アパートの相続税対策、相続後の流れとアパート経営の注意点
本記事は、いい相続の姉妹サイト「遺産相続弁護士ガイド」で2020年11月25日に公開された記事を再編集したものです。
- 相続税対策としてアパートを建てることを検討している
- アパートを相続することになった(又は、いずれ相続することになる)
この記事は、以上のような方を対象に、アパートによる相続税対策と、アパートを相続した後の流れ、それから、アパート経営の注意点等の重要な知識について、わかりやすく説明します。
この記事を書いた人
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アパートを建てると相続税対策になる理由
アパートを建てることが相続税対策になる理由について説明します。
評価額が下がれば相続税が安くなる
相続税は、簡単に言うと、遺産がたくさんある人は高く、遺産が少ない人は安くなる(又は、かからなくなる)仕組みになっています。
相続税の計算のために、各財産を評価する必要がありますが、評価額を下げることができれば、相続税も安くなることになります。
現金よりも不動産、自用地よりも貸家建付地、自宅よりも貸家にすると評価額が下がる
アパートを建てると、現金で相続するよりも、相続税の計算上の評価額(相続税評価額)が下がるので、相続税が安くなります。
この点について説明します。
現金を不動産にすると相続税評価額が下がる
土地の相続税評価額は時価よりも20%ほど低くなります。
建物の相続税評価額は時価よりも30%ほど低くなります。
したがって、生前に不動産を購入しておくと、相続税の課税価格を下げることができるため、相続税が安くなるのです。
不動産の中でも、貸家や貸建付地は、さらに相続税評価額が下がる
不動産の中でも貸家や貸家建付地は、さらに相続税評価額が下がるので、この点について説明します。
貸家
家屋の相続税評価額は時価よりも30%ほど低くなるのは前述のとおりですが、アパート等の貸家の相続税評価額は自用家屋(自分で使用する家屋)よりも最大30%低くなります(つまり、合わせて最大51%引き)。
貸家の相続税評価額は、「自用家屋とした場合の相続税評価額−自用家屋とした場合の相続税評価額×借家権割合×賃貸割合」で計算することができます。
借家権割合は、現在のところ、全国一律30%です。賃貸割合とは、実際に賃貸している割合のことです。例えば、10室の中の9室が契約中で、1室が空室の場合は、賃貸割合は90%です(全室の床面積が同じ場合)(詳しくは「賃貸割合とは?税理士が設例を基に計算方法をわかりやすく説明」参照)。
貸家建付地
土地の相続税評価額は時価よりも20%ほど低くなるのは前述のとおりですが、アパート等の貸家の敷地(貸家建付地)の相続税評価額は自用地(自分で使用する土地)よりも最大27%低くなります(つまり、合わせて最大で41.6%引き)。
貸家建付地の相続税評価額は、「自用地とした場合の相続税評価額−自用地とした場合の相続税評価額×借地権割合×借家権割合×賃貸割合」で計算することができます。
借地権割合は、30〜90%の範囲で、都会の方が田舎より高く設定されています。
設例を基に計算
それでは、設例を基に、アパートの敷地の相続税評価額の計算方法を説明します。
例えば、Aさんには1億円の現金があり、そのお金で5000万円の土地を買い、その土地の上に5000万円かけてアパートを建てたとします。
まず、この土地、建物の自用地、自用家屋とした場合の相続税評価額を計算します。
建物の相続税評価額は時価の7割ほどになるので「5000万円×0.7=3500万円」程度となり、土地の相続税評価額は時価の8割ほどになるので、「5000万円×0.8=4000万円」程度になります。
次に、この土地、建物の貸家建付地、貸家としての相続税評価額を計算します。
なお、この地域の借地権割合を90%とし、課税時期においてアパートは満室であったとします。
そうすると、建物の相続税評価額は「3500万円−3500万円×0.3×1=2450万円」となり、土地の相続税評価額は「4000万円−4000万円×0.9×0.3×1=2920万円」となります。
土地と建物の相続税評価額の合計は「2450万円+2920万円=5370万円」となり、元の1億円から46.3%も下げることができました。
小規模宅地の特例が適用できれば、さらに安くなる
アパートの敷地に、小規模宅地等の特例が適用できる場合もあります。
評価額が半額
アパートの敷地の相続税評価額は、小規模宅地等の特例の適用がなくても、自用地と比べて最大27%引きになることは前述のとおりですが、小規模宅地等の特例の適用を受けると、さらに評価額が半額(限度面積200?)になります。
