相続税の基礎控除額の計算方法と控除額を増やして節税する実践的な方法
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2018年7月20日に公開された記事を再編集したものです。
相続税は相続により財産を取得した人全員に課税されるわけではありません。
基礎控除が設定されていて、取得した財産の価額が基礎控除額以下なら全額が控除されるため、相続税が課税されないからです。
この記事では、相続税の基礎控除に関する以下のような疑問を解決します。
「相続税の基礎控除って何?」
「相続税の基礎控除額はどうやって計算するの?」
「控除額を増やす方法はないの?」
「他に節税する方法はないの?」
この記事を読んだ方が、基礎控除額を正しく計算できるようになり、さらに、相続税を必要以上に払い過ぎて損しないように、控除額を増やして節税を実践できるように、わかりやすく説明します。
この記事を書いた人
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相続税の基礎控除とは?
相続税の基礎控除とは、遺産額(課税価格)に税率を乗じる(掛ける)等して相続税額を算出する前に、遺産額から控除する(差し引く)金額のことです。
基礎控除があることによって、遺産額が一定額以下の場合は、相続税が課されません。
もし、少額の遺産にまで相続税を課していては、それにより遺族の生活が困窮する可能性がありますので、遺産額が一定額以下の場合は、相続税が課されないように、基礎控除が存在するのです。
しかし、2015年に改正相続税法が施行され、基礎控除額が減額されました。
基礎控除額が減額されたということは、少ない遺産額でも相続税が課されることになったということです。
ですので、改正によって、相続税が課される人が増えました。
改正前の2014年の相続税の課税があった被相続人(相続される人=財産を残す人)の割合は4.4%でしたが、改正後の2015年は8.0%、2016年は8.1%と増えました。
なお、納付税額も増えました。
2014年が1兆3908億円だったのに対し、2015年は1兆8116億円、2016年は1兆8681億円となっています。(国税庁「相続税の申告状況について」より)
税収が増えることは国にとっては喜ばしいことですが、遺産額が改正前の基礎控除額ぎりぎりだった人にとっては、この改正は痛いですね。
とはいえ、もう変わってしまったものは仕方がないので、基礎控除を含めた相続税の控除の仕組みについてこの記事で学習し、現行法の下で精一杯節税に努めましょう。
相続税の基礎控除額の計算方法
それでは、相続税の基礎控除額の計算方法について説明します。
相続税の基礎控除額は、次の計算方法で計算することができます。
3000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
法定相続人とは、相続することができると法律で定められた人のことです(詳しくは後述)。
上記の式に当てはめると、相続税の基礎控除額は、法定相続人の数ごとに次のようになります。
法定相続人の数 | 基礎控除額 |
---|---|
1人 | 3600万円 |
2人 | 4200万円 |
3人 | 4800万円 |
4人 | 5400万円 |
5人 | 6000万円 |
以降も法定相続人が1人増えるごとに600万円を加算 |
法定相続人の数え方
前述の通り、基礎控除額を算出するためには、法定相続人の数が分からなければなりません。
以下では、法定相続人の数え方について説明します。
法定相続人とは誰のこと?
