遺言書の書き方を形式ごとに解説!無効にならないためのポイントも
「生きているうちに死んだ後のことを話すのは縁起が悪い」と考えられてきましたが、「終活」の普及とともに、むしろ、自分が死んだ後どうして欲しいかを伝えた方がよいと考える方も増え、生前に遺言書の作成を検討される方も増えてきました。
ただ、遺言書の書き方には細かいルールや、注意しなければならない点があります。
せっかく遺言書を作成したのに、かえって無用な争いを生むことがないよう、遺言書の書き方や種類、文例等、知っておきたい点をまとめました。
遺言書の種類
遺言書は、次の4つの種類に分けられます。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
- 特別方式遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言は、その名称のとおり、自分で作成した遺言書です。財産目録を除く全文を自筆で書きます。
自筆証書遺言は、誰でもすぐに作成できますが、様式が厳格に定められています。様式を少しでも誤ると無効になってしまうというおそれや、紛失・偽造・変造といったリスクがあります。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらい、公証役場で保管してもらう遺言書です。
自筆証書遺言と異なり公証人に作成してもらうため、様式を誤ってしまって無効になることはありませんし、偽造のおそれもありません。さらに、公証役場で保管してもらうことから、紛失や変造のおそれも少ないです。
秘密証書遺言
秘密証書遺言は、自分で作成した遺言書を公証役場に持参し、「その方が書いた遺言書が存在すること」の証明をしてもらった遺言です。
証明してもらった後は、遺言者が自分で遺言書を保管するか、誰かに保管を依頼することになります。
公証人による証明があるので、その遺言書を遺言者本人が間違いなく書いたということが証明できるという点が自筆証書遺言と異なります。
特別方式遺言
特別方式遺言は、病気や災害等で死んでしまうかもしれない場合や、伝染病で隔離されている、船舶で航海中であるといった事情のため正式な遺言書を作成することが困難な場合に、緊急的な措置として一時的に作成される遺言です。
あくまで一時的なものなので、命の危機を回避し6か月間生存した場合には特別方式遺言の効力はなくなります。
自筆証書遺言の書き方
自筆証書遺言は、自分で直筆で書かなければいけませんが、書き方にはいくつかルールがあります。
遺言書が無効にならないための5つのポイント
自筆で記載する
自筆証書遺言は、必ず全文を自筆で書く必要があります。
パソコンで作成した遺言書は、仮に本人の署名や押印があっても無効になります。
遺言書本文を全部自筆し、添付する財産目録だけパソコンで作成したという事例においても、遺言書が無効と判断された裁判例もあるので注意が必要です。
署名・押印する
自筆証書遺言には、遺言者が氏名を自書したうえで、押印をしなければなりません。
また、署名をするのは遺言者1名のみとされており、夫婦2人で共同で遺言をするということはできないので、注意が必要です。
なお、押印は実印でなくてもよく、また、拇印でも良いのですが、拇印だと遺言者本人のものかどうかわからなくなる可能性があるので、避けた方がよいでしょう。
日付を記載する
自筆証書遺言には、必ず作成日を記載しなければなりません。
そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になってしまいます。
訂正の方法に気を付ける
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合もそのやり方が厳格に決められています。
具体的には、訂正したい箇所に二重線等を引き、その上に押印し、その横に正しい文字を記載します。そして、遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする、ということになります。
訂正方法がかなり厳格なので、遺言書を訂正したいときはできる限り始めから書き直した方がよいでしょう。訂正前のものは無用な混乱を避けるため必ず破棄しましょう。
2枚以上になったら契印をし、封筒などにいれて封印する
遺言書が2枚以上にわたった場合には、ホッチキス等で綴り、契印をするようにしましょう。
契印とは、二枚以上の書類がある場合に、それらが一式の書類で、順番に違いないこと(抜き取られていたり、足されたり、順番が入れ替わったりしていないこと)を証明するために、複数のページ(例えば1枚目と2枚目)に渡って印影が残るように押す印鑑のことです。
契印は遺言書が有効となるための必須の条件ではありませんが、偽造や変造を防ぐために大切です。
同様に遺言書を作成したら、封筒などに入れて封印をして保管するようにしましょう。
