「腹を割って話し合うことが相続解決のカギ」不利なことも伝えることで問題解決に臨む
「感情移入しすぎず客観的に物事をみて話すようにしてますので、サバサバしていると感じられるかもしれません」と語る土方 裕介弁護士。「依頼者の望む解決ができないようであれば、依頼は断るようにしています」と、依頼者の利益を最優先に考え、不利なことであっても隠さず伝えているそうです。
今回は印象的な相続の解決事例や交渉の仕方など、詳しいお話を伺いました。
「若さを活かしたフットワークの軽い、いつでもどこでも相談できる皆様に身近な弁護士でありたい」と奮闘。相続、離婚、交通事故などの一般的な民事事件や家事事件のほか、建築紛争や歯科医療紛争などの専門的な紛争など、幅広く法律問題に取り組んでいる。
清澄通り法律事務所 土方 裕介
紛争になっている相続案件は、長期化しやすい
―土方先生が担当された相続案件は、解決までに長期化するものが多いですか?
案件によってまちまちですね。ただ、弁護士に相談に来る案件は相続人間で争いになっているのが多いですから、解決までに1年以上かかるものも多いです。もちろん、相続人の関係が良好な話し合いであれば、スムーズに終わることもありますが。
例えば、当事者間で遺産の分け方が決まっていて、あとは細かな要望を踏まえた遺産分割協議書の作成や、不動産の売却、株式の売却、預金の解約などの各手続が残っている相続案件の場合には、大手仲介業者、司法書士、税理士など専門家の方と協力しながら進めていきますので、大抵はスムーズに終わります。
これに対して、相続人間で争いになってしまっていると時間がかかります。事前の話し合いで決まらないから弁護士に相談に来るわけですし。特に当事者間で感情的になってしまっている案件は、「残念ですが1年以上かかると思って下さい」と説明しています。
この場合、早い段階で調停手続を利用することも検討します。どんなに話し合っても、話し合いで何も決まらないとただ時間だけが無駄に過ぎていきますので。調停だと、話し合うという意味では同じですが、裁判手続ですので、話し合いで決まらないときは裁判所が判断してくれます。なので話し合った時間が無駄になるということはありません。
また、相続財産の不動産を売却する場合、売却だけで時間がかかることもあります。すぐに買い手が見つかればいいですが、なかなか見つからないケースも多いです。買い手が見つかっても、売却代金額に納得できない人がいますと、他の買い手も探すことになりますのでそれだけで時間は過ぎていきます。
その他、長期化するときに気をつけなければいけないのは、相続税や準確定申告を忘れずにするということですね。税金の申告期限と遺産の分け方の話は別の話なので。
たまに遺産をまだ貰っていないからという理由で忘れてしまっている方もいますので、最初の相談時に必ず確認するようにしています。
最終的に依頼者にどれだけの利益が入るかを考える
―これまでに印象に残った事例はありますか?
20年位前の相続が終わっていなかった事例
20年位前に亡くなった両親の相続が終わっていなかった事例があります。依頼者は70代の高齢夫婦でして、自分たちの相続もそろそろ考え始める年齢でした。
話を聞いてみると亡くなった両親名義の土地と建物が残っていて、これがきちんと相続されていなかった。長男一家が住み続けていたので、相続の話も出来なかった。昔は、長男だけが相続するという風潮もありましたので。
でもこのまま放置しておくと、自分が亡くなったら子どもが相続の手続をやらないといけない。長男一家との話し合いを子どもがやるなんて、かなりの負担ですよね。「子どもに迷惑をかけないために、自分の代できちんと終わらせておきたい」という意向でした。
また、長男一家は長年タダで住み続けているのに、自分には何もないという不満もありました。もし自分も貰えるものがあるならそれを貰って、「少しでも子どもに残してあげたい」。自分のためではなく「子どものために」という思いが強かったんですね。
そこで、当時の事情等を聞き取った結果、不動産を相続する権利があることが分かりましたので、依頼を受けることにしました。
すぐに長男一家と話し合いを始めましたが、「長男だから全部貰って当然」という態度で話し合いになりませんでしたので、早い段階で調停手続をすることにしました。
調停手続では、幸い長男一家にも弁護士が就いて感情的な話し合いにならずに済んだので、早い段階で調停手続を終えることができ、不動産を売却して売却代金を平等に分けることで決着しました。
かなり昔の相続であっても、手続を踏めばきちんと解決できる場合もあるということで印象に残っていますね。
ただ、気をつけなければいけないのが、不動産といっても「負動産」と揶揄される物件もあるわけで、実際に売れるものでなければ意味がありません。また、売ることで相続税とは別で税金がかかることもあります。そのほかに名義変更や仲介手数料もかかります。
このような必要経費や弁護士費用を支払って、それでも依頼者に実入りがあるのか、ということを依頼前にきちんと検討し、実入りがない可能性があればその旨は必ず伝えるようにしています。
時間も弁護士費用も無駄になったでは、依頼者の方に納得頂けませんので。
親が亡くなる前に、親の預金をおろしてしまう
