自筆証書遺言の正しい書き方と文例。無効にならないポイント、要件と法改正【行政書士監修】
自筆証書遺言は、2019年の法改正により簡単に作れるようになったことをご存知でしょうか。しかし、作り方が変わっても、自筆証書遺言は正しく書かないと法的に認められないことに変わりません。
この記事では、自分で書く遺言書が無効にならないためのポイントについてわかりやすく丁寧に解説します。そのあとに遺言書の具体的な文例にについて説明しますので、是非参考にしてください。
まず始めに遺言書の種類と遺言書にはどんな法的効力があるのかを簡単に説明していきます。
- 自分で書く遺言「自筆証書遺言」には細かい決まりがある
- 遺言は具体的かつ正確に記載する(記事中にケース別の文例有り)
- 特定の人に財産を遺贈するなら相続人の遺留分に配慮
この記事の監修者
〈行政書士、社会保険労務士、宅地建物取引士、CFP®、不動産コンサルティングマスター〉
相続・相続対策の専門家として、相続手続きの総合的なご支援はもちろん、遺言書の作成などの相続対策もお客様と共に考え、アドバイスをさせていただきます。また、後見や財産管理、民事(家族)信託などもお気軽にご相談ください。
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遺言の種類
自筆証書遺言と公正証書遺言、秘密証書遺言です。主に利用されているのは、自筆証書遺言と公正証書遺言です。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、遺言書を自分で書いて作成する方式です。
メリットは、自宅などで簡単に作ることができ、費用もあまりかかりません。
デメリットは、作り方のルールを間違えると無効になるおそれや、遺言書の存在を誰にも伝えていなければ、見つけてもらえない心配もあります。
2019年の法改正により、「財産目録」については自書(自ら書くことをいいます。)をしなくてもよくなり、法務局における遺言書の保管制度もスタートしていますので、自筆証書遺言は利用しやすくなっています。
自筆証書遺言をつくる場合には、遺言者(遺言書を書く人)が、遺言書の全文、日付及び氏名を自書して、これに印を押さなければならない、というルールが定めてられていました。
このルールが、平成31年1月13日から改正され、同日以降に自筆証書遺言を作る場合には、新しいルールで遺言書を作成することができるようになりました。
法改正後の新しいルールとは?
遺言書を作られる方はご高齢の方が多いため、遺言書の内容が複雑であったり、対象とする財産の数が多かったりするときは、書くこと自体が負担となって自筆の遺言書が敬遠される一因ともなっていました。
今回の改正では、その負担を軽減するために、添付する目録について、以下のような新ルールも認められることとなりました。
- 相続財産の目録をパソコンで作成すること
- 通帳のコピーや不動産謄本の写しなど、自書によらない書面を添付すること
ただし、目録のページごとに「遺言者が署名し押印」する必要があります。
特定の財産を特定の人に相続させる場合には、これまでは、預金であれば銀行名や預金種類、口座番号、不動産の場合は所在地や面積などの情報をこと細かに記載する必要がありました。しかし、今回の改正により、これらの負担が軽減されることになりましたので、自筆証書遺言は、以前に比べて簡単作れるようになっています。
なお、2020年7月10日から法務局における遺言書の保管等に関する法律が施行され、法務局における自筆証書遺言の保管制度が始まり、さらに利便性が高まりました。
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で公証人に遺言書を作成してもらってする遺言のことです。
メリットは公証人が遺言書を作成してくれるので、形式不備等で無効になることがほとんどなく、また、作成後、遺言書原本を公証役場で保管してくれるので、遺言を紛失したり変造されたりするおそれがありません。
一方デメリットは公証人手数料がかかること、準備する資料が多く、証人が必要であるなど手間がかかることです。
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書を作成したあと、公証役場で公証人と証人2人以上に遺言書の「存在」の証明をしてもらう遺言のことです。
メリットは本人以外内容を見ることができないので、遺言内容を「秘密」にすることができること、パソコンでの作成や、代筆してもらうことができること、遺言書の存在を記録しておけることなどです。
