【徹底解説】相続放棄手続きを自分で簡単に済ませて、費用を節約するための全知識
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2019年4月9日に公開された記事を再編集したものです。
相続放棄の手続きをすることになった場合には、なるべく手間や費用をかけずに、かつ、確実に済ませたいでしょう。 この点、手続きの代行を専門家に依頼することもでき、この方法が、最も、手間がかからず、かつ、確実で、お勧めです。
しかし、代行費用がかかってしまうため、自分で手続きをすることで、費用を節約したいという人もいるでしょう。
この記事では、相続放棄の手続きを自分で簡単に済ませて費用を節約する手順について説明します。また、記事を読んだうえで、面倒だと感じた場合は、専門家に依頼した方がよいでしょう。
記事では、専門家の探し方や、代行費用についても説明します。
この記事を書いた人
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相続放棄手続きとは?
相続放棄とは、相続人が被相続人(亡くなった人)の権利や義務を一切承継しない選択をすることをいいます。
簡単にいうと、プラスの財産も借金等のマイナスの財産もどちらも相続しないということです。
プラスの財産だけ相続するということはできず、プラスの財産もマイナスの財産もひっくるめて相続しなければならないため、プラスの財産よりもマイナスの財産の大きい場合に相続してしまうと損をしてしまいますが、相続放棄することによってプラスの財産もマイナスの財産も相続しなくなります(マイナスの財産だけ放棄するということはできません)。
相続放棄をするには、家庭裁判所で、相続放棄の申述という手続きをしなければなりません。
相続債権者(被相続人の債権者)や他の相続人に相続放棄をする旨を伝えるだけでも相続分を放棄することはできますが、それでは相続債務(被相続人の債務)を免れることはできません。
この点について詳しくは「相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法」をご参照ください。
相続放棄手続きの対象者
相続放棄や限定承認の手続きの対象者(相続放棄を選択することができる人)は、相続人と包括受遺者です。
相続人は相続する権利を有する人のことですが、包括受遺者とは何でしょうか?
遺言によって、相続人でない人が遺産をもらい受けることがありますが、このような人のことを受遺者といいます。
受遺者は、包括受遺者と特定受遺者に分けられます。
包括受遺者は取得する財産が遺言によって特定されていない受遺者で、特定受遺者は取得する財産が遺言によって特定されている受遺者のことです。
例えば、取得できる財産が「遺産の2分の1」というようなかたちで指定されていたら包括受遺者、「どこどこの土地」というようなかたちで指定されていたら特定受遺者となります。
特定受遺者は、その特定された財産を取得することができますが、それ以外の財産を取得するものではなく、また、遺言にない債務を承継することもありません。
ゆえに、特定受遺者は相続放棄や限定承認の対象外です。
特定遺贈を放棄する場合は、包括遺贈の場合のような家庭裁判所での手続きは不要で、相続人等の遺贈義務者に放棄の意思表示をすれば足ります。
放棄の期限は原則としてありませんが、利害関係人が十分な期間を定めて催告したときは、その期間内に放棄の意思表示しなければ承認したことになります。
一方、被相続人の権利義務を包括的に承継することから、包括受遺者は、相続財産に対して相続人とともに遺産共有の状態となり、債務も承継し、遺産分割に参加することになるため、債務も含めて遺産をもらい受けたくない場合は、相続放棄の手続きが必要です。
相続放棄手続きの期限
相続放棄の手続きは、「自己のために相続の開始があったことを知った時」から3か月以内に、行わなければなりません(なお、相続の開始があったこと知った翌日を1日目とカウントします)。
この相続放棄手続きができる期間のことを熟慮期間といいます。
相続は死亡によって開始するので、基本的には、被相続人が死亡したことを知った時から3か月以内ということになります。
ちなみに、被相続人が死亡したことは知っていたが、法定相続人のルールを知らなかったがために自分が相続人になることは知らなかったという言い訳は基本的には通用しません。
なお、先順位の相続人全員が相続放棄をしたために自分が相続人になったという場合は、先順位の相続人全員が相続放棄をしたことを知った時から3か月以内ということになります(相続順位について詳しくは「相続順位のルールを図や表を用いて弁護士が詳しく分かりやすく解説!」を参照)。
この3か月の期限は、家庭裁判所に申立てることで、伸長(延長)することができます。
遺産の調査が3か月以内に調査が完了しない場合もあるため、期限を伸長する制度があるのです。
家庭裁判所で申立てが認められると、原則としてさらに3か月期限が伸長されます。
伸長の手続きは繰り返し利用することができます。
なお、期限が過ぎてしまっても相続放棄が全く認められないわけではなく、相続債務が存在しないと信じており、そう信じていたことに相当の理由がある場合には、例外的に相続放棄が認められる場合があります。
ただ、どのような場合に相当の理由があるとして相続放棄が認められるかについて決まった基準はなく、ケースに応じて裁判所が判断します。