要件
アパートの敷地に小規模宅地等の特例を適用させるためには、次のすべての要件を満たさなければなりません。
- その相続の開始前3年以内に新たに貸付事業の用に供された宅地でない
- その宅地に係る被相続人(亡くなった人)の貸付事業を相続税の申告期限までに引き継ぎ、かつ、その申告期限までその貸付事業を行っている
- その宅地を相続税の申告期限まで有している
1について2点補足します。
まず、改正以前の2018年3月31日以前に貸付事業の用に供された土地であれば、適用できます。
次に、相続人が不動産の貸付を、相続開始前3年を超えて事業的規模で行っていれば、相続開始前3年以内に貸付を開始した土地であっても小規模宅地等の特例を適用できます。不動産の貸付が事業的規模で行なわれているかどうかは、いわゆる5棟10室基準で判断され、貸間・アパート等なら10室以上、戸建等の独立家屋なら5棟以上のどちらかの基準を満たせば、事業的規模と判断されます。
限度面積
アパートの敷地に適用できるのは200?以内に限られます。例えば、敷地が400?ある場合は、200?分のみ50%引きになるので、25%引きということになります。
小規模宅地等の特定の適用を受けられる宅地が複数ある場合は、限度面積内であれば、複数の宅地に適用させることができます。
限度面積内で評価減を最大限に引き出すために適用方法については、相続税に強い税理士に相談するとよいでしょう。
アパート経営のリスク
相続税対策のために安易にアパートを建てるべきではありません。
相続税の対策のためにアパートが供給過剰になっており、アパート経営が大変厳しい状況になっているためです。
アパートを建てたことで節税できた金額よりも、損失の方が上回ってしまっては元も子もありません。
不動産会社や金融機関などからアパート経営が相続税対策になるとアドバイスを受けることがあるかもしれませんが、その場合であっても、アパートを建てる際は、相続税対策だけでなく、事業として成り立つかどうかについて、家族などとも話合いながら、しっかりと検討すべきです。
アパート経営について十分に勉強し、収益予測やリスクの検証を十分に行ったうえで、やるかどうかを決めるべきでしょう。
アパートを相続したときの流れ
アパートを相続したときには、次のようなことを進めていなければなりません。
以下、それぞれについて説明します。
管理会社や借主への連絡
金融機関が相続人からの連絡等によって口座名義人の死亡を把握すると口座が凍結されます。
アパートの借主が貸主の口座に入金することで家賃を支払っていた場合、口座が凍結されると家賃を入金することでできなくなってしまいます。
アパートの所有者が亡くなったら、速やかに管理会社や管理会社に連絡しましょう。
相続財産調査をして相続放棄を検討
相続財産には、プラスの財産だけなく、ローン等のマイナスの財産も含まれます。
相続人は、プラスの財産だけ相続するということはできず、マイナスの財産も含めてすべて相続するか、何も相続しないかの選択をすることになります。
アパートを建てる際に融資を受けた場合等、プラスの財産よりも借金等のマイナスの財産の方が多い場合には、相続すると損するため、相続しない(相続を放棄する)という選択をした方がよいでしょう。
相続放棄には手続きが必要ですが、この手続きには期限があるため(ざっくり言うと死亡後3か月以内)、それまでに相続放棄をするかどうかを決めなければなりません。
相続放棄をすべきかどうか判断するためには、財産を調査し、内容を把握しなければなりません。
なお、アパートの家賃の振込先を自分の口座に変更すると、相続放棄ができなくなるおそれがあるので、気を付けてください。
準確定申告
準確定申告とは、納税者が亡くなった年の確定申告のことです。
確定申告とは、一年間の所得(儲け)に対する所得税と復興特別所得税の税額を申告して納付する手続きです。
納税者が亡くなった場合は、自分で確定申告を行うことができないので、相続人が代わりに確定申告を行います。
この確定申告のことを準確定申告というのです。
亡くなった人の名義でアパートを所有していた場合、家賃収入は亡くなった人の所得になるので、準確定申告が必要です(法人名義の場合は準確定申告ではなく法人税の申告が必要です。)。
準確定申告の期限は、亡くなってから4か月以内です。
遺産分割
相続人が数人いる場合は、通常、遺産分割協議によって誰がどの財産を取得するか決めることになります。
アパート経営をうまくやっていくためには、管理会社との契約関係や、どのタイミングで、どのくらい費用をかけて、どのような修繕をするか等、様々な経営判断が必要になります。
