「相続分の放棄」とは?相続放棄や相続分の譲渡との違いは?手続きは必要?
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2020年6月5日に公開された記事を再編集したものです。
相続人であるものの、遺産を取得したいと思わないというケースがあります。そのようなケースでは、相続分の放棄がなされることがあります。
似たものに相続放棄と相続分の譲渡があります。
この記事では、それぞれについて説明し、どのような場合にどれを利用すべきかについても説明します。
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相続分の放棄とは?
相続分の放棄とは、自分の相続分を放棄することです。
相続分の放棄をすると、以降は、遺産分割協議にかかわらずに済みます(遺産分割協議書への署名捺印は必要です)。
遺産分割調停や遺産分割審判に付された場合もかかわることはありません。
相続分の放棄は、相続人が遺産分割協議から解放されたい場合に利用されることが多いです。
注意点としては、亡くなった人に債務がある場合、相続分の放棄をしても、債務の負担を免れることはできないことです。
相続分の放棄をするには、特別な手続きは必要ありません。
相続分の放棄をする旨を他の相続人に伝えるだけで十分です。
遺産分割協議成立前であれば、いつでも相続分の放棄をすることができます。
相続分の放棄をした人が財産をまったく取得しない内容になっている遺産分割協議書に相続人全員が署名捺印すれば、相続分の放棄が行われたことになります。
また、他の相続人の間で意見が対立し、遺産分割協議が調停や審判に付された際は、家庭裁判所から相続分の放棄をした旨の文書を差し入れるよう求められることがあります。
その場合は、家庭裁判所の求めに従って、指定の書式の文書を差し入れることで、調停や審判から解放されます。
相続分の放棄によって財産を取得しなかった相続人は、基本的には、相続税は課されません(相続開始前3年以内の贈与や相続時精算課税を選択した贈与を受けていた場合は課税される可能性があります)。
相続分の放棄をすると、その人の相続分は、他の相続人が相続分に応じて取得します。
例えば、相続人が妻と長男と長女の場合、法定相続分は妻が1/2、長男と長女がそれぞれ1/4ずつですが、長女が相続分の放棄をした場合は、妻が1/2+1/4×2/3=2/3、長男が1/4+1/4×1/3=1/3となります。
また、相続人が妻と長女で、長女が相続分の放棄をした場合は、妻が単独で全遺産を取得することになります。
相続分の放棄と相続放棄との違い
前述のとおり、相続分の放棄をしても、亡くなった人の債務(相続債務)の負担を免れることはできません。
相続債務の負担を免れるためには、相続放棄が必要です。
相続放棄をするには、家庭裁判所での手続きが必要です。
相続放棄の期限は、原則として、相続開始があったことを知ったときから3か月以内です。
相続を承認した(又は、承認したとみなされる行為をした)後は、相続放棄が認められない可能性があります。
相続放棄をすると、その人は初めから相続人でなかったものとみなされます。
例えば、相続人が妻と長男と長女で、長女が相続放棄をした場合、初めから妻と長男の2人だけが相続人だったことになるので、妻と長男の相続分は、それぞれ1/2ずつです。
また、相続人が妻と長女で、長女が相続放棄をした場合は、長女は初めから相続人でなかったことになり、第一順位の血族相続人がいなくなるので、第二順位の血族相続人である直系尊属(父母や祖父母など)に相続権が移ります。
相続放棄については「財産放棄と相続放棄の違いを理解して財産放棄で損しないための全知識」も併せてご参照ください。
相続分の放棄と相続分の譲渡との違い
相続分の譲渡は、他の相続人に対してだけでなく、第三者に対しても行うことができます。
前述の例の妻は、例えば、自分の兄弟や慈善団体等の第三者に対して、相続分を譲渡することもできるのです(第三者に相続分が譲渡された場合は、他の相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができます。)。
複数の人に相続分を譲渡することもできます。
例えば、前述の例の妻は、長男と長女に対して、自分の相続分の半分ずつを譲渡することもできますし、配分は自由です。
相続分の一部のみを譲渡して、残りはそのまま自分の相続分として持っておくことも可能です。
譲渡は有償でも無償でも構いません。
有償で譲渡した場合、受け取った対価は相続税の課税対象となります。
相続分の譲渡に当たり、他の相続人の同意は不要です。
譲渡人と譲受人の合意のみによって譲渡は成立します。
被相続人(亡くなった人)が借金等の負債を抱えて亡くなった場合、被相続人の負債(相続債務)は、相続人が法定相続分に応じて弁済する義務を負います。
そして、相続分を譲渡すると、相続債務も含めて譲渡されます。つまり、譲渡人ではなく、譲受人が、相続債務を負うことになります。
しかし、これはあくまで譲渡当事者の関係においてのことで、譲渡人は相続分の譲渡をもって債権者に抗弁することはできません。
つまり、譲渡人が、債権者から弁済を求められたときに、「相続分を譲渡したので譲受人に請求してください」といって弁済を拒むことはできないのです。
譲渡人が弁済した場合は、譲受人に求償すること(代わりに弁済した分の支払いを求めること)ができます。
相続分の譲渡人に寄与分や特別受益があった場合は、寄与分や特別受益についても譲受人に引き継がれると解されています。
寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が、被相続人の財産の増加や維持に寄与した程度のことです。寄与分がある相続人は、その分多くの財産を相続することができます(寄与分について詳しくは「寄与分の正当な評価を受けて寄与分を当然に得るための最重要知識9選」参照)。
また、特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与によって特別に受けた利益のことです。特別受益があった場合は、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分は算定されます(特別受益について詳しくは「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」参照)。
つまり、特別受益が相続分よりも多額の人から相続分を譲り受けると、損をすることになります。
相続分の譲渡については「相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法」も併せてご参照ください。
相続分の放棄を利用すべき場合
相続分の放棄を利用すべき場合は、次の1と2の両方を満たす場合に限られるでしょう。
- 相続債務が確実に無いか、相続放棄が利用できないか(期限を過ぎている等)、又は、相続放棄をすると次順位の相続人に相続順位が回るがそうしたくない
- 相続分を譲渡したい相手がおらず、かつ、譲渡の対価も欲しくない。又は、相続分以上に持戻しが免除されていない特別受益がある。
1のいずれにも該当しない場合は、相続放棄を選択すべきです。
1のいずれかに該当して、2のいずれにも該当しない場合は、相続分の譲渡を選択すべきです。
まとめ
以上、相続分の放棄について説明しました。
安易に相続分の放棄を利用せずに、相続放棄、相続分の譲渡も検討し、ベストな選択をしましょう。
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