相続対策と認知症対策で、家族信託は使いやすい手段に|行政書士インタビュー 高田行政書士事務所
この記事はこんな方におすすめ:
相続について漠然と希望はあるけれど、家族への切り出し方がわからない方
- 相続相談は早めに。亡くなってから、認知症になってからではできることは限られてしまう
- 認知症対策+相続対策として、家族信託の可能性は大きい
- 時間を掛けて相談することで、相談者自身も気付かなかった本音が見えてくることも
相続というとつい他人ごとと思ってしまい、その時になって後悔するというケースは多いようです。とはいえ、「事前の相続相談」なんて言われても、いつ、誰に、何を相談すれば良いのかわからないというのが普通なのではないでしょうか。
そこで、今回は相続相談というのはどのようなものなのか?相続相談をするべきタイミングや、今後、相続と併せて認知症対策にも期待できる家族信託などについて、千葉県習志野市の高田行政書士事務所、高田俊二所長にお話を伺いました。
新卒で入行した銀行での経験も含め、30年あまりにわたって相続に関わる相談を受け続けてきた高田さん曰く、「人生相談に訪れる気持ちで相続相談する」のがコツのようです。
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この記事を書いた人
2007年鎌倉新書入社。『月刊仏事』編集記者を経て、「いい葬儀マガジン」等、葬儀・お墓・仏壇など、終活・エンディング関連のお役立ち情報や業界の最新の話題をさまざまな切り口で紹介するWebメディアを立ち上げる。2018年には終活・葬儀情報に特化した「はじめてのお葬式ガイド」をリリース、同サイトの編集・運営を行う。2020年からは「相続なび」の編集・運営を開始し、現在に至る。
相続相談は、人生相談。愚痴を話していただけたら最高
-銀行に勤めていらしたときから、相続のご相談を受けていらしたのですか?
行員時代は法人のお客様と個人のお客様、どちらも担当していましたが、個人のお客様の場合はやはり、相続のお話が多かったです。
銀行ですので、「口座が凍結されて預金が引き出せない」とか、「体調が悪くなってきたけれど資産をどうしよう」といったご相談が多いのですが、さらに深く掘り下げて聞いてみると、お話が広がっていくのです。
最初は預金口座の相談で訪れた方が、よくよくお話を伺ってみると実は不動産でお悩みだったり。遺産の分割方法について相談できる人が誰もいなくて困っているとか、そのようなお話につながります。
こうした経験を積んでいくうちに、相続のご相談を入り口に、あらゆるお手伝いができることがわかってきました。
-ご相談を受けるときに大切にしていることはありますか?
やはり、お客様が愚痴を言えるような間柄になれることが一番です。
ご相談に見えるお客様は、事前に何らかの調査をし、自分なりの方向性を固めている方も多いです。しかし、十分な時間を掛けてじっくり話を聞くと、最終的には当初考えていた結果とは大きく異なることが大半です。
相続のご相談には、その方が歩まれてきた人生がとてもよく表れています。
お客様のお話を伺っていると、「愚痴ばっかり言ってしまいましたね」と、お客様が恐縮されることもあります。でも、その時は本当に良かったなと思います。というのも、お客様には愚痴を話す相手が必要だったからです。
愚痴を話すということは、本音を話すということですから。本音で話していただければ、それに対して「では、こうしたら良いですよ」と、解決方法も提案できるわけです。
最初のうちこそ、「相続相談というのは、まるで人生相談みたいだな」と思いましたが、今ではそれこそが、解決への一番の近道なのだと感じています。
資産の多い少ないにかかわらず、相続が始まる前に相談しておくのが理想
-相続の相談に訪れるタイミングはいつが多いですか?
実際には相続が発生してからご相談にいらっしゃる方が多いのですが、本来は相続が始まる前に相談していただくのが理想です。
私がもし、相続相談でも特に得意分野を挙げるとしたら、遺言作成、生前贈与、そして家族信託です。というのは、財産調査や遺産分割協議書作成などはある意味事務的な業務で、解法がすでに決まっています。
それに対し、生前贈与や遺言、家族信託は、お客様と私が、あらゆる解法に向かって、自由な発想で絵を描けるからです。
-どのような相談が多いのでしょう?
