遺産分割協議書に金額は書かない?預金の記載方法を解説【行政書士監修】
遺産分割協議書は自分で作成することも可能ですが、専門家に依頼することで、間違えてしまうリスクや作成にかかる手間から解放されることができます。
自分で作成しようとすると、「遺産分割協議書に預貯金の金額を書くべきか?」等の細かな疑問が生じることでしょう。
この記事では、遺産分割協議書を作成するときに「預貯金の金額を書くべきか」という点に加え、遺産分割協議書の預貯金の記載方法全般についてもご説明します。
この記事はこんな方におすすめ:
「遺産分割協議書を作成する人」
この記事のポイント:
- 遺産分割協議書に金額は書かなくて良い
- 遺産の分割の方法によって、記載の仕方が異なる
- 遺産分割協議書の作成に不安のある方は、行政書士などの専門家に依頼すると安心
この記事の監修者
〈行政書士・CFP〉
相続専門の事務所として2015年に開業。2017年からは、長崎県ではあまり知られていなかった民事信託の取り扱いを開始。既存の制度では対策困難な状況のご家族にも、民事信託の活用で解決策を提案しています。
▶ 行政書士 FP しゅくわ事務所
目次
預貯金の払い戻しに遺産分割協議は必要か
預貯金の相続手続きについて、少し前までは遺産分割協議は不要とされていました。預貯金は不動産などと違い、きっちり分けられる「可分債権」で、相続発生により法定相続人が法定相続分を取得するので、遺産分割の対象ではなかったのです。
しかし、平成28年に最高裁で「共同相続された普通預金、通常貯金及び定期貯金債権は、相続開始と同時に当然に分割されず、遺産分割の対象になる。」という決定がされました。
実際、生前の贈与などがあると、預貯金を遺産分割の対象としなければ分割がうまくできない状況は多いと思います。
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼遺産分割協議書に金額は書かなくてよい
預貯金の金額は、遺産分割協議書に記載してもしなくてもどちらでも構いません。
「そもそも遺産の分け方がわからない」という方は、参考記事をご覧ください。
金額を書くメリット
金額を記載するメリットは、誰がどのくらいの遺産を取得したのかが遺産分割協議書上でわかりやすいということです。
主な遺産が現金と預貯金だけというような場合は預金の金額を記載する意味があるかもしれません。しかし、不動産や有価証券など、多岐に渡る場合は、すべての遺産について価額を記載するのかという話にもなりますし、預貯金だけ金額を記載することにあまり意味はないでしょう。
▼まずは、必要な手続きを把握するところから始めましょう▼
金額を書くデメリット
反対にデメリットとしては、遺産分割協議書を作成するうえで、気を付けなければならないことが増えることです。
例えば、相続開始後に生じた利息や配当を誰が取得するのかについても、遺産分割協議書にどのように記載するのかなど細かい部分まで注意が必要になります。もしも遺産分割協議書に書かれている金額と払戻し申請時の金額と差異が生じてしまい、払戻しを受けられずに遺産分割協議書の修正の手間が生じる可能性があるからです。
このような理由から、預貯金や現金以外にも遺産がある場合は、特に金額を書かないのがおすすめです。
金額を書かない場合の記入例
金額を書かない場合は、以下のように記載します(一例のため、必ずしもこのとおりでなくても構いません)。
金額を書く場合の記入例
金額を記載する場合は、銀行で残高証明書を取得して、正確な金額を記載しましょう。
書き方としては、以下のようなかたちになります(一例にすぎず、必ずしもこのとおりでなくても構いません)。
金額を書きたいときは財産目録を作成するとよい
財産目録とは財産の一覧表のことです。 遺産の価額を取りまとめておきたい場合は、遺産分割協議書に書き記すのではなく、財産目録を作成するとよいでしょう。
▼遺産分割協議書・財産目録の作成は、行政書士に依頼することが可能です▼
一つの預金を複数人で分割する場合の遺産分割協議書の書き方
次に、一つの預金を複数人で分割する場合、遺産分割協議書には、分割の内容と分割の方法の両方を記載しておいた方がよいでしょう。
分割の内容とは、取得者がそれぞれいくらの割合で取得するのかということです。
例えば、「以下の遺産については、甲が10分の7、乙が10分の3の割合でそれぞれ取得する」というようなことです。
1円未満の端数が生じた場合はどうするのかという質問を受けることがあるので一応言及しておきますが、端数の取り扱いについては当事者(その預金の取得者)で自由に決めて構いません。
揉めるようなおそれもなさそうであれば、端数の取り扱い方法について、わざわざ遺産分割協議書に記載することもないでしょう。
また、割合でなく金額で記載しても構いません。
金額で記載する場合は、相続開始後に生じた利息等を取得する人についても取り決めて、遺産分割協議書に記載しておくとよいでしょう。
分割の方法と記入例
預金を複数人で分割する場合、銀行が、それぞれの取得者の口座にそれぞれの取得分を入金してくれる場合もありますが、銀行によっては、このようなフローに対応していないことがあります。
その場合は、代表相続人(相続人代表者ともいいます)を定めて、銀行は預金の全額を代表相続人に引き渡し、代表相続人から他の取得者に分配するフローをとることになります。
銀行から各取得者に直接入金するフローを希望する場合は、事前に銀行に対応しているかどうか確認しましょう。