法定相続人には、大きく分けて、次の2つがあります。
- 配偶者
- 血族相続人
以下、それぞれについて説明します。
配偶者
被相続人の配偶者は、常に相続人になります。
ここでいう「配偶者」は、法律上の婚姻関係がある者をいい、内縁関係は含まれません。
血族相続人
配偶者以外に相続人になる者として、血族相続人があります。
被相続人と血のつながりがある相続人という意味ですが、血のつながりのない養親子関係も含まれます。
血族相続人については、大きく分けて3通りあり、次の優先順位で相続権が回ってきます。
- 子及びその代襲者
- 直系尊属
- 兄弟姉妹及びその代襲者
以下、それぞれについて説明します。
【子及びその代襲者】
被相続人の子は、相続人になります。
実子であっても養子であっても変わりありません。
なお、被相続人の実子で、外に養子に出た子も相続人になります。
ただし、養子縁組には、実親との親子関係を断つ特別養子縁組というものがあり、外に特別養子縁組に出た子は実親の遺産の相続人となることはできません。
また、被相続人の子が相続開始以前(被相続人の死亡以前)に死亡したり、欠格事由や廃除(後述)によって相続権を失ったりした場合、相続人の子が相続人となります。
これを代襲相続といいます。
例えば、祖父が亡くなる以前に父が死亡した場合に、父に代わって孫が祖父の相続人になるというようなケースが考えられます。
孫も先に死亡している場合、曽孫が相続人になります。これを再代襲相続といいます。
子、孫といった直系卑属については、理論的には代襲相続が無限に続くことになります。
ただし、相続人の子が被相続人の直系卑属(子、孫、曽孫のように、直通する系統の親族で後の世代の人)でない場合は、相続人にはなりません。
相続人の子は当然、被相続人の孫にあたるから直系卑属に決まっているではないかと思われるかもしれませんが、この規定は相続人が養子の場合に意味を持ちます。
養子Aの子Bが生まれたのが、Aが養親Cと養子縁組をした時よりも後であれば、BはCの孫となり、代襲相続が可能です。
しかし、Bが生まれたのが、養子縁組をした時よりも前であれば、BはCの孫とはならず、養子の連れ子という関係に過ぎません。
そのような場合は、Bは代襲相続人となることはできません。
なお、胎児については、胎児の状態で既に相続する権利をもっているのですが、相続税を計算する上では、生まれるまでは、法定相続人としてカウントすることはできません。
出生後に改めて法定相続人としてカウントし、基礎控除額を計算し直します。
【直系尊属】
子及びその代襲者がいない場合、直系尊属(父母、祖父母、のように直通する系統の親族で前の世代の人)が相続人になります。
親等の異なる者の間では、近い人が優先されます。
父母、祖父母が健在の場合は、父母だけが相続人になるということです。
【兄弟姉妹及びその代襲者】
子及びその代襲者がいない、さらに、直系尊属もいない場合、被相続人の兄弟姉妹が相続人になります。
相続開始以前に兄弟姉妹が死亡や相続権を失った場合には、兄弟姉妹の子が相続人になりますが、相続開始以前に兄弟姉妹の子も死亡や相続権を失った場合には、その子(兄弟姉妹の孫)は相続人にはなりません。
兄弟姉妹の再代襲相続は認められないということです。
代襲相続の場合の法定相続人の数え方
代襲相続の場合は法定相続人の数え方に、特に変わったことはありません。
前述の法則に当てはめて数えるだけです。
実際に、次のケースを例に数えてみましょう。
被相続人Aと配偶者Bの間には、子Cが1人いました。
Cには子DとEがいました。
つまり、DとEはAの孫です。
BとCはAよりも先に亡くなりました。
この場合は、DとEが代襲相続により、相続人となります。
つまり、法定相続人は2人ということになります。
養子がいる場合の法定相続人の数え方
養子も相続人となることは前述の通りです。
しかし、基礎控除を計算する際の法定相続人の数には、すべての養子をカウントするわけではありません。
すべての養子をカウントすると、養子を増やすことによって、基礎控除を増やし、税金逃れができてしまうからです。
基礎控除の計算時に参入できる養子の数は、実子がいる場合は1人、実子がいない場合は2人までと制限されています。