これまで裁判所が、期限経過後の相続放棄を認めた事例には、以下のようなものがあります。
- プラスの財産があることは知っていたが他の相続人が相続することから自分が相続する財産は全くなく、またマイナスの財産(債務)は全く存在しないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったところ、実際にはマイナスの財産が存在した場合
- 被相続人の借金について調査を尽くしたが、債権者からの誤った回答により債務は全くないと信じていたため、期限内に相続放棄の手続きをしなかったが、実際には債務が存在した場合
- 被相続人と相続人が別居しており、別居後、被相続人が亡くなるまで全く没交渉であって、相続人は、被相続人の財産や借金について全く知らされておらず、被相続人の死亡後も、その財産の存在を知るのが困難であった状況下において、財産が全くないと信じており、相続放棄の手続きをしなかったが、実際には借金が存在した場合
なお、熟慮期間内でも、相続放棄ができなくなる場合があります。
それは、相続人が相続の単純承認をした場合です。
単純承認とは、相続人が、被相続人の権利や義務を無限に承継する選択をすることをいいます。
要するに、通常通りに相続すること選択することです。
相続放棄や限定承認(後述)は家庭裁判所での手続きが必要ですが、単純承認をする場合に特別な手続きは必要ありません。
単純承認をする旨の意思表示をするだけで単純承認をすることができますし、意思表示すらしなくても次に掲げる場合には、単純承認をしたものとみなされる可能性があります。
- 相続人が相続財産の全部又は一部を処分したとき
- 相続人が熟慮期間内に限定承認又は相続の放棄をしなかったとき
- 相続人が、限定承認又は相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部若しくは一部を隠匿し、ひそかにこれを消費し、又は悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったとき
単純承認について詳しくは「単純承認したことになって知らないうちに借金を相続しないための知識」をご参照ください。
相続放棄手続きの流れ
相続放棄手続きの流れは、概ね次のようになっています。
- 相続放棄をすべきかどうか決める
- 必要書類を用意する
- 相続放棄の申述(手続き)をする
- 照会書に記入して、返信する
- 相続放棄受理通知書を受領する
以下、それぞれのステップについて、説明します。
相続放棄をすべきか決める
この記事を読んでいる人は、既に相続放棄をすることを決めている人が多いかもしれませんが、まだ決めかねている人もいるでしょうから、相続放棄をすべき場合について説明します。
相続放棄は、主に、遺産がプラスの財産の総額よりも負債等のマイナスの財産の総額が大きい場合に行われます。
したがって、相続放棄をすべきかどうかを判断するためには、プラスの財産とマイナスの財産のどちらが大きいかを調査しなければなりません。
なお、死亡保険金については、相続放棄をしても受け取ることができるため、相続放棄をすべきかどうかの判断には影響しません。
相続財産の調査について詳しくは「相続財産とは何?相続の対象となる財産と相続税の対象となる財産」をご参照ください。
また、マイナスの財産の方が多い遺産を相続すると損してしまいますが、プラスとマイナスとどちらの財産が多いか微妙な場合や、相続人が把握していないマイナスの財産が後になって見つかることが懸念される場合は、限定承認という手法が用いられます。
限定承認では、相続人が相続によって得た財産の限度で被相続人の債務の負担を受け継ぎます。
マイナスの財産の方が多かった場合でも、自腹を切ってまで被相続人の債務を弁済する必要はありません。
これだけ聞くと、限定承認は相続人にとって最も都合のよい制度で、もはや単純承認や相続放棄を選択すべき余地はないように思われるかもしれませんが、限定承認には、次のようなデメリットがあり、実際はあまり利用されていません。
- 相続人全員が共同で手続きしなければならない(一人でも単純承認や相続放棄をすると限定承認できない)
- 債務の清算が必要(相続放棄の場合は不要)
- 単純承認と比べて譲渡所得税が余計にかかる可能性がある
限定承認について詳しくは、「限定承認のメリット・デメリットと利用すべき場合や手続きの流れ」をご参照ください。
必要書類を用意する
相続放棄には、次の書類等が必要です。
配偶者や子が相続放棄をする場合は、通常、以上の書類だけで十分です。
それ以外の相続人が相続放棄をする場合は、さらに、相続人であることを証明できる戸籍謄本等が必要になります。
なお、相続放棄をする人が複数いて、まとめて申述する場合は、重複する書類は1部で構いません。
必要書類について詳しくは「相続放棄の必要書類とその集め方をケースごとにわかりやすく説明」をご参照ください。
なお、相続放棄申述書には、相続の開始を知った日や相続財産の概略について記入する欄があります。
相続放棄申述書について詳しくは「相続放棄申述書を記入例から誰でも簡単に作成する方法と提出の流れ」をご参照ください。
相続放棄の申述(手続き)をする
被相続人の最後の住所地の家庭裁判所に、用意した必要書類を提出することによって、相続放棄の手続きが開始されます(このことを「相続放棄の申述」といいます)。
