未成年者の特別代理人とは?選任が必要なケースや手続きの流れ、注意すべきポイントまで【行政書士監修】
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2018年9月26日に公開された記事を再編集したものです。
夫(または妻)が亡くなり未成年の我が子(2022年4月1日から成年年齢が18歳になりましたのでご注意ください)と共同相続人になった場合、遺産分割の場面で、自分と我が子の利益が相反することになります。
そのような場合には、我が子に対して特別代理人を選任しなければ、相続手続きを進めることはできません。
特別代理人の選任を申し立てる際に遺産分割協議書案が必要ですが、我が子に不利な内容であると認めてもらえないことがあります。
この記事では特別代理人の制度や、遺産分割協議書案を裁判所に認めてもらうための注意点について説明します。是非、参考にしてください。
この記事はこんな方におすすめ:
「未成年の相続人がいる人」
- 未成年の相続人がいる場合、特別代理人を選任する必要がある
- 特別代理人選任の申立てを行い、家庭裁判所の審判によって決まる
- 申立てにあたって、遺産分割協議書案を作成する必要がある
この記事の監修者
〈行政書士、相続診断士、終活カウンセラー〉
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特別代理人とは?
特別代理人とは、本来の代理人が代理権を行使することが不適切な場合や代理人が不明な場合等に、本来の代理人に代わって代理行為を行う特別な代理人のことをいいます。
特別代理人が必要な場合
特別代理人は次のような場合に必要となります。
- 親権を行う父母とその子との利益が相反する場合
- 成年後見人と成年被後見人との利益が相反する場合で後見監督人がいない場合
- 法人の代表者が不明な場合
※遺言書がある場合、特別代理人の選任は不要です。
この記事では主要なケースである1について説明していきます。
親権を行う父母とその子との利益が相反する場合
1に関連する具体的なケースには、次のようなものがあります。
- 未成年者の親の一方が死亡し、もう一方の親と未成年者で遺産分割協議をする場合
- 複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする場合
- 親権者の債務の担保のため未成年者の所有する不動産に抵当権を設定する場合
- 相続人である母や父が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする場合
- 同一の親権に服する未成年者の一部の者だけ相続放棄の申述をする場合
- 後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する場合
各ケースについて例を挙げて説明します。
未成年者の親の一方が死亡し、もう一方の親と未成年者で遺産分割協議をする場合
夫(または妻)が亡くなり、未成年の我が子と共同相続人になった場合です。親の相続分を増やすと子の相続分が減り、利益が相反します。
複数の未成年者の法定代理人として遺産分割協議をする場合
夫(または妻)が亡くなり、子どもたちに財産を残すため自分は相続放棄をした。しかし複数いる子ども同士の遺産分割協議についてすべての子どもを自分が代理すると、子ども同士の利益相反が生じてしまいます。
親権者の債務の担保のため未成年者の所有する不動産に抵当権を設定する場合
親の借金の担保のために子どもが所有する不動産に抵当権を設定する場合は、特別代理人の選任が必要です。
相続人である母や父が未成年者についてのみ相続放棄の申述をする場合
我が子のみ相続放棄をさせて、自分が相続財産を独り占めするということが勝手に行われないように、我が子だけ相続放棄させる場合は特別代理人の選任が必要です。
同一の親権に服する未成年者の一部の者だけ相続放棄の申述をする場合
長女には相続放棄をさせて、長男に遺産を独り占めさせるということを親が勝手に行わないように、そのようなことをしたい場合はそれが妥当であるかを判断するため特別代理人の選任が必要です。
後見人が15歳未満の被後見人と養子縁組する場合
親権者がいない場合、未成年者を守るために後見人が選任されます。
その後見人が判断能力の未熟な被後見人を勝手に養子にしないように、15歳未満の被後見人と養子縁組する際は、特別代理人の選任が必要です。
▼今すぐ診断してみましょう▼特別代理人選任の流れ
一般的な手続の流れは次のとおりです。申立てから審判結果が通知されるまで、1か月程度かかります。
- 申立て
- 審理
- 書面審査
- 参与員の聴き取り
- 審問
- 審判(裁判官の判断)
- 審判結果の通知
特別代理人の選任の申立て
申立てができる人
特別代理人選任の申立てができるのは、親権者と利害関係人です。未成年者自身はできません。
申立先
特別代理人の選任は、未成年者の住所地を管轄する家庭裁判所に申し立てます。裁判所の管轄地域は、裁判所ホームページから確認できます。
申立てに必要な費用
申立てに必要な費用は、次のものがあります。
- 申立費用:1人につき800円(収入印紙で納付)
- 郵便切手代:84円切手を数枚程度(裁判所からの連絡用)、詳しくは裁判所に確認
- 予納金:数万〜十数万円(事案や財産の額によって異なる)
- (専門家に依頼する場合)申立代行報酬:3〜5万円位が多い+消費税
申立代行報酬には、通常、申立書類の収集、作成および提出等が含まれています。
申立ての必要書類
申立てには次の書類が必要です。
- 特別代理人選任申立書
- 未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
- 特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
- 利益相反に関する資料(遺産分割協議書案、契約書案・抵当権を設定する不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)等)
- (利害関係人からの申立ての場合)利害関係を証する資料(戸籍謄本(全部事項証明書)等)
以下、それぞれについて説明します。
特別代理人選任申立書
申立書の用紙は裁判所で入手できるほか、裁判所ホームページからダウンロードできます。印刷して手書きで記入してご利用ください。
申立書の書き方については、次の記入例を参考にしてください。
出典: 裁判所ホームページ未成年者の戸籍謄本(全部事項証明書)
戸籍謄本は市区町村の役所で取得することができます。子の戸籍謄本を取得するのに委任状は不要です。
親権者(または未成年後見人)の戸籍謄本(全部事項証明書)
未成年者の親権者(多くの場合は申立人自身)の戸籍謄本も必要です。
特別代理人候補者の住民票または戸籍附票
申立書に記載した特別代理人候補者の住民票または戸籍附票が必要です。
なお、特別代理人になるのに資格は不要です。
特別代理人としての職務を適切に行えることが必要で、未成年者との関係や利害関係の有無等を考慮して適格性が判断されます。実際は多くの場合、候補者がそのまま選任されます。
未成年者のおじ・おば(申立人の兄弟姉妹)が候補者にすることが多いようですが、血縁者でなくても構いません。
また司法書士、行政書士等の専門家に候補者を依頼しても構いません。
利益相反に関する資料(遺産分割協議書案、契約書案・抵当権を設定する不動産の登記事項証明書(登記簿謄本)等)
利益相反に関する資料は、事案によって必要なものが異なります。
遺産分割協議の場合
例えば、遺産分割協議の場合は、次のような資料が必要になります。
- 遺産分割協議書案
- 不動産の登記簿謄本や固定資産評価証明書
- 預貯金等残高証明書又は通帳写し
特別代理人の選定の申し立て時には、遺産分割協議を終えている必要がある?