しかし、次の場合は、実子として扱い、養子の人数制限による影響を受けず法定相続人としてカウントすることができます。
- 特別養子
- 配偶者の実子、かつ、被相続人の養子(いわゆる連れ子養子)
- 代襲相続人
代襲相続人について、説明します。
代襲相続人を法定相続人としてカウントするのは前述の通りですが、ここで説明するのは、孫を養子として迎え入れたため、一人の人が、代襲相続人でもあり、養子でもあるというケースです。
例に基づいてわかりやすく説明します。
被相続人Aの子B、Bの子Cがいるとします。
CはAの孫ですが、Aと養子縁組しAの養子になったとします。
Bが亡くなり、その次に、Aが亡くなったとします。
Bが亡くなっていなければ、相続人は実子Bと養子であるCの2人ですが、Bが亡くなっているので、Bの子であるCが代襲相続人となります。
そうすると、Cは、Aの養子としての立場でも相続人となりますし、Bを代襲相続人としての立場でも相続人となります。
この場合に、基礎控除額の算定に関して、Cを二重で計上してよいかという問題が生じます。
Cは二重で相続人としての資格をもっているので、基礎控除額算定の基礎となる法定相続人として二重で計上してよいのではないかという考え方もありえそうです。
しかし、Cを二重に計上することはできません。
Cはあくまで1人としてカウントします。
それでは、次に、Cは代襲相続人として計上すべきか、養子として計上すべきか、という問題があります。
養子として計上するのであれば、基礎控除額算定の基礎となる法定相続人の数に加えることができる養子人数は制限がありますので、その枠がCで1人埋まることになります。
しかし、結論としては、Cは代襲相続人としてカウントし、養子の人数制限にCは影響を及ぼしません。
相続放棄があった場合の法定相続人の数え方
相続財産がプラスの財産よりも借金等のマイナスの財産の方が多い場合は、相続すると損してしまいます。
相続放棄とは、このような場合等に、相続する権利を放棄することをいいます。
相続放棄があっても、相続税の基礎控除額の計算上は、相続放棄した法定相続人を除かずに計算します。
例えば、法定相続人が3人いて、そのうちの1人が相続放棄をしたとします。
その場合も、法定相続人は3人として計算して、基礎控除額は4800万円になります。
この原則は、相続放棄者が何人でも変わりありません。
例えば、子の全員が相続放棄をすると相続権は直系尊属に移り、直系尊属の全員が相続放棄をすると相続権は兄弟姉妹に移ります。
このように、相続順位が高順位のグループが全員相続放棄をして、新たな法定相続人が生じても、基礎控除額の算定の基礎となる法定相続人の数は、相続放棄する前の当初の法定相続人の数から変わりません。
欠格・廃除があった場合の法定相続人の数え方
相続欠格とは、相続人が遺言書の偽造等の不正をはたらいた場合に、その相続人が相続人となれなくする制度のことです。
相続廃除とは、相続人が被相続人を虐待する等の著しい非行を行った場合に、その相続人が相続人となれなくする制度のことです。
欠格や廃除で相続人でなくなった人は、基礎控除額の算定の基礎となる法定相続人の数にもカウントしません。
放棄の場合とは異なる扱いになります。
なお、欠格や廃除を受けた人に子がいれば、代襲相続が可能です。
その場合、代襲相続人の人数は、基礎控除額の算定の基礎となる法定相続人の数にカウントします。
なお、放棄の場合は、代襲ができないので、この問題は生じえません。
基礎控除額を増やす方法
基礎控除額を増やすためには、法定相続人の数を増やさなければなりません。
法定相続人の数は養子によって、増やすことができます。
ただし、前述の通り、基礎控除額の算定の基礎となる法定相続人の数としてカウントできる養子の数には制限があります。
養子を増やす場合に、よくある手法は孫を養子にする方法です。
ただし、これも前述の通り、養子にした孫の親が被相続人よりも先に亡くなっている場合は、孫は代襲相続人としての地位も得ることになり、ダブルカウントはできないため、基礎控除額を増やす効果はなくなってしまします。
また、節税目的で養子にした場合、基礎控除額の算定の基礎となる法定相続人の数に組み込むことを否定される可能性があるので、節税だけのために孫を養子にすることはお勧めしません。
課税価格が基礎控除額以下なら相続税の申告は不要?