デメリットは手数料がかかる、公証人と2人の証人が必要、内容は本人しか見てないため不備に気付けず無効になるおそれがある、などです。
遺言の法的拘束力
遺言には法的拘束力のある内容と、法的拘束力のない内容が分かれています。法的拘束力のある内容は以下の4つです。
- 財産に関する事項
- 身分に関する事項
- 遺言執行に関する事項
- その他の事項
その他の事項とは、お墓や仏壇等を引き継ぐ祭祀承継者の指定、生命保険金の受取人の指定・変更、遺言の全部又は一部の撤回などです。
法的拘束力のない内容とは、例えばどんな葬式をしてほしいかという要望や、残された人への感謝の言葉などですが、付言事項という部分に書くことができます。
自筆証書遺言は決められたルールを守って作る
例えば、自筆証書遺言では、パソコンやワープロで作成したもの、代筆してもらったものは無効となります。
昨今手軽になった音声やビデオなどの録音録画も遺言としては無効です。 つまり「要件」を守って作らないと、せっかく書いた遺言書が法律的に無効になってしまいます。 ここからは自筆証書遺言を作成するときの守るべき要件について、「遺言者についての要件」と「遺言書についての要件」に分けて説明していきます。遺言者についての要件
遺言の要件として、遺言者に遺言能力があることが求められます。遺言能力を持たない人のした遺言には、遺言の効果が生じません。
遺言時に15歳以上であること
15歳以上であれば、未成年であっても、法定代理人の同意なく遺言を作ることができますが、15歳未満の人が作る遺言は、親権者等の法定代理人の同意の有無にかかわらず無効です。
遺言時に意思能力があること
認知症などで意思能力(遺言能力)がない場合も遺言自体が無効になります。
意思能力とは、自己の行為の結果を判断することのできる能力であり、意思能力があるといえるには、一般的には7〜10歳程度の知力があれば足りるとされますが、あくまで当該行為者について個別具体的に判断されます。
つまり、認知症を発症しているからといって、必ず遺言を書く能力がないと判断されるわけではないのです。
それでは、具体的に、どの程度の認知症から遺言が無効になってしまうのでしょうか。 成年被後見人ではない認知症の人の場合は主に次の要素から判断されます。
- 遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
- 遺言内容それ自体の複雑性
- 遺言の動機・理由、遺言者と相続人又は受遺者との人的関係・交際状況、遺言に至る経緯
遺言時における遺言者の精神上の障害の存否、内容及び程度
「精神医学的観点」「行動観察的観点」の2点から判断されます。 精神医学的観点から認知症患者の遺言能力の有無を判断する指標として、以下の長谷川式スケールの点数が重視されています。
長谷川式認知症スケール(HDS-R)はこの図のように、9つの設問から構成されています。日付や時刻、場所、人の名前など自身の状況を理解する見当識という能力を問う設問。あとは注意力、記憶力などを確認する設問です。点数によって認知症の可能性を判断していきます。
▶長谷川式スケールをもっと詳しく知りたい方は「改訂長谷川式認知症スケールとは?点数配分や検査の注意点を解説」を参照してください。
20点以上 | 異常なし |
---|---|
16〜19点 | 認知症の疑いあり |
11〜15点 | 中程度の認知症 |
5〜10点 | やや高度の認知症 |
4点以下 | 高度の認知症 |
長谷川式スケールから判断される大まかな目安として15点以下の場合は遺言能力に疑いが生じ、10点以下の場合は遺言能力がないとする見解もありますが、遺言能力の有無の判断は精神医学的観点のみから行われるものではなく、裁判例でも4点で遺言が有効となったものから、15点で無効となったものまで様々です。
認知症による障害の程度が大きくても遺言内容が単純であれば遺言能力が認められやすくなりますし、反対に、障害の程度が小さくても遺言内容が複雑であれば遺言能力は認められにくくなります。
例えば、親族や同居人を差し置いて、親戚関係も、深い付き合いもない人に全財産を遺贈(遺言によって財産を贈ること)しているような遺言であれば、このような遺言をする動機や理由がなく、遺言に至る経緯も不自然であるので、遺言能力があったことに疑問が生じるでしょう。
なお、行動観察的観点からは、医療記録、看護記録、介護記録や、それらの作成者等の供述等から知ることができる遺言者の当時の行動等によって遺言能力の有無が判断されます。
遺言書についての要件
遺言書についての要件には、遺言書全体の成立にかかわる要件と、その箇所の有効性に対する要件があるので、それぞれに分けて説明します。
