遺言書が無効になる場合は?申し立て方法や時効も解説
自分に不都合な遺言書が出てきた場合、「遺言書を無効をできないか」と思うことがあるでしょう。兄弟に多めに財産を渡したいという遺言をしている場合もありますし、納得いかないこともあるはずです。
この記事では、遺言書が無効になる場合について、詳しく説明します。また、申し立ての方法と時効についてもあわせて説明します。
遺言書が無効になる場合
どのような場合に遺言書が無効になるかは、その遺言書の方式によって異なります。
遺言書の方式
まず、遺言書の方式には次の3つがあります。
- 自筆証書遺言
- 公正証書遺言
- 秘密証書遺言
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは遺言者の自筆で書かれていて、公証人が手続きに関与していない遺言のことです。気軽に遺言書を作成できる反面、遺言書として成立させるための要件があり、これを満たさないと無効になってしまいます。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に作成してもらう遺言書です。作成費用がかかりますが公正証書遺言が無効となることは少なく、原本は公証役場で遺言書を保管してもらえます。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言の内容を誰にも明かさずに、かつ、遺言の存在が公証人によって証明される形式の遺言のことです。
では方式にかかわらず無効になる場合と、方式によって無効になる場合について説明します。
遺言の方式にかかわらず無効となるケース
遺言の方式にかかわらず無効となるのは、次のように遺言者に遺言能力がないケースです。
- 遺言者が15歳未満
- 遺言者が認知症等で意思能力がない
遺言者が15歳未満
遺言をすることができるのは、15歳以上の人です。15歳未満の人がした遺言は親権者等の法定代理人の同意の有無にかかわらず無効です。
15歳以上であれば、未成年であっても、法定代理人の同意なく遺言をすることができます。
遺言者が認知症等で意思能力がない
認知症等で意思能力(遺言能力)がない場合も遺言自体が無効になります。
意思能力とは、自己の行為の結果を判断することのできる能力であり、意思能力があるといえるには、一般的には7〜10歳程度の知力があれば足りるとされますが、あくまで当該行為者について個別具体的に判断されます。
遺言は普段の買い物等よりも複雑な法律行為ですし、前述の通り15歳以上でなければできないので、7歳〜10歳程度の知力では遺言能力がないとされ無効となる可能性があります。
なお、遺言能力が問題となるのは自筆証書遺言の場合だけでなく、公正証書遺言の場合でも、遺言能力を欠いている状態であったことを理由に、遺言が無効となることがあります。
公証人は遺言者の遺言能力に疑いがあるときは、本人の判断能力が十分に備わっているかを確認するために質疑応答などを行ったりしますが、必ずしも遺言書の作成を拒否するわけではありません。
よって、公正証書遺言であっても後に遺言能力が否定されることがあるのです。
認知症の人がした遺言が有効かどうかは、主に次の要素から判断されます。
- 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
- 遺言内容それ自体の複雑性
- 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者(遺言によって財産をもらい受ける人)との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
自筆証書遺言が無効になる場合
自筆証書遺言は、次の場合に無効となる可能性があります。主に形式的な不備が挙げられます。
- 自書でない箇所がある
- 日付がない
- 署名がない
- 押印がない
なお、「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合は、法務局で保管する際に形式不備の有無が確認されるので、形式不備によって遺言が無効となることはおおむね無くなります。
自書でない箇所がある
自筆証書遺言は遺言者が遺言書の全文、日付および氏名を自筆しなければならないとされています。
したがって遺言者以外の人が書いたものや、パソコンなどで作成したものは無効です(添付の財産目録はパソコンで作成できます)。
なお、遺言を記載する紙や筆記用具については特に法律による定めはありません。紙についても、極端な話、メモ帳の切れ端やチラシの裏に書いても有効です。
日付がない
自筆証書遺言には作成日を記載しなければなりません。
そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になります。また、「平成〇〇年〇月吉日」というような書き方も、作成日が特定できず無効となります。
署名がない
自筆証書遺言には、遺言者が必ず氏名を自書しなければなりません。
署名をするのは必ず遺言者1名のみとされており、夫婦2人で共同で遺言をするということは認められていません。
