相続人が海外にいるときの相続手続きに必要な書類やサイン証明の取り方や注意点まで解説
2021年10月1日時点の海外在留邦人数は134万4,900人にのぼります。(出典:外務省HP「海外在留邦人数調査統計」)。相続人の一部が外国籍を取得していたり、海外に在住しているケースも以前に比べて一般化していると言えるでしょう。
海外にいる場合も法定相続人としての資格は維持されるため、相続が発生したときはその相続人を交えて遺産分割協議をおこなう必要があります。
本記事は、「被相続人が日本人で、遺産がすべて日本国内にあり、かつ、相続人の一部が海外にいる」という状況下での相続の注意事項や必要書類について紹介します。
この記事はこんな方におすすめ:
海外が絡む相続手続きをおこなう可能性がある方(例:子どもが海外在住中など)
- 被相続人が日本人の場合は日本の法律に従って相続手続きをおこなう
- 相続人が海外にいたり、外国籍をもつ場合は手続きに時間がかかる可能性がある
- 海外の相続人が日本国内の財産を取得した場合も、日本の相続税の課税対象になる
1.相続人が海外にいる場合に注意すべき点
(1)海外にいる相続人も遺産分割協議への参加が必要
相続が発生した際、遺言書がないときは相続人全員が参加する協議を開いて遺産分割について合意し、その内容を記した「遺産分割協議書」を作成します。この遺産分割協議には、海外の相続人も必ず参加する必要があります。相続人が一人でも欠けていた場合は協議がやり直しになってしまうため、事前に相続人調査をおこなっておきましょう。
(2)相続人調査で海外に相続人がいるか調べる
法定相続人の範囲は国税庁HPの「No.4132 相続人の範囲と法定相続分」で確認することができます。下記の書類を集め、該当する法定相続人を絞り込み、海外に相続人がいるかどうかを調べましょう。
相続人調査に必要な書類
①被相続人の出生~死亡に至るまでの戸籍謄本類
本籍地のある市区町村役場を訪問するか、あるいは郵送で取り寄せます。結婚・離婚・養子縁組などにより必要となる戸籍謄本の数は異なります。
②相続人全員の戸籍謄本
上記の①から法定相続人の該当者を絞り込み、全員分の戸籍謄本を収集します。 相続人調査には多くの時間と市区町村を超えた煩雑な手続きが必要です。余裕のないときは、相続人調査・戸籍収集の代行を請け負うサービスの利用も検討しましょう。詳しくは下記の記事もご覧ください。
「海外に在留している可能性が高く、長期にわたってその所在が確認されていない日本人の住所・連絡先等」については、本人が日本国籍を有する場合に限り、外務省の「邦人のご家族やご親族からの依頼に基づく所在調査」が利用できます。
外国籍を取得すると日本国籍を喪失する
日本では二重国籍が認可されていないため、相続人が在住している国に帰化し、外国籍を取得している場合は日本国籍を失います。このとき、日本の戸籍からは除籍されますが、故人(被相続人)の戸籍謄本や除籍謄本などを参照すれば相続関係を確認することができます。なお、日本以外の国には、日本の戸籍制度にあたる制度はほぼありません。
2.海外の相続人が相続をおこなう際の相続税の課税範囲
(1)被相続人が日本人の場合は日本の法が適用される
法の適用に関する通則法では、下記のとおり、被相続人の本国法に準拠して相続をおこなうことが定められています。
第六節 相続
(相続)
第三十六条 相続は、被相続人の本国法による。
(遺言)
第三十七条 遺言の成立及び効力は、その成立の当時における遺言者の本国法による。
2 遺言の取消しは、その当時における遺言者の本国法による。
出典:総務省 行政管理局 E-Gov法令検索
「法の適用に関する通則法(平成十八年法律第七十八号)」
つまり、被相続人が日本人の場合、相続人の居住地(海外に居住している場合など)や国籍(外国籍を取得している場合など)に関わらず、日本の法律に従って相続手続きや遺言書の作成をおこないます。
海外にいる相続人や、国際結婚などにより日本国籍を喪失し外国籍を取得している相続人も、日本国内在住で日本国籍をもつ相続人と同じように扱われます。遺産分割協議への参加が求められるのも同じ理由によります。
(2)相続税の課税対象を確認する
海外にいる相続人が日本国内の財産を相続する場合の相続税について、国税庁は下記のように定めています。
