包括受遺者とは?特定受遺者との違いや種類ごとの遺言書の例文、包括遺贈の登記や税金まで全て解説【行政書士監修】
遺言を作成しようという人や、遺言によって遺産を取得する人が、遺言について調べていると「包括受遺者」という言葉を聞くことがあるでしょう。
しかし包括受遺者という言葉は、一般の方にとっては聞き慣れないですよね。
この記事では、遺言書を作る人、受け取る人が知っておくべき「包括受遺者」についてわかりやすく説明します。是非、参考にしてください。
この記事はこんな方におすすめ:
「遺言書の作成を考えている人」「遺言によって財産を受け取る可能性がある人」
この記事のポイント:
- 包括遺贈者が相続放棄するときは受遺者となったことを知った時から3か月以内に家庭裁判所に申立てをしなければならない
- 包括受遺者が不動産を取得したときは、登記をする必要がある
- 一般的に遺産を相続人が受け取る場合を「相続」、相続人以外の方が受け取る場合を「遺贈」として使い分けられている
この記事の監修者
〈行政書士〉
行政書士業務全般に携わり、特には、相続手続き、遺言書作成文案作成、外国人の入国手続きから、皆様の土地活用のお手伝いとして、農地転用や土地利用申請などを行っています。
▶柿澤行政書士事務所
目次
受遺者とは?遺贈とは?
包括受遺者について説明する前に、まず、「受遺者」と「遺贈」という言葉について説明します。
受遺者
受遺者とは、遺贈を受ける人のことです。受遺者は法定相続人である必要はなく、被相続人が「遺言書」を用意すれば自由に指定できます。
受遺者となるはずであった人が被相続人(亡くなった人)よりも先に亡くなっても、受遺者となるはずであった人の子が代襲して受遺者となることはありません。なお、受遺者には、包括受遺者と特定受遺者があります。
遺贈
遺贈とは、遺言によって財産を無償で譲与することです。
遺贈は、相続人に対してだけでなく、血縁関係のない誰にでもすることができます。法人に遺贈することもでき、法人も受遺者となることができます。
また遺贈は、遺言者の死亡の時から効力を生じます。遺言者の存命中には遺贈の効力は生じません。遺贈をする場合は、遺贈する旨を遺言書に記載します。
「相続させる」旨の遺言
相続人に遺言で財産を譲与したい場合は、遺贈のほか、「相続させる」という旨の遺言をする方法があります。
遺贈よりも相続させる旨の遺言の方が相続開始後の手続面において有利なので、相続人に対して遺言で財産を譲与する場合は、遺贈ではなく相続させる旨の遺言の方をおすすめします。
一方、相続人以外の人に対して遺言によって財産を譲与する場合、相続させる旨の遺言をすることはできません。したがって遺贈のみの選択肢となります。
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包括受遺者とは?
包括受遺者とは、遺贈の対象となる財産を特定せずに、積極財産(プラスの財産)も負債などの消極財産(マイナスの財産)も包括的に承継する遺贈(包括遺贈)を受けた人のことです。
包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有します。つまり、被相続人の権利義務を包括的に承継することから、包括受遺者は相続財産に対して相続人とともに遺産共有の状態となります。そのため債務も承継し、遺産分割に参加することになります。
包括受遺者になったときの注意点ですが、相続に関するトラブルは主に遺産分割協議で起こるので、包括受遺者になると望んでいない揉め事に巻き込まれるかもしれません。
法的には権利を主張することができますが、トラブルに発展する可能性は理解しておいたほうが良いでしょう。
遺贈の放棄
包括受遺者は相続人と同様、遺贈の放棄(相続人でいう「相続放棄」)、受遺分の譲渡(相続人でいう「相続分の譲渡」)、受遺分の放棄(相続人でいうところの相続分の放棄)ができます。 遺贈の放棄は原則3か月の熟慮期間内に家庭裁判所に申述しなければなりません。
包括遺贈を放棄した場合、その受遺分は各相続人が法定相続分に応じて相続権を取得します(他の包括受遺者の受遺分は増えません)。
なお、遺言の中で財産に対する一定の割合を示されていても、相続させる旨の遺言の場合は、包括遺贈ではなく、遺言による相続分の指定です(つまり遺贈ではなく相続です)。このほか、包括遺贈について、以下の点にご注意ください。
- 包括遺贈では寄与分や特別受益の規定の適用はない
- 包括受遺者は遺留分をもたない
特定受遺者とは?
