相続税の税務調査の実態と対策〜何年後?通帳やタンス預金も対象?
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2019年1月21日に公開された記事を再編集したものです。
相続税の税務調査の連絡が来ると、申告内容に誤りがあったのではないかとか、追徴課税を受けるのではないかと心配になるかと思います。
この記事では、相続税の税務調査の実態について、税務調査に際してとるべき対策について説明します。
また、そもそも税務調査を受けないようにするためには、どうすればよいかということについても併せて説明します。
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相続税の税務調査とは?
相続税の税務調査とは、相続税の申告漏れが無かったかどうかを確認するための税務署による調査のことです。
税務調査には、強制調査と任意調査があります。
強制調査は、俗に「マルサ」と呼ばれる国税庁の査察官が、事前の連絡なく抜き打ちでやって来て、強制的に自宅等の捜索や証拠物等の差押が行われます。
強制調査という名の通り、拒否することのできない、強制的な調査です。
強制調査は、任意調査を拒んだ場合や、脱税額が巨額で手口が悪質であると疑われる場合等に実施されます。
一方、任意調査は、税務署から事前に連絡があって実施されます。
強制捜査のように強制的に家の中を捜索されたり、物を差押えられたりすることはありません。
税務署の調査官の質問に回答するかたちで進められます。
強制調査が行われることは稀であり、通常は、任意捜査です。
相続税の税務調査の確率(割合)は約2割
相続税の申告事案(相続税額があるもの) のうち、税務調査の実地調査(税務署の調査官等が被相続人(亡くなった人)や相続人の自宅等を訪問して行う調査)が行われる割合は約2割です。
平成28事業年度(平成28年7月〜平成29年6月)の実地調査件数は12,116件であり、971件が無申告事案に係る調査です。
したがって、申告事案に係る実地調査件数は、11,145件(12,116件−971件)ということになります。
平成28事業年度の調査は、平成26年に発生した相続を主な対象としていますが、平成26年の相続税の申告書(相続税額があるもの) の提出に係る被相続人数は56,239人なので、約2割の確率で税務調査が入っている計算になります。
つまり、5人に1人の割合で税務調査が入る計算になります。
なお、実地調査の結果、申告漏れ等が見つかった件数(非違件数)は9,930件、非違割合は82.0%です。
つまり、実地調査があると、8割以上の割合で申告漏れ等の非違が見つかっているのです。
また、非違があったもののうち、重加算税(事実を仮装隠蔽し申告を行わなかった場合や、仮装に基づいて過少申告を行った場合に課せられる税率の重たい加算税)の賦課件数は1,300件で、重加算税賦課割合は13.1%です。
相続税の税務調査の対象者
相続税の税務調査の対象者は、相続税の課税対象となる財産を取得した人です。
相続税を申告しただけでなく、申告しなかった人も税務調査の対象となりえます。
税務調査は、被相続人ベースで行われるので、一つの相続において相続人や受遺者等の相続税の課税対象者が複数いる場合は、その全員が税務調査の対象となります。
なお、実地調査の際には、必ずしも全員が立ち会えなくても構いません。
税務署は、対象者をランダムに選定しているわけでありません。
税務調査では、実地調査を行う前に、事前調査が行われており、その事前調査の結果、怪しいものをピックアップして実地調査を行っています。
事前調査では、主に次の2つ点が見られています。
- 相続税申告書の計算や評価に誤りがないかどうか
- 相続税申告書に相続財産の計上漏れがあるかどうか
したがって、適切な申告を行うことで、税務調査の実地調査の対象となる可能性を大幅に低減させることができます。
なお、事前調査では、次のような相続財産や被相続人や相続人についての情報が調査されています(括弧書きは情報提供元)。
- 不動産(法務局)
- 過去10年分の預貯金の出入金履歴(銀行や郵便局)
- 過去10年分の有価証券の移動履歴(証券会社や信託銀行)
- 生命保険金の支払い履歴
- 所得(所得税の確定申告書や源泉徴収票、役員となっている(いた)法人の法人税申告書)
たまに、税務調査の対象となる申告漏れの金額の基準はいくらかという趣旨の質問を受けることがありますが、この点、明確な基準はありませんが、やはり、税務署も限りある人員で実地調査を行うので、申告漏れの金額がより大きいと疑われる事案や、その疑いの程度がより強い事案が優先的に実地調査の対象になるでしょう。
しかし、僅かばかりでも疑念があれば実地調査が入る可能性があり、また、調査後に申告漏れが判明した場合は、延滞税、加算税、追徴課税、懲役や罰金等の刑罰が下される可能性があるので、不正を見逃してもらえるラインを模索するのではなく、適法に認められる中で最大の節税効果を得られる対策を模索するべきです。
また、前述の通り、相続税を申告しなかった場合でも実地調査が行われる可能性があります。
無申告の場合でも、税務署は、相続税の基礎控除額以上の遺産がなかったかどうかの調査を行い、疑わしい事案に対しては、実地調査を実施するのです。