経営能力がある人がアパートを相続した方が望ましいでしょう。
適任者が誰もいない場合は、アパートを売却して売却代金を分割する方法(換価分割)も検討すべきです。
不動産会社から一括で査定を受けられる以下のような便利なサイトもあるので、利用してみるとよいでしょう。
なお、遺産分割には期限はありませんが、相続税の申告期限(亡くなってから10か月以内)までに済ませなければ、余計な手間がかかることがあります。
相続登記
不動産には登記という制度があります。
不動産登記制度は、不動産の所在・面積のほか、所有者の住所・氏名などを公の帳簿(登記簿)に記載し、これを一般公開することにより、権利関係などの状況が誰にでもわかるようにし、取引の安全と円滑をはかるためのものです。
相続不動産の所有権を亡くなった人から相続人に移転させる登記のことを相続登記といいます。
相続登記は現在のところ義務ではありませんが(義務化が検討されています)、他の相続人の持分を差し押さえられたり売却されたりするおそれがあるため、遺産分割協議がまとまり次第、登記した方が安心です。
相続登記については司法書士に依頼すると手間なく手続きを終えることができます。
アパート経営の見直し
アパート経営をうまくやっていくためには、管理会社との契約関係や、どのタイミングで、どのくらい費用をかけて、どのような修繕をするか等、様々な経営判断が必要になります。
アパートの経営状況を確認し、必要に応じて見直しをしましょう。
よくある質問
以上、アパートによる相続税対策と、アパートを相続した後の流れ、それから、アパート経営の注意点等の重要な知識について説明しました。
最後にまとめとして、よくある質問とその回答を示します。
アパートを建てると相続税対策になるの?
相続税は、簡単に言うと、遺産がたくさんある人は高く、遺産が少ない人は安くなる(又は、かからなくなる)仕組みになっています。相続税の計算のために、各財産を評価する必要がありますが、評価額を下げることができれば、相続税も安くなることになります。アパートを建てると、現金で相続するよりも、相続税の計算上の評価額(相続税評価額)が下がるので、相続税が安くなるのです。
土地の相続税評価額は時価よりも20%ほど低くなり、建物の相続税評価額は時価よりも30%ほど安くなります。そして、さらに、貸家の場合は最大30%、貸家の敷地の場合は最大27%低くなります。また、さらに、小規模宅地等の特例が適用できる場合もあり、その場合、評価額がさらに半額なります。
アパートによる相続税対策の注意点は?
相続税対策のために安易にアパートを建てるべきではありません。相続税の対策のためにアパートが供給過剰になっており、アパート経営が大変厳しい状況になっているためです。アパートを建てたことで節税できた金額よりも、損失の方が上回ってしまっては元も子もありません。アパートを建てる際は、相続税対策だけでなく、事業として成り立つかどうかについてしっかりと検討すべきです。
アパートを相続したときはどのような流れになる?
アパートを相続したときには、次のようなことを進めていかなければなりません。(1)借主や管理会社への連絡(2)相続財産調査をして相続放棄を検討(3)準確定申告(4)遺産分割(5)相続登記(6)相続税申告(7)アパート経営の見直し
アパートを遺産分割する際の注意点は?
相続人が数人いる場合は、通常、遺産分割協議によって誰がどの財産を取得するか決めることになります。アパート経営をうまくやっていくためには、管理会社との契約関係や、どのタイミングで、どのくらい費用をかけて、どのような修繕をするか等、様々な経営判断が必要になります。
経営能力がある人がアパートを相続した方が望ましいでしょう。適任者が誰もいない場合は、アパートを売却して売却代金を分割する方法(換価分割)も検討してみてはいかがでしょうか。
▼実際に「いい相続」を利用して、税理士に相続税申告を依頼した方のインタビューはこちら
この記事を書いた人
相続専門のポータルサイト「いい相続」は、相続でお悩みの方に、全国の税理士・行政書士・司法書士・弁護士など相続に強い、経験豊富な専門家をお引き合わせするサービスです。提携する税理士・行政書士は初回面談無料、相続のお悩みをプロが解決します。遺言書や遺産分割協議書の作成、相続税申告のご相談、相続手続の代行など「いい相続」にお任せください。
また「いい相続」では、相続に関連する有資格者の皆様に、監修のご協力をいただいています。
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