相続問題は「お金がすべてじゃない」。すべての相続人にとって最善の解決を目指す
社会人を経て弁護士になったという河内謙策弁護士。相続問題では地域特有の慣行を探し当てたり、評価の付かない崖地を競売に掛けたりと、手間を惜しまず自らの足を動かしながら、最後は皆が仲良くなれるような解決を目指しているそうです。
今回は、印象に残った事例、相続問題で弁護士に依頼する際に抑えておきたいポイントなどについて伺いました。
目次
自分の意見は、はっきりと筋を通す
ー相続問題の解決において、大切にしていることはありますか?
まず「相手が裁判官であっても、自分の意見をはっきりと主張する」、これは重要なことです。なぜなら相続は、もちろん人間関係の問題だけでなく法律上の問題も絡んでくるからです。「遺産を分けるだけなのに?」と思うかもしれませんが、相続問題は思いの外ややこしくなることが多いのです。
法律は、内容をすべて細かく定めていません。法律に書かれた内容は、その解釈をめぐっていろいろと意見が分かれています。だから「主張するところは主張する」と考えないと、民事事件の場合は流れてしまう。私は常にその懸念をしているし、実際にそういう問題に多くぶつかってきました。
時間がかかったものの、解決まで導いた事例
ーこれまでの案件で、印象に残っているものはありますか?
相続人の同意なく、登記簿に長男の名前が書かれていた事例
相続人のひとり、長男が「実家の土地が自分の名前になっているから、自分のものだ」と主張していました。確かに登記簿には長男の名前が記載されていました。一方、私の依頼者は「そんな話は初めて聞いた」と。しかし、両親はすでに亡くなっており証拠がありません。
そのため親族をあたって、当時どのようにに親が話していたかを聞いて回りました。そして、幸運にも当時のことを知る人に会えたんです。
その人の話では、その地域では、ゆくゆく長男のものになるのであれば長男の名前で登記をするという慣行があったのです。その旨を説明すると、裁判官も納得してくれました。
評価のしづらい急斜面の土地を、高く評価してもらった事例
また、評価のできないような山の急斜面を、高く評価してもらえるようにした事例もあります。
そもそも相続した土地が街の外れの崖のような土地だと、評価ができない、ないしは非常に低い評価になってしまいます。しかし、売却するときは少しでも高く評価してほしいですよね。
そこで、崖のままでは評価はできないので、「崖を削ったら分譲できるのではないか?」と知り合いの建築会社に相談し、「崖を削って二段、三段と平らな土地にすることが可能である」」という意見書を出してもらい、その意見書に基づいて不動産業者を探しました。
すると、崖を削って新しく土地を分譲することが可能なら買う、という業者が出てきて、結果的に高い値段で土地を売ることができました。
普通に競売にかけただけでは何の解決にもなりませんから。相続人の要望も、不動産屋の要望も満たすにはどうしたらいいか?と、なかなか苦労した事例です。
精神障害の母のもつ不動産をめぐって兄弟で争った事例
不動産を持っていた母親をめぐって兄弟で争った件もあります。
3人の兄弟が、2対1で争っていたのです。そして2人の方が母親は認知症だと成年後見人を立てました。そして母の不動産を不当に相続しようとした。「うちの母は認知症だから、成年後見人としてこっちで面倒を見ますよ」と言って、本当は認知症ではない母親を囲いこんでしまった訳です。
依頼人は1人で大変困られた様子でうちの事務所に来ましたよ。私は「母親に遺言書を作成してもらいましょう。認知症でないならできるはずです」と言いました。
成年後見人がついているので、母親に遺言書のことを聞くことができない。しかし、成年後見人とはいえ24時間ついている訳ではないので、隙間を縫って母を連れ出して2人の医師の立ち会いのもと、私たちの方で公正証書遺言を作ってもらいました。
けれど、相手の2人が怒って「この公正証書遺言は無効だ」という裁判を起こしましたが、結局、公正証書遺言は有効となって、遺言通りに遺産分割が行われました。
ー解決までにどのくらいの期間がかかるのですか?