遺言書の成立にかかわる要件
遺言書全体の成立にかかわる要件には、次のものがあります。
- 財産目録以外の本文は全文自書であること
- 作成した日付があること
- 署名があること
- 押印があること
以下、それぞれについて説明します。
財産目録以外の本文は全文自書であること
自筆証書遺言は、全文、日付および氏名を自書(手書き)しなくてはなりません。
遺言書の財産目録以外の部分、「どの遺産をだれに相続させるのか」といったような、ご自身の意思や遺産分割の方針にかかわる、いわゆる「本文」については、誰かに代筆してもらったり、パソコンなどで全文を作成して氏名だけ自書したようなものは無効になります。
遺言を記載する紙や筆記用具については特に法律による定めはありませんが、鉛筆やシャープペンシル等の消えやすいものは、改ざん(書換え)のおそれがあるため避けましょう。
また、ボールペンの場合は水性よりも油性の方が、万が一、水に濡れてしまった場合にも滲みにくいのでお勧めです。ボールペンでも消えるボールペンは避けましょう。
万年筆の場合は、顔料インクが滲みにくく色褪せにくいと言われています。
紙についても、極端な話、メモ帳の切れ端やチラシの裏に書いても有効ですが、破損のリスクがあるので、確実に残すためにはある程度の強度のある紙に記すべきでしょう。
なお、財産目録を遺言書に添付することができますが、2020年からは財産目録についてはパソコンで作成することが認められ、また、預貯金の通帳や不動産の登記簿謄本のコピーを添付することもできるようになりました。
作成した日付があること
自筆証書遺言には、必ず作成日を記載しなければなりません。
そして、この日付も「自書」しなければならないので、スタンプ等を利用すると無効になってしまいます。
また、「平成〇〇年〇月吉日」というような書き方も作成日が特定できず無効となってしまうので、必ず年月日をきちんと記載することが大切です。
署名があること
自筆証書遺言には、遺言者が必ず氏名を自書しなければなりません。
署名をするのは必ず遺言者1名のみとされており、夫婦2人で、など、共同で遺言をすることはできないので注意が必要です。
押印があること
全文、日付、氏名の自書に加えて、押印することが要件とされています。
ここで使う印は、実印でなくても構いません。
認印でも、拇印や指印でもよいことになっていますが、印面がゴム製のシャチハタなどは変形しやすいため念のため避けたほうがよいでしょう。
有効性にかかわる要件
有効性にかかわる要件には次の2つがあります。
- 所定の方式で変更されていること
- 遺言の趣旨が解釈可能であること
所定の方式で変更されていること
自筆証書遺言の記載内容を訂正する場合もそのやり方が厳格に決められています。
必ず、訂正した場所に押印をして正しい文字を記載した上で、どこをどのように訂正したのかを余白等に記載してその場所に署名しなければなりません。
具体的には、訂正したい箇所に二重線等を引き、二重線の上に押印し、その横に正しい文字を記載します。そして、遺言書の末尾などに、「〇行目〇文字削除〇文字追加」と自書で追記して署名をする、ということになります。
このように、訂正方法もかなり厳格なので、万が一、遺言書を訂正したいときはできる限り初めから書き直した方がよいでしょう(訂正前のものは無用な混乱を避けるため必ず破棄するようにしましょう)。
遺言の趣旨が解釈可能であること
遺言書の内容は、遺言者が亡くなった後に他人が読んで明確に意味がわかるように記載する必要があります。
記載の内容が曖昧であったり、誤記があったりした場合、遺言書を開封したときには、遺言者は既に亡くなっているので、その意味を遺言者本人に確認することはできません。
裁判例においては、「遺言書に表明されている遺言者の意思を尊重して合理的にその趣旨を解釈すべきであるが,可能な限りこれを有効となるように解釈する」と判断されており、遺言書の内容に曖昧な部分や不明確な部分があっても、それだけで無効になるわけではありませんが、趣旨を解釈することが難しいくらい曖昧な記述については、効力が生じない可能性があります。
また、相続人間に無用なトラブルを生む可能性があるので、曖昧な表記等には気を付ける必要があります。
遺言書のケースごとの文例
遺言書の内容は、具体的かつ正確に記載する必要があります。
遺言の記載内容が曖昧であったり、不正確であったりすると、遺言の内容が特定できないのでは意味がありません。
たとえば、不動産なら登記簿謄本に基づいて所在、地番、地目、地積(建物の場合は所在、家屋番号、種類、構造、床面積)を、預貯金なら金融機関名、支店名、種類、口座番号、口座名義を正確に記載することが必要です。