具体的に困っていることのご相談です。ご家族が亡くなられて最初に困ることは、やはり「預金が凍結された」ということが多いようです。
葬儀代も支払わなければならないわけですし。銀行口座の凍結については法律も変わり、条件を満たせば、遺産分割協議がまとまる前に相続人が預金のうち、一定額を引き出すことも可能です。しかし、ご存知ない方も多く、ご説明すると、「そうなんですか?」という方もまだまだいらっしゃいます。
銀行に「亡くなった」という連絡をする際に、銀行によってはきちんと「遺産分割協議の前でも、150万円までは引き出せますよ」というように説明をされるところもあるでしょう。
一方で、お客様から何か言ってこない限り、説明をしないという銀行もあるようです。
-相談者は資産を持っている人が多いのでしょうか?
当事務所に相続のご相談にお見えになる方が皆、資産家の方ばかりか?というと、そうではありません。
また相続争いという言葉もありますが、これも資産の多い方に限られたことではありません。おそらく、相続財産が3千万円以下のようなケースが大半だと思います。
10年後、20年後には、家族信託が相続の中心になる
-先ほど得意分野とおっしゃっていた中から、家族信託について教えていただけないでしょうか
私の個人的な考えですが、家族信託は今後、10年後、20年後には相続対策の中心になると思っています。ただし、現状ではまだ、対応できる先生方も少なく、判例も少ないので不安な部分もあるという段階です。
家族信託ができるように法律が変わってから10年くらい経ちますが、「家族信託」という言葉が皆さんに知られるようになったのは、この2、3年のことだと思います。
以前は家族信託の話をすると「どこかの信用金庫ですか?」という感じでしたので、ようやく、少し理解されるようになってきたという印象です。
家族信託と民事信託は同じような意味で使われますが、「家族」というと親しみやすい、やわらかなイメージもありますね。
-親しみやすいとはいえ、「信託」というからにはやはり資産家向けという印象があります
資産の多い、少ないにかかわらず、家族信託は役立つと思います。例えば認知症の問題。
家族信託が最も使われている、もしくは最も有効な場面は、まさに認知症対策だと思います。認知症はどなたでもなる可能性はあります。何千万円といった資産がなくても、認知症になってしまったら、子供たちが財産を思う通りにできなくなります。
そのような視点で考えると、相続対策だけではなく、相続対策+認知症対策という面で、今後、使いやすい手段になると思います。
今はまだ、亡くなってからご相談にいらっしゃる方が多いですが、私はお元気なうちから認知症になった時のことを考えておくべきだと思います。その中では、家族信託は有効だと思います。
-認知症対策としては、成年後見制度もあります。どのような違いがあるのでしょう?
成年後見制度は、それはそれで良い制度ではありますが、ご本人を守ることしかできません。資産があっても、例えばその資産を運用するとか、ご自宅を売るとかはまず認められません。
積極的なことは何もできない。一方、家族信託は、契約内容を変更することで対応できることは広がります。このような意味においては、家族信託の方が一歩先を進んでいる、いろいろな手が打てるという感じがします。
また、成年後見は月々数万円の費用がかかります。年間にしたら数十万円という費用です。
家族信託も、契約時にはまとまった費用がかかりますが、その後のランニングコストは成年後見制度ほどではありません。
もちろんお金の問題だけではないでしょうが、長期的なスパンで考えると、費用の面でも家族信託の方がコストも抑えられるように思います。
大切なのは解法を慌てて出さないこと。お客様の本音を聞き出すこと
-これまでの相談の中で、心に残っている案件はありますか?
