遺言書作成は誰に依頼する?税理士、行政書士、司法書士、弁護士の得意分野と費用の目安【行政書士監修】
「遺言書を作ろう」と思い立ったとき、つねに念頭に置いておきたいのは「立つ鳥跡を濁さず」ということ。遺言には、「民法で定められた相続分(法定相続分)より優先される」という大原則があり、遺産相続において、遺言者本人の意思を遺族に伝える最良の手段と言えるでしょう。
ただし、民法で定められた方式に従っていないなどの不備があれば、法的効力を失うこともありますので、遺言が確実に執行される遺言書を作成するには、専門家の助言が大きな助けになります。その際、それなりの費用がかかるということは言うまでもありません。
相続手続きに信頼のおける専門家としては、国家資格者である弁護士、司法書士、行政書士、税理士などが挙げられますが、遺言書作成サービスについて言えば、どの専門家にアドバイスを依頼するかによって、費用はかなり違ってきます。そこで、専門家ごとの守備範囲を把握し、自身のケースに合わせて遺言書の作成費用を見積もってみましょう。
この記事の監修者
行政書士法人で勤務後、2018年5月に「のばら行政書士事務所」を開業。相続手続き、遺言書作成支援、許認可申請手続き等を行う。憂いのない相続にするための、終活やエンディングノートについてのセミナー講師実績多数。
▶ のばら行政書士事務所
目次
専門家の助けがあれば、無効とならない確実な遺言書を作成できる
遺言書を作成するにあたり、専門家の手を借りる何よりのメリットは、遺言を確実に執行できる遺言書を作ることができるということ。
自筆証書遺言の場合、最終的に遺言書を自書(手書き)するのは遺言者本人になりますが、専門家に下書きを見せればその文面で良いのかをチェックしてくれますし、「どんなことを書けばいいのかわからない」という人の場合でも、定型文の用紙に自分の情報を記入するだけで文例を作ってくれるケースもあります。ただし、専門家には取得している資格に応じて得意なこと、不得意なことがあって、自分が書きたいと思っている遺言内容に合わせて専門家を選ぶと良いでしょう。
遺言書作成を依頼できる専門家を簡単に比べると、以下の通りです。
相続税のことで遺族に負担をかけたくない人は「税理士」へ
税理士は、納税者にかわり、税務書類の作成や税金の申告などの実務を行う専門家です。
2015年の税制改正により、20年以上も据え置かれていた相続税の基礎控除(税金から一律に差し引かれる額)が引き下げられたことで、相続税が課税される人はそれ以前の2倍程度に増えたといいます。
例えば、標準世帯と言われる夫婦2人と子ども2人世帯で夫が亡くなった場合、基礎控除の額は8,000万円で、相続財産がそれ以下の場合は相続税がかかりませんでしたが、2015年からこの水準が4,800万円に下がりました。
相続税や贈与税の計算、申告、納税などの作業を税理士に依頼すれば、相続人の負担はかなり軽くなるでしょう。ただ、税理士に遺言書の作成を依頼するということはあまりメジャーではないようです。税理士に相談する際に遺言書作成のサポートをお願いできるか、確認してみましょう。
遺言書作成費用をできるだけ抑えたい人は「行政書士」へ
行政書士は、官公署に提出する許認可等の申請書類を作成・提出したり、事実証明や契約書の作成業務などを行う専門家です。もちろん、一定の法律知識があり、遺言書作成を依頼することもできます。
行政書士に遺言書作成を依頼するメリットは、ほかの専門家と比べて比較的少ない費用で業務を行っているということ。
ただ、相続人が大勢いて、財産の分割方法が複雑になる場合などは、行政書士では扱えないケースもあるので事前に相談してみると良いでしょう。
相続財産に不動産が含まれている人は「司法書士」へ
司法書士は、「国民の権利の擁護と公正な社会の実現」を使命として(司法書士倫理)、法務局や裁判所、検察庁などに提出する書類の作成など、多岐に渡る業務を行っている専門家です。