申述先は、相続人が住んでいるところを管轄する家庭裁判所ではないことに注意が必要です。
全国の家庭裁判所の管轄区域は、裁判所ウェブサイトの「裁判所の管轄区域」のページから調べることができます。
なお、必要書類の提出にあたっては、郵送でも構いません。
郵送で提出する場合は、到着が確認できるよう、普通郵便ではなく、書留郵便等で発送した方がよいでしょう。
なお、家庭裁判所に提出した書類は原則として返還されないので、必要な場合はあらかじめコピーをとっておくことをおすすめします(裁判所によっては、稀に、原本と一緒にコピーを提出することで、手続終了後に原本を返還してもらえることもあるようですが、基本的には原本は返還してもらえない場合が多いと思っておいた方がよいでしょう)。
照会書に記入して、返信する
家庭裁判所に相続放棄の申述をすると、申述人のもとに、裁判所から照会書が届きます。
照会書の書式は家庭裁判所によって異なりますが、概ね以下のような事項について質問がなされるので、回答書にその質問に対する回答を記載して家庭裁判所に返送する必要があります。
質問の中には、既に申述書に記載している内容について再度尋ねられる場合もあります。
相続放棄照会書における質問には次のようなものがあります。
- 相続放棄をするのはあなたの真意に基づくものか
- 相続の開始を知った日はいつか
- 相続財産にはどのようなものがあるか
- 相続財産の存在を知ったのはいつか
- 既に相続した財産はあるか
- 相続放棄をする理由は何か
- 被相続人の生活状況について
- 被相続人とあなたとの関係について
- (被相続人が亡くなってから3か月以降経過している場合に)3か月以内に相続放棄の手続きができなかった理由
照会書における質問に回答することはそれほど難しいことではありませんが、既に一部の相続財産を相続していたり、相続の開始を知った日から3か月以上経過してから相続放棄をしようとしたりした場合などは、その理由や背景についてきちんと説明しないと、相続放棄が認められない可能性があるので、注意が必要です。
そのような事情がある場合は、手続き前に弁護士等の専門家に相談することをお勧めします。
相続放棄受理通知書を受領する
照会書を返送し、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から送付されます。
これは、相続人が相続放棄の申述を行い、これを裁判所が受理したということを通知する書類です。
家庭裁判所に相続放棄申述書等の必要書類を提出してから、相続放棄申述受理通知書が届くまでは、提出した書類に問題がない場合で、通常1〜2か月くらいです。
この通知書が届けば、相続放棄の手続きは完了です。
なお、相続放棄申述受理通知書は1度しか送付されず、再発行もされないので、相続放棄申述受理通知書を紛失した場合や、相続放棄をしたことを金融機関等に証明する必要がある場合には、別途、相続放棄申述受理証明書という書類の発行を家庭裁判所に申請する必要があります。
相続放棄申述受理証明書について詳しくは「相続放棄申述受理証明書が必要なケースと申請方法・申請書の記入例」をご参照ください。
また、相続放棄の申述が受理されなかった場合は、相続放棄不受理通知書が届きます。
相続放棄の申述は、一度しかできません。
申述書や照会書の書き方が悪く不受理になったとしても、もう一度、再度申述はできないのです。
相続開始から3か月以上が過ぎている場合や、単純承認の成立が疑われる場合は、手続き前に、弁護士等の専門家に相談した方がよいでしょう。
不受理に納得がいかない場合は、不受理通知書を受け取った翌日から2週間以内に、高等裁判所に即時抗告をすることができます。
しかし、家庭裁判所の審判結果を覆すだけの材料が用意できなければ、即時抗告は棄却されます。
相続放棄手続きを代行してくれる専門家と代行費用
相続放棄に関する相談先や手続きの依頼先としては、弁護士と司法書士があります。
行政書士は、戸籍謄本等の必要書類の収集の代行をすることはできますが、相続放棄申述所の作成や、裁判所での手続きを代行することはできません。
弁護士に相談すべきケースは、相続放棄をすべきかどうかという点から相談したい場合や、相続放棄の申述が不受理となるおそれがある場合です。
相続債務に法外な金利が設定されていて過払い金が生じていたとか、交渉などで借金額を減額できる場合、結果として相続放棄をする必要がない場合もあります。
弁護士には、このような点も含めて相談することができます。
また、相続放棄の申述が不受理となるおそれがある場合は、相続放棄申述書や照会書に記載する内容によって、受理されるか不受理となるかが左右されるため、弁護士に依頼した方がよいでしょう。
一方、相続放棄の必要書類の用意や手続きの代行を依頼したいに留まる場合は、一般的に、弁護士よりも司法書士の方が安価に請けてくれるため、司法書士に相談することがお勧めです。
司法書士に依頼をした場合の費用の相場は4〜7万円程度、弁護士に依頼をした場合の費用は5〜20万円程度です。
まとめ
以上、相続放棄手続きについて説明しました。
相続放棄の手続きは、専門家に依頼しても、さほど高くなく、また、期限も早く訪れるため、基本的には、専門家に依頼することをお勧めします。
この記事を書いた人
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