よくある相談なんですが、子どもの1人が、親が亡くなる前に親の銀行口座から預金をたくさんおろしてしまい、他の子ども達が「取り返したい」と相談に来られることがあります。
預金をおろした子どもは「病院代や老人ホーム代など必要経費として使った」と言うんですけど、他の子ども達は「そんな話は嘘だ。使い込んだか、隠しているに違いない」と思っているんですよね。
こういう案件は、相続の話し合いの中で、預金額がやけに少なかったり、預金通帳を見せてもらえないってことが発端で判明するんですよ。
預金をおろしたことも、相続の話し合いの中で決着がつけばいいんですけど、大抵は話し合いじゃ決着がつきません。「俺が面倒みていたんだから好きに使って何が悪いんだ」と開き直るケースもありますし。
話し合いじゃ決着がつかなくなくて弁護士に相談に来られるわけですので、時間を無駄にしないという意味で、裁判手続をすぐに検討します。
ただ預金をおろしちゃったって案件は、弁護士としても裁判所での調停手続をするのか、それとも別の民事裁判をするのか、判断が難しいところになります。ほんとにケースバイケースなんですよね。
遺産分割の調停では、原則、死亡日の財産を分けることになってますので、死亡する前に預金をおろしたことは、当事者間で合意できれば調停の話し合いで解決できますが、合意できないと話し合いから外されてしまいます。
裁判所から「では、死亡時に残っているもので遺産分割を行いましょう。あとの問題は先生がどう解決するのか考えてください」と丸投げされたりもします。
こうなってしまうと、別の裁判手続をとる必要があります。
―遺産分割とは別の裁判をするなんて、すごく手間がかかりそうですね。
そうですね。別の裁判手続をするわけですから、手間も時間もかかります。なので、最初から同時並行で2つの裁判手続をすることもあり得ます。
ただ、気をつけなければいけないのは、同時並行で解決した場合と別々とで解決した場合とで、どちらの方が依頼者に利益があるかです。依頼者によっては、時間はどれだけかかってもいいから実入りを重視して欲しい、という方もいますので。
過去にですが、両親の死亡時では、自宅不動産と僅かな預貯金しか残っていなかったという案件がありました。案の定、預金は生前に下ろされていたことが分かっていました。
自宅不動産に長女が両親と住んでいましたので、両親の死亡後も長女は住み続けることを強く希望してたんですよ。なので私から不動産を買い取って貰えないかということを提案しました。正確には長女に不動産を相続してもらい、その代償金を支払って貰う、ですが。
この時、いくらで買い取るのかということが問題になります。こちらとしては出来るだけ高く買い取って貰いたいので。ここで私が気をつけていたのが、買い取り交渉の中で預金をおろしたことはうやむやなままにしておく、ということです。
といいますのも、不動産を買い取るにしてもおろした預金を返金して貰うにしても、どちらも支払うための原資が必要になりますよね。例えば500万円の支払原資があったとして、それを買い取りだけに充てるのか、それとも買い取りと預金の返金の両方に充てるのかでは、結論が異なる可能性が高いですよね。
買い取りと預金の返金の同時並行で交渉を進めていくと500万円の枠で2つの問題を解決しようとしますが、買い取りだけで交渉を進めていくと500万円の枠で1つの問題を解決しようとしますので、後者の方が買い取り金額が高くなる可能性がありますよね。特に長女も住みたいという強い思いがあるのでなおさらだと思います。
このように不動産をいくらで買い取るのかという問題を解決したあと、うやむやなままにしていた預金の返金を求めました。
不動産の問題は既に解決しましたので、原資を気にする必要はありません。なぜなら、もし支払わなければ、買い取って貰った自宅を差し押さえてしまえばいいので。
―戦略的に交渉を行うんですね。
勝つだけでは意味がないですよね。最終的に依頼者の利益が最大になる方法を考えます。
先ほどの話だと、2つ同時並行でやっても一定の成果を上げることは出来たと思いますが、それ以上に依頼者の利益になる方法があるのではないかと考えて、あえて別々に手続を踏むことにしました。
依頼者の利益という意味では、得られるものばかり考えていてはだめです。例えば、不動産は相続したあとに売却するのと、相続人の1人が相続して代償金として金銭を受け取るのとでは、かかってくる税金が異なります。なので安易に売却しない方がいいというケースもあります。
株式を相続する場合には、翌年度の社会保険が高額になるケースがあります。相続では大きなお金が動きますので、税金などは特に気をつけなければいけません。
また、不動産の名義変更も確実に行わなければなりません。稀にですが戦前の方の戸籍が取れないというケースもあります。このような場合、名義変更するために何を作成すべきなのか悩ましいケースもあります。
どういう形での相続が考えられるのか、その場合に税金などはどれぐらいかかるのか、相続を実現するのに現実的な支障はないのかなど、様々なことを考えたうえで、最終的に依頼者の手元に何がどれぐらい残るのか、それを最大限にするためにはどのようにすればいいか、ということを考えていますね。
依頼を受ける前に、すべて包み隠さず伝える
―先生が相談者と話すときに、気を付けることはありますか?
