特別受益証明書とは?遺産分割協議書を作成せずに登記する方法
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2020年6月23日に公開された記事を再編集したものです。
特別受益証明書があれば、相続手続きの際に、遺産分割協議書の提出が不要になるケースがあります。
この記事では、特別受益証明書についてご説明します。是非、参考にしてください。
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特別受益証明書とは?
特別受益証明書とは、特別受益が多額であったがために相続分の無いことを証明する書類のことです。
特別受益とは相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合は、遺産分割における当該相続人の取得分を特別受益を受けた価額に応じて減らす必要があるので、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。
算式で表すと以下のようになります。
(算式)
【具体的相続分】=(【遺産総額】+【相続人全員の特別受益の総和】)×【当該相続人の法定相続分又は指定相続分】−【当該相続人の特別受益】
このようにして具体的相続分を算定することを特別受益の持戻しといいます。
この算式によって算出した具体的相続分が0以下になる場合は、その特別受益者の相続分は無いことになります。
特別受益について詳しくは「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。
そして、そのことを証明する書類が特別受益証明書というわけです。
特別受益証明書は、「相続分不存在証明書」、「相続分の無いことの証明書」等とよばれることもあります。
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼特別受益証明書を利用する目的
特別受益証明書を作成する目的は、相続手続き(名義変更)に使用することです。
遺産分割によって取得した財産の相続手続きには、原則として、相続人全員が署名捺印した遺産分割協議書が必要です。
しかし、特別受益証明書に署名捺印した相続人については、遺産分割協議書への署名捺印が不要になります。
例えば、相続人が3人(A、B、C)いて、Cが特別受益証明書に署名捺印した場合、遺産分割協議書に署名捺印するのはAとBだけでよくなります。
さらに、Bも特別受益証明書に署名捺印した場合、遺産分割協議書自体が必要なくなります。
しかし、相続分が無いのであれば、そのことを遺産分割協議書に記載すればよいはずなのに、なぜ、あえて別の書類を作成するのでしょうか?
先ほどの例で、Cだけが特別受益証明書に署名捺印したケースでは、結局、遺産分割協議書も必要なので、書類が2つに増えて、余計に手間がかかるのではないでしょうか?
このようなケースで特別受益証明書が使われるのは、Cに遺産の内容を知られないようにする目的がある可能性があります。
遺産分割協議の中でCに相続分を放棄させる場合は、Cも遺産分割協議書に署名捺印しなければなりません。
そうすると、遺産分割協議書の記載から、AとBがそれぞれ取得する財産をCに知られてしまいます。
一方、特別受益証明書によって相続分を放棄させる場合は、Cは遺産分割協議書に署名捺印しないので、AとBがそれぞれ取得する財産をCに知られなくて済みます。
例えば、AとBが、Cに対して「そんなに遺産もないし、お前は大学まで行かせてもらったのだから特別受益証明書に判を突いてくれ」等と言って、Cに遺産内容を知られずに、相続分の放棄をさせることが可能になるのです。
また、BとCの2人が特別受益証明書に署名捺印するケースではどうでしょうか?
このケースでは、遺産を取得するのはAだけなので、遺産分割協議書によった場合でも、具体的な遺産内容を記載せずに「全財産をAが取得する」というような書き方をすることで、BとCに遺産内容を知られずに相続分を放棄させることもできるはずです。
それにもかかわらず、このケースで特別受益証明書を利用するメリットは何でしょうか?
