遺言執行者の権限でできることは?義務違反した場合は解任できるかについても解説
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことで遺言執行のために指定・選任された人を言います。
この遺言執行者は何か特別な権限を持つのでしょうか。
また、遺言執行者が遺言の執行を全く進めてくれなかったり、報告してくれないなどの義務に違反した場合にはどうしたらいいのでしょうか。
この記事では遺言執行者の権限でできることや、やるべきこと、義務違反した場合について解説します。
遺言執行者を選任するときの参考にしてください。
遺言執行者の権限
遺言執行者は遺言を執行するための広範な権限を持っています。
民法の1012条では以下のように定められています。
(遺言執行者の権利義務)
遺言執行者は、遺言の内容を実現するため、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
権限は遺言の内容によって定まりますが、次のような権限を持っているといえるでしょう。
- 預貯金を払い戻して受益者に引き渡す権限
- 特定財産承継遺言での遺言執行者による相続登記の申請
- 遺贈における受遺者に引き渡す権限
- 子どもの認知
- 推定相続人の廃除や取消
- 費用償還請求権
- 報酬請求権
以下、それぞれの点について説明します。
預貯金を払い戻して受益者に引き渡す権限
遺言の内容によりますが、預貯金等と現金化をして相続人等に分けるというような記載があれば、遺言執行者は銀行等での解約申入権限や払戻権限を持つことになり遺言執行者が手続きをおこなうことができます。
また、特定財産承継遺言で預貯金等を指定されている場合も、銀行等での解約申入権限や払戻権限を持つことになり手続きをおこなうことができます。
特定の遺産を相続人の誰に相続させるかを指定する遺言のことです。たとえば長男○○△△に3分の2、二男○○××に3分の1の財産を相続させる」とか「妻○○○○に以下に記載する財産を相続させる」などある相続人に相続させる財産を指定したり、遺産分割方法を指定したものをいいます。
特定財産承継遺言での遺言執行者による相続登記の申請
特定の不動産を特定の相続人に相続させる旨の遺言の内容である場合、遺言執行者が単独で相続登記をおこなうことができます。
不動産の遺贈における受遺者に引き渡す権限
遺言の内容に特定の不動産を法定相続人以外に遺贈する旨の指定がある場合、受遺者は単独で自分名義に変更する相続登記をおこなうことができません。
この場合、単独で相続登記ができるのは遺言執行者です。
遺言執行者がいない場合は、受遺者と相続人全員で登記申請をおこなう必要があります。
子どもの認知
認知とは、婚姻関係にない男女の間に生まれた子について、男性が自分の子であることを認めることです。
認知が遺言で行われた場合は、法律上、遺言執行者が必要で、遺言執行者は認知届を作成し役所に提出しなければなりません。
なお、認知された子は父の遺産の相続人となることができます。
推定相続人の廃除や取消
推定相続人とは、被相続人(亡くなって財産を残す人)が亡くなった場合に相続人になると推定される人のことを言います。
推定相続人の廃除は、被相続人の生前に推定相続人が被相続人を虐待したり重大な侮辱を行っていた場合等に、その推定相続人の相続権をはく奪する制度です。
遺言に廃除の記述が含まれている場合は、法律上、遺言執行者が必要です。遺言執行者は家庭裁判所に対して廃除の申立てを行います。
また、廃除の取消しが遺言に含まれている場合も、法律上、遺言執行者が必要です。遺言執行者は、家庭裁判所に対して廃除の取消しを申立てます。
費用償還請求権
遺言執行に要した費用の償還(返してもらうこと)を請求する権利のことです。
償還を請求できる費用は、遺言執行のために必要と認められる範囲に限られます。
また、遺言執行者が自分に過失がないのに遺言執行のために損害を被った場合も、その損害の賠償を、相続人や受遺者に請求することができます。
報酬請求権
遺言執行者は、遺言執行という仕事に対する報酬を請求することができます。
報酬は、遺言の中で定めることができますが、遺言に定めがない場合は、遺言執行者が家庭裁判所に申立て、報酬額を決めてもらいます。
報酬については「遺言執行者の報酬の決め方や相場は?遺言書への記載方法も解説」で詳しく説明しています。
遺言執行者の義務
遺言執行者は、先述のとおり遺言を執行するための広範な権限を持ちますが、次の5つの義務を負います。
- 善管注意義務
- 財産目録作成義務
- 報告義務
- 受取物等の引渡義務
- 補償義務
1.善管注意義務
遺言執行者は、遺産を管理しますので、管理を怠って、遺産を減らしてしまったりすることがないように気を付けなければなりません。
善良な管理者の注意義務を怠ったがために損害が生じた場合は、遺言執行者は、相続人や受遺者に対して、その損害を賠償する義務を負います。
2.財産目録作成義務
遺言の内容が財産に関する物の場合は、遺言執行者は財産目録を作成して、すべての相続人と包括受遺者に交付しなければなりません。
なお、包括受遺者とは、受遺者の中でも、包括的な遺贈を受けた人、つまり、目的財産を特定せずに、遺産の全部または割合を指定して行う遺贈を受けた人のことです。
3.報告義務
遺言執行者は、相続人や受遺者に求められた場合は、遺言執行の状況を報告しなければなりません。
また、遺言執行が終了した後は、遅滞なくその経過と結果を報告しなければなりません。
4.受取物等の引渡義務
遺言執行者は、遺言を執行するに当たって受け取った財産を相続人や受遺者に引き渡さなければなりません。
また、相続人や受遺者のために遺言執行者の名で取得した権利も移転しなければなりません。
5.補償義務
遺言執行者は、相続人や受遺者に引き渡すべき金額を自分のために使った場合は、その日以後の利息を支払わなければなりません。
また、その場合に、損害が生じてしまった場合は、その損害も賠償しなければなりません。
遺言執行者の解任
民法1019条では、遺言執行者を解任することができると定めています。
(遺言執行者の解任及び辞任)
遺言執行者がその任務を怠ったときその他正当な事由があるときは、利害関係人は、その解任を家庭裁判所に請求することができる。
ただし、解任するには職務を怠った場合など正当な理由が必要です。
解任するためには、家庭裁判所に遺言執行者解任の審判の申立てをおこないます。
申立ては相続人、受遺者等の利害関係人がおこないます。
まとめ
一般的な遺言内容の場合は、遺言執行者は選任されていなくても構いませんが、その場合は、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になる手続きも多数あり、手続きの度に相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、なかなか大変です。
その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。
また、相続人や受遺者が単独で行うことができる手続きもありますが、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもあります。
遺言執行者は行政書士等の専門家に依頼することができます。
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▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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