相続税対策で無駄なく節税するために知っておくべきすべてのこと
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2018年8月22日に公開された記事を再編集したものです。
相続税対策には色々な方法があることは何となく知っていても、自分にとってどの方法が最も効果的な相続税対策なのか判断できる方は、専門の税理士以外ではそうはいないでしょう。
この記事では、相続税対策の仕組みを分かりやすく解説したうえで、具体的な相続税対策を網羅的に説明します。各相続税対策が、どのような人に向いて、どのような人に向いていないのかについても、説明します。
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相続税対策が必要な人はどんな人?
遺産を相続したからといって、必ず相続税が課せられるわけではありません。
2016年に亡くなった人の中で相続税が課された人の割合は、8.1%に過ぎません。
残りの91.9%の人には、相続税が課されていないのです。
それでは、この91.9%の人には相続税対策は不要だったかというと、そういうわけではないでしょう。
この中には、相続税対策を上手に行った結果、課税されずに済んだという人も含まれているはずです。
さて、相続税が課税されない人と、課税される人がいるのは、なぜでしょうか?
ご存知の人も多いと思いますが、相続税に基礎控除が設定されているためです。
課税遺産総額が基礎控除額以下であれば、相続税は課税されないのです。
相続税の基礎控除額は次の式で計算することができます。
3000万円+600万円×法定相続人の数
例えば、法定相続人の数が3人の場合は、次のように計算することができます。
3000万円+600万円×3人=4800万円
法定相続人が3人の場合は、課税遺産総額が4800万円以下であれば、相続税は課せられないということです。
なお、法定相続人とは、法律で定められた相続人のことです。
配偶者(妻や夫)や子などが法定相続人になります。
法定相続人について詳しくは、「法定相続人とは?法定相続人の範囲と優先順位、相続割合を図で説明」をご参照ください。
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なぜ相続税対策で税金が安くなるの?
なぜ相続税対策をすると税金が安くなるのでしょうか?
相続税対策の仕組みを理解するためには、相続税の計算方法について少し知っておく必要があります。相続税は、ざっくりとわかりやすく簡略化すると、次のような式で計算することができます。
(課税遺産総額−基礎控除額)×税率−各種の税額控除
そうすると、相続税額を少なくするための方法には、次の4つがあることが分かります。
- 課税遺産総額を抑える
- 基礎控除額を増やす
- 税率を抑える
- 非課税制度や税額軽減制度を活用する
それぞれについて説明します。
課税遺産総額を抑える
課税遺産総額を抑えるというと不思議な感じがするかもしれません。
少しでも多くの財産を相続人に残すために節税するわけですから、節税のために財産を消費したのでは、相続税額を減らすことはできても、相続財産も同時に減ってしまうので意味がありません。
財産を減らさずに、課税遺産総額の算出の基となる評価額だけを抑えることに意味があるのです。
つまり、財産の実際の価値と評価額との差が大きくなればなるほど、節税になるのです。
しかし、1億円の現金の評価額は当然ながら1億円であり、それ以上でもそれ以下でもありません。
実際の価値よりも評価額を低く抑えることができる財産として代表的なものに不動産があげられます。
不動産を活用した相続税対策については、後ほど詳しく説明します。
基礎控除額を増やす
基礎控除額は、前述の通り、次の式で計算することができます。
3000万円+600万円×法定相続人の数
そうすると、基礎控除額を増やすためには、法定相続人の数を増やさなければなりません。
法定相続人は養子をとることによって増やすことができます。
具体的な方法について、こちらも後ほど説明します。
税率を抑える
相続税の税率は、課税価格が大きくなればなるほど、税率も高くなる累進課税になっています。
税率の観点からも、法定相続人を増やすという対策は有効です。
法定相続人が増えれば、相続税の総額を計算する時の一人一人の課税価格が少なくなり、呼応して税率も低くなるためです。
また、もし小分けに相続することができれば、1回当たりの課税価格を少なくすることができるのですが、相続は亡くなった時にだけ起こるものなので、小分けにすることができません。
この点、贈与であれば、小分けにすることができます。
生前に小分けにして贈与するということです。
贈与には、相続税ではなく、贈与税がかかります。
贈与税もまた、相続税と同じく、基礎控除があり、税率は累進課税方式なのです。
贈与税は暦年課税といって、毎年の贈与分に対して課税され、基礎控除も毎年利用できます。
ですので、毎年、贈与税の基礎控除を適用しながら、小分けに贈与することで、相続時の課税価格を少なくし、呼応して相続税の税率を下げることができるのです。
非課税制度や税額軽減制度を活用する
相続時や贈与時に適用される非課税制度や税額軽減制度は数多くあります。
それらを活用することによって、相続税対策を行うことが可能です。
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一世代飛ばして引き継ぐ
長期的な目線で節税になる仕組みについても、紹介します。
遺産は一般に上の世代から下の世代に引き継がれていきます。
そして、引き継がれるごとに相続税が課せられます。
そこで、一世代飛ばして、祖父母世代から孫世代に一気に引き継ぐことによって、1回分の相続税を節税することができます。(ただし、原則として世代を飛ばして孫世代に相続させる時には、その人の相続税額にその相続税額の2割に相当する金額が加算されます。)
反対に、同世代である配偶者に財産を引き継ぐと、またすぐに相続の機会が発生し、度々税金を払わなくてはなりません。
もっとも、配偶者に財産を引き継ぐ場合は、配偶者の税額の軽減制度が利用できるため、どちらが相続税対策として有効かはケースによります。
ただ、相続税対策は、次の相続も見据えて行うべきことは頭に入れておいてください。
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現金は相続税対策にならないの?
