自筆証書遺言が無効となるケースは?作成時の注意点や無効となる条件を完全解説
遺言書にはいくつか形式がありますが、自筆証書遺言はどのように作成すればよいのでしょうか?また、無効となる条件や、作成時に気を付けるポイントはあるのでしょうか?
この記事では、自筆証書遺言の作成の注意するポイントや、相続財産ごとに文例を用意して説明します。
自筆証書遺言とは?
遺言とは、亡くなった人が、主に自分の財産等について残した意思表示のことです。
例えば「全財産を妻に相続させる」というような意思表示のことです。そして自筆証書遺言とは、自筆(自書)で書かれた遺言です。自筆証書遺言に添付する財産目録はパソコンで作成可能ですが、それ以外はすべて自筆です。
公正証書遺言との違い
遺言には自筆証書遺言のほかに、公正証書遺言や秘密証書遺言などがあります。
公正証書遺言とは証人の立ち会いのもと、公証役場で公証人がパソコンで作成する遺言書です。
自筆証書遺言と公正証書遺言の比較
自筆証書遺言と公正証書遺言の違いをまとめると下表のようになります。
自筆証書遺言 | 公正証書遺言 | |
---|---|---|
作成者 | 自分(専門家に作成の補助を依頼することも可能) | 公証人 |
作成方法 | 自筆のみ(専門家に文章を作ってもらっても書くのは自分) | 公証人が作成 |
公証役場に行く必要 | なし | あり |
形式不備で無効になるおそれ | あり | なし |
紛失や変造のおそれ | あり | なし |
証人 | 不要 | 必要 |
秘密性 | 作成したことすら誰にも知られずに可能 | 内容も含めて公証人と証人には知られる |
費用 | 不要 | 1万6000円〜(相続財産額による従量課金) |
保管者 | 自分(誰かに委託してもよい) | 公証役場 |
内容の一部変更 | できる | できない(公証役場で改めて公正証書遺言を作成するか、自筆証書遺言で内容を変更しなければならない) |
検認 | 必要 | 不要 |
法務局における遺言書の保管制度 | 利用できる | 利用しない |
自筆証書遺言作成時の注意点
自筆証書遺言を作成する際には、いくつか注意点があります。不備があると遺言が無効となる可能性もあります。
無効となるおそれがある場合
自筆証書遺言は、次のような場合に無効となるおそれがあります。
- 自書でない箇所がある
- 日付がない
- 署名がない
- 押印がない
- 変更が所定の方式にのっとられていない
- 表現が曖昧
自書でない箇所がある
自筆証書遺言では遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自書しなければならないとされています。
したがって、誰かに代筆してもらったり、パソコンなどで全文を作成して氏名だけ自書したりしたようなものは無効とされます。
なお、遺言を記載する紙や筆記用具については特に法律による定めはありません。
紙についても、メモ帳の切れ端やチラシの裏に書いても有効です。ですが破損のリスクがあるので、ある程度の強度のある紙に記すべきでしょう。
日付がない
自筆証書遺言には、必ず作成日を記載しなければなりません。そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になってしまいます。
また、「令和〇年〇月吉日」というような書き方も、作成日が特定できず、無効となってしまうので、必ず、年月日をきちんと記載することが大切です。
署名がない
自筆証書遺言には、遺言者が、必ず、氏名を自書しなければなりません。
署名をするのは、必ず遺言者1名のみとされており、夫婦二人で共同で遺言をするということはできないので、注意が必要です。
押印がない
全文、日付、氏名の自書に加えて、押印することが要件とされています。実印でなくても構いません。認印でも、拇印や指印でもよいことになっています。
変更が所定の方式にのっとられていない
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合、そのやり方が厳格に決められています。
訂正方法は、訂正したい箇所に二重線等を引き、二重線の上に押印し、その横に正しい文字を記載します。
そして、遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする、ということになります。
このように訂正方法が厳格なので、遺言書を訂正したいときは、始めから書き直した方がよいでしょう。訂正前のものは無用な混乱を避けるため必ず破棄するようにしましょう。
表現が曖昧
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるように記載する必要があります。
記載の内容が曖昧であったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときにその意味を遺言者本人から確認することができません。
また、相続人間に無用なトラブルを生む可能性があるので、曖昧な表記等には気を付ける必要があります。
受遺者や相続人が揉めないためのポイント
上述の要件を満たしていれば、遺言が無効になることはないでしょうが、無効でなければよいというものではありません。
受遺者(遺言により財産をもらい受ける人)や相続人が揉めたり困ったりしないようにするポイントは以下のとおりです。
- 財産目録を作成する
- 具体的かつ正確に書く
- 遺留分に配慮する
- 予備的遺言をする
- 遺言執行者を指定する
- 付言事項を書く
- 契印や封印をする
- 紛失したり持ち去られたりしないように適切に保管する
以下、それぞれについて説明します。
財産目録を作成する
誰にどの財産を渡すか決める前に、まず、自分がどのような財産を持っているのか、洗い出す必要があります。そのために、財産目録を作成します。
財産目録はパソコンで作成してもかまいません。また、預貯金の通帳や不動産の登記簿謄本のコピーを添付することも可能です。
具体的かつ正確に書く
遺言書の内容は、具体的かつ正確に記載する必要があります。
遺言の記載内容があいまいであったり、不正確であったりするため、遺言の内容が特定できないのでは意味がありません。
不動産なら登記簿謄本に基づいて所在、地番、地目、地積(建物の場合は所在、家屋番号、種類、構造、床面積)を、預貯金の場合は金融機関名、支店名、種類、口座番号、口座名義を正確に記載することが必要です。