押印がない
自筆証書遺言には全文、日付、氏名の自書に加えて、押印することが要件とされています。押印は、実印でなくても構いません。
認印でも、拇印や指印でもよいことになっています。シャチハタでも基本的には認められます。
公正証書遺言が無効になる場合
公正証書遺言が無効となる可能性があるケースとしては、前述の遺言能力がなかったというケースのほか、次のような場合が考えられます。
- 証人になれない人が証人となっていた
- 証人となることができない人が同席していて、遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりした
公正証書遺言の証人になれる人
公正証書遺言では証人が2人必要であり、次のいずれかに該当する人は、証人となることができません。
- 未成年者
- 推定相続人及び受遺者並びにこれらの配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人
1の未成年者は、20歳未満の人のことです(2022年4月からは18歳未満に引き下げられました)。
推定相続人2の推定相続人とは、その時点において、最優先順位の相続権(代襲相続権を含みます。)を持っている人のことです。つまり、その時点で相続が開始された場合に、相続人になると推定される人のことです。
なお、遺言書作成時に推定相続人でなければ、遺言書の作成後に、結果的に推定相続人になったとしても問題ないとされます。
受遺者受遺者とは、遺言によって財産を受け取る人のことです。配偶者は、妻や夫のことです。
直系血族直系血族とは、親子関係でつながる人のことで、祖父母、父母、子、孫などが、これに当たります。
公証人3の公証人とは、事実の存否や、契約や法律行為の適法性等について、証明したり認証したりする公務員のことです。
公証人は公正証書遺言の存在や内容を証明する手続を行いますが、同じく公正証書遺言の存在や内容を証明する証人が、公証人と関係がある人であることが許されるのであれば、公証人とは別に証人を求める意義が乏しくなってしまいます。
したがって、証人は、公証人と関係のある人(配偶者、四親等内の親族、書記及び使用人)ではいけません。
このような証人となることができない人が証人となっていた場合、遺言は無効になります。
また、証人となることができない人が証人としてではなく立ち会っていた場合は、このことだけで直ちに無効となるわけでなりませんが、その人によって、遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりした場合は無効となる可能性があります。
秘密証書遺言が無効になる場合
秘密証書遺言の場合も、自筆証書遺言と同様、次の場合に無効となる可能性があります。
- 署名がない
- 押印がない
秘密証書遺言独自の無効原因としては、遺言書本文に使用された印鑑と封筒にした押印の印鑑が異なっているケースがあります。
また、公正証書遺言と同様、証人になれない人が証人となっていたり、証人となることができない人が証人としてではなく、単に同席していたという場合であっても、そのことによって遺言の内容が左右されたり、遺言者が自己の真意に基づいて遺言をすることを妨げられたりした場合は、無効となる可能性があります。
遺言内容の一部が無効となるケース
遺言書自体は有効でも、遺言内容の一部が無効となるケースもあります。自筆証書遺言と秘密証書遺言の場合では、次のような場合に、遺言内容の一部が無効となることがあります。
- 変更が所定の方式にのっとられていない
- 表現が曖昧
以下、それぞれについて説明します。
訂正が所定の方式にのっとられていない
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合もそのやり方が厳格に決められています。
必ず、訂正した場所に押印をして正しい文字を記載したうえで、どこをどのように訂正したのかを余白等に記載して、その場所に署名しなければなりません。
具体的には、訂正したい箇所に二重線等を引き、二重線の上に押印しその横に正しい文字を記載します。そして遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする、ということになります。
なお、「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用する場合は、この問題が生じることは基本的にはありません。
表現が曖昧
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるように記載する必要があります。
記載の内容が曖昧であったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときには、遺言者は既に亡くなっているので、その意味を遺言者本人に確認することはできません。
遺言書の無効があいまいなケース
遺言書が無効かどうがの判断が難しいケースについて見ていきましょう。
全財産を一人に取得させる遺言書は無効?