相続などで財産を取得した時に外国に居住していて日本に住所がない人は、取得した財産のうち日本国内にある財産だけが相続税の課税対象になります。
基本的に相続税の課税対象は日本国内の財産のみにしぼられますが、例外的に、日本国外の財産も対象となることがあります。その基準は下記のとおりです。
ただし、次のいずれかに該当する人が財産を取得した場合には、日本国外にある財産についても相続税の対象になります。
1 財産を取得したときに日本国籍を有している人で、被相続人の死亡した日前10年以内に日本国内に住所を有したことがある場合か、同期間内に住所を有したことがなく被相続人が一時居住被相続人又は非居住被相続人でない場合。
2 財産を取得したときに日本国籍を有していない人で、被相続人が一時居住被相続人、非居住被相続人又は非居住外国人でない場合。
出典:国税庁HP「No.4138 相続人が外国に居住しているとき」
相続人が海外に在住している場合にも相続税が課せられる点に留意し、相続税申告・納税期限からスケジュールを逆算して行動しましょう。
国税庁は相続税に関し、相続税の申告と納税は、被相続人が死亡したことを知った日の翌日から10か月以内に行うと定めています。相続人が海外にいる場合、相続手続きに時間を要する可能性が高いので、期限を超過しないよう、あらかじめ期日を確認しておきましょう。
(例):1月6日に被相続人が死亡→その年の11月6日が相続税申告・納税期限
出典:国税庁HP「No.4205 相続税の申告と納税」
3.海外の相続人が日本国内の遺産を相続する際の必要書類
相続人が海外に在住している場合、相続手続きで必要とされる書類で代表的なものは下記の2点です。
(1)サイン証明書
遺産分割協議書には相続人全員の実印が押印された印鑑証明書が必要です。海外には印鑑証明書にあたるものがないため、その代わりとしてサイン証明書(署名証明書)を提出します。
取得方法
発給条件を満たした、証明を必要とする本人が必要書類をそろえて公館を訪問し、申請します。在外公館が発行する証明書と申請者が領事の面前で署名した私文書を綴り合わせて割り印をするか、申請者の署名を単独で証明して作成します。どちらの証明方法が求められるかは提出先により異なります。
領事の面前で署名(及び拇印)をおこなうため、申請者本人が公館へ出向く必要があります(※代理申請や郵便申請はできません)。詳細は外務省HP「在外公館における証明」でご確認ください。
(2)在留証明書(日本国籍を有する方のみ)
日本国内の不動産を相続するには住民票の提出が求められます。相続人が海外にいるときは、住民票の代わりとして在留証明書を提出します。
取得方法
発給条件を満たした、証明を必要とする本人が必要書類をそろえて公館を訪問し、申請します(委任状がある場合は代理申請が認められる可能性があります)。詳細は外務省HP「在外公館における証明」でご確認ください。
この記事のポイントとまとめ
最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 相続が発生した場合、特に遺言書がない時、全ての相続人が参加する「遺産分割協議」が必要です。もし海外に相続人がいる場合でも、その人の参加が必須です。
- 海外の相続人が日本国内の遺産を相続する際、基本的には日本国内の財産だけが相続税の対象となります。しかし、例外的に海外の財産も対象となる場合も。
- 印鑑証明書の代わりに「サイン証明書(署名証明書)」が求められ、住民票の代わりに「在留証明書」を提出する必要があります。
相続人が海外にいる場合、日本国内の財産を相続するための必要書類が日本在住の相続人とは異なってきます。書類収集のために公館を直接訪問したり、発給された証明書をエアメールで送ったりする作業があるので、日本国内で完結する相続手続きに比べて時間がかかることも多いです。
状況によっては、本記事で紹介した以外にも、さまざまなイレギュラー対応が求められる可能性も出てくるでしょう。 後に相続トラブルに発展することを防ぐには、万全の準備と対策が必要です。そのためには、国際相続について豊富な知識や経験を有する専門家に力を借りることも選択肢の一つです。
「いい相続」では海外が絡む相続にも対応可能な専門家との無料相談をご案内できます。お困りの方は、お気軽にご相談ください。
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