「裁判や調停での印象をコントロールするのも弁護士の役割」法律と感情の両面で、依頼者が有利になるように解決へ導く
経営者の相続問題を多く取り扱っている林 康弘先生。会社経営している方が亡くなった際に、個人資産を相続する人はいても、事業の跡継ぎがいなくてトラブルになることがあるそうです。
それを防ぐために、生前の事業承継に注力されています。そんな林先生に、過去に解決した相続の事例や、相続紛争を予防する方法について伺いました。
企業法務を中心に、民事事件も幅広く対応。出版社でサラリーマンを経験した後、特許事務所や法律事務所のパラリーガルをするなど弁護士としては異色の経歴を持つ。経営者の高齢化に伴う事業承継問題の解決に注力している。
林康弘法律事務所
経営者の相続が問題になっている
―相続問題に限らず、先生はどういった分野の依頼を受けていらっしゃいますか?
最近は新型コロナウイルスの影響もありまして、倒産案件をたくさん受け持っています。また、廃業の清算手続や労働問題などについても、ご依頼を受けています。
相続については、経営者の個人的な遺産相続も絡んだ事業承継というケースもあります。
事業承継は経営者が高齢化してきていることもあり、会社の後継ぎがいないといった問題があるんです。 個人的な資産の相続人はいても、事業の跡継ぎがいない。今後、生前の事業継承にも力を入れたいと考えています。
社長さんが亡くなると、普通は事業資産も含めて相続人に承継をします。しかし家族が跡を継ぐのでなければ、どうやって事業を承継させていくのかが問題となります。そうならないように、経営者が亡くなる前に、会社の跡継ぎを見つけて事業承継を済ませておくわけです。
経営者の相続は誰が事業を継ぐのかでもトラブルになることがありますから、生前に事業承継をすることが、相続紛争を防ぐことにつながると考えています。
複雑な相続トラブルをねばり強く解決
―先生がこれまでに解決された事例を教えてください。
資産家の遺言執行の事例
遺言執行者(遺言内容を実行するための手続をする人)の補助者として関与をした事件がありました。別の弁護士が公正証書遺言の遺言執行者だったのですが、多種多様な手続があったのでその補助をしました。
被相続人は大きな企業の元社長さんで、大変な資産家でした。個人財産も多岐にわたり、処理も煩雑でした。例えば、いろんな貴金属の鑑定とか、海外銀行に預貯金を持っていたので払戻し手続とか。公証役場に相続人の皆さんに集まっていただいて、銀行に提出する書類の作成をしたこともありました。
遺産分割に必要な手続をするために、トータルで1年ぐらいかかったんですね。その間は遺言執行者の先生に報告しつつ、相続人の皆さんにも報告するというような仕事をしました。
資産が多いうえに、遺言書にすべての財産が記載されているわけではないのも苦労したポイントです。
遺言書には「不動産については〇〇に相続させる」「この資産は△△に相続させる」などの記載はありました。しかし、主な財産以外は「その他の財産については、法定相続分に従って平等に分ける」という内容になってることが多い。
ですから、どんな財産がどれぐらいあるかを調べなきゃいけないんですね。それで調査をすると「あの財産があったんじゃないか」「遺言書を書いた時点ではこの財産があったけど、今はない」という話も出てくるんです。
全部の財産が分かっていて手続だけすればいいのであれば、体力と忍耐があればできると思います。しかしこの案件はいろんな法的な知識を使いながら調査をする必要があったので、とても大変でしたね。
遺留分・特別受益・生前贈与の問題が絡み合った事例
遺産分割について生前贈与が特別受益になるのか、持戻し額はどれくらいになるのかで争って長期化した事件も担当しました。亡くなったのは父親で、相続人は4人の子供たちです。
「長男にだけ多く相続させる」という内容の遺言に対する、遺留分減殺請求(現在は遺留分侵害額請求)からこの事件は始まりましたが、いろんな要素が絡みあって長期化したんです。
一定の相続人に対して、遺言によっても奪うことのできない遺産の一定割合の留保分
特別受益
被相続人から特定の相続人への贈与等があった場合に、その贈与等を相続分の前渡しとみて、計算上その贈与等を相続財産に持戻して相続分を算定すること
まず長男は被相続人から多額の生前贈与をされていました。これは特別受益になるので、生前贈与の持戻し額を算出しましたが、その金額に他の相続人から不満が出ました。
さらに長男以外の相続人や被相続人の孫も生前贈与を受けていて、それも特別受益にあたるのかも問題になりました。特別受益とは相続人への生活の援助等となる利益のこと。つまりそれぞれの生前贈与が、相続人の生活の援助等になっているかどうかが争点になったわけですね。
結果、その案件では、生前贈与のうち一部は特別受益ではないという処理になりました。生前贈与を受けた側は、特別受益と認められると新しくもらえる分が減ってしまうので、特別受益ではないと主張しますよね。そういうことを巡って争いがあると案件が長引きます。
特別受益にあたるのかどうか、また払戻し額がいくらになるのかどうかなどの各要因がはっきりしてからでないと相続分は確定できません。ですからすべての問題をクリアにしてから具体的相続分を算出するので、かなり長期間の案件となりました。5年ぐらいかかりましたね。
兄弟同士でもめる相続をしないために
―相続はもめている状況での相談が多いですか?