無申告の場合に実地調査が入るかどうかを判断するための指標があるので、紹介します。
それは、申告期限前に税務署から「相続税についてのお尋ね」が郵送されてきているかどうかです。
「相続税についてのお尋ね」は、相続開始の6〜8か月後に郵送されてきます。
「相続税についてのお尋ね」の中には、「相続税の申告要否検討表」が入っています。
また、「相続税の確定申告書」が入っている場合もあります。
「相続税の確定申告書」が入っている場合は、確実に相続税が生じると税務署に見込まれていると考えることができます。
「相続税の申告要否検討表」しか入っていない場合でも、相続税が生じるかもしれないと税務署に見込まれていると考えられます。
相続税を申告する場合は、「相続税についてのお尋ね」に返信する必要はありませんが、相続税を申告しない場合に、「相続税についてのお尋ね」に返信していないと、かなり高い確率で実地調査の対象となります。
「相続税についてのお尋ね」に返信する場合は、「相続税の申告要否検討表」に記入して返信します。
税務署は、返信されてきた「相続税の申告要否検討表」の内容に間違いがないかどうかを検討し、疑わしい点があるものについては実地調査の対象とします。
「相続税の申告要否検討表」の記入方法について不明な点は、税理士に相談するとよいでしょう。
なお、「相続税の申告要否検討表」に記載した内容に誤りがあった場合は、申告の際に正しい内容を記載すれば問題ありません。
「相続税の申告要否検討表」と申告書の記載内容に相違があっても構わないのです。
また、「相続税についてのお尋ね」が来ないからといって、相続税を申告しなくても税務調査の対象とならないとは言い切れません。
「相続税についてのお尋ね」が来なくても税務調査の対象となったケースは実際に存在します。
お尋ねが来ても来なくても、申告すべき財産があるかどうかについては、きちんと検討すべきです。
相続税の調査は何年後?税務調査の時期
相続税の税務調査の対象となった場合、通常、申告の翌年か翌々年の8月〜11月に税務署から連絡がきます。
この時期を過ぎると、税務調査が入る可能性は格段に低くなります。
そして、申告期限から5年が経過すると、偽りその他不正の行為により税額を免れた場合を除き、時効によって徴収権が消滅するので、税務調査が入る可能性はまったく無くなります。
相続税の税務調査の流れ
相続税の税務調査(実地調査)の対象となった場合は、税務署から連絡があります。
相続税の申告を税理士に依頼した場合は、税理士に連絡があり、自分で申告した場合や、申告しなかった場合は、相続人本人に連絡があります。
連絡の目的は実地調査の日程調整です。他の相続人とも日程を調整して、実地調査の日程を決めます。
前述の通り、必ずしも、相続人全員が立ち会えなくても構いませんが、出来る限り立ち会った方がよいでしょう。
実地調査は、被相続人が最後に住んでいた家で行われることが多いですが、既に手放していたり、財産を別の場所に移している場合は、相続人の自宅や、財産を移した場所で行われます。
実地調査までの間に、税理士と相談のうえ、申告書を見返して、相続税の計算や財産の評価方法に誤りがないか、また、計上していなかった財産がないかを洗い出します。
申告時に税理士に依頼していなかった場合や、相続税申告の経験が浅い税理士に依頼していた場合は、実地調査前に、相続専門の税理士に相談して対策を講じたほうがよいでしょう。
調査当日までに、次の資料を手元に用意しておくと、調査官から求められたときに慌てずに調査がスムーズに進むのでよいでしょう。
- 相続税申告時に用いた資料の原本
- 預貯金通帳(被相続人と相続人のもの)
- 土地の権利証や不動産購入時の資料
- 相続人の認印
実地調査は、通常、1日で終わりますが、1日で終わらない場合は、別日に再度実地調査が実施されることもあります。
調査当日は、申告を依頼した税理士や、調査に先立ち新たに依頼した税理士に同席してもらうことができます。
調査は、午前10時に開始され、早ければ午後3時頃、遅くとも午後5時頃には終わります。
調査官は通常2人で来て、午前中は、調査官から質問に答えるかたちで進みます。
お昼を挟みますが、調査官に昼食を用意する必要はありません(調査官は外で食べます)。
午後は通帳などの資料や、貴重品の保管場所等を確認したうえで、調査官から申告漏れ等に関する具体的な指摘があることもあります。
また、調査官からの質問に対して回答した内容を、調査官が書面にまとめるので、その書面を確認して、間違いがなければ署名押印します。
税理士に立ち会ってもらっている場合は、税理士にも確認したうえで、署名押印した方が良いでしょう。
なお、調査官からは次のような質問が想定されます。- 被相続人にはどのような収入があったか、どのようにして財産を蓄えたか
- 被相続人の出費の状況(毎月の生活費はいくらだったか、お金のかかる趣味はあったか、介護費用や医療費)
- 相続開始直前に大きな出費がある場合は、その用途
- 被相続人がつけていた家計簿や日記の有無
- 被相続人が取引していた金融機関、投資状況
- 被相続人が亡くなる前の財産の管理状況
- 被相続人が行った贈与や寄付行為
- 被相続人の印鑑について(贈与契約書等に押印された印鑑は被相続人のものか)