それは、未成年者に相続分の放棄をさせたいケースです。
未成年者は、遺産分割協議書に署名捺印することはできず、未成年者の代わりに法定代理人(親権者)が署名捺印しなければなりませんが、未成年者の法定代理人が共同相続人の場合は、特別代理人の選任を受け、特別代理人の署名捺印が必要です。
特別代理人の選任は、家庭裁判所に遺産分割協議書案を添付して申立てしなければなりませんが、未成年者に不利な内容の遺産分割協議書案は通常は認められません(特別代理人について詳しくは「未成年者の特別代理人とは?選任が必要なケースや手続きの流れ、注意すべきポイントまで」参照)。
しかし、特別受益証明書の場合は、特別代理人を選任することなく、未成年者に相続分を放棄させることができてしまいます。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼特別受益証明書の利用は本当に特別受益の持戻しによって相続分の無い場合のみにすべき
このように特別受益証明書は何かと都合よく利用されてしまうことがありますが、特別受益証明書の利用は、特別受益の持戻しによって相続分がない場合のみにしておくべきです。
後から相続人間でトラブルになることがあるからです。
特別受益証明書を利用した相続登記が、後に訴訟によって無効になったケースもあります。
遺産が不要な場合は、特別受益証明書ではなく、相続放棄をすべきです。
亡くなった人に債務があった場合、相続放棄をすれば債務を負担しなくて済みますが、特別受益証明書に署名捺印しても債務を免れることはできません。
亡くなった人に債務が無いことが明らかであれば、相続放棄によらなくても問題ありませんが、その場合においても、基本的には、遺産分割協議によって相続分を放棄すべきです(相続放棄と相続分の放棄の違いについては「「相続分の放棄」とは?相続放棄や相続分の譲渡との違いは?手続きは必要?」参照)。
▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼生前贈与がすべて特別受益に該当するわけではない
民法903条1項には次のように定められています。
共同相続人中に、被相続人から、遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた者があるときは、被相続人が相続開始の時において有した財産の価額にその贈与の価額を加えたものを相続財産とみなし、第900条から第902条までの規定により算定した相続分の中からその遺贈又は贈与の価額を控除した残額をもってその者の相続分とする。
特別受益の範囲については、「遺贈を受け、又は婚姻若しくは養子縁組のため若しくは生計の資本として贈与を受けた」と定められています。
遺贈については、条件が付けられていませんから、遺贈によって取得した財産は、すべて特別受益に含まれます。
死因贈与も遺贈と同様にすべて特別受益に当たると考えて差し支えありません。
生前贈与については、すべての贈与が特別受益となるわけではなく、次の3つの目的で行われた贈与が特別受益に当たるとされています。
- 婚姻のための贈与
- 養子縁組のための贈与
- 生計の資本としての贈与
以下、それぞれについて説明します。
婚姻のための贈与
婚姻のための贈与は額面通りすべて特別受益に当たるのかというと、そういうわけではありません。
婚姻のための贈与であっても特別受益に当たらないとされているものもあります。
そもそも、特別受益の制度趣旨は、遺産の前渡しによる不公平を是正することにあります。
婚姻のための贈与であっても、遺産の前渡しとは言えないようなものであれば、特別受益には当たらないとされます。
また、生計の資本としての贈与と並列関係になっていることからも、生計の資本としての贈与と比べても遜色がないくらいのまとまった金額であることが、特別受益に当たるとする一つの考慮要素となっていると考えられます。
とはいっても、金額の多寡や贈与の名目だけで、一概に特別受益に当たるかどうかを判断することはできません。
挙式費用は伝統的に特別受益に当たらないとされてきましたが、これは、従前結婚式が、親が主催し、親が客を招待するものであったことが関係しています。
主催者である親が挙式費用を負担するのは当然であり、特別受益には当たらないと考えられてきました。
しかし、時代は変わり、今では、本人が主催する結婚式の方が多いでしょう。
また、挙式にかかる費用も人それぞれになってきました。
そうすると、兄の時はあまり挙式費用がかからず親からの援助も少額であったのに、弟の時は本人が豪華な結婚式を行ったため親も多額の援助をしたというケースもあり得ます。
そのような場合にまで、挙式費用は特別受益には当たらないと言い切ってよいかは疑問の余地があるように思われます。
