相続登記義務化でどう変わる?失敗しない不動産の相続とは?司法書士花沢良子氏インタビュー
この記事はこんな方におすすめ:
「相続登記の義務化について内容を知りたい方、専門家の考えを知りたい方」
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- 相続登記がされない原因は土地の価値とまとまらない遺産分割?!
- 遺言書が相続登記問題の有力な解決策の一つになる可能性も
- 身近な人に相談しにくい財産の心配、自分にぴったりな手続きを提案してくれる専門家に相談するのが近道!
所有者不明の土地のために、災害の対策ができない、草木の繁茂や害虫の発生、不法投棄をされるなど周辺の生活環境に深刻な影響を及ぼしています。その解消の施策の一つとして、不動産の相続や所有者の住所変更時などの登記を厳密化する方向へ動いており、令和3年の国会では相続登記の義務化、違反の場合には過料を科す法案が審議されています。 相続登記義務化が施行されたら、今後、相続手続きにどのような変化があるでしょうか、また、何か対策を取らなくてはならないのでしょうか。法のスペシャリスト、花沢事務所の花沢代表に相続登記についてお話をうかがってきました。
この記事の監修者
〈司法書士〉
創業37年 年1,000件以上の相続実績。丸の内・横浜・横須賀の3拠点があり、相続、遺言、債務整理、不動産登記などを専門としています。経営理念は「仕事に誇りを持ち、常にお客様の立場に立ち」。
この記事を書いた人
鎌倉新書にパートタイマーとして入社。2020年チャレンジ制度をクリアし正社員に。
目前に控えたシニアライフを楽しく過ごすため、情報集めに奔走するアラカン終活ライター
資格:日商簿記1級・証券外務員二種・3級FP技能士
相続登記をされない理由と具体例
なぜ、不動産を相続されても相続登記をされないのでしょうか?
相続登記がされない大きな理由としては、相続人間の問題と金銭的な問題の2つに分かれるのではないでしょうか。 そして、この2つの問題の共通のポイントが土地の価値だと思います。
都心の土地であれば、売却益を望めるので、みなさん費用をかけても登記をしようと思います。しかし、地方で交通の便が悪い地域にある土地となると非常に売りにくい。総合的に考えると、登記にかかる費用や維持費と見合わないため、相続登記をあきらめてしまうことが多いのです。
登記が先延ばしになってしまう具体的な例はありますか?
相続人の中に遺産分割協議にどうしても協力してくれない方がいると、裁判所で調停や審判をしなければならない。けれどその費用を出すほどの資産ではないという場合が多いです。
他にも相続人の中に認知症の方がいらっしゃると遺産分割協議ができません。そのために成年後見人を選任することを検討します。しかし、成年後見人は基本的にはその方が亡くなるまで続けますので、年数が重なることを考えると費用も心配になります。 その土地の価値とを比べて、費用対効果が見合わない可能性が出てくると、そんなに急いで決めなくても……となり、どんどん後回しになっていきます。そうこうしているうちに相続人の一人が亡くなる、二次相続が発生して相続人が増えたり、さらにまとまりにくくなるという悪循環になっていくわけです。
もちろん相続人全員で相続放棄するという選択肢もありますが、その不便な土地以外にも不動産があったり、預貯金があったりするとなかなか全部を放棄することはできません。それで、遺産分割協議がまとまらなくなり、時間が経つうちに次の相続が発生し、大変になっていってしまうのです。 人それぞれいろいろ事情をかかえているのが相続の現実です。
現在、司法書士会の会員の中では、法務局からの依頼によって登記されていない土地、何万もの案件について相続人調査を始めています。私たちの事務所でもおこなっていますが、相続人が100人に上るというケースもあります。調査のためにあつめた戸籍謄本を重ねたら20cmの高さになりました(笑)。
相続されない土地の特徴について教えてください。
所有している土地が、道はあるけれど車が入れないほど細い場合や、道路に面していない土地、山中で行き来しにくい土地などはなかなか買い手がつかないようです。
山おくに実家があって、ご両親が亡くなって相続したので、売却を考えたところ、壊す費用が発生して困ったという例はめずらしいことではありません。不動産を相続するときはその後のマイナス分も想定しておく必要があります。
円満相続で相続登記もスムーズに
相続登記が義務化されても、この状況は変わらない?
なかなか遺産分割が決まらず困っているケースであれば、例えば、全員が法定相続分でとりあえず相続しておき、全員の意見がまとまったところで、分けるというようなことも相続登記を法律通り行うための一つの案として挙げられます。
遺言書は大きな解決策の一つです。特定の相続人に相続させるときは、他の相続人の遺留分をきちんと考慮しておくなど、迷ったり、争ったりすることなく不動産を相続ができることによって、登記もされていく。 家庭によって、現金と不動産の割合は本当に様々なので決まった正解はないですが、いろいろな方法を考えていくことはできると思います。
円滑な相続が登記の促進にもつながるということですね。
生前贈与で土地が欲しい人に最初から譲っておくのも良い方法と思います。
相続する側も、葬儀後のバタバタとした状態での話し合いであれば、つい、もらうことばかりに気が取られてしまい、相続した後の費用のことまで考える余裕がないことも仕方のないことです。 また、亡くなった方と同居されている方がそのままそこに住み続けたいと思うのはごく自然な心理だと思いますが、家を譲ることによって他の相続人の遺留分が侵害されていないかなどを事前に検討しておけば、残された遺族の負担も減ると思います。
お金だけが遺産であれば分けやすいですが、土地の評価は複雑ですので前々から考えておくのは重要だと思います。
意識が変われば、登記が当たり前に?