不動産を相続させる場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の妻〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 記 所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目 地 番 ○番○ 地 目 宅地 地 積 ○○.○○ 所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目○番○ 家屋番号 ○番○ 種 類 居宅 構 造 木造スレート葺2階建 床 面 積 1階 ○○.○○ 2階 ○○.○○ |
車などの動産を相続させる場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は下記の自動車を長男〇〇〇〇(昭和○年○月○日生)に相続させる。 記 登録番号: 品川〇〇と〇〇〇〇 種 別: 普通 用 途: 自家用 車 名: 〇〇〇〇 型 式: 〇〇〇〇 車台番号: 〇〇〇〇〇〇 |
株券などの有価証券を相続させる場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、〇〇証券○○支店に預託している株式、公社債、投資信託、預け金その他の預託財産の全て及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利を、遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 第★条 遺言者は○○証券○○支店に預託している下記株式を長男〇〇○○(昭和○年○月○日生)と次男〇〇○○(昭和○年○月○日生)に下記のように相続させる。 長男○○ □□□□株式会社 5万株 次男○○ 株式会社□□□ 3万株 |
相続人以外の者に遺贈する場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は下記の財産を〇〇〇〇(住所:神奈川県〇〇市〇〇町〇丁目〇ー〇、生年月日:昭和○年○月○日生)に遺贈する。 記 〇〇銀行〇〇支店 口座種別 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇 口座名義 ○○○○ |
祭祀承継者を指定する場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は遺言者及び祖先の祭祀を主宰すべき者として長男〇〇○○(昭和○○年○月○日生)を指定する。 |
遺留分に配慮する
兄弟姉妹以外の相続人には、遺留分があります。
遺留分とは、一定の相続人に最低限保障された相続割合のことで、遺言でも奪うことができないものです。
遺留分を侵害するような遺言をした場合、遺留分を侵害された相続人は、受遺者・受贈者(贈与によって財産をもらい受ける人)に対して侵害された額を請求することができます。これを遺留分侵害額請求といいます。
例えば、相続人が子2人だけである場合に、全ての相続財産を子の1人に相続させるという遺言をした場合、他の子の遺留分を侵害することになります。
このような場合、遺言者の死亡後、相続人間で遺留分についての争いが発生するおそれがあるのです。そのような争いを避けるための方策として、次のようなものが考えられます。
- 遺留分に相当する財産を相続させる
- なぜそのような遺言をするのかを説明する
他の子に遺留分に相当する額を相続させ、それ以外の財産をもう一人の子に相続させるという遺言をすることで、遺言者の死亡後に争いが生じるのを防ぐことができます。
また、遺留分を侵害した場合でも、侵害された相続人が遺留分侵害額請求をしなければ、結果的に遺言どおりの結果を実現することができるため、遺言の中で、遺留分を侵害する遺言をする理由を説明し、遺留分侵害額請求をしないように求めるということが考えられます。
予備的遺言をする
予備的遺言とは、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合に備えた遺言のことです。
特定の相続人に全部または主要な財産を相続させるという内容の遺言をすることは珍しくありません。例えば、自宅土地建物以外にめぼしい財産がない場合に「長男に自宅土地建物を相続させる」といった遺言をする場合などです。
このような場合、もし長男が遺言者より先に死亡したとすると、遺言の効力はどうなるでしょうか。
相続させる者とされた推定相続人が、被相続人(遺言者)の死亡以前に死亡した場合は、特段の事情がない限り、遺言のうち、その推定相続人に相続させるとした部分の効力が生じないことになります。
したがって、推定相続人が死亡した場合に誰に財産を取得させるかについて希望がある場合には、予備的遺言をすることが望ましいでしょう。
予備的遺言をする場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、遺言者の妻○○〇〇(昭和〇年〇月〇日生)が遺言者の死亡前に又は遺言者と同時に死亡したときは、妻○○○○に相続させるとした第○条に定める財産全部を遺言者の長男〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 |
遺言執行者を指定する
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。次の場合は遺言執行者が必要です。
- 遺言で子の認知がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
- 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合、または、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
これらの場合以外は、遺言執行者はいなくても構いません。
遺言執行者がいない場合は、相続人や受遺者が遺言の内容を実現させるための手続きを行うことになります。
しかし、相続手続きの知識のない相続人や受遺者自らが、遺言の内容を実現する手続きを進めることは煩雑で大変です。
