遺産分割協議を揉めずに有利に進めるために知っておくべきポイント
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2019年3月25日に公開された記事を再編集したものです。
遺産を相続人で分け合う際に、なるべく揉めたくはないでしょうけども、やはり、損はしたくないですし、できれば、自分に必要な財産を受け取れるように有利に進めたいですよね。
そこで、この記事では、遺産分割協議を揉めずに有利に進めるために知っておくべきポイントについて説明します。
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遺産分割協議とは?
民法898条には、「相続人が数人あるときには、相続財産は、その共有に属する。」と規定されています。
つまり、相続人が1人しかいない場合は、その相続人が単独で相続しますが、相続人が複数人いる場合は、一旦、すべての相続人が相続財産をそれぞれの取得分に応じた持分で共有する状態になります(なお、預貯金払戻請求権を除く可分債権は共有には属さず法律上当然に分割されると解されていますが、この点については後述します)。
共有のままでは、財産を処分することもできず、使い勝手も悪いため、通常は、各相続人がどの財産を取得するのかを決めて、単独で取得できるようにします。
このように相続人全員で共有している遺産を分割して各相続人が単独で取得することを「遺産分割」といい、遺産分割のための相続人間の協議(遺産の分け方を決める協議)のことを「遺産分割協議」といいます。
▼忘れている相続手続きはありませんか?▼遺産分割協議の流れ
遺産分割協議の流れは次のようになります。
- 相続人の範囲の確定
- 遺言書の確認
- 遺産の範囲の確定
- 遺産の評価
- 遺産総額の確定
- 遺産の分割方法の確定
- 遺産分割協議書等の作成と押印
以下、それぞれについて説明します。
相続人の範囲の確定
まず、誰が相続人なのかを明確にするために、相続人の範囲を確定させます。
戸籍の記載が真実の親子関係とは異なるとか、養子縁組や結婚が無効だといった主張をする場合には、遺産分割の前に、別途、人事訴訟や訴訟に代わる調停をして戸籍を訂正したり、縁組や結婚の有効・無効を確定させる必要があります。
また、相続人以外にも、包括受遺者(後述)や相続分譲受人も遺産をもらい受ける権利を有するので、遺産分割協議に参加します。
相続分譲受人とは、相続人から相続分を譲渡された人のことをいいます(相続分の譲渡について詳しくは「相続分の譲渡によって面倒な手続きなく遺産争いから解放される方法」参照)。
遺言書の確認
遺言書がある場合には、原則として遺言内容に従って遺産を取得します。
遺言で、すべての遺産について、もらい受ける権利がある人がそれぞれ定められている場合は、遺言で指定された人がその財産を単独で取得することができるので、共有状態とはならず、遺産分割協議は不要です。
ただし、このような場合であっても、遺言者が遺言と異なる遺産分割を禁じておらず、かつ、遺言によって財産をもらい受ける人全員が遺言内容を把握した上で遺言と異なる遺産分割をすることに同意がある等の条件を満たす場合は、遺産分割協議をして、遺言の内容と異なる遺産分割をすることも可能です。
なお、遺言によって、相続人でない人が遺産をもらい受けることがありますが、このような人のことを受遺者といいます。
受遺者は、包括受遺者と特定受遺者に分けられ、包括受遺者は遺産分割協議に参加します。
包括受遺者は取得する財産が遺言によって特定されていない受遺者で、特定受遺者は取得する財産が遺言によって特定されている受遺者のことです。
例えば、取得できる財産が「遺産の2分の1」というようなかたちで指定されていたら包括受遺者、「どこどこの土地」というようなかたちで指定されていたら特定受遺者となります。
特定受遺者はどの財産を取得するのか遺言によって決まっているので遺産分割協議に参加する余地は基本的にありませんが、包括受遺者は決まっていないので、遺産分割協議に参加しなければ遺産を単独で取得することはできないのです。
なお、遺言書の効力について意見が分かれた場合、遺産分割の前に、遺言の有効性や遺言内容の解釈を確定させる必要があります。
当事者同士の話し合いで結論が出ない場合は、訴訟を提起するケースもあります。
遺産の範囲の確定
次に、遺産分割の対象となる遺産の範囲を確定させます。
遺産には、積極財産(プラスの財産)だけでなく、負債等の消極財産(マイナスの財産)もあります。