中でも専門性を発揮するのが、登記手続きの代行です。もし、相続財産に不動産が含まれていて、名義変更登記を行う必要がある場合、司法書士への依頼が必要となります。遺言書に不動産について記載する際には司法書士に相談すると良いでしょう。
なお、国税庁が公表するデータによると、平成30年分の相続財産のうち、土地と家屋が占める割合は30%となっていて(令和元年12月「平成30年分の相続税の申告状況について/付表3:相続財産の金額の構成比の推移」より)、司法書士はそのほとんどに関わっていることになります。
相続トラブルの可能性が少しでもある人は「弁護士」へ
弁護士は、民事・刑事の訴訟に関して活動する、もめ事や争い事解決の専門家です。相続をめぐって相続人の間で紛争が起こったとき、代理人として遺産分割交渉を進めてくれるのは弁護士のみで、ほかの専門家にそのような依頼をしても断られるケースがほとんどです。
弁護士への報酬は、ほかの専門家と比較して最も高い金額になりますが、もし、相続トラブルが発生する可能性が少しでもあるなら、弁護士の助言を借りて遺言書を作成するほうが安心です。
専門家に遺言執行者や証人になってもらうこともできる
遺言執行者は、遺言を執行するための遺産の管理や処分に関するいっさいの権利と義務を持つ人のことで、遺言によって指定されます。※遺言者死亡後に、家庭裁判所にて遺言執行者を選任してもらうことも可能です。
遺言で「子どもの認知」や「相続人の廃除・廃除の取り消し」を行う場合は、遺言執行者の指定は必須ですが、それ以外のケースでも、遺言執行者を指定しておけば遺言が確実に執行される可能性が高くなります。
公正証書遺言、秘密証書遺言の証人を依頼する場合
また、公正証書遺言と秘密証書遺言を作成する際、公証人の前で2人以上の証人の立ち会いが必要になりますが、証人には、以下の欠格事由があります。
- 未成年者、被後見人、被保佐人
- 推定相続人、受遺者、推定相続人と受遺者の配偶者及び直系血族
- 公証人の配偶者と四親等以内の親族、書記、雇い人
もし、遺言者が証人を用意できなかった場合、遺言書作成に携わった専門家に依頼することもできます。その日当は、1人につき1万円以上(2人の場合は2万円以上)くらいが目安です。
また、証人を公証役場で紹介してもらうこともできますが、その際は専門家よりも割安になることもあります。例えば、都心に所在する某公証役場の場合、同じビルに法律事務所があり、そのスタッフに1人当たり5,000円の日当で依頼しているそうです。
遺言書の作成から執行まで、すべてを一貫して頼める「信託遺言」
銀行の中には、預金や貸付などの銀行業務と並行して、信託業務を行っている信託銀行があります。
弁護士並の高い費用がかかりますが、遺言書の作成から執行まで、すべてを一貫して行ってくれるというメリットがあります。
メインバンクが信託業務を行っていれば、気軽に相談できるので、経営者や資産家には向いている依頼先だと言えるでしょう。
専門家に遺言書作成を依頼した場合の報酬の目安
専門家に払う報酬について、見ていくことにしましょう。
以下は、一般的によく言われている各専門家の報酬の大まかな相場です。
- 税理士:10~50万円
- 行政書士:7~15万円
- 司法書士:7~15万円
- 弁護士:20~300万円
- 信託銀行:30~100万円
これらはあくまで「大まかな相場」なので、依頼する前に個々のホームページなどで公表されている料金体系を見るなど、確認しておきましょう。
例えば、以下は、東京都近郊で開業している司法書士事務所Aの料金表です。
(参考1)東京近郊/司法書士事務所Aの料金
- 相談料/80分8,000円(30分以内なら4,000円)
- 遺言書の文案チェック・作成指導(自筆証書・公正証書共通)/1万2,000円~
- 公正証書遺言作成(文案作成、公証人役場との日程調整等)/8万円~
- 死後事務委任契約書作成/5万円~
次に、千葉県で開業している司法書士事務所Bの料金表です。
こちらの事務所は、「遺言書作成のアドバイス」から「遺言の効力の確認」までをサポートしていて、相続財産ごとに以下の料金体系を設定しています。