奥さまが亡くなられたご家族のご相談で、遺産分割協議書の作成などをおこなったことがありました。ご主人と3人のお子さんがいらして、不動産はご主人の名義でしたので、奥さまの預貯金を相続するというご相談です。
ご相談そのものは難しいものでもありませんでしたので、何の問題もなく終えました。
ただ、その時ご主人の様子が気になったのです。ご相談の時は息子さんが同席してすべてを仕切っていらして、ご主人は「いいよ」と同意をされているのですが、その姿がなんと言いますか、「おや?」と思うところがありました。
そこでタイミングを見計らってご主人に個別にお話を伺ってみると、奥さまが亡くなられたことで自分の将来のことも考えられていて、ご主人なりの希望がありました。
「不動産は長男に、預金は自分の面倒を見てくれている次女に譲りたい」。一方で、前妻の子である長女に対しては、あまり接点もないので「遺留分のみにしたい」という気持ちがあったようです。
ただ、長女への気兼ねもあり、また子供たちも3人とも仲も良いので、ご自分からはなかなか言い出せずに黙っていたようなのです。
表面上は穏やかでも、ご主人の心の中ではいろいろと葛藤があったのですね。
そこで、「余計なことかもしれませんが、やはりお子さんたちとご相談された方が良いのではないですか?」と申し上げました。
実際にご主人が希望を伝えると、子供たちもすんなり納得しましたので、ご主人のお考え通り、不動産は長男に、預金は長女の分を遺留分のみにして、末のお嬢さんに多く渡るように、公正証書遺言を書きました。
少し前の案件でしたが、先日、お嬢さんからご連絡がありまして、「お父さんが認知症になってしまった。あの時、きちんと希望を聞いていて良かった」とおっしゃっていただきました。
もちろん、最初の依頼だけで終わらせることもできたのですが、そこを一歩踏み込んでご相談に乗れたのが良かったと、印象に残っています。
-お父様への個別相談などもおこなったのですね。ところで、一般的にはひとつの案件に対してどのくらい面談をするのでしょうか?
私の場合、簡単な相談であれば、3、4回で解決することは多いです。しかし、少し複雑な案件になると、7、8回はお会いすることになります。
ほかの先生と比べるとこの回数は多いかもしれませんが、効率だけではなく、本音を引き出すというか、焦らずに細かいところまで確認しながら進めるとそれなりに回数は増えます。
もちろん依頼されたことをスマートにこなすということも、一つのやり方です。しかし、人生相談ではありませんが、やはり一歩踏み込んでお話を伺って、「あれ?」と思ったらさらにもう一歩、踏み込んでみるということも必要だと思います。
お客様の相談に対し、解法を慌てて出さないこと。とにかくお客様の本音を聞き出すこと。これが大切だと考えています。
-そこで信頼関係が築けたからこそ、先ほどのお嬢様も後からご連絡をくださったのですね。ところで、最近はコロナ予防という観点から、直接の面談を望まない方もいらっしゃるのではないでしょうか?
対策のひとつとして、Zoomでのご相談も対応しています。
始めた当初は希望する方もおらず、これは失敗だったかな?と思っていましたが、最近はZoomで相談したいとおっしゃる方も増えています。
当事務所の場合、もともと地域の方に限らず、遠方からご相談に見える方も多かったのですが、Zoomでのご相談の場合、距離は関係がなくなりますから。今後、遠方からのご相談がさらに増えるかもしれません。
-最後に、これから相続を考えなければならない方にアドバイスをいただけますか?
生前からの相続準備となると、「ご自分だけの意思で決めるべき」と思っている方も多いです。
しかし、私は遺言や生前贈与、家族信託など、可能であればご本人だけではなく家族会議のようなものを開いて、皆の意見を聞いて調整した方が良いと思います。
本人だけで考えてしまうと、亡くなられた後、争族になる危険性が高いですし、考えている間に認知症になってしまったら、打てる手も限られてしまいます。ご自分で調べた結果、余計な先入観が入ってしまい、より良い解法を逃してしまうリスクもあります。
もし相続について心配なことがあれば、ご自分で抱え込まずに、一日でも早く専門家に相談することをお勧めします。
-ありがとうございます
この記事を書いた人
2007年鎌倉新書入社。『月刊仏事』編集記者を経て、「いい葬儀マガジン」等、葬儀・お墓・仏壇など、終活・エンディング関連のお役立ち情報や業界の最新の話題をさまざまな切り口で紹介するWebメディアを立ち上げる。2018年には終活・葬儀情報に特化した「はじめてのお葬式ガイド」をリリース、同サイトの編集・運営を行う。2020年からは「相続なび」の編集・運営を開始し、現在に至る。
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