初回の相談時には、どこが不満なのかを詳しく聞きます。できる限り相談者のペースで話してもらい、私の方で話を遮らないよう気をつけています。
お話を一通り聞いてから「こういう不満があるんですね」「どのような根拠がおありですか?」と、少しずつ問題を掘り下げるようにしています。
相談する方のほとんどは、何が法律上問題になっているのか分からないので、最初から私の方で話を誘導してしまうと大切なところが抜け落ちてしまう可能性があるんですよね。だから初回は出来るだけ相談者の方に話をしてもらっています。
また、案件終了時に依頼者から弁護士の対応について不満がないよう、依頼を受ける前の説明の段階で、解決までの見込期間や実際に依頼者が受け取るであろう金銭などは、不利なことでも包み隠さず伝えるようにしています。
何でもかんでも「何とかします」「大丈夫です」「任せて下さい」とか安請け合いするのもダメです。
案件によっては「依頼しても弁護士費用が無駄になりますよ、それでもいいんですか」ときつく言うこともあります。あと根拠がないことを言ってる相談者には「それは難しいです」と最初の時から念を押しておかないと、依頼を請けた後に「そんな話は聞いていない」と言われてしまいます。
なので誤解を与えないよう不利なことは隠さずきちんと伝えます。もちろん、片方だけの言い分しか聞き取れませんので、全てのことを伝えることは出来ませんが。
私がいくら不利なことを説明しても、相談者がそのことを納得しないのであれば、「他の弁護士を探してみてはどうか」とお伝えしています。依頼すれば結果がどうなっても弁護士費用がかかりますので、納得していないのに弁護士を簡単に決めてほしくないんです。
―不利なことも伝えてしまうと、依頼を断られるんじゃないですか?
そうですね。不利だという話をしたら依頼を断られることもあります。でも、依頼してもらいたいからと都合のいいことばかり話して、あとから都合の悪いことを伝えることはダメですよね。正直、相手方からなら何を言われても全然平気なんですけど、依頼者から苦情を言われるのは精神的に辛いししんどいんですよね。
もちろん、私の中では最大限の結果が出せたと思っていても、依頼者がその結果を不満に思うこともあると思います。弁護士だからといって最初から全てを見通せるわけではないですし、相手方の言い分も踏まえると最初と異なる見立てになることもあるんです。
そういう時に依頼者から不満が出るわけですよ。でも、最初から不利なことも隠さずに伝えてますので、不満に思うところも最小限になります。不利と分かっているのに伝えていないと「最初に何で言ってくれないんだ」ってなっちゃいますよね。
依頼者を裏切るようなことはしたくないので。だから私は不利なことも隠さず伝えます。
弁護士への相談を検討している人へのアドバイス
―最後に、弁護士への相談を迷っている人へアドバイスをお願いします。
何かあってからだと遅いので、弁護士に相談を検討しているなら早く相談したほうが良いです。相談料も安い金額ではないですけど、おおかた1時間あれば話を聞き取って方針を伝えることも出来ます。
悩んでいても結論は出ませんし、時間が無駄に過ぎていきます。時間が過ぎることでのデメリットもあるかもしれません。もっと早くに相談に来てくれていれば、と思う案件もたくさんあります。
インターネットで情報を収集している方もいますが、インターネットの情報は、そもそも前提が異なって当てはまらないことが多いです。なのでインターネットだけで結論を決めつけない方がいいです。
やっぱり不安に思われるなら弁護士に直接会って意見をちゃんと聞いて、どうすべきかをご自身で考えるようにしてください。
相談だけじゃなくて依頼が必要と考えたときは、弁護士費用としていくらかかるか、その金額の内訳をきちんと確認して下さい。弁護士費用をきちんと理解して、納得するまでは依頼しないほうが良いです。
お恥ずかしい話ですが、弁護士費用のトラブルの相談も受けたりします。例えば、相手に電話を3回してもらっただけで何十万円も請求されたとか、タイムチャージや日当を理解してなくて高額な費用を請求されたとか、着手金とは別に顧問契約を結ぶことになっていて、長期間、話が進まないにもかかわらず弁護士費用だけ積み重なっていくとか。
相手も弁護士ですから「そんなの聞いていません」では通さないですよね。「契約書に書いてあるので払って下さい」と言ってきますよね。
なので、先ほども述べましたが、弁護士費用をきちんと理解して、納得するまでは依頼しないで下さい。たまに心配される方がいますが、法律相談をしたからって、依頼するかどうかをその場で決める必要はないんです。
法律相談をしてみて、この弁護士と相性が良さそうだな、この弁護士なら信頼できるな、この弁護士費用なら支払えるな、とご自身で納得できてから依頼して下さい。
弁護士に相談することは敷居が高いと思われる方もいるかもしれません。でも、弁護士に相談しなければ分からないこともありますし、弁護士に相談するだけで悩んでいることが解決することもあります。ですので、お一人で悩むようでしたら気軽にご相談に来てください。
―いろいろなお話をありがとうございました。
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