なお、特別代理人が選定され、遺産分割協議書を作成する際は、基本的には、添付した遺産分割協議書案どおりに作成しなければなりません。
そのため実質的に、特別代理人の選定を申し立てる時には既に遺産分割協議を終えておく必要があります。
また、遺産分割協議書案の内容が未成年者に不利な(法定相続分を下回る)内容である場合には、特別代理人の選任が認められないことがあります。
しかし、親権者が未成年者の生活の面倒をすべて見ているような場合で、未成年者のためにも親権者が多くの財産を相続した方がよいと考えられる場合(例えば遺産のほとんどが不動産で、子が幼く親が相続した方が合理的な場合等)には、未成年者の相続分が法定相続分を下回る遺産分割協議書案でも認められることもあります。
遺産分割協議書案について、裁判所から照会が入ることも
遺産分割協議書案の内容が未成年者に不利なものであった場合は、その理由について、裁判所から照会があることも。この照会に対して、合理的な理由を示せるかどうかによって、遺産分割協議書案が認められるかどうか左右されます。
裁判所からの照会は電話である場合もあれば、文書である場合もあります。
照会があったときの質問例
裁判所から照会があった場合、以下のような質問が来ると予想されます。あらかじめ回答を用意しておくとよいでしょう。
- 遺産分割協議書(案)によると、未成年者は、遺産分割等により何も取得しないようですが、その理由を具体的に記載してください。
- 遺産分割協議書(案)に記載された不動産の用途を記載してください。(例:自宅、賃貸物件等)
- 遺産分割協議書(案)に記載されている申立人が取得する遺産(預貯金についてもすべて)について、それぞれの評価額を記載してください。
- 遺産分割協議書(案)に記載された遺産以外に遺産はありますか。判明しているものだけで結構ですから、その内容を簡単にお書きください。(債務についても記載してください)
- 上記4に記載した遺産等がある場合、どのように分割する予定ですか。各遺産ごとに具体的にお書きください。
- 特別代理人候補者の方は遺産分割協議書(案)の内容を知っていますか。また、特別代理人候補者は、未成年者が何も遺産を取得しないことについて、どのように言っていますか。
- その他参考になることがあれば、ご記入ください。
▼戸籍収集・遺産分割協議書の作成は、行政書士に依頼することができます▼
抵当権設定の場合
未成年者の所有不動産に抵当権を設定する場合は、次のような資料が必要になります。
- 金銭消費貸借契約書
- 金融機関との基本契約書や保証委託契約書
- (根)抵当権設定契約書等の案
- (根)抵当権を設定する不動産の登記簿謄本
審判結果の通知
選任が認められると、申し立てから概ね2~4週間程度で、裁判所から申立人と特別代理人に特別代理人選任審判書が送付されます。
この審判書は代理人の資格を証する書面として、今後の手続で必要になります。なお、選任が認められなかった場合に不服申立てはできません。
不服申立てができる審判の場合は、審判の確定証明書をもって確定した決定であることを証明しますが、特別代理人の選任は不服申立てができないので審判書で十分なのです。
▼まずはお電話で相続の相談をしてみませんか?▼特別代理人の権限
特別代理人の権限は、家庭裁判所の審判で決められ、書面に記載されます。書面に記載のない行為を代理する権限ありません。
特別代理人の任期
家庭裁判所で決められた行為が終了すると、特別代理人の任務も終了します。
まとめ
今回は特別代理人について説明しました。
特別代理人を選任してもらい、相続手続きを進めるためには、遺産分割協議書案を裁判所に認めてもらわなければなりません。そして実際に遺産分割協議を作成する際、基本的に提出した遺産分割協議書案から内容を変更することできません。
したがって遺産分割協議書案はとても重要です。相続の専門家に相談したうえで作成することをおおすすめします。
なお、遺産分割協議書案を作成した専門家に特別代理人への就任を依頼すれば、親戚や知人に頼む手間や時間も掛かりませんし、何より裁判所から照会があった際にきちんと理由を説明できるのでとても安心です。
また、未成年のご家族がおられる場合、有効な遺言状があれば特別代理人の選任も不要ですし、未成年者の利益を守り思いを伝える事もできます。一度、遺言書作成について専門家に相談するのも良いかもしれませんね。
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この記事を書いた人
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