市民の声に親身に耳を傾け、地方ならではの問題に立ち向かう
橋本先生は「弁護士は怖い」というイメージを変えるために、事務所ホームページでは事務所の取り組みのほか、趣味のスポーツや将棋、時事問題についての感想、読んだ本のことなど個人的なことを書いているそう。「弁護士は特殊な人間ではないですよ」と気さくに話してくださいました。
今回は実際に解決した事例や、仕事の姿勢について伺いました。
弁護士過疎問題の解決に注力。定期的に無料出張相談会を開催し、地域の人とのつながりを大切にしている。ホームページでは『青空カフェ』と題したブログを更新。弁護士の「敷居が高い」というイメージを払拭するため、プライベートのことを含めてさまざまな発信をしている。
弁護士法人青空と大地
弁護士過疎問題にひたむきに向き合う
―青森県十和田市はもともと法律家が少ない地域だったと伺いました。現状はいかがですか?
近年は増えてきています。当事務所の前身である十和田ひまわり基金法律事務所ができる前は、長い間、十和田市、三沢市及び周辺の町村に1人も弁護士がいなかった時期が続きました。それからこの20年くらいで9名に増えました。法律事務所は6つあります。
ひまわり基金法律事務所とは
弁護士過疎解消のために、日弁連・弁護士会・弁護士会連合会の支援を受けて開設・運営される法律事務所です。引用:日本弁護士連合会ホームページ
私は十和田ひまわり基金法律事務所の4代目所長弁護士として、十和田にやって来ました。ひまわり基金法律事務所には任期があって、だいたい2~3年くらい。私の前任の先生方は、任期を終えて帰っていきました。
でも私は十和田の居心地が良くて、ひまわり基金法律事務所を引き継ぐ形で事務所を開業をしました。
―どのようなところに一番魅力を感じられましたか?
まずこの地で暮らす人々の人柄です。私は仙台でサラリーマンをしていたことがありますが、東北の人は穏やかで優しい。素直で人が良いひとが多いです。でもその分、無理を押しつけられたり理不尽な扱いを受けたりと、人が良いからかえって困っている面もある。そう思ったら自然と助けになりたいと感じました。
それだけではなくて、住環境もいいです。自然が豊かで食べ物も美味しいですし。もちろん、東京出身の私にとってとても寒いです。でも慣れれば大丈夫です。暑すぎる東京の夏よりは暮らしやすいと感じます。
分けるのが難しい遺産を、うまく分割できるように工夫
―先生はこれまでどんな相続問題に対応されていますか?
不動産と金融資産が遺されていた事例
不動産が絡む相続が多いです。自宅や農地などの不動産はやはり分けにくい傾向があります。あわせて預貯金がある場合は「実家は長男が継ぐから、預貯金は少なめで。次男は預貯金を多めに受けとる」という分け方をすることもあります。この場合、長男は不動産の分を減らして相続します。
ただ難しいのは、他の兄弟が都会に出てしまっていて、実家は長男に任せきりというケース。前のケースと同様に、不動産の価格を差し引いて、実家のお金を減らしてしまうのが本当に正しいのかと悩みます。実家を守り管理していくだけでも、お金が必要になりますから。
相続人同士で話が付けば、まず長男が不動産を取得。墓守りなどのさまざまな管理することも含めて継承します。そして残りの金融資産を、相続人全員で均等に分けることもあります。
私としては、むしろこの分け方が公平ではないかと思うときもあります。
不動産の押し付け合いが発生した事例
他には相続人全員が「実家を管理したくない」と主張した案件もありました。不動産の押し付け合いが起きたんですね。最近こういった事例は比較的よくあります。
このようなケースだと、逆に不動産を取得した人が多めに預貯金を受け取ることもあります。将来の管理費用も含めて。実際、実家の不動産を相続した人が預貯金を全て取得したケースもありました。
不動産を売却できればそのお金を分割できますが、立地条件や築年数などから買い手を探すのが難しい物件も多いですし、農地の場合だと農地法の制限があり、売却先が限られてきます。
特に不動産が絡む相続争いを避けるためには、遺言書の作成や生前贈与の活用などもこれからますます大事になってくると思います。
株式をまとめて相続し、手続きを代行した事例
あとは被相続人が株式を持っているケースもあります。被相続人は株式などの運用を積極的にしていたが、相続人たちは全然わからない。そうなると相続人は相続しても困ることが多いです。
この案件では、私の依頼者1人が株をまとめて相続することになりました。他の相続人には代理人が付いておらず、相続後の手続きができないと思ったためです。代理人が付いていないと煩雑な処理は難しいですから、そうしないとこの案件は解決できないと私は考えました。
具体的には、そのときの時価を参考に株式の評価額を決めて、代償金(相続人の一人が相続した資産の代わりに清算のために支払うお金)の額を算出。相続した株式を私が相続人に代わって売却して現金化し、他の相続人に代償金を支払いました。
依頼者の人生のストーリーが映像化できるまで想像する
―先生はサラリーマンも経験されていますよね。これまでの経験が、今に生きていることはありますか?