特定遺贈とは特定の物や権利、あるいは一定額の金銭を与えるというように、財産を特定してする遺贈(割合で示されていない遺贈)をいいます。
特定受遺者はその特定された財産を取得することができますが、それ以外の財産を取得するものではなく、また、遺言にない債務を承継することもありません。
遺贈の放棄
特定遺贈を放棄する場合は、包括遺贈の場合のような家庭裁判所での手続きは不要で、相続人等の遺贈義務者に放棄の意思表示をすれば足ります。
放棄の期限は原則としてありませんが、利害関係人が十分な期間を定めて催告したときは、その期間内に放棄の意思表示しなければ承認したことになります。
また相続開始前に、被相続人が特定遺贈の対象財産を手放していた場合は、遺言のその部分については無効になります。なお、特定の財産について相続させる旨の遺言がなされた場合は、特定遺贈ではなく、「遺言による遺産分割方法の指定」です(つまり、遺贈ではなく相続となります)。
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包括遺贈と特定遺贈には、下表のような違いがあります。
包括遺贈 | 特定遺贈 | |
---|---|---|
遺贈される財産 | 一定割合の財産 | 特定の財産 |
遺言書作成時から相続開始までの間の財産の変容による影響 | 取得する割合に変わりはない | 被相続人が遺贈する財産を失った場合は、その部分について無効 |
相続債務 | 負う | 負わない |
放棄の方法 | 家庭裁判所に放棄の申述をする | 相続人等の遺贈義務者に放棄の意思を表示する |
放棄の期限 | 受遺者となったことを知った時から3か月以内 ※申立てにより伸長可能 | 原則として無期限 ※催告を受けたときは、その期限内 |
不動産取得税 | かからない | かかる |
包括受遺者の種類ごとの遺言書の例文
包括受遺者は、次の4つに分けることができます。
- 全部包括受遺者
- 割合的包括受遺者
- 特定財産を除いた財産についての包括受遺者
- 清算型包括受遺者
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全部包括受遺者
全部包括受遺者とは、消極財産も含めて全財産を包括した遺贈を受けた受遺者のことです。 例えば、「全財産を○○に遺贈する。」というような遺贈の受遺者がこれに当たります。
この場合、すべての財産を一人の受遺者が単独で取得するため、遺産分割を行う必要はありません。そのため遺贈を受けるか、それとも拒否するのかの選択となります。
全部包括遺贈の遺言書の例文
第○条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産を、次の者に遺贈する。 ○山○男(昭和○年○月○日生、○○県○○市○○町○丁目○番○号) |
割合的包括受遺者
割合的包括受遺者とは、全財産の割合的な一部を包括した遺贈を受けた受遺者のことで、一部包括受遺者ともいいます。
これは財産の一部について、割合に基づいて包括的な遺贈を受ける場合です。
つまり、全部ではないものの、債務などの消極財産(マイナスの財産)についても遺贈を受けています。
例えば、「全財産の3分の2を○○に、3分の1を××に遺贈する。」というような遺贈がこれに当たります。 この場合、割合的な一部を受け取った受遺者の中で遺産分割を行うことになります。
割的包括遺贈の遺言書の例文
第○条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産について、次の者に、次の割合で遺贈する。 ○山○男(昭和○年○月○日生、○○県○○市○○町○丁目○番○号) 5分の3 ○田○子(昭和○年○月○日生、○○県○○市○○町○丁目○番○号) 5分の2 |
なお、以下のように相続分の指定と割合的包括遺贈とを組み合わせることもできます。
第○条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産の5分の3を妻○田○子に相続させる。 第○条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産の5分の2を○山○男(昭和○年○月○日生、○○県○○市○○町○丁目○番○号)に遺贈する。 |
特定財産を除いた財産についての包括受遺者
特定財産を除いた財産についての包括受遺者とは、特定遺贈(対象となる財産を特定して行われる遺贈)と包括遺贈の両方を行う遺贈のうち、包括遺贈の部分の遺贈を受けた人のことです。
これは、財産を指定されない、かつ割合に基づかずに包括的な遺贈を受ける場合となります。
例えば、「○○県○○市○○町〇丁目〇番〇号の土地をAに、その余の財産のすべてをBに遺贈する。」というような遺贈におけるBに対する遺贈がこれに当たります。
