相続放棄の必要書類とその集め方をケースごとにわかりやすく説明
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2018年10月15日に公開された記事を再編集したものです。
亡くなった親に借金がある、相続争いに巻き込まれたくない等の理由で相続放棄を検討される方も少なくないと思いますが、相続放棄には期限がある上、様々な書類を集めて家庭裁判所に提出する必要があります。
ただ、その必要書類は、相続放棄をする方と亡くなった方との関係によって異なってくるので、注意が必要です。
ここでは、相続放棄をする方と亡くなった方との関係を踏まえて、家庭裁判所で相続放棄をするのに必要な書類についてご説明したいと思います。
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相続放棄の手続きにおける必要書類
相続放棄の手続きに必要な書類は、相続放棄をする場合に必ず必要となる書類と、相続放棄をする人と被相続人(亡くなった方)との関係によって必要となる書類がありますので、それぞれ順番に説明します。
相続放棄をする場合に必ず必要な書類
以下の書類は、相続放棄の手続きにおいて必ず必要となる書類です。
相続放棄申述書
相続放棄申述書は、相続人が相続を放棄するという意思を家庭裁判所に対して申し述べるための書類です。
被相続人や相続人の本籍、住所、氏名等の情報に加え、相続人が相続を放棄する理由や相続財産の概要について記載する必要があります。
相続放棄をする方の戸籍謄本
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書と一緒に、
「相続放棄をする方の戸籍謄本」
被相続人の戸籍謄本
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書と一緒に、
「被相続人の死亡の記載のある戸籍謄本」
を家庭裁判所に提出しなければなりません。
相続放棄をする方の戸籍に被相続人も載っている(被相続人の死亡の記載もある)場合には、家庭裁判所に提出するのは1通で十分です。
被相続人の住民票
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書と一緒に、
「被相続人の住民票」
を家庭裁判所に提出しなければなりません。
亡くなった方の住民票なので、正式には、住民票の除票と呼ばれています。
これは、相続放棄を行う場合、被相続人の最後の住所を管轄する家庭裁判所に書類を提出する必要があるためで、どこの家庭裁判所で手続きを行うかを確認するのに必要だからです。
なお、住民票の除票の代わりに、被相続人の戸籍附票でも代用できます。
収入印紙
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、相続放棄申述書に、800円分の収入印紙を貼って提出する必要があります。
これは、相続放棄を行う際の手数料です。
なお、契約書や領収書に収入印紙を貼るときと異なり、相続放棄申述書に収入印紙を貼った際には、印紙を消印(印紙の端に印鑑を押すこと)してはいけません。
郵便切手
家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う際には、郵便切手を提出する必要があります。
家庭裁判所から郵便で通知を送る際等に使用するためです。
なお、一緒に提出する郵便切手の額は、各家庭裁判所によって異なりますが、概ね数百円程度です。
相続放棄をする人と被相続人との関係によって必要となる書類
次に、相続放棄をする人と被相続人との関係によって必要となる書類について説明します。
被相続人の孫(代襲相続人)が相続放棄する場合
被相続人の孫が代襲相続人となる場合に、相続を放棄したいときは、相続放棄申述書と一緒に、
「被代襲者の死亡の記載がある戸籍謄本」
を家庭裁判所に提出する必要があります。
被代襲者とは、被相続人よりも先に亡くなった相続人(生きていれば相続人となっていたはずの人)のことで、例えば孫が代襲相続人となる場合は、孫の親(被相続人の子)が被代襲者と呼ばれます。
代襲相続人は、相続開始時に、既に被代襲者が亡くなっているために相続人となるのですから、被代襲者が亡くなっていることを証明するために、その死亡の記載のある戸籍謄本が必要となるのです。
代襲相続については「代襲相続とは?範囲は?孫や甥・姪でも相続できる代襲相続の全知識」をご参照ください。
