までの部分について、相続税の課税価格に算入すべき価額の計算上、下記の表に掲げる「減額される割合」だけ減額することができます。
出典:国税庁ホームページ
以上が、相続税の計算方法の概要です。
次に1次相続、2次相続にむけて、どのようなことに留意して財産の分割を検討すべきかを説明をさせていただきます。
アドバイス2 1次相続では小規模宅地の特例や、死亡保険金の非課税枠を活用し節税
相続財産の分割を考えるときに最も重要なことは、「遺されたご家族がこれからどのような人生を送っていきたいのか」「どのような想いで、どの財産を引き継いでいきたいか」を共有することです。
税額のみに着目して財産の分割を行った場合、相続税には対処できるかもしれませんが、相続の問題を根本的に解決することにはなりません。
まずは、ご家族で想いの共有をすることを最優先に考えてください。
それでは、1次相続における相続税を計算してみましょう。
自宅について母親が住み続けるということですから、小規模宅地の特例が適用できそうです。また、死亡保険金の非課税枠も活用できそうです。
それらの特例等を活用した結果、正味の遺産額が7,510万円となりますので、基礎控除4,800万円を控除すれば、2,710万円が課税遺産総額となります。
これに対する相続税額が289万円となりますので、納税資金は相続財産である預貯金の中から支払いが可能だと思われます。
本件は、金融資産が多く生命保険等も活用していますので、比較的ゆとりある分割ができるケースではないでしょうか。
なお、配偶者控除も適用できますので、母親が相続する財産の額が多くなるほど相続税額は少なくなる(すべて相続すれば零となる)ケースですが、2次相続で、母親の財産にも相続税がかかることも考慮しなければなりません。
アドバイス3 2次相続を考えて、賃貸マンションは子が相続するよう検討を
2次相続では相続人が2人となりますので、基礎控除が4,200万円となります。また、死亡保険金の1,000万円に対しては同額の非課税枠が認められます。
そうすると、2次相続のケースでは、お母さんの相続の際に、正味の遺産額が生命保険1,000万円を含め5,200万円までであれば相続税はかからないということになります。
これに対して、お母さんの相続財産は、生命保険を受け取る予定であり、ご自宅を相続したいということですので、もともとの「母親の財産」と合計すると6,800万円となります。
差額の1,600万円に相続税がかかることになりますが、このようなケースでも、お母さんが日常の生活費や医療費等で計画的に1,600万円以上費消すれば、相続税はかからなくなります。
なお、お母さんの年齢が80歳ということですので、1次相続、2次相続における財産の分割方法を決める上では、母親が今後費消する金額(X万円)を合理的に積算することが重要です。
(参考)
なお、家賃や配当といった高収益を生む財産は、その収益分も相続財産となりますので、母親が十分な金融資産を持っているのなら、あなたか妹さんが相続する方が良いでしょう。
- 小規模宅地の特例が適用できるように分割する。
- 相続税の納税に困らないように分割する。
- 1次相続だけでなく2次相続のことも考慮して分割する。
- 母親が一定水準の生活を維持するために必要な金額を合理的に積算し、分割の参考とする。
- 母親が預貯金等を十分に有している場合には、収益を生む資産は、子供に相続させることを検討する。
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