長年かけて少しずつためて自宅に保管してある現金を、そのまま相続人が受け取ってしまえば、相続税対策になるのではないかと考える人がいます。
しかし、それは相続税対策とは言いません。
それは脱税です。
相続税対策とは、あくまで法律にのっとって行われる対策のことを言うべきです。
税務調査は過去に遡って事細かに行われるため、その目を欺き秘密裏に現金を用意することは不可能に近いでしょうし、また、いつ来るか分からない税務調査に、時効になるまでの7年間もおびえて暮らさなければならないのは精神衛生上もよくないでしょう。
なお、脱税が明らかになれば、追徴課税や延滞税が課される可能性があるほか、刑事告訴され有罪となれば、10年以下の懲役または1000万円以下の罰金に処せられる可能性があります。
ですので、現金は、小分けにして毎年贈与し、法律にのっとった相続税対策を行いましょう。
その点については、後ほど詳しく説明します。
相続税対策の手法にはどんなものがある?
これまで、相続税が安くなる仕組みについて説明してきましたが、ここからは、相続税対策の具体的な手法について説明します。
相続税対策の手法については、代表的なものをいくつかご紹介します。
以下、それぞれについて説明します。
生前贈与による相続税対策
生前贈与を活用した主な相続税対策には次のものがあります。
- 贈与税の基礎控除を毎年利用して相続税の課税対象となる財産を減らす
- 分散して贈与することで税率を下げる
- 収益物件を贈与して収益分が直接下の世代にいくようにする
- 教育資金贈与の非課税制度で1500万円を非課税で一括贈与する
- 贈与税の配偶者控除で2000万円を非課税で贈与する
- 相続時精算課税を選択する
以下、それぞれについて説明します。
贈与税の基礎控除を毎年利用して相続税の課税対象となる財産を減らす
贈与税には毎年110万円を上限とした基礎控除があります。
毎年110万円までであれば、全額控除され、非課税で贈与を受けることができます。
なお、贈与税の納税義務があるのは受贈者(贈与を受ける人)であり、基礎控除も受贈者ごとに計算します。
ですので、例えば、子が2人いる場合は、それぞれに対して、毎年110万円ずつ非課税で贈与することができます。
反対に、父と母から一人の子に110万円ずつ合計220万円を非課税で贈与することはできません。
複数の人から贈与を受けた場合でも、110万円の基礎控除額に変わりはないのです。
暦年課税について詳しくは、「暦年課税とは?暦年課税と相続時精算課税はどちらが得か?」をご参照ください。
分散して贈与することで税率を下げる
年間110万円を超える贈与には、贈与税が課されます。
そうすると、贈与税の課されない110万円だけを贈与する人が多いのですが、実は、財産の多い人は、110万円を超えてでも贈与した方が節税になることがあります。
相続税は、遺産総額が大きければ大きいほど税率が高くなる累進課税なので、財産の移転が相続時に集中しないように、少しの贈与税を払ってでも生前贈与を行って遺産総額を小さくし、相続税の適用税率を下げることが可能になるからです。
贈与税もまた累進課税なので、一年間に贈与が集中すると税率が高くなってしまうので、低い税率の範囲内で毎年分散して贈与しましょう。
もっとも、財産が相続税の基礎控除内に収まりそうな場合は、贈与税を課されてまで110万円を超える贈与をする意味はなく、この対策はあくまで財産を持っている人向けの対策です。
なお、亡くなる前の3年間に行われた贈与については、相続税の課税対象となりますので早めに対策を始めましょう。(この間に支払った贈与税については、相続税から控除されますが、贈与税額の方が大きい場合でも差額の還付を受けることはできません。)
収益物件を贈与して収益分が直接下の世代にいくようにする
賃貸用のマンションなどの収益物件を持っていると、収益を生み出し、その分、相続税の課税対象となる財産が増加します。
収益物件は生前贈与してしまえば、贈与後の収益は、直接受贈者(贈与を受けた人)の財産になり、相続税や贈与税の課税対象とはなりません。
教育資金贈与の非課税制度で1500万円を非課税で一括贈与する
教育資金贈与の非課税制度を利用すると、1500万円を非課税で一括贈与することができます。
もともと教育資金は都度贈与する場合には、特別な制度を利用しなくても、贈与税は非課税となっています(基礎控除とは別に)。
この制度の肝は、生前に一括で贈与しても非課税となることです。