このようなポイントを押さえながら、ケース毎に遺言書の文例を紹介します。
不動産を相続させる場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を遺言者の妻〇〇○○(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 記 所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目 地 番 ○番○ 地 目 宅地 地 積 ○○.○○ 所 在 東京都〇〇区〇町○丁目○番○ 家屋番号 ○番○ 種 類 居宅 構 造 木造スレート葺2階建 床 面 積 1階 ○○.○○ 2階 ○○.○○ |
車などの動産を相続させる場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は下記の自動車を長男〇〇〇〇(昭和○年○月○日生)に相続させる。 記 登録番号: 品川〇〇と〇〇〇〇 種 別: 普通 用 途: 自家用 車 名: 〇〇〇〇 型 式: 〇〇〇〇 車台番号: 〇〇〇〇〇〇 |
株券などの有価証券を相続させる場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、〇〇証券○○支店に預託している株式、公社債、投資信託、預け金その他の預託財産の全て及びこれに関する未収配当金その他の一切の権利を、遺言者の妻〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)に相続させる。 第★条 遺言者は○○証券○○支店に預託している下記株式を長男〇〇〇〇(昭和○年○月○日生)と次男〇〇〇〇(昭和○年○月○日生)に下記のように相続させる。 長男○○ □□□□株式会社 5万株 次男○○ 株式会社□□□ 3万株 |
相続人以外の者に遺贈する場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は下記の財産を〇〇〇〇(住所:神奈川県〇〇市〇〇町〇丁目〇ー〇、生年月日:昭和○年○月○日生)に遺贈する。 記 〇〇銀行〇〇支店 口座種別 普通預金 口座番号 〇〇〇〇〇〇 口座名義 ○○○○ |
祭祀承継者を指定する場合
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は遺言者及び祖先の祭祀を主宰すべき者として長男〇〇〇〇(昭和○○年○月○日生)を指定する。 |
予備的遺言をする場合
予備的遺言とは、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡した場合に備えた遺言のことです。
特定の相続人に全部または主要な財産を相続させるという内容の遺言をすることは珍しくありません。例えば、相続人が長男A(子供あり)、二男B(子供なし)、三男C(子供なし)の3人の場合に「長男に100万円を相続させる」といった遺言をする場合などです。
このような場合、もし長男が遺言者より先に死亡したとすると、遺言の効力はどうなるでしょうか。長男の子供に代襲相続されるのでしょうか。
相続させる者とされた推定相続人が、被相続人(遺言者)の死亡以前に死亡した場合は、特段の事情がない限り、遺言のうち、その推定相続人に相続させるとした部分の効力が生じないことになります。
つまり、このケースの場合は、長男に相続させるはずだった100万円は、長男の子どもではなく、二男、三男で遺産分割して相続することになります。
したがって、推定相続人が死亡した場合に誰に財産を取得させるかについて希望がある場合には、予備的遺言をすることが望ましいと言えます。
予備的遺言をする場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は、遺言者の長男〇〇〇〇(昭和〇年〇月〇日生)が遺言者の死亡前又は遺言者と同時に死亡したときは、第○条に定める長男〇〇〇〇に相続させるとした財産は、遺言者の長男の子供〇〇△△(平成〇年〇月〇日生)に相続させる。 |
遺言執行者を指定する場合
遺言執行者とは、遺言の内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
次の場合は遺言執行者が必要です。
- 遺言で子の認知がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除がされた場合
- 遺言で推定相続人の廃除の取消しがされた場合
- 不動産の遺贈を受けたが、そもそも相続人がいない場合、又は、相続人が所有権移転登記に協力しない場合