遺言執行者がいない場合は、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になる手続きも多数あり、手続きの度に相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、なかなか大変です。
その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。
また、相続人や受遺者が単独で行うことができる手続きもありますが、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもあります。
ですので、遺言執行者が必須でないケースでも遺言執行者を選定した方が手続きが安全かつスムーズに進むでしょう。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は本遺言の執行者として下記の者を指定する。 記 (事務所) 東京都〇〇区〇〇▲−▲−▲ (職業) 弁護士 (氏名) 〇〇〇〇 (生年月日)昭和○年〇月〇日 |
付言事項を書く
遺言には、法定遺言事項以外のことを書くこともできます。これを付言事項と言います。
付言事項は法的な効力はありませんが、遺言者が遺言をした真意を知る材料になりますし、付言事項の内容や遺言者と相続人の人間関係次第では、法的効力がなくても相続人が守ることを期待できる場合もあるので、書く意義は十分にあります。
付言事項には、次のようなものがあります。
- 葬儀の方法等についての指定
- 特定の人の面倒を見るように依頼するもの
- 特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
葬儀の方法等についての指定
特定の宗教による葬儀の希望、葬儀をしないあるいはできる限り簡素なものにするなど、葬儀の方法等について指定するものです。
特定の人の面倒を見るように依頼するもの
遺言者が子らに対し、子らが協力して遺言者の妻の面倒を見るようにと依頼したり、子の1人に対して、他の子の面倒を見るようにと依頼したりする場合があります。
特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
妻に長年の内助の功を感謝する言葉を述べるなどの場合です。
また、さきほど述べた遺留分との関係で、特定の相続人の貢献が大きいことからその者に全ての財産を譲ることにしたので、他の相続人は遺留分侵害額請求をしないようにというように、遺言をした動機など遺言者の心情を述べることもあります。
付言事項の文例
付言事項を書く場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (付言事項) 病気の私のために最後まで尽くしてくれた○○、〇〇には大変感謝しています。 また、長男の嫁である○○さんには、私の介護をお願いさせることになり大変な負担と苦労をおかけしました。 その苦労に報いるためにも、先に記載したとおりに遺産を遺贈したいと思います。 他の兄弟にも言い分はあるかもしれませんが、この遺言内容で兄弟同士で争うことなく、どうか最後まで仲良く暮らしてくれることを切に願います。 私が死んだ後の葬儀は、葬式や告別式などは行わずに直葬で済ませて下さい。 身内だけで葬儀をすることは私の強い希望です。 こうした葬儀の方法で家族皆が揉めることがないようにお願いします。 私は、皆が笑顔で私を送ってくれるのを切に望んでおります。 今まで本当にありがとう。 |
契印や封印をする
遺言書が2枚以上にわたった場合には、ホッチキス等で綴り、契印をするようにしましょう。
契印とは、二枚以上の書類がある場合に、それらが一式の書類で、順番に違いないこと(抜き取られていたり、足されたり、順番が入れ替わったりしていないこと)を証明するために、複数のページ(例えば1枚目と2枚目)に渡って印影が残るように押す印鑑のことです。
同様に、遺言書を作成したら、封筒などに入れて封印をして保管するようにしましょう。
これも、封印しなかったからといって無効になるわけではないのですが、偽造や変造を防止するためには重要です。
紛失したり持ち去られたりしないように適切に保管する
自筆証書遺言の場合は、自分で(または、誰かに委託しして)遺言書を保管しなければなりません。
遺言者の自宅に保管する場合は、ほかの人に簡単に見つかる場所に置いておくと、相続開始前に見つかって開封されたり、隠されたりするおそれがあります。
また、反対に見つかりにくいところに隠していた場合は、相続が開始しても遺言書が発見されず、遺言書がないものとして、法定相続分で相続されてしまう可能性があります。
そうならないように、遺言執行者を指定して、遺言執行者に遺言書を預けておくとよいでしょう。
遺言執行者は身内でも構いませんが、行政書士などの専門家や信託銀行に依頼することもできます。
また、法務局における遺言書の保管制度を利用すると、自分で遺言書を保管しなくてもよいので、遺言書の破損、滅失、紛失、隠匿といったリスクがありません。
自筆証書遺言の執行には検認が必要
自筆証書遺言では偽造や変造を防止するため、相続開始後、遺言書が見つかったら、開封せずに遺言書の検認を行わなければなりません。
検認前に開封してしまった場合は、開封者が5万円以下の過料(行政罰)が科される可能性がありますが、遺言自体が無効となるわけではありません。
なお、前述の法務局における遺言書の保管制度を利用する場合は、検認は不要です。
この記事のポイントとまとめ
以上、自筆証書遺言作成の注意点について解説しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 自筆証書遺言は正しい形式でないと無効となる恐れがある
- 法務局で自筆証書遺言を保管してもらうことができる
- 自筆証書遺言を検認前に開封すると過料が課される可能性も
自筆証書遺言の作成にはいろいろと注意する点があり、無効が心配な方は公正証書遺言の作成に変更することも検討したほうがよいでしょう。
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▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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