この場合、特定財産を除いた財産の割合的な一部を受け取った受遺者が一人の場合は遺産分割を行う必要はありませんが、そのような受遺者が複数存在する場合には遺産分割協議を行うことになります。
なお、特定財産を除く遺産についての遺贈が包括遺贈に当たるかどうかについては、法律で決まっているわけではありません。東京地方裁判所の平成10年6月26日判決において、次のように判示されました。
「特定財産を除く相続財産(全部)」という形で範囲を示された財産の遺贈であっても、それが積極、消極財産を包括して承継させる趣旨のものであるときは、相続分に対応すべき割合が明示されていないとしても、包括遺贈に該当するものと解するのが相当である
したがって、特定財産を除く遺産についての遺贈も、積極、消極財産(プラスの財産と借金等のマイナスの財産)を包括して承継させる趣旨のものである場合は、包括遺贈に当たるとされます。
特例財産を除いた財産についての包括遺贈の遺言書の例文
第○条 遺言者は、遺言者の有する下記の不動産を長男○山○男(昭和○年○月○日生)に相続させる。 記 所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目 地 番 ○番○ 地 目 宅地 地 積 ○○.○○平方メートル 所 在 東京都〇〇区○〇町○丁目○番○ 家屋番号 ○番○ 種 類 居宅 構 造 木造スレート葺2階建 床 面 積 1階 ○○.○○平方メートル 2階 ○○.○○平方メートル 第○条 遺言者は、遺言者が有する財産のうち、前条に掲げる不動産を除くすべての財産を、○田○子(昭和○年○月○日生、○○県○○市○○町○丁目○番○号)に遺贈する。 |
清算型包括受遺者
清算型遺贈とは遺産を処分した処分金を受遺者に分配するものをいいますが。清算型遺贈の中でも、分配する割合を示して行うものを清算型包括遺贈といいます。
これは、被相続人の財産を売却・処分し、債務を解消したのちに、残った処分金を遺贈することです。
例えば、「下記の不動産を処分し、処分した代金の3分の2を甲に、3分の1を乙にそれぞれ遺贈する」というような遺贈がこれにあたります。
すべての遺産を対象とする場合や、上の例の様に、特定の遺産のみを対象とする場合があります。
清算型包括遺贈についての包括遺贈の遺言書の例文
第○条 遺言者は、遺言者の有するすべての財産を換価した上で、葬儀費用、遺言執行費用、売却手数料、不動産登記費用、不動産譲渡所得税等の費用及び負債を控除した残額を○山○男(昭和○年○月○日生、○○県○○市○○町○丁目○番○号)遺贈する。 |
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包括受遺者と相続人との違い
民法990条に「包括受遺者は、相続人と同一の権利義務を有する。」と定められています。したがって包括受遺者と相続人の違いはほとんどありません。
しかしいくつかの点で、包括受遺者と相続人とで扱いが異なるといえます。
- 代襲相続に相当するような代襲して遺贈を受ける制度はない
- 包括受遺者は寄与分や特別受益の規定の適用はない
- 包括受遺者は遺留分をもたない(相続人でも、すべての相続人に遺留分があるわけではありません)
- 相続不動産の登記を相続人は単独でできるが受遺者は単独でできない
- 相続人は相続不動産の登記前でも相続債権者に対抗できるが、受遺者は登記しなければ対抗できない
- 借地権や借家権について、相続した場合は賃貸人の承諾は不要だが、遺贈の場合は承諾が必要
全部包括受遺者が遺産の一部を法定相続人に譲る方法
全部包括受遺者は遺産の全部を取得することができますが、法定相続人から、「自宅だけは相続させてほしい」といったように、遺産の一部を相続させるよう求められることがあります。
このような求めに応じる義務は必ずしもありませんが、応じる場合に、全部包括受遺者と法定相続人との間で、遺産分割協議をすることが許されるのかという疑問が生じます。
この点については、法定相続人が全部包括受遺者と遺産分割協議をして遺産の一部を相続すること認められないと解されおり、全部包括受遺者が法定相続人に遺産の一部を譲りたい場合は、次の方法が考えられます。
- 全部包括受遺者が取得後に法定相続人に譲渡する
- 全部包括受遺者が受遺分の一部を法定相続人に譲渡する
- 法定相続人が全部包括受遺者に対して遺留分減殺請求をする
どの方法を取ったほうが良いかは税金面での問題もあるので、事前に相続税に詳しい税理士に相談することをおすすめします。
包括受遺者が遺産分割協議により取得した不動産の登記
全部包括遺贈
全部包括遺贈の場合は、遺産を一人の受遺者が単独で取得するので、遺贈を登記原因として、被相続人からその受遺者への所有権移転登記をします。
割合的包括遺贈
割合的包括遺贈の場合は、複数の受遺者がそれぞれの受遺分に応じた持分で遺産を共有するので、同じく遺贈を登記原因として、共有名義で登記します。