教育資金が必要なタイミングで都度贈与しようと思っていても、もし亡くなってしまったら、その先は非課税で贈与することはできず、相続税の課税対象に組み込まれてしまいます。
この点、この制度を利用すると、生前にお孫様等の教育資金を非課税で一括贈与することができ、かつ、その贈与額相当分が相続税の課税対象とはなりません。
贈与税の配偶者控除で2000万円を非課税で贈与する
贈与税の配偶者控除とは、結婚20年以上の夫婦が、配偶者に自宅または自宅購入用資金を、2000万円を上限として、非課税で贈与することができる制度です。
通称、「おしどり贈与」とよばれています。
控除を受けるためには、次の3つの要件のすべてを満たしていなければなりません。
- 婚姻期間が20年を過ぎた後に贈与が行われたこと
- 自分が住むための国内の居住用不動産であること又は居住用不動産を取得するための金銭であること
- 贈与を受けた年の翌年3月15日までに、受贈者がその住宅に住んでおり、その後も引き続き住む見込みであること
配偶者は、相続の場合も大きな控除枠があり、相続税がかかることはあまりないので、おしどり贈与の特例は利用しない方が得なことが多いです。
利用すべきケースは、夫婦で賃借住宅に住んでいる場合に、妻が夫から不動産を取得するための資金(2000万円以内)の贈与を受けるようなケースです。
このケースでは、夫から妻へ生前に2,000万円までの贈与を非課税で行うことができます。また、通常相続開始前3年以内に贈与した財産は相続財産に加算されますが、贈与税の配偶者控除の適用を受けた財産は加算する必要がありません。
相続時精算課税を選択する
贈与を受けた財産について、相続時精算課税を選択すると、一定額までは、贈与税の課税対象となりません。ただし、贈与した財産は、相続税の対象となります。(贈与税を支払った場合には、相続税から控除されます。また、控除しきれない贈与税は還付されます。)
収益物件等を早く贈与したい、かつ、相続税の基礎控除額に余裕がある(=相続税がかからない)ため、贈与税ではなく相続税の対象にしたいという場合は、相続税対策として有効な制度です。
相続時精算課税について詳しくは、「相続時選択課税制度を迂闊に利用して大損しないために知るべきこと」をご参照ください。
生前贈与の注意点
生前贈与の際は、老後資金を十分に残したうえで、おこないましょう。
生命保険による相続税対策
死亡保険金は正確には相続財産ではありませんが、みなし相続財産として相続税の課税対象となります。
しかし、全額が課税対象となるわけではなく、一定の非課税限度額が設定されます。
非課税限度額は、次の式で計算されます。
500万円×法定相続人の数
法定相続人が3人であれば、500万円×3人=1500万円が非課税となります。
受取人の数ではなく、法定相続人の数なので、ご注意ください。
なお、相続人以外の人が取得した死亡保険金には非課税の適用はありません。
生命保険には、一時払い終身保険というものがあります。
一時払い終身保険とは、保険料を一度に全額支払って一生涯保険が適用されるというもので、元本割れのリスクが非常に低い商品です。
例えば、法定相続人が3人いる場合は1500万円が非課税となりますが、これを有効に活用するために、保険料も受取金も1500万円の一時払い終身保険に加入します。
そうすると、被保険者が亡くなった時に、受取人は1500万円を非課税で受け取ることができます。
言い換えれば、加入から亡くなるまでの間、お金を保険会社に預けておくことで、限度額まで非課税で相続させることができる制度と言えます。
保険会社によって違いはあるものの、健康診断なしで90歳まで加入できるものもあります。
90歳以下で、生命保険に未加入で、相続税の基礎控除額以上に財産を持っている人は、是非、利用すべきおすすめの制度です。
不動産による相続税対策
不動産を活用した相続税対策としては、次のものが挙げられます。
- アパート・マンション経営
- 小規模宅地等の特例の活用
- 地積規模の大きな宅地の評価の活用
- タワーマンションの高層階の購入
以下、それぞれについて説明します。
アパート・マンション経営
不動産の評価額は、実勢価格よりも低くなるため、現金を相続するよりも、不動産を相続した方が、節税になります。