相続の紛争の多くは兄弟間で起きている
はい。親が亡くなり相続人である子供が何人かいて、兄弟同士で紛争になっているパターンが多いです。
兄弟同士だと、幼い頃からのお互いのいろんなことを知ってるじゃないですか。「あの時あんなことしてあげたのに」と相続と関係ない話とか、単なる悪口だったりとか、訴訟や調停という法的な場でもそういった話が出てきちゃうんです。
そのせいで相続と関係ないところで感情の対立が起きてしまって、全く解決できないこともあります。
訴訟や調停では「相続に直接関係ないことはなるべく控えましょう」とご依頼者にアドバイスすることもあります。感情的な発言は、調停委員や裁判官に対する印象も悪くなってご依頼者に不利になりかねませんから。
もちろん印象だけで結果が決まるわけではないですが、良いに越したことはないです。 そういった印象をコントロールするのも弁護士の役割だと思っています。
遺言書を作って、公的機関に保管してもらうのも1つの手
―相続でもめないために、事前にできることはありますか?
遺言書を作成しておくのが一番だと思います。2020年の7月に自筆証書遺言書の保管制度が開始されました。法務局で自筆証書遺言を管理してくれるサービスですね。この制度を活用するのも良いと思います。
遺言書を書いた方が良いのは以前から変わりませんが、遺言書を公的な機関に預かってもらえるので、より手続がスムーズに進むようになると思います。もちろん公正証書遺言にしておくのも有用です。
通常、自筆証書遺言は被相続人が亡くなった際に検認が必要です。家庭裁判所に遺言書を持って行って、偽造・変造防止のために形状・日付・加筆の有無を確認する手続ですね。しかし、自筆証書遺言書の保管制度を利用すると、この検認が必要なくなるんです。大きな手間が1つはぶけるのはメリットですね。
また、被相続人が亡くなった時に、相続人の誰かに遺言書があることを法務局から通知してもらえるんです。遺言書があるのかないのか、誰が預かってるのかがわからないという問題が解決できます。それに誰かが遺言を預かっていて、見せてくれないというトラブルも避けられます。
遺言書の中身に関しては、相続人の皆さんが納得できる内容に近づけておくのがトラブル防止につながります。例えば、特定の相続人に多く残す理由や経緯を遺言書にわかるように残す。なぜそんな相続をさせるのかを遺言書で残しておくのが大事だと思います。
複数の士業に相談して、信頼できる専門家選びを
―弁護士探しに悩んでいる方に、アドバイスをお願いします。
そもそも弁護士に相談するべきなのかと悩んでる場合、他の士業に一度相談してみるのもありかと思います。税理士とか司法書士とか、相続問題に関連する専門家がいますよね。
「これは弁護士に相談するべき内容です」など、別の士業に相談が必要な場合はいずれかの士業に相談すれば助言してくれると思います。弁護士に直接相談するのが難しければ、税理士さんなり司法書士さんなり、他の士業に相談してみるのも良いと思いますね。
また、どの弁護士に依頼するか悩んでいる場合は、実際に会ってみて信頼できる人物かどうかを見極めるのが大事です。弁護士と結ぶのは委任契約です。自分の代理人になってもらう契約ですね。ご依頼者と弁護士の相互の信頼で成り立つ関係ですから。
見極めるうえで大事なのは、自分の疑問点に答えてくれる人なのか、迅速に対応してくれる人なのか、弁護士費用の取り決めについて問題がないかといった点。そういったところに気を付けて、あとで弁護士とトラブルにならないように慎重に判断してほしいです。
「なんだかコミュニケーションがうまくいかないな」というような部分は、依頼に着手する前でもなんとなく感じられると思うんですね。
ですので、弁護士は普段接しない特殊な職種だからとか、そういうハードルを作らないで気軽にコミュニケーションを取っていただきたいです。
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