その後、遺産分割協議によって、受遺者の一人が単独で取得することになったときは、遺産分割を登記原因とした持分移転登記をします。
このとき、遺贈を登記原因とする共有名義での登記を省略することができるかという疑問が生じます。しかしこの点については、このような中間省略登記はできないと解されています。
また、割合的包括受遺者と相続人との間の共有状態を登記する場合は、先に遺贈による一部移転を、その後に相続による残部の移転を申請しなければなりません。
なお、このように割合的包括受遺者と相続人がいる場合において、共有状態の登記を省略して、遺産分割協議の結果、その不動産を取得することになった人に、直接、登記を移転できるかについては、受遺者が取得することになった場合は中間省略登記はできず、相続人が取得することになった場合は、中間省略登記が可能ということになります。
遺贈により取得した不動産の登記の手続き
遺贈を登記原因とした登記は、登記権利者と登記義務者が共同で申請しなければなりません。
このとき登記権利者は受遺者で、登記義務者は、遺言執行者が選任されている場合は遺言執行者であり、選任されていない場合は相続人全員です。 遺言執行者とは遺言内容を実現するために必要な手続きを行う人のことです。
登記申請書やその記入例については、法務局ホームページからダウンロードできます。遺言執行者がいる場合
- 遺言書(自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認済みのもの)
- 遺言者が死亡した記載のある戸籍謄本(除籍謄本)
- 遺言者の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 遺言執行者選任の審判書(家庭裁判所が選任した場合)
- 当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
- 遺言執行者の印鑑証明書(3ヶ月以内に発行したもの)
- 受遺者の住民票
- 固定資産税評価証明書または固定資産税の納税通知書
- 運転免許証、保険証などの身分証明書
遺言執行者がいない場合
- 遺言書(自筆証書遺言の場合は家庭裁判所で検認済みのもの)
- 遺言者が死亡した記載のある戸籍謄本(除籍謄本)
- 遺言者の住民票の除票もしくは戸籍の附票
- 相続人全員の戸籍謄本
- 当該不動産の登記済証もしくは登記識別情報
- 相続人全員の印鑑証明書(3ヶ月以内に発行したもの)
- 受遺者の住民票
- 固定資産税評価証明書または固定資産税の納税通知書
- 運転免許証、保険証などの身分証明書
包括受遺者にかかる税金
包括受遺者にかかる相続税
包括受遺者には、相続人と同様に相続税がかかります。包括受遺者の数は、相続税の基礎控除額の算定の基礎となる法定相続人の数に含まないので、ご注意ください。
包括受遺者にかかる登録免許税
登録免許税とは、不動産登記の際にかかる税です。 遺贈(包括遺贈でも特定遺贈でも)の場合の登録免許税は、「固定資産税評価額×2%」です。 ただし受遺者が法定相続人である場合には、0.4%に軽減されます。
包括受遺者には不動産取得税はかからない
不動産取得税とは、不動産を取得した場合にかかる税です。
ただし相続や包括遺贈の場合は、不動産取得税はかかりません。なお、特定遺贈の場合は、以下の不動産取得税がかかります。
- 土地及び住宅家屋:固定資産評価額×3%
- 事務所・店舗等の家屋:固定資産税評価額×4%
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この記事のポイントとまとめ
今回は、包括受遺者について説明しました。最後にこの記事のポイントをまとめます。
遺贈の対象となる財産を特定せずに、預貯金などのプラスの財産も負債などのマイナスの財産も包括的に承継する遺贈(包括遺贈)を受けた人を包括受遺者と言います。相続人とともに遺産共有の状態になるので、遺産分割協議に参加する必要もあり、相続人と同様に相続税がかかります。
遺言書で財産をどのように分けるかは、残された相続人や遺贈される人にとても重要な問題ので、きちんと理解しておきましょう。
また遺言書には自筆証書遺言書や公正証書遺言などいくつか作成の方式があります。そして遺言書に不備などがあると、希望通りに遺贈できない可能性も。遺言書の作成が不慣れな人は、専門家に相談してから作成することをおすすめします。
いい相続では相続に強い専門家をご紹介しています。相続に関して不安なことがあれば、お気軽にお問い合わせください。
▼実際に「いい相続」を利用して、専門家に相続手続きを依頼した方のインタビューはこちら
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