遺産分割協議に期限はないが相続税の申告前に済ませた方がよい【相続の基礎知識】
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2020年5月15日に公開された記事を再編集したものです。
遺産分割協議に期限はあるのでしょうか?
期限がないとすれば、目安としていつまでに済ませた方がよいのでしょうか?わかりやすく説明します。
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遺産分割協議に期限はない
遺産分割協議には、いつまでに終わらせなければならないという期限はありません。
遺産分割協議が調うまでの間、相続人は相続財産を法定相続分に応じて共有している状態が続きます。
預貯金や株式は5年又は10年で時効消滅する可能性がある
遺産分割協議に期限はありませんが、預貯金や株式に関する権利は、5年又は10年で、時効によって消滅することがあります。
預貯金
銀行に対して預金の払戻しを請求する権利は、商事債権(商取引にかかわる債権)として、権利を行使できる時から5年間の消滅時効にかかり、権利は消滅します(なお、民法改正によって、2020年4月1日以降に生じた債権については、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき」又は「権利を行使できる時から10年間行使しないとき」は、時効によって消滅します)。
もっとも、銀行側は、元帳などで預金の存在が確認できる限りは払戻しに応じ、消滅時効を主張することは控えてくれる場合が多いでしょう。
しかし、銀行が支払いを拒絶することは法的に可能ですし、実際に銀行側が時効を主張して支払いを拒んだ裁判例もあります。
株式
株式の名義が変更されていなくても、相続した以上は、株主としての権利は相続人が取得しています。
しかし、株式会社では、大量に存在する株主の取扱いを画一化する必要から、株主名簿の名義を基準として法律関係を処理すればよいことになっています。
そこで、株式を相続したにもかかわらず、名義書換をせずに放置しておくと、せっかくの利益配当の通知などを受け取ることができず、事実上、配当を受け取ることができない場合があります。
しかも、会社は、株主に対する通知などが5年間にわたり届かない場合などには、所在不明の株主の株式として競売で売却するか、会社が買い取ってしまうことが許されます。
もちろん、法律的には、その売却代金は、相続人のものであり、会社に対して支払いを請求することが可能ですが、その請求権自体も売却又は買い取りから5年間の消滅時効にかかります(なお、民法改正によって、2020年4月1日以降に生じた債権については、「債権者が権利を行使できることを知った時から5年間行使しないとき」又は「権利を行使できる時から10年間行使しないとき」は、時効によって消滅します)。
また、売却又は買取りによって、株主としての地位は失ってしまいます。
相続登記が遅くなることのデメリット
不動産の相続についても手続き期限はありませんが、相続登記(名義変更)までに時間がかかると、次のようなデメリットが生じます。
- 他の相続人の持分を差し押さえられたり、売却されたりするおそれがある
- 権利関係が複雑になる
他の相続人の持分を差し押さえられたり、売却されたりするおそれがある
相続登記をしていなければ、他の相続人の債権者等から家を差し押さえられるおそれがあります。家などの相続財産は、遺産分割が済むまでは、すべての相続人が相続分に応じて共有している状態です。
遺産分割協議で誰がどの財産を取得するかを決めて遺産分割を行うと、協議で決まった相続人がその財産を取得することになります。
しかし、家を取得した相続人は、登記しなければ、その家についての権利を第三者に対して主張することはできません。
登記を行っていない状態は、第三者から見れば、まだ遺産分割が済んでいない共有状態になるのです。ですので、他の相続人の債権者は、その相続人が債務を弁済しない場合は、相続財産についてのその相続人の持分を差し押さえることができることがあるのです。
また、他の相続人に債務がある場合だけでなく、他の相続人が勝手に共有登記をして共有持分を売却することもできてしまいます。
そうすると、どちらにせよ、見ず知らずの人と不動産を共有している状態になってしまいます。
この状態を解消して不動産を単独で所有するには、共有持分を買い取ることになるでしょう。
共有持分の買い取りに要した費用は、債務者であった相続人に求償することができる場合もありますが、差し押さえを受けるくらいなので、求償に応じる程の資力がなく、回収することは難しいでしょう。
このように、相続登記をしていないと、余計な出費がかかるおそれがあります。
権利関係が複雑になる
登記をしようと思った時には、権利関係が複雑化して、登記をすることが大変になっていることがあるとはどういうことでしょうか?
例えば、被相続人(亡くなった人)の妻Aと被相続人の姪Bが共同相続人のケースで、遺産分割協議で家をAが取得することになったとします。
しかし、遺産分割協議書を作成せず、Aが登記を行わずにいたところ、Bが亡くなり、Bの夫Cが財産を相続したとします。
その後、Cも亡くなり、Cの甥姪D、E、F、G、H、I、J、Kの7人がCの財産を相続したとします。
その後、Aは家を売却するために、登記を行おうとしても、そのためには、被相続人の姪の夫の甥・姪という見ず知らずのD〜Kの7人の同意が必要になります。
その7人が気の良い人たちであれば、同意してくれるかもしれませんが、お金に困っていたりすると、同意に応じる代償としてのハンコ代を求めたり、共有持分の買い取りを請求することも考えられます。
相続税の申告期限は10か月
相続税の申告期限は、亡くなったことを知った日の翌日から10か月です。
相続税の申告は、課税価格の合計額が基礎控除額以下の場合は不要です。
相続税の基礎控除については「相続税の基礎控除額の計算方法と控除額を増やして節税する実践的な方法」をご参照ください。
相続税の申告までに遺産分割協議が終わっていなくても構いませんが、多くのケースでは遺産分割協議後に修正申告や更正の請求が必要になり、二度手間なので、なるべく相続税の申告期限までに済ませた方がよいでしょう。
相続税の申告期限までに遺産分割協議が調わない場合は、法定相続分どおりに相続したものとみなして申告します。
このとき、配偶者の税額の軽減(「配偶者の税額軽減の特例を活用して相続税を目一杯安くする方法と注意点」参照)や、小規模宅地等の特例(「小規模宅地等の特例で8割減で大幅に節税する方法と意外な落とし穴」参照)等の特例の適用を受けることができず、相続税が高額になってしまうことがあります。
そして、遺産分割協議が調った後に、実際の相続分で相続税を計算し直します。
期限内に納付した税額よりも増えた場合は、修正申告をして、追加の税額を納付しなければなりません。
期限内に納付した税額よりも少なくなった場合は、更正の請求をすることによって差額の還付を受けることができます。
このとき、配偶者の税額の軽減や小規模宅地等の特例の適用を受けることができますが、その場合は、期限内の申告時に「申告期限後3年以内の分割見込書」を提出し、かつ、次の1又は2に掲げる場合に該当することとなった場合に限られます。
- 相続税の申告期限後3年以内に財産が分割された場合
- 相続税の申告期限後3年を経過する日までに財産の分割ができないやむを得ない事情があり、税務署長の承認を受けた場合で、その事情がなくなった日の翌日から4か月以内に分割されたとき ※税務署長の承認を受けようとする場合には、相続税の申告期限後3年を経過する日の翌日から2か月以内に、財産の分割ができないやむを得ない事情の詳細を記載した承認申請書を提出する必要があります。
つまり、原則として、相続税の申告期限から3年以内に遺産分割をしなければ、特例の適用を受けられず、相続税の計算上、著しく不利になることが多いということです。
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