被相続人の父母(直系尊属)が相続放棄する場合
被相続人の父母や祖父母等の直系尊属が相続放棄する場合には、相続放棄申述書と一緒に、
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 第一順位の相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
を家庭裁判所に提出する必要があります。
被相続人の父母や祖父母等の直系尊属は第二順位の相続人ですから、これらの者が相続放棄をするということは、第一順位の相続人がいないか、いたとしても被相続人よりも先に全員亡くなっている場合に限られます。
そのため、被相続人が亡くなった時点で、第一順位の相続人(及び代襲相続人)がいないことを証明するために、上記の戸籍謄本が必要になります。
なお、第一順位の相続人が全員相続放棄をしたことによって第二順位の法定相続人が相続放棄をすることになった場合でも、上記の戸籍謄本は必要になります。
これは、第一順位の相続人が「全員」相続放棄をしているかどうか(他に相続放棄をしていない第一順位の相続人がいないかどうか)を確認する必要があるからです。
なお、相続順位については「法定相続人とは?法定相続人の範囲と優先順位、相続割合を図で説明」をご参照ください。
被相続人の兄弟姉妹が相続放棄する場合
被相続人の兄弟姉妹は第三順位の相続人ですから、これらの者が相続放棄をするということは、第一順位及び第二順位の相続人がいないか、いたとしても被相続人よりも先に全員亡くなっている場合に限られます。
そのため、第二順位の相続人が相続放棄をする際に必要であった
- 被相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
- 第一順位の相続人の出生から死亡までの全ての戸籍謄本
に加え、第二順位の相続人が全員亡くなっていることを示すために、
- 被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本
を家庭裁判所に提出する必要があります。
なお、第二順位の相続人が全員亡くなっているわけではなく、第二順位の相続人が全員相続放棄をしたことによって第三順位の相続人が相続放棄をすることとなった場合には、被相続人の直系尊属の死亡の記載のある戸籍謄本は必要ありません。
法定相続人以外の受遺者が相続放棄する場合
法定相続人以外の受遺者(遺言によって相続財産の遺贈を受けた者)が、その遺贈を放棄したい場合には、特定遺贈と包括遺贈で放棄の方法が異なります。
特定遺贈の場合は、相続人又は遺言執行者に対して遺贈を放棄する旨の意思表示を行うだけでよいのですが、包括遺贈の場合は、相続人と同様に、家庭裁判所において、相続放棄(包括遺贈の放棄)の手続きを行う必要があります。
包括遺贈を受けた者が、家庭裁判所で相続放棄(包括遺贈の放棄)の手続きを行う場合には、「上記の相続放棄をする場合に必ず必要な書類」として記載している書類が必要になります。
遺贈の放棄については「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」も併せてご参照ください。
相続放棄の必要書類の取得方法
相続放棄申述書
相続放棄の手続きに必要な相続放棄申述書は、家庭裁判所でその用紙を手に入れることができます。
相続放棄申述書の形式は全国共通なので、実際に手続きを行う家庭裁判所以外の家庭裁判所でも入手することが可能です。
また、こちらのリンクからも書式をダウンロードすることができます。
なお、相続放棄申述書の記入例については、以下のリンクをご参照ください。
なお、相続放棄申述書について詳しくは「相続放棄申述書を記入例から誰でも簡単に作成する方法と提出の流れ」をご参照ください。
戸籍謄本
相続放棄申述書と一緒に提出する戸籍謄本は、本籍地の市町村役場で取得することができます。
市町村役場が遠方の場合は、郵送で取得することも可能です。
なお、戸籍謄本の取得には、1通あたり450円(除籍謄本及び改製原戸籍謄本は750円)の手数料がかかります。
相続放棄の手続きのために戸籍謄本を取得する際には、必ず戸籍「謄本」を取るようにし、誤って戸籍「抄本」を取ってしまわないように注意が必要です。
また、相続放棄の手続きにおいては、被相続人の「出生から死亡まで」の戸籍謄本が必用な場合があります。
通常は、まず最後の戸籍(または除籍)謄本を取得し、次にその1つ前の戸籍と取得する、というように新しいものから古いものにさかのぼって取得していきます。