全財産を一人に取得させる遺言書でも無効ではありません。ただし、遺留分侵害額請求ができる場合があります。
勝手に開封された遺言書は無効?
自筆証書遺言書(「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用しない場合に限ります)と秘密証書遺言書は、遺言書の検認が済むまでは開封してはならないことになっていますが、開封しても無効にはなりません。ただし、5万円以下の過料(行政罰)に処せられることがあります。
遺言書の無効を申し立てる方法
遺言の無効について当事者間で争いがある場合、当事者間の話し合いで決着すればよいですが、話し合いで決着しない場合は、裁判所に遺言無効確認調停か遺言無効確認訴訟の申立てをします。
申立てを行う場所
調停の場合は相手方の住所地を管轄する家庭裁判所または当事者の合意で定めた家庭裁判所に、訴訟の場合は亡くなった人の最後の住所地もしくは被告の住所地を管轄する地方裁判所又は当事者の合意で定めた地方裁判所に申立てをします(訴額(原告が訴えで主張する利益を金銭に見積もった額)が140万円以下の場合は、地方裁判所ではなく簡易裁判所に申立てをすることもできます)。
調停とは?
調停は、家庭裁判所の調停委員会(裁判官1名と調停委員2名で構成)が、当事者に対して解決のための助言や説得をして、合意を目指して話合いを進める手続です。
原則としては訴訟の前に調停の申立てをしなければならないことになっていますが(「調停前置主義」といいます)、遺言が有効か無効かを争っている場合、1か0かの決着になるので、お互い歩み寄って合意に至るということが難しく、あまり調停向きではありません。
したがって遺言の無効が争点のケースでは、調停を経ずに訴訟を提起することが多いです。ただし訴訟を提起しても、裁判官が調停による解決の見込みがあると判断した場合は、調停に付されます。
訴訟の流れ
訴訟では、当事者による事実関係の主張と、その主張を裏付ける証拠の取り調べというかたちで審理が進みます。
提訴から判決までの期間は、事案によってまちまちですが、大体1年くらいはかかります。
そして、第一審の判決に不服がある場合は、上級裁判所に控訴することができ、控訴審に判決に不服がある場合は、さらに上告することができます。
なお、この申し立てに時効はありません。亡くなってから何年経っても申し立て可能です。
関係者全員の同意があれば遺言書は無視できる
遺言書があっても、相続人、受遺者(遺言によって財産をもらい受ける人)、遺言執行者全員の同意があれば、遺言と異なる遺産分割が可能です。
なお遺言執行者の同意については、必要という説と、不要という説があります。
よくある質問
以上、遺言書が無効となる場合とその申し立て方法について説明しました。最後にまとめとして、よくある質問とその回答を示します。
遺言書が無効となる場合は?
遺言の種類にかかわらず無効となるのは、次のように遺言者に遺言能力がないケースです。
- 遺言者が15歳未満
- 遺言者が認知症等で意思能力がない
また、自筆証書遺言書では、次の場合に無効となる可能性があります。
- 自書でない箇所がある
- 日付がない
- 署名がない
- 押印がない
認知症の人がした遺言の有効性を判断するポイントは?
認知症の人がした遺言が有効かどうかは、主に次の要素から判断されます。
- 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
- 遺言内容それ自体の複雑性
- 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者(遺言によって財産をもらい受ける人)との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
全財産を一人に取得させる遺言書は無効?
全財産を一人に取得させる遺言書でも無効ではありません。ただし、遺留分侵害額請求ができる場合があります。
勝手に開封された遺言書は無効?
自筆証書遺言書(「法務局における自筆証書遺言書保管制度」を利用しない場合に限ります)と秘密証書遺言書は、遺言書の検認が済むまでは開封してはならないことになっています。しかし開封しても無効にはなりません。ただし、5万円以下の過料(行政罰)に処せられることがあります。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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