営業経験など全ての経験が生きていますね。法律問題の前に、結局は人と人のコミュニケーションですから。営業と弁護士は違いますが「この人は、今どんなことを欲しているのかな」と考えるのは同じです。それを一歩引いて考える力は、営業の経験が生きていると思います。
加えてもともと別の仕事をしていたわけですから、ずっと弁護士として働いていた先生方と比べると相談者さんの気持ちの方がわかる気がします。「この専門用語はわからないかも」「弁護士に相談するって緊張するよね」と気持ちがわかるので、気を配るようにしています。
―営業と弁護士は全く別の職業のようですが、人の気持ちが大切なのは同じなんですね。
そうです。弁護士も話すのが仕事ですから。しかし弁護士は試験に合格するまでは人の生い立ちとか、トラブルに至った経緯とか、そういう人間関係をそぎ落として考えるように訓練されます。司法研修所での研修の際には事例として、法律家の観点から検討することを学んでいきます。
そうなると、相談を聞いていても「これは法律的にはどうなんだ」と考えてしまいがちになります。しかしそれは違うと私は考えています。トラブルが起こった背景や、依頼者が訴えたいことなどの後に法律問題が出てくると思います。
実はこの考え方は私のオリジナルではなく、新人時代にお世話になった大先輩の先生の受け売りです。その先生には「とにかく映像が浮かぶまで想像しろ」と言われました。そして、「依頼者の人生のストーリーの中で起きた問題だ」と位置づけて解決策を考えていきます。
今まで培った法律の知識も勿論必要ですけど、ただ当てはめるだけではいけない。先生からは「生の事実を聞いて、絵が浮かんだときに良い解決ができる」と教わりました。法律をただ字面で考えるだけではいけないということです。
直接会って、ささいなことも聞いてみる
―弁護士選びを悩んでいる方に、アドバイスをいただけますか?
まずはホームページなどで情報を収集し、よさそうだと思ったら実際に会って話をしてみるといいでしょう。同じ弁護士でも能力・経験・興味関心などは千差万別。だから会って話をしてみて「この人は良いな」と思う弁護士を見つけることです。
「他の弁護士の話を聞いてみたい」と思えば、何カ所か相談してみるのもいいです。弁護士が自分の話をどう受け止めているかを、相談者ご本人が直接感じてみた方がいいと思っています。そこでその弁護士の得意分野とか、疑問・不安に思ったことは遠慮なく聞いてみてください。
私は相談者さんが何を質問しても当然だと思いますし、聞かれて機嫌が悪くなる弁護士はおかしいと思います。相談者さんが最後に納得できるのが大切ですから。弁護士を特殊な人とは思わずに、普通にコミュニケーションを取ってほしいです。
―大変勉強になるお話をありがとうございました。
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