課税価格(遺産総額)が基礎控除額以下なら、相続税の申告は必要ありません。
なお、相続税には、基礎控除だけでなく、様々な控除や軽減制度があります。
課税価格が基礎控除額を超えていても、このような制度を用いることで、相続税額が0円になることがあります。
ただし、そのような場合でも、相続税の申告が必要となります。
相続税の申告について詳しくは、「相続税の申告が不要なケース、自分で申告する方法と申告期限」をご参照ください。
基礎控除以外の相続税額の控除・軽減の制度
相続税の控除や税額の軽減制度には、基礎控除以外に、次のようなものがあります。
- 贈与税額控除
- 配偶者の税額の軽減
- 未成年者の税額控除
- 障害者の税額控除
- 相次相続控除
- 小規模宅地等の特例
- 地積規模の大きな宅地の評価
以下、それぞれについて説明します。
贈与税額控除
贈与税額控除について説明します。
相続開始前3年以内の贈与には、相続税が課されます。
しかし、贈与を受けた時に贈与税を納めていた場合に、さらに相続税を課されると二重課税になってしまいます。
贈与税額控除は、そのような場合に二重課税を回避するための制度です。
相続税額から既に納めた贈与税額を控除することができるのです。
なお、贈与税額の方が大きい場合でも差額の還付を受けることはできません。
配偶者の税額の軽減
配偶者の税額の軽減制度は、配偶者だけが利用できる制度です。
配偶者が遺産分割や遺贈により取得した遺産額から、配偶者の法定相続分か1億6000万円のいずれか大きい方の金額を差し引いて、残った金額にのみ課税するという制度です。
遺産額より差し引く金額の方が大きい場合は、課税されません。
つまり、法定相続分の範囲内で遺産分割や遺贈を受ける分においては、相続税が課されることはないのです。
法定相続分を超えて遺産を取得した場合にのみ、相続税が課される可能性が生じますが、それでも1億6000万円までは課税されないので、ほとんどの家庭では配偶者はまったく課税されないということになります。
未成年者の税額控除
未成年者の税額控除は、相続人が未成年者の場合に利用できる税の軽減制度です。
控除額は年齢によって異なり、年齢が低い方がより大きい金額を控除できるようになっています。
具体的には、次の式で計算できます。
6万円 ×(20 − 相続時の満年齢)
例えば、相続時の年齢が満10歳だった場合は、次のように計算します。
6万円 ×(20 − 10)= 60万円
なお、計算に用いるのは、相続時の「満年齢」なので、10歳になったばかりでも、10歳11か月でも、同じ10歳として計算します。
控除額が相続税額よりも大きい場合は、差額を未成年者の扶養義務者の相続税額から控除します。
なお、以前も未成年者控除を受けている場合は、控除額が制限されることもあります。
障害者の税額控除
障害者の税額控除は、相続人が85歳未満の障害者の場合に、相続額から一定の金額を差し引く制度です。
控除額は次の計算式で算出することができます。
10万円 ×(85 − 相続時の満年齢)
なお、特別障害者(重度の障害のある方)の場合は、上式の「10万円」を「20万円」に変更して計算します。
控除額が相続税額よりも大きい場合は、差額を障害者の扶養義務者の相続税額から控除します。
なお、以前も障害者税額控除を受けている場合は、控除額が制限されることもあります。
相次相続控除
相次相続控除は、今回の相続開始前10年以内に、被相続人が相続や遺贈などによって財産を取得し相続税が課されていた場合に、その被相続人から相続や遺贈などによって財産を取得した人の相続税額から一定の金額を控除する制度です。
相次相続控除の額は、前回の相続において課税された相続税額のうち、1年につき10%の割合で逓減した金額です。
相次相続控除について、詳しくは、国税庁ウェブサイトの相次相続控除についてのページをご参照ください。
小規模宅地等の特例
小規模宅地等の特例とは、正式には「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」といい、事業用や居住用の小規模宅地については、課税価格に参入すべき価額の計算上、一定割合を減額できることになっています。
この特例について、詳しくは、国税庁ウェブサイトの相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例(小規模宅地等の特例)についてのページをご参照ください。
地積規模の大きな宅地の評価
地積とは土地の面積のことです。
地積規模の大きな宅地の評価は、面積が広すぎることによる使い勝手の悪さを考慮した減額補正を行う制度です。
地積規模の大きな宅地の評価は、2018年1月1日以降の相続から適用されるようになった新しい制度で、それ以前は、広大地の評価という制度がありました。
広大地の評価は2017年12月31日以前の相続に適用されます。
地積規模の大きな宅地の評価について、詳しくは、国税庁ウェブサイトの地積規模の大きな宅地の評価についてのページをご参照ください。
相続税率
相続税は、課税価格から基礎控除額を差し引いた金額に、相続税率を掛け算する等して算出します。
相続税率と相続税の算出方法について詳しくは「相続税率は何%?事前に知っておくべき相続税の計算方法と節税方法」をご参照ください。
まとめ
以上、相続税の基礎控除額の計算方法と控除額を増やして節税する実践的な方法について説明しました。しかし、相続はそれぞれの事情によっても大きく異なります。不明なことは困ったことなどがあれば専門家に相談することをお勧めします。
▼実際に「いい相続」を利用して、税理士に相続税申告を依頼した方のインタビューはこちら
この記事を書いた人
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