例えば先ほどの公正証書遺言のケースは3年くらい。山の斜面の事例では5、6年かかりました。「もっと簡単に速く解決できないのか?」と言われることもありますが、かかるときはかかるのです。
「素早く解決できます」とか、「弁護士の費用は安くなります」という宣伝は、あまりしない方が良いでしょう。かかるものはしょうがないですし、そのような謳い文句を言う弁護士には依頼しないほうが良いかもしれません。
賠償問題で何度も揉める両親を見て、弁護士を志すように
ー弁護士を目指したきっかけを教えてください。
弁護士になりたいと思い始めたのは高校時代からですね。
ちょっと特殊な事情かもしれませんが、実家が国道の曲がり角にあって、コーナーを曲がりそこなったトラックが自宅に飛び込んでくるんです。2、3回はありましたね、怖かったですよ。そのたびに親父が解決に苦労してまして、弁護士になってこういう不合理なことを解決したいと思ったんです。
でも実は、大学を出てすぐ出版社に入ったんです。早く自立したくて。そこで10年働いて出版社の仕事を大方やりきったとき「もう一度弁護士を目指してみたい」と思ったんです。
ところが僕が司法試験を受けるころには、学生時代と制度が変わっていました。それを知らずに独学していたのですが、なかなか受からない。昔は東京大学の授業を受けていれば合格できたのですが、法律の実務家となるための試験に変わっていました。最終的に予備校にいき、合格できましたがね。
孫にも言っていますが、どんな試験でも合格はスタートラインでしかありません。パスしてすぐにいろいろなことができる訳ではない。司法試験を受かった後どうやって行くかを、真剣に考えなければ弁護士としてはやっていけません。
ー最近の相続相談には、どのような傾向がありますか?
傾向で言えば2つ考えられます。ひとつは皆さんお金にシビアになりました。「お金がすべてじゃないよ」と言うのですが、「いや先生、結局はお金ですよ」ってこっちが依頼者に説教されちゃうことも多い。
相続は一生に一度のチャンスなので、嘘を付いてでもお金をせしめたいという人もいます。「お金はいくら取ってくれるんだ?」と言う方もいます。もちろんこちらも努力はするけど「それが絶対だとは限りません」「最後は、相続人が皆仲良くやっていくことを考えましょう」といつも言っています。
もうひとつ、弁の立つ人が多くなりました。以前は争点があって、それをめぐって闘えば良かったのですが、今は依頼者自身で言いたいことを全部言うんです。一概に悪いとは言わないけれど、弊害は出てるのではないかなと思います。インターネットの誤った情報を鵜呑みにしている人もいますしね。
相続問題を円満に解決するために、日頃からできることがある
ー相続問題を有利に進めるために、何かしておくことはありますか?
そうですね、私が考えるポイントは3つあります。まずは問題が起こる前に弁護士に相談すること。
普通の人は、ややこしくなってから弁護士への相談を考える。これではダメです。「うちの相続はややこしくなりそうだ」と思ったら、その時点で弁護士に相談してアドバイスをもらってください。
次に自分に有利な点も不利な点も、すべて弁護士に話すこと。一生懸命、私が調停委員や裁判官に意見を述べているに、横から依頼者が「先生、実は調停委員の言うことが正しいかもしれません」と、これをやられると困ります。とにかく弁護士にありのまま話すことです。
3つ目は、何かとメモを取っておくことです。例えば家計簿とか、ご祝儀を誰からいくらもらったとか。金銭的な記録は相続において大変重要です。毎日のことをちょこって書くだけで証拠になりますよ。
相談を検討している人へのメッセージ
ー最後に、相談を検討している人へメッセージをお願いします。
費用については、弁護士とよく相談してください。「その人がどのくらい優秀な弁護士か?」ということは一般の人からはわからないと思います。わからないから、安い弁護士になびくのはある意味当然でしょう。ただ、安さだけで弁護士を選ぶのは、やめておいた方がよいですね。
これまでの経歴や、扱ってきた事件によって弁護士の主張する内容は異なります。弁護士によって差があるということです。くれぐれも安物買いの銭失いにならないようにしてください。
ーありがとうございました。
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