- 被相続人の配偶者や子の年齢や職業、財産状況
相続税を期限内に申告・納付しなかった場合の罰則
相続税の時効を狙って、相続税を申告・納付しないでいると、追徴課税や刑事罰を受ける可能性があります。
追徴課税
追徴課税には、加算税と延滞税があります。
この2つの違いをざっくりと説明すると、加算税とは適切に申告しなかった人に対して加算される罰則的な意味合いの税金で、延滞税とは適切に納付しなかった人に対する利息的な意味合いの税金です。
適切に申告しない場合は、納付も適切に行えていないでしょうから、加算税と延滞税の両方が課せられることになります。
また、申告は適切に行ったものの、納付しなかった場合は、延滞税が課せられることになります。
加算税
加算税には、次の4つの種類があります。- 無申告加算税
- 過少申告加算税
- 不納付加算税
- 重加算税
このうち不納付加算税は、申告ではなく納付に関係する加算税で、源泉所得税に関するものなのですが、贈与税とは関係がないので、ここではそれ以外の3つについて説明します。
無申告加算税
無申告加算税は、申告を行うべきケースであるにもかかわらず、申告期限(相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内)までに申告を行わなかった場合に課せられる加算税です。
税率は、本来納付すべきだった税額に対して、50万円までは15%、50万円を超える部分は20%です。
例えば、本来納付すべき税額が100万円だった場合の無申告加算税は次の式で計算することができます。
50万円×15%+(100万円−50万円)×20%=17万5千円
なお、税務調査によらず自主的に期限後申告を行った場合は、税率は一律5%に軽減されますが、平成 29 年1月1日以後に法定申告期限等が到来する期限後申告書等にかかる国税についても、税務署からの調査の通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正又は決定を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に10%(50 万円を超える部分は 15%)の割合を乗じて計算した金額に相当する無申告加算税を課すこととされました。
過少申告加算税
過少申告加算税は、申告はしたが申告した税額が過少であった場合に課せられる加算税です。税率は、新たに納めることになった税額に対して、50万円までは10%、50万円を超える部分は15%です。
なお、税務調査によらず自主的に修正申告を行った場合は、過少申告加算税は課されませんが、平成 29 年1月1日以後に法定申告期限等が到来する修正申告書等にかかる国税については、税務署からの調査の通知以後に提出され、かつ、その提出が調査による更正を予知してされたものでない場合には、その申告に基づいて納付すべき税額に5%(期限内申告税額と 50 万円のいずれか多い額を超える部分は 10%)の 割合を乗じて計算した金額に相当する過少申告加算税を課すこととされました。
重加算税
重加算税は、事実を仮装隠蔽し申告を行わなかった場合や、仮装に基づいて過少申告を行った場合に課せられる加算税です。
単なる申告漏れではなく、贈与を受けたことを隠して脱税しようとしたような場合が対象です。
税率は、無申告の場合が40%で、過少申告の場合が35%と大変重くなっています。
延滞税
延滞税は、前述の通り、納税が遅れた場合に課せられる利息的な意味合いの税金です。
延滞税は、納付期限の翌日から納付の日まで課せられます。
税率は、納付期限から2か月以内とそれ以降とで異なり、また、世の中の金利とも連動して変動します。
世の中の金利が高い場合は特例基準割合も高く、世の中の金利が低い場合は特例基準割合も低くなります。
上限値でいうと、納付期限から2か月以内が7.3%、それ以降が14.6%です。
しかし、2018年現在は、世の中の金利が低いので、延滞税の税率も上限値よりも低くなっていて、2か月以内が2.6%、それ以降が8.9%となっています。
刑事罰が科せられる可能性もある
相続税を脱税すると、前述の重加算税や延滞税が課せられるだけでなく、裁判で有罪となった場合には、懲役や罰金が科せられる可能性があります。
法定刑は、故意に税を免れる意思があり申告しなかった場合は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金が、故意に税を免れる意思はなかった場合でも1年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。
まとめ
以上、相続税の税務調査について説明しました。
相続税の申告時に、相続税申告の実務に精通した税理士に依頼することによって、税務調査が入る可能性を下げることができますし、節税にもなります。
また、自分で申告した場合や、申告の際は相続税実務にそれほど精通していない税理士に依頼した場合でも、税務調査への対応から相続税実務に精通した税理士に依頼することも可能です。
▼実際に「いい相続」を利用して、税理士に相続税申告を依頼した方のインタビューはこちら
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