(参考2)千葉県/司法書士事務所Bの料金
- 相続財産が5,000万円未満/料金6万8,000円~
- 相続財産が5,000万円以上1億円未満/料金11万8,000円~
- 相続財産が1億円以上2億円未満/料金16万8,000円~
- 相続財産が2億円以上/料金21万8,000円~
このように、同じ司法書士事務所でも、料金の設定の仕方や報酬額はさまざまです。
専門家報酬以外でかかる、公正証書遺言と秘密証書遺言の手数料
自筆証書遺言は、専門家の助けを借りずに行えば、費用は限りなくゼロに抑えられますが、公正証書遺言と秘密証書遺言の場合、公証役場に手数料を支払う必要があります。
公証人手数料は、財産の価額(客観的に評価された金額)に応じ、次のように定められています。公証人手数料令(法務省令)で定められたもので、全国一律です。
公証人手数料
相続財産の価額
相続財産の価額 | 手数料 |
---|---|
100万円以下 | 5,000円 |
~200万円以下 | 7,000円 |
~500万円以下 | 1万1,000円 |
~1,000万円以下 | 1万7,000円 |
~3,000万円以下 | 2万3,000円 |
~5,000万円以下 | 2万9,000円 |
~1億円以下 | 4万3,000円 |
~3億円以下 | 5,000万円ごとに1万3,000円加算 |
~10億円以下 | 5,000万円ごとに1万1,000円加算 |
10億円超 | 5,000万円ごとに8,000円加算 |
この基準を前提に、具体的に手数料を算出する際は、次のことに留意しなければなりません。
①相続財産の価額は、相続人、受遺者ごとに受けとる財産の価額を算出し、これを上記の基準に当てはめ、その価額に対応する手数料額を求め、これらの手数料額を合算して手数料の算出をします。
②「遺言加算」といって、全体の財産が1億円以下のときは、上記①によって算出された手数料額に、1万1,000円が加算されます。
例えば、「相続人が1人で相続財産5,000万円」のケースでは、「2万9,000円+1万1,000円」で、手数料は4万円となります。
「相続人が3人で相続財産が1人につき2,000万円」であれば、「2万3,000円×3人+1万1,000円」で、手数料は8万円になります。
③遺言書は通常、原本、正本、謄本を各1部作成し、原本は法律に基づき公証役場で保管し、正本と謄本は遺言者に交付しますが、原本についてはその枚数が法務省令で定める枚数の計算方法により4枚(法務省令で定める横書の証書では3枚)を超えるときは、超える1枚ごとに250円の手数料が加算されます。また、正本と謄本の交付にも1枚につき250円の割合の手数料が必要となります。
④公証人が、病院、自宅、老人ホームなどに赴いて公正証書を作成する場合、上記①の手数料が50%加算されます。
また、公証人の日当(4時間以内だと1万円、それ以上だと2万円)と、現地までの交通費(実費)がかかります。
⑤秘密証書遺言の手数料は、 1万1,000円です。
まとめ
以上、専門家の「遺言書作成サービス」の内容と、その費用について、公証役場の手数料について、見てきました。
「遺言書の作成費用はできる限り抑えたい」という人は、専門家の手を借りずに自筆証書遺言を作成することをお薦めしますが、法で定められた方式に則っていなかったりすると、せっかく苦労して書いた遺言書が無効とされることがあります。
また、税理士から行政書士、司法書士、弁護士など、相続を扱う専門家にはさまざまな人がいて、遺言内容に合わせて選ぶ必要があります。
同じ専門家でも、相続を得意とする事務所もあれば、相続業務をたまにしか行わない事務所もありますので、単に料金表だけで選ぶのではなく、法律にくわしい人にその評判を聞いたり、ホームページを見比べたりして依頼先を選びましょう。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
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