養子縁組のための贈与
養子縁組には普通養子縁組と特別養子縁組がありますが、普通養子縁組の場合は、実親と養親の両方の相続人となることができ、特別養子縁組の場合は、実親の相続人となることはできず、養親に対してのみ相続人となることができます。
普通養子縁組に出す際に、実親が持参金として贈与することがありますが、この贈与は特別受益に当たります。
また、養子と特別受益に関する論点として、養子縁組前の養親からの贈与が特別受益に当たるかという点があります。
この点について、養子縁組前であっても、相続人間の公平の観点から、特別受益に当たるとされる余地はあり得ます。
生計の資本としての贈与
生計の資本というぐらいですから、お小遣いや交遊費程度の金額の贈与は含まれないでしょう。
扶養の範囲内の生活費の援助も特別受益には当たりません。
扶養の範囲を超える援助は特別受益に当たります。
学費についても一般的な私立大学の学費ぐらいまでは、通常、特別受益に当たらず、私立の医学部や長期留学費用となると、特別受益に当たる可能性があります。
しかし、これもケースによりけりで、例えば、他の兄弟が自分のお金で定時制高校に通ったのに、一人だけ私立大学に行かせてもらったとしたら、医学部でなくてもその学費は特別受益に含まれる余地はありそうです。
このほか、開業資金やマイホームの取得資金の贈与も特別受益に含まれる可能性があるでしょう。
また、金銭だけでなく、土地や建物の贈与も特別受益に当たりえます。
贈与でなくても、土地や建物を無償で貸してあげた場合も特別受益に当たる可能性があります。
▼依頼するか迷っているなら、まずはどんな手続きが必要か診断してみましょう▼特別受益証明書が利用できる手続き
特別受益証明書は、相続登記や、相続した自動車の移転登録(名義変更)の手続きで利用することができます。預貯金については、利用できるかどうか、金融機関によって対応が異なるようです。
相続税申告については、真にその特別受益者の法定相続分を超える特別受益を受けているという事実に基づいて作成されており、かつ、特別受益証明書に基づいて各財産が取得されていることが客観的に確認できる書類として、特別受益財産の明細を記載した書類、及び、登記事項証明書など各財産が相続人に名義変更されたことが確認できる書類の提出があった場合のみ、特別受益証明書が利用できます。
▼相続手続きは一人で悩まず専門家に相談しましょう▼法務局作成の特別受益証明書の記載例・書式(ひな形)
法務局作成の特別受益証明書の記載例は、こちらのリンクからダウンロードできます。
なお、印鑑登録されている実印で捺印しなければなりません。
また、相続手続きに利用する際は、印鑑証明書を添付しなければなりません。
特別受益者が死亡していても特別受益証明書を作成して相続手続きに使用できる
特別受益者が死亡していても、特別受益証明書を利用することができます。 代襲相続や数次相続の場合です。代襲相続とは、相続人となるべき者(被代襲者)が、相続開始以前に死亡しているときや相続欠格または廃除により相続権を失ったときにおいて、その被代襲者の直系卑属(代襲者)が被代襲者に代わって、その受けるはずであった相続分を相続することをいいます(「代襲相続とは?代襲の範囲や条件、遺留分や数次相続との違いを解説」参照)。
被代襲者に多額の特別受益があるような場合は、代襲相続人の全員の署名捺印(実印)があれば、既に死亡している被代襲者名義の特別受益証明書を利用することができます。
また、数次相続とは、ある人が亡くなって、その相続の手続きが済まないうちに相続人が亡くなり、次の相続が開始されることをいいます。
数次相続の場合も同様に、死亡した相続人の相続人全員の署名捺印(実印)があれば、既に死亡している相続人名義の特別受益証明書を利用することができます。
もっとも、特別受益証明書の提出先によっては上記のような取扱いを受け付けていない可能性もありますので、念のため、事前に提出先に確認した方が安全です。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼まとめ
以上、特別受益証明書について説明しました。
相続手続きについては行政書士など専門家に相談することを、また相続税については相続税に精通した税理士に相談することをお勧めします。
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▼実際に「いい相続」を利用して、専門家に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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