これも、封印しなかったからといって無効になるわけではないのですが、偽造や変造を防止するためには重要なポイントです(仮に偽造・変造されなかった場合でも、偽造や変造を疑われないためという意味において、契印や封印をしておくことが大切です)。
遺言書で相続人が困らないための3つのポイント
意思を明確に記載する
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるよう記載する必要しなければいけません。
記載の内容が曖昧であったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときには遺言者は既に亡くなっているので、その意味を遺言者本人に確認できません。
曖昧な部分や不明確な部分があってもそれだけで無効になるわけではありませんが、相続人間に無用なトラブルを生む可能性があるので、曖昧な表記等には気を付ける必要があります。
遺留分に配慮する
兄弟姉妹以外の一定の相続人には、遺言によっても奪われない最低限度の相続分として、法律上、遺留分が認められています。この遺留分を侵害する遺言(遺留分を有する相続人に遺留分を下回る財産しか相続させない遺言)も法律上有効ですが、遺留分を侵害された相続人は、相続開始後、他の相続人に対して、遺留分侵害額請求をすることができます。
そのため、遺言によって遺留分を侵害してしまうと、遺言者の死後、相続人の間で揉める可能性があるので、その点に注意して遺言書を作成することが大事です。
遺言執行者を選任しておく
相続財産の中に不動産がある場合、遺言者が死亡した後、不動産の名義(登記)を遺言者から相続人(受遺者)に変更する必要があります。
この場合、不動産を相続させる者が1名であっても、名義変更(所有権移転登記)の手続きの際に、相続人全員の協力が必要となります。
このような実際の相続の場面における相続人の煩雑さを回避する方法として、遺言で遺言執行者を選任する方法があります。
遺言執行者は遺言書の内容に従って相続させるために必要な手続きを単独で行う権限をもっているので、相続人の協力が得られないような場合であっても手続きができるメリットがあります。
遺言執行者は、相続人のうちの一人を選任しても構いません。
遺言書を撤回したいときは
ある方について遺言書が2通以上存在する場合で、その2通の内容が抵触する場合には、作成日付が後のほうの遺言書の内容が有効になります。つまり、一度遺言書を作成した後でも、その内容と異なる遺言書を作成すれば、以前の遺言書の内容を撤回することができるということになります。
ただ、後の遺言書で撤回されるのは、前の遺言書のうち、あくまで内容が触れる部分だけであって、抵触しない部分は効力をもったままになります。
自筆証書遺言の検認
自筆証書遺言を開封する前に、家庭裁判所での検認手続きが必要になります。
まず、遺言書を発見した相続人または遺言書を保管していた人が家庭裁判所に検認の申し立てを行います。
そうすると裁判所から法定相続人全員に検認期日の通知が届くので、その期日に家庭裁判所に出頭し、裁判官や他の相続人の立ち合いのもとで、遺言書を開封して内容を確認します(既に開封されている場合は、内容の確認のみとなります)。
検認が終了すると、家庭裁判所が遺言書に検認済の書類を付けてくれますが、事前に検認済証明書の申請が必要です。この状態になってはじめて、遺言の内容に従って遺産の名義を変更すること等が可能になるのです。
なお、検認期日の通知は法定相続人全員に届きますが、申立人以外の相続人が検認期日に出席するかどうかは各人の判断に任されているため、必ずしも相続人全員が期日に出頭する必要はありません。
自筆証書遺言の保管制度
上記の検認制度に代わる制度として、自筆証書遺言の保管制度が平成30年に創られました。令和2年7月10日から施行されています。
この制度は、遺言者が、自筆証書遺言を作成した後、指定の法務局に遺言書を持参し保管を申請したときには、遺言者の死亡後、家庭裁判所での検認を経る必要がなくなるというものです。
作成されてからずっと法務局で保管されるため、偽造・変造のおそれがないことから、自筆証書遺言であっても検認の手続きが必要ないとされたのです。
なお、相続人としては、遺言者の死亡後、自分が相続人となっている遺言書が法務局に保管されているかどうかの照会や、自分が相続人となっている場合の遺言書の閲覧請求等によって遺言書の有無や内容を確認できることになっています。
公正証書遺言の書き方
公正証書遺言は、遺言書に記載する内容(誰にどの遺産を相続させるか等)を決めた後、公証役場に赴いてその内容を公証人に伝えることで、公証人に遺言書を作成してもらうことができます。
秘密証書遺言の書き方
秘密証書遺言は、自分で遺言書を作成し、署名・押印したうえで、その遺言書を封筒に入れ、遺言書に押印した印と同じ印で封印します。