遺産の調査について詳しくは「相続財産とは何?相続の対象となる財産と相続税の対象となる財産」をご参照ください。
なお、預貯金払戻請求権以外の可分債権については、共有には属さず法律上当然に分割されると解されているので、基本的には遺産分割の対象とはなりませんが、相続人等の遺産分割を受ける権利がある人全員の同意があれば、遺産分割の対象に含めることもできます。
可分債権とは、分割が可能な債権で、主に貸金などの金銭債権があります。
贈与が成立していたかどうか等、遺産の範囲に争いがある場合は、遺産分割の前に、訴訟で所有者を確定させる等して、遺産の範囲を確定させる必要があります。
遺産の評価
現金や預貯金のような財産の価額が明確なものだけでなく、不動産、非上場株式、美術品・骨董品のように、いくらの価値があるのか、評価が必要な財産もあります。
納税のための財産評価の方法は法令で定められていますが、遺産分割のための財産評価の方法には決まりはありません。
当事者同士が納得をすれば、どのように評価をしても構いません。通常は市場価格(その財産を売った時にいくらで売ることのできる価格)で評価します。
市場で売却して価額弁償を行う場合は、売却価格を評価額とすればよいのですが、売却しない場合は、どのように市場価格を見積もるかという問題になります。
この点、不動産の場合は、次の式で、およその市場価格を算定することができます。
固定資産税評価額は、課税明細書の課税標準額の欄に記載されています。
また、土地については、相続税の申告が必要な場合は、相続税評価額を算定することになりますが、その場合は、固定資産税評価額ではなく相続税評価額から算定した方が、市場価格により近い金額になることが多いでしょう。
土地の相続税評価額の算定には様々な評価減の制度があり、その適用や計算方法は複雑なので、相続税申告のために相続税評価額を算定する際は、税理士に依頼した方が相続税評価額を低く算定することができ、相続税額も低くなるケースが多いので、通常は、税理士に依頼します。
相続税評価額の算定方法について知りたい場合は「相続税評価額の基本的な計算方法と評価額を低く計算して節税する方法」をご参照ください。
相続税評価額を元におよその市場価格を算定する場合は、次の式で算定できます。
このような簡易的な方法等による算定額で合意に至らない場合は、不動産鑑定士による鑑定結果によって評価することが多いです。ただし、鑑定料が数十万円かかります。
また、双方が別々に鑑定を依頼すると、鑑定料も倍かかりますし、鑑定結果に開きが生じた場合に、せっかく鑑定したのに、争いが収束しないこともありえます
合意形成のためには、鑑定を依頼する専門家を双方の合意の下で選び、鑑定結果に従うことを合意のうえで、鑑定を依頼するとよいでしょう。
株式についても、遺産分割の当事者同士で合意ができれば、どのように評価しても構いませんが、通常は、相続税評価額の算定方法を用いて評価されます。
株式の相続税評価額の算定方法については「株の相続税評価額の調べ方や相続税の計算方法と相続税対策について」をご参照ください。株式の評価額について合意に達しない場合は、会計士や税理に鑑定を依頼します。
遺産総額の確定
遺産分割協議時に寄与分や特別受益についての主張がなされることがあります。
寄与分とは、被相続人の生前に、相続人が、被相続人の財産の増加や維持に寄与した程度のことです。
寄与分がある相続人は、他の相続人に比べて、その分多くの財産を相続することができます。
寄与分については詳しくは、「寄与分の正当な評価を受けて寄与分を当然に得るための最重要知識9選」をご参照ください。
特別受益とは、相続人が複数いる場合に、一部の相続人が、被相続人からの遺贈や贈与などによって特別に受けた利益のことです。
特別受益を受けた相続人がいる場合は、遺産分割における当該相続人の取得分を、特別受益を受けた価額に応じて減らす必要があるので、特別受益の価額を相続財産の価額に加えて相続分を算定し、その相続分から特別受益の価額を控除して特別受益者の相続分が算定されます。
特別受益について詳しくは、「特別受益とは?特別受益によって相続分を減らされないための全知識」をご参照ください。
なお、寄与分や特別受益の存在や金額について争いがある場合は、寄与分や特別受益を主張する方が立証しなければなりません。
遺産の分割方法の確定
遺産の分割方法には、次の3つがあります。
- 現物分割
- 換価分割
- 代償分割
なお、共有のままで構わない遺産については、分割の対象から外しても構いません。
以下、それぞれについて説明します。
現物分割