土地についての意識の変化が鍵になる
以前は、不動産は持っておくものだという感覚が日本人にはありました。いわゆる土地神話です。 土地を持っていると、所有している土地の崖が崩れたら責任を負わなければならない、雑草を放置して隣近所に迷惑がかかり苦情を受ける、固定資産税も毎年かかってくる。それでも土地はいつか高く売却できるから、持っておいた方がいいと思われていたのです。
ただ、最近は意識が変わってきたようです。 買い手もつかないような土地なのに、費用だけかさむのはもったいないことですので、「持っていたくないから、どうしたらいいでしょう?」という相談が増えています。
土地神話の崩壊。最近はテレワークの影響も?
海辺の土地なども、災害を避けてなかなか買い手がつかなかったようですが、最近のテレワークの普及で都心から離れた景色の良いところに住まいを構えたいという需要から、以前よりは買い手が付くこともあるようです。
ご両親が所有していた別荘地を相続したものの、ご自身は別荘が必要ない。売りたくても買い手が付かず売れないので、いっそ隣近所にあげてしまおうと思って、声をかけてみたら、そちらも維持するのに精一杯で、とてももらう余裕がないと言われてしまったという話も聞きました。別荘地ですらそのような場所もあるようです。
他にも、この土地は将来値が上がると言われて買った土地があるが、いつまでたっても上がる気配がなく手放したくて困っているということも。再開発などの話があれば、だいぶ変わるのでしょうが、まだまだ厳しい状況のようです。
相続登記の認知度は?
土地を所有している方はご存じの方が多いです。 以前、手続きさせていただいた方に再度お会いするために伺ったとき、「あ、権利書の方!」と言われたことがあります(笑)。
仏壇の引き出しに権利証を大事にしまっていた、なんていうことを聞いたことのある方もあるかと思うのですが、以前は不動産の登記済証を「権利書」と呼ぶ方が多かったのです。2004年に不動産登記法の改正があって、今は登記識別情報という12桁の番号を印刷したものに変わりました。それが今のいわゆる「登記済権利証」になるわけですが。登記識別情報という言葉もご理解されている方が多いです。
どうしたら相続登記が定着するようになると思いますか?
例えば、引っ越しをして住所が変わったら、運転免許などの住所変更をしますよね。これと同じように、頭の中にインプットされているといいですね。住所が変わった、登記にいかなくちゃ!って(笑)。今後、そういう時代が来るかもしれませんね。 今は、相続が終わると、自動的に登記ができていると思っている方もいらっしゃるのです。 みなさんの中で、放置しておくと後でどうなるかのイメージが湧かないこともあると思います。
相続登記に関係する法案
登記の義務化の他に、土地を国庫に返すという法案も盛り込まれています。
相続した土地をその市町村に寄付したいとおっしゃる方は、実は今でも多いのですが、残念ながら、すべて引き受けてもらえるわけではありません。 市町村でも譲り受けてしまえば管理費などのランニングコストがかかります。費用は税金で賄われますから、すべての土地の寄付を受けるわけにはいかないので、道路を作る予定のある土地であるとか、寄付として受け取れる土地の条件などの規定があるようです。 そういった方にとってこの国庫へ帰属するという法案は、助けになると思います。
しかし、国に返すのにはある程度の金銭的負担が必要とされる条件が付けられているようです。やはりそこは、市区町村同様に維持するための費用が税金であるという問題があるのだと思います。
不動産をお持ちの方にアドバイス
身近な方だからこそ、身内の方に財産に関係する相談はしづらいと思います。将来不動産を相続する可能性があるのであれば、なるべく早いうちから、専門家と相談しながらご検討されると良いと思います。 相続は思いがけない部分に落とし穴があります。
相談に来られる方はとても勉強していらっしゃるのですが、相続には、民法と税法が深く関係していて、民法ではOKなことも、税法ではNGなこと、またその逆もあるので、つい見落としてしまうこともあるものなのです。 相続を解説した本には色々なケーススタディが書いてありますが、そこに書いてあるケースとすべてが自分と同じ状況ということはそうありません。
みなさんの知識の使い方をサポートすることができるのも私たち専門家ですので、是非早めに相談にいらしていただきたいと思っています。
ーー花沢先生、ありがとうございました。
この記事を書いた人
鎌倉新書にパートタイマーとして入社。2020年チャレンジ制度をクリアし正社員に。
目前に控えたシニアライフを楽しく過ごすため、情報集めに奔走するアラカン終活ライター
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