これらに当てはまらない場合は、遺言執行者を特段に定める必要はありません。
しかし、相続手続きの知識のない相続人や受遺者自らが、遺言の内容を実現する手続きを進めることは煩雑で大変です。
相続の手続きでは、相続人と受遺者全員の署名、押印と印鑑証明が必要になるケースも多数あり、都度相続人全員に連絡して、署名などを集めるのは、想像以上に時間も手間もかかります。
その点、遺言執行者は、単独で相続手続きを行うことができるので、スムーズに進めることができます。
また、相続人や受遺者が単独で行うことができる手続きもありますが、一部の相続人や受遺者が勝手な手続きをしてしまうリスクもありますので、遺言執行者が必須でないケースでも遺言執行者を選定した方が、手続きが安全かつスムーズに進むでしょう。
遺言執行者の指定する場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 遺言者は本遺言の執行者として下記の者を指定する。 記 (事務所) 東京都〇〇区〇〇▲−▲−▲ (職業) 弁護士 (氏名) 〇〇〇〇 (生年月日)昭和○年〇月〇日 |
付言事項を書く場合
遺言には、法定遺言事項以外のことを書くこともできます。
これを付言事項と言い、次のようなものがあります。
- 葬儀の方法等についての指定
- 特定の人の面倒を見るように依頼するもの
- 特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
付言事項は法的な効力はありませんが、遺言者が遺言をした真意を知る材料になりますし、付言事項の内容や遺言者と相続人の人間関係次第では、法的効力がなくても相続人が故人の遺志を守ることを期待できる場合もあるので、書く意義は十分にあります。
以下では、それぞれについて説明していきます。
葬儀の方法等についての指定
特定の宗教による葬儀の希望、葬儀をしない、あるいはできる限り簡素なものにするなど、葬儀の方法等について指定するものです。
特定の人の面倒を見るように依頼するもの
遺言者が子らに対し、子らが協力して遺言者の妻の面倒を見るようにと依頼したり、子の1人に対して、他の子の面倒を見るようにと依頼したりする場合があります。
特定の人への感謝や遺言をする理由を述べるもの
妻に長年の内助の功を感謝する言葉を述べるなどの場合です。
また、さきほど述べた遺留分との関係で、特定の相続人の貢献が大きいことからその者に全ての財産を譲ることにしたので、他の相続人は遺留分減殺請求をしないようにというように、遺言をした動機など遺言者の心情を述べることもあります。
付言事項の文例
付言事項を書く場合の遺言書の書き方については、以下の文例を参考にしてください。
遺言書 遺言者〇〇〇〇は、次の通り遺言する。 第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 第★条 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ (付言事項) 病気の私のために最後まで尽くしてくれた〇〇には大変感謝しています。 また、長男の嫁である○○さんには、私の介護をお願いさせることになり大変な負担と苦労をおかけしました。 その苦労に報いるためにも、先に記載したとおりに遺産を遺贈したいと思います。 他の兄弟にも言い分はあるかもしれませんが、この遺言内容で兄弟同士で争うことなく、仲良く暮らしていってくれることを切に願います。 私が死んだ後の葬儀は、葬式や告別式などは行わずに質素に済ませて下さい。 身内だけでおこなうことが私の強い希望なので、葬儀の方法で家族で揉めることがないようにお願いします。 私は、皆が笑顔で私を送ってくれるのを切に望んでいます。 今までお世話になりました、本当にありがとう。 |
遺産の配分を遺言するときは遺留分を配慮する
遺留分とは、一定の相続人(遺留分権利者)について、被相続人(亡くなった人)の財産から法律上取得することが保障されている最低限の取り分のことで、被相続人の生前の贈与又は遺贈(遺言によって財産を取得させること)によっても奪われることのないものです。
遺留分を侵害された人は、贈与や遺贈を受けた人に対し、遺留分侵害額請求することができます。
遺留分が遺言よりも優先されるとはいえ、遺留分を侵害する遺言が無効になるわけではありません。
つまり、遺言自体は有効であって遺言の内容に沿って遺産が承継されるものの、遺留分侵害額請求があれば、侵害額を弁済することになります。
なお、遺留分は権利なので、遺留分が侵害されているときに必ずしも遺留分侵害額を請求しなければならないわけではありません。