現物分割とは、遺産を現物のまま分割する方法のことです。例えば、相続人がAとBの2人で、相続分は2分の1ずつであったとします。
遺産は、現金1000万円と、土地1筆(時価1000万円)、自動車1台(時価100万円)であるとします。
このような場合に、土地を半分に分筆(1筆の土地を分けること。土地は1筆、2筆と数えます。)し、次のように遺産分割した場合、このような分割のことを現物分割といいます。
- Aが相続する財産
- 現金450万円
- 分筆後の土地(時価500万円)
- 自動車(時価100万円)
- Bが相続する財産
- 現金550万円
- 分筆後の土地(時価500万円)
また、分筆しなくても、次のような分け方も現物分割に含まれます。
- Aが相続する財産
- 現金50万円
- 土地(時価1000万円)
- Bが相続する財産
- 現金950万円
- 自動車(時価100万円)
換価分割
換価分割とは、遺産を売って、お金に換えて、そのお金を分ける分割方法のことです。
例えば、先ほどの例でいうと、土地と自動車とをそれぞれ1000万円と100万円で売ると、元からあった現金1000万円と併せて、現金2100万円になります。
これをAとBとで1050万円ずつ相続します。これが換価分割です。
土地だけを換価分割して、自動車は現物分割するということも可能です。
換価分割について詳しくは「換価分割にかかる税金と換価分割の長所・短所、代償分割との比較」をご参照ください。
代償分割
代償分割とは、現物分割によると、法定相続分どおりにうまく分割できない場合等に、法定相続分よりも多く相続する人から、少なく相続するに人に対して、法定相続分との差額分の代償する分割方式のことです。
例えば先ほどの例で、次のように現物分割を行ったとします。
- Aが相続する財産(合計1100万円)
- 土地(時価1000万円)
- 自動車(時価100万円)
- Bが相続する財産
- 現金1000万円
法定相続分どおりであれば、1050万円ずつであるため、このままでは、Aが法定相続分よりも50万円多く相続し、Bが法定相続分よりも50万円少なく相続することになります。
そこで、Aの自己資産からBに対して50万円を代償することで、バランスをとるのが代償分割です。
代償分割について詳しくは「代償分割により相続税を節税して贈与税も課税されないようにする方法」をご参照ください。
遺産分割協議書等の作成と押印
当事者全員が同意できる内容が決まったら、遺産分割協議書を作成し、全員が押印します。
遺産分割協議書は、名義変更等の相続手続で必要になる大切な書類です。
遺産分割協議が調わない場合の手続き
遺産分割協議が調わない場合は、家庭裁判所の遺産分割調停や遺産分割審判の手続きを利用することができます。
遺産分割調停
遺産分割協議で議論が平行線を辿る等して、成立する見込みない場合は、家庭裁判所に遺産分割調停を申し立てることができます。
調停では調停委員会が間に入り、争点を整理する等して、合意形成を促します。遺産分割調停について詳しくは、「遺産分割調停前に知っておくべき調停を有利に進める方法と調停の流れ」をご参照ください。
遺産分割審判
遺産分割調停でも合意に至らない場合は、自動的に審判手続に移行します。審判では、裁判官がどのように分割するかを諸般の事情を踏まえて決定します。
▼今すぐ診断してみましょう▼遺産分割協議を揉めずに有利に進めるためのポイント
自分に都合のよい主張ばかりをしていては揉め事に発展してしまいますし、相手に合わせてばかりでは損してしまいます。遺産分割協議を揉めずに有利に進めるポイントは次の2点です。
- 正しい法的知識を身に付け、適切な主張をする
- 相手の気持ちを考えて冷静に話をする
まず、正しい法的知識を知らなければ、無理な主張をしているのが自分なのか相手なのかが分かりません。
正しい法的な知識を身に付けて、いたずらに揉めるような無理な主張をしないようにしましょう。
また、相手が法的に通らないような主張をしてきたときは、法的な根拠に基づいて論理的に主張を退けられるようにしましょう。
いかに正しいことを言っていても、言い方が良くないと、相手の感情を逆なでしてしまい、理解を得ることはできません。相手の気持ちを考えて言い方に気を付けましょう。過度に感情的な言い方は厳禁です。
▼実際に「いい相続」を利用して、専門家に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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