それでは、代表相続人を設定して、一つの預金を複数人で分割する場合の遺産分割協議書の記載例を紹介します。
▼まず、どんな相続手続きが必要か診断してみましょう。▼
預金を一人が相続して代償分割する場合の遺産分割協議書の書き方
代償分割とは、現物分割によると、法定相続分どおりにうまく分割できない場合等に、法定相続分よりも多く相続する人から、少なく相続する人に対して、法定相続分との差額分を代償する分割方式のことです(詳しくは「代償分割の遺産分割協議書の書き方、記載例、雛形」参照)。
代償分割は、通常は、不動産のような現物分割が困難な財産が遺産の多くを占める場合に行われますが、預貯金等の金融資産が多くを占める場合でも行われることがあります。
例えば、金融資産が多数の金融機関に分散して存在する場合、前述の代表相続人を指定する方法で行うと、代表相続人が金融機関ごとに他の取得者に対して分配しなければならず、代表相続人に大きな負担がかかってしまいます。
このような場合に代償分割の方式を採ることで、代表相続人の負担を軽減することができる場合があります。
なお、代償金として支払われた金額は、税制上は相続財産として取得したものとして扱われます。
代償分割の記入例
代償分割を行う場合は、遺産分割協議書にもその旨を記載します。
その理由は次の2つです。
- 万一代償金が支払われない場合には、遺産分割協議書を根拠として代償金の支払いを求めることができる
- 代償金の支払いが税務署に贈与とみなされ、贈与税が課されることを避ける
記載例には、以下のようなものがあります。
▼相続手続きは一人で悩まず専門家に相談しましょう▼口座解約に遺産分割協議書は必要か
相続により凍結された口座を解約するときには、金融機関により必要書類等が異なりますので確認が必要です。銀行によっては、遺産分割協議書が無くても解約できるような案内があります。その場合は、金融機関所定の書類に記入し、相続人全員の実印を押印して、印鑑証明書を添付することで、遺産分割協議書の要件を満たすようになっているようです。
遺産分割協議書を作成するより金融機関所定の書類を使う方が簡単かもしれませんので、遺産が預貯金のみという場合は、先に金融機関の解約手続きを確認しましょう。
預貯金の仮払い
人が亡くなると、葬儀等にある程度まとまったお金が必要になります。遺産分割協議が終わらなければ払い戻しができないとなると、相続人が工面することになり大きな負担となります。
この問題を解消するため2019年の相続法改正により、預貯金の仮払いを受けることができるようになりました。法定相続分の3分の1までで金融機関ごとに150万円が上限となります。遺産分割協議前に相続人が単独で引き出すことが可能ですので、葬儀費用などに当てることができます。
▼相続にお悩みなら、お気軽にお問い合わせください▼
遺産分割協議書のひな形
遺産分割協議書は提出をする先方が求めている形式や内容を過不足なく記載して作成します。提出先のホームページなどで雛形をダウンロードできるケースもありますので確認してみましょう。
また、遺産分割協議書については以下の記事もあわせてご参照ください。
▼遺産分割協議書の作成は、行政書士に依頼することが可能です▼遺産分割協議書の預金の書き方についてよくある質問
遺産分割協議書の預金の書き方についてよく聞かれる質問を集めました。
遺産分割協議書に、預金の金額は書いたほうが良いですか?
預貯金の金額は、遺産分割協議書に記載してもしなくてもどちらでも構いません。
金額を書くメリットはありますか?
金額を記載するメリットは、誰がどのくらいの遺産を取得したのかが遺産分割協議書を見てすぐわかるということです。
金額を書くデメリットはありますか?
遺産分割協議書を作成するうえで、気を付けなければならないことが増えることです。利息や配当金まで、正確な金額を記入しなければいけません。
この記事のポイントとまとめ
以上、遺産分割協議書に預貯金の金額を書くべきかという点に加えて、預貯金についての記載方法について説明しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 遺産分割協議書に金額は書かなくてもよい。金額を記載すると取得者がわかりやすくなるが、デメリットもある。
- 金額を書かない場合は財産目録を作成するとよい。遺産が複雑な場合は金額を書かない方がよい。
- 1つの預金を複数人で分割する場合、分割の内容と方法を遺産分割協議書に記載する。
- 預金を一人が相続して代償分割する場合、その旨を遺産分割協議書に記載する。
- 提出先のホームページなどで雛形をダウンロードできる場合がある
遺産分割協議書は、書き方を間違えると後で相続人間でトラブルになったり、相続手続きができずに修正して再度実印を全員に押印してもらうなど手間が生じることがあります。少しでも不安がある場合は、行政書士等の専門家に相談するとよいでしょう。
面倒な戸籍謄本等の収集や、相続手続きとあわせて依頼すると相続人の負担も軽減できるのではないでしょうか。
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▼実際に「いい相続」を利用して、専門家に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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