そして、その封筒を公証役場に持参し、公証人に、「その遺言書が遺言者によって書かれたものである」ということを封筒に記載してもらうという方法で作成します。
なお、この際、証人2名が必要で、証人も封筒に署名・押印します。
秘密証書遺言の場合の封筒に入れる遺言書は、必ずしも自筆証書遺言の要件を満たしていなくても無効とはなりません。ただし、訂正の方法が間違っていたり、様式に不備がある場合には秘密証書遺言も無効となる場合がありますので、ご注意ください。
特別証書遺言の書き方
特別証書遺言は、通常の遺言書を作成することができない状況下で作成されるものであるため、その時の状況によって作成方法が多少異なります。
特別方式遺言には「危篤時遺言」と「隔絶地遺言」があります。
一般危篤時遺言
病気やけが等の一般的な事情で死期が差し迫っている場合には、証人3人以上の立会のもと一般危篤時遺言を作成します。自分で書いても証人に代筆を依頼してもかまいません。内容に間違いがなければすべての証人が署名押印をし遺言書が完成します。
一般危篤時遺言が作成されたら、20日以内に家庭裁判所で確認手続きを受けなければなりません。手続きを受けないと遺言書は無効となります。
難船危篤時遺言
船舶中の遭難などで死期が差し迫っている場合は、証人2人以上の立会のもと、自分で遺言書を書くか、口頭で伝えて書き取ってもらい作成できます。
難船危篤時遺言も家庭裁判所で確認手続きを受けなければなりません。手続きを受けないと遺言書は無効となりますが、期限は設けられていないため、危機が去ってから速やかに手続きをおこないましょう。
一般隔絶地遺言
伝染病などで隔離され、通常の遺言書を作成するのが難しい場合に認められる遺言です。作成時には警察官1名と証人1名の立ち会いが必要となります。また遺言書は本人が作成しなければならず、立会人全員の署名押印が必要です。また家庭裁判所の確認手続きは不要です。
船舶隔絶地遺言
船舶隔絶地遺言は、長期にわたる航海で陸地から離れた場所におり、通常の遺言書を作成できない場合に利用します。船長もしくは事務員と、2名以上の証人が立ち会う必要があります。
一般隔絶地遺言と同じく遺言者本人が作成する必要があり、証人などに代筆してもらったり口頭で伝えて書き取ったりすることはできません。遺言書には遺言者と立会人の署名押印が必要で、本人が作成しているため、後日家庭裁判所で確認の手続きをする必要はありません。
「遺贈する」と「相続させる」の違い
遺言には「○○を○○に遺贈する。」と書くこともあれば、「○○を○○に相続させる。」と書くこともあります。この「遺贈する」と「相続させる」の違いについて説明します。
まず、遺言によって財産を承継する人が法定相続人(法律の定めに則ると相続人となる人)でない場合は、「相続させる」ことはできず、「遺贈する」ことしかできません。
遺言によって財産を承継する人が法定相続人である場合は、「相続させる」ことも「遺贈する」こともできますが、「相続させる」と書くことをお勧めします。
「相続させる」と「遺贈する」に違いが生じるのは、遺言によって承継される財産に不動産が含まれている場合のみです。「相続させる」には、次のようなメリットがあります。
登記がなくても相続債権者に対抗できる
「遺贈する」の場合は、登記を具備しなければ、相続債権者(被相続人(亡くなって財産を残す人)の債権者)に対して権利を主張できませんが、「相続させる」の場合は、登記前でも相続債権者に対して権利を主張することができます。
借地権や借家権について賃貸人の承諾が不要
「遺贈する」の場合は、借地権や借家権の遺贈を受けるのに、賃貸人の承諾が必要ですが、「相続させる」の場合は不要です。
この記事のポイントとまとめ
以上、遺言書の書き方について解説しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
- 遺言書にはいくつか方式がありそれぞれ作成方法が異なる
- 自筆証書遺言は家庭裁判所での検認手続きが必要
- 公正証書遺言は公証人が作成してくれるため、形式不備などは少ない
遺言書は、遺言者が亡くなった後の財産について意思表示をすることができる大事な書面です。
また、財産の行く末だけでなく、遺族に対して伝えたいメッセージを残すことのできる書面でもあります。
ただ遺言書といっても、その形式もさまざまで、作成方法も形式によって異なります。形式によってメリット・デメリットもあります。
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▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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