請求するかしないかは、遺留分権利者の自由なのです。
このように、相続人が遺留分を巡って争いになることを避けるために、遺言作成時に次のような方法をとることが考えられます。
- 遺留分を侵害しない内容にする
- なぜ偏った内容なのかを付言事項で説明する
- 遺留分の放棄を求める
遺留分を侵害しない内容にする
遺留分を侵害しない内容については相続の順位や相続割合などの知識が必要なのでこちらの記事「相続人が必ずもらえる遺留分|計算方法と侵害された時の対処法、遺言書での注意点【弁護士監修】」を参照してください。
付言事項を利用する
遺留分減殺請求がされないように、遺言書の付言事項を記載するという対策があります。
先述のとおり遺言には、法定遺言事項以外のことを書くこともでき、それを付言事項と言います。
付言事項で、遺言の内容の趣旨を説明することで、遺留分侵害額請求を思い留まってもらえる可能性があります。
多くの割合の財産を特定の人に遺贈や贈与する事情、例えば、障害があって収入を得ることが難しいからとか、献身的に介護してくれたからとか、家業を継ぐからとか、それぞれ事情を遺留分権利者に伝わるように遺言にしたためるのもよいでしょう。
勿論、遺言だけではなく、遺留分権利者に生前から話をしておくことで、事情を汲んでもらえる可能性が高まるでしょう。
また、遺贈の対象外の遺留分権利者に生前贈与をしている場合は、その旨を付言事項に記しておくと生前贈与分を考慮せずに遺留分侵害額請求がなされてしまうことを予防できるでしょう。
遺留分の放棄を求める
遺留分の放棄とは、遺留分侵害額請求をする権利を放棄することを言い、遺留分の放棄をするとその人は、遺留分侵害額請求をする権利を失います。
一定の相続人(遺留分権利者)に遺留分を放棄させるには、本人に放棄を心底納得してもらうことが大切です。
納得してもらうためには、「放棄することの合理性や必要性」を説いたうえで、「放棄の見返りとして十分な財産を贈与する」ことなどが必要になる場合もあるでしょう。
遺留分の放棄は、申立てができる時期は、相続開始前(被相続人の生前)に限られ、家庭裁判所に遺留分放棄の許可を申立て、これが認容されると行うことができます。
なお、相続開始後(被相続人の死後)に遺留分を放棄したい場合の手続きはなく、遺留分減殺請求権を時効成立前までに行使しないことによって権利は消滅しますし(遺留分権利者が相続の開始及び遺留分を侵害する贈与又は遺贈があったことを知った時から1年間行使しないときは時効によって消滅します。相続開始の時から10年を経過したときも同様です。)、また、遺留分を侵害する内容の遺産分割であっても相続人全員が同意していれば有効です。
家庭裁判所は次のような要素を考慮して、遺留分の放棄を許可するかどうかを判断します。
- 放棄が本人の自由意思によるものであるかどうか
- 放棄の理由に合理性と必要性があるかどうか
- 放棄の代償があるかどうか
遺留分の放棄は、本人の自由意思に基づいて申し立てられなければ許可されません。
無理やり申立てさせたところで、裁判所にそれを見抜かれて、却下されてしまう可能性が高いと思われます。
遺言書の書式
先述の通り、自筆証書遺言の場合は、パソコンで作成した遺言書は無効です。
パソコンを使い慣れている人は、パソコンで遺言書に書く内容を作成してから、手書きで清書した方が効率がよいでしょう。
パソコンで作成する下書きの雛形を紹介します。
以下のリンクからダウンロードして利用してください。
なお、この雛形は次のような事例を想定して作成されています。
- 遺言者の法定相続人は、妻乙と長男丙、長女丁の3人である。
- 遺言者は会社(非上場)経営者であるが、高齢のため現在は長男丙が事実上経営を任されている。
- 長女丁には、これまで結婚資金のほか、マイホームの購入資金等の援助をしてきた。
- 遺言者は、経営の安定のため、保有する自分の会社の株式を全て長男丙に譲りたいと考えている。
- それ以外の財産については、長女丁にはこれまで十分な生前贈与をしてきたので、最低限の財産のみを相続させ、それ以外の財産は妻乙の長年の内助の功に報いるため、妻に残したいと考えている。
まとめ
以上、自筆証書遺言の書き方について説明しました。遺言書作成の際は、相続の専門家に相談のうえ、作成することをお勧めします。
相続のお困りごとは「いい相続」へ、お気軽にご相談ください。無料相談の流れはこちらへ。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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