よく知られた手法としては、アパートを建設して経営する方法や、ワンルームマンションを購入して賃貸する方法などがあります。賃借人(借りている方)の権利(借地権・借家権等)が考慮されるため、不動産の評価額が下がるのです。
アパート1棟とワンルームマンションでは、土地の持ち分の関係で、ワンルームマンションの方が節税になるケースの方が多いです。
ですが、これらの手法は、単なる相続税対策ではなく、不動産投資です。
投資として損しないかどうか、自分でも知識をつけつつ、複数の詳しい人に相談して、物件を決めるようにしましょう。
小規模宅地等の特例の活用
「小規模宅地等の特例」とは、亡くなった人の自宅の土地や、亡くなった人が事業に使っていた土地を相続する場合に、一定の条件を満たせば、相続税を計算する際の土地の評価額を最大8割引きにしてくれる制度です。
正式名称は、「相続した事業の用や居住の用の宅地等の価額の特例」なのですが、長いので、「小規模宅地等の特例」とよばれることもあれば、「等」を省いて「小規模宅地の特例」とよばれることもあります。
また、土地の評価額を減額する制度なので、「小規模宅地の評価減」とよばれることもあります。
「小規模」とあるように、この特例がサポートするのは、面積の小さな宅地のみです。
広い宅地にも適用することはできますが、評価額が減額されるのは、居住用宅地の場合は330平方メートル分のみです。
適用面積に上限があるため、地価の高い場所で適用を受けた方が、相続税対策として効果的です。
効果的に活用するために、地価の安い自宅を売却して、地価の高い場所に移転する人もいます。
地積規模の大きな宅地の評価の活用
大規模宅地の評価額を減額するものには、「地積規模の大きな宅地の評価」という制度があります。
こちらは2018年から新しく始まった制度で、それ以前は、広大地の評価という制度がありました。
詳しくは、国税庁ウェブサイトの地積規模の大きな宅地の評価のページをご参照ください。
タワーマンションの高層階の購入
あくまでも現時点での法律としては、タワーマンションの高層階の区分所有権を購入することは、相続税対策として有効です。
不動産の相続税評価額は実勢価格よりも低くなるため、現金を不動産に替えておくことで、相続財産の金額を減らし、相続税対策を行うことができることは前述の通りです。
タワーマンションの高層階は、実勢価格と相続税評価額との差がより大きくなるため、相続税対策としても、より大きな効果が期待できるのです。
ただし、将来的には、法改正によって、タワーマンションの高層階の財産評価の方法が変わり、相続税対策としての効果が低くなる可能性があります。
現に、固定資産税については既に法改正があり、タワーマンションの高層階は低層階に比べて高い固定資産税が課せられるようになっています。
しかし、既に購入済みのタワーマンションについては法改正の影響を受けず、影響を受けるのは、法改正後、つまり、2017年4月以降に売買契約が締結された新築物件です。
相続税についても、将来的に法改正が行われた時に、今回の固定資産税の改正のように、対象となる不動産が法改正後に売買契約された新築物件に限定されれば、相続開始が法改正後だったとしても、タワーマンションの高層階は、相続税対策として有効となります。
その他の相続税対策
その他、次のような相続税対策が挙げられます。
- 養子縁組
- 墓地などの生前購入
- 控除制度の利用
以下、それぞれについて説明します。
養子縁組
養子縁組をすると法定相続人の数が増える場合があります。
法定相続人の数が増えると、相続税の基礎控除額と死亡保険金の控除額の上限金額が上がり、非課税で相続させることができる金額が大きくなります。
墓地などの生前購入
墓地などは非課税財産なので、亡くなる前に購入しておくと相続税対策になります。
ただし、骨董品としての価値がある物や、純金などの素材として価値がある物の場合は、非課税にはならない場合があります。
控除制度の利用
これまでに紹介した制度の他にも、次の税額軽減制度があります。
- 配偶者の税額軽減
- 未成年者の税額控除
- 障害者の税額控除
- 相次相続控除
まとめ
以上、相続税対策で無駄なく節税するために知っておくべきすべてのことについて説明しました。
わからないことは、相続に強い税理士に相談しましょう。
▼実際に「いい相続」を利用して、税理士に相続税申告を依頼した方のインタビューはこちら
この記事を書いた人
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