場合によっては複数の市町村役場で取得しなければならないこともあります。
なお、市役所などの窓口で取得する場合は、「出生から死亡までの戸籍謄本を取得したい」と窓口の方に伝えれば、多くの場合、過去の戸籍までさかのぼって発行してくれるので、窓口でその旨を伝えた方がよいでしょう。
被相続人の住民票(除票)
被相続人の住民票(除票)は、被相続人が最後に住所を定めていた場所の市町村役場で取得することができます。
1通あたり350円程度の手数料がかかります。
なお、被相続人の住民票(除票)は戸籍附票でも代用できます。
そのため、被相続人の本籍地と住民票における住所地が異なる市町村の場合には、本籍地において戸籍謄本を取得する際に戸籍附票を併せて取得した方が二度手間にならないのでおすすめです。
収入印紙
収入印紙は、コンビニエンスストアや郵便局で購入することができます。
また、ほとんどの裁判所において、印紙売り場が併設されています。
相続放棄の必要書類の提出方法
相続放棄の手続きを行う際には、被相続人が最後に住所を定めていた場所を管轄する家庭裁判所に、相続放棄申述書と必要書類を一緒に提出する必要があります。
提出先の裁判所は、相続人が住んでいるところを管轄する家庭裁判所ではないことに注意が必要です。
なお、提出先の家庭裁判所が遠方の場合は、郵送で提出することも可能です。
郵送で提出する際には、到着が確認できるよう、普通郵便ではなく、書留郵便等で発送した方がよいでしょう。
なお、家庭裁判所に提出した書類は原則として返還されないので、必要な場合はあらかじめコピーをとっておくことをおすすめします(裁判所によっては、稀に、原本と一緒にコピーを提出することで、手続終了後に原本を返還してもらえることもあるようですが、基本的には原本は返還してもらえない場合が多いと思っておいた方がよいでしょう)。
また、複数の相続人が同時に相続放棄の手続きを行う場合には、共通する書類(例えば被相続人の戸籍謄本や住民票等)については、それぞれが提出する必要はなく、1通提出すればよいことになっています。
相続放棄の期限については「相続放棄の期限に間に合いそうにない場合や期限が過ぎた場合の対処法」をご参照ください。
相続放棄申述書提出後に必要な書類
照会書の返送
相続放棄申述書を家庭裁判所に提出すると、後日、家庭裁判所から照会書が届きます。
これは、家庭裁判所が、相続人が間違いなく自分の意思で相続放棄の手続きを取ったのかどうかを確認するという目的や、相続人が相続放棄をするに至った理由等を確認するために送られるものです。
照会書が届いたときには、照会書に記載されている質問に回答を記載し、家庭裁判所へ返送する必要があります。
相続放棄申述受理通知書と相続放棄申述受理証明書
照会書を返送し、家庭裁判所で相続放棄の申述が受理されると、相続放棄申述受理通知書が家庭裁判所から送付されます。
これは、相続人が相続放棄の申述を行い、これを裁判所が受理したということを通知する書類です。
なお、相続放棄申述受理通知書は1度しか送付されず、再発行もされないので、相続放棄申述受理通知書を紛失した場合や、相続放棄をしたことを金融機関等に証明する必要がある場合には、別途、相続放棄申述受理証明書という書類の発行を家庭裁判所に申請する必要があります。
相続放棄申述受理証明書について詳しくは「相続放棄申述受理証明書が必要なケースと申請方法・申請書の記入例」をご参照ください。
相続放棄の必要書類の収集を専門家に依頼するには
相続放棄は、相続の開始を知ったときから3か月以内に行わなければならないという期限があります。
ただ、相続放棄を行う際に必要な書類の収集はそれなりに面倒なものも多い上、誤って違う書類を取ってしまうということもあるため、必要書類をすべて収集している間に3か月の期限が迫ってくるということも十分あり得ます。
そこで、必要書類の収集で困った際には、戸籍謄本等の必要書類の取得を専門家に依頼するという方法をおすすめします。
まとめ
家庭裁判所で相続放棄を行いたい場合には、様々な書類を収集する必要があります。
ただ、相続放棄には期限があることから、必要書類の収集にはなるべく早い段階で着手するか、専門家に収集を依頼されることをお勧めします。
なお、相続放棄については「相続放棄によって借金を相続しないようにする方法と相続放棄の注意点」も併せてご参照ください。
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