遺言で寄付するなら知っておきたい!遺贈寄付で失敗しないための6つのポイント【行政書士監修】
遺産は遺言することで自由に寄付できます。死後に遺言を使って無償で財産を譲るのが「遺贈」で、遺贈によって寄付をおこなうことを「遺贈寄付」といいます。
「 自分と志を同じくする人や応援したい団体に遺産を託したい」「自分の遺産を誰かの役に立ててもらいたい」財産の持ち主であるあなたがそう望むなら、遺言による寄付を考えてみてはいかがでしょう。
この記事では、遺言による寄付の種類や寄付時の注意点など、遺言による寄付をする際に知っておきたい知識をご紹介します。
この記事の監修者
(行政書士、ファイナンシャルプランナー)
行政書士ゆらこ事務所代表。大学卒業後、複数の法律事務所に勤務してパラリーガルの経験を積んだ後、2012年に行政書士として独立。離婚や相続など身近に起こる問題をサポート。書類の作成のみにとどまらず、依頼者の気持ちに寄り添ったカウンセリングを重点的に行っている。
遺言による寄付とは
遺言による寄付とは「遺言(遺言書)を使っておこなう寄付のこと」です。 たとえば、ある夫婦がいたとします。夫は自分の財産を医療施設に寄付したいと願っていました。 生前に寄付をする場合、夫の意思によって自由におこなうことが可能です。
しかし、夫が亡くなった後だったらどうでしょう。財産の持ち主である夫はすでに亡くなっています。夫は自分自身で寄付できません。 かわりに使うのが遺言(遺言書)です。
「遺産を〇〇に寄付してほしい」と遺言書にしたためておけば、相続人や遺言執行者などが手続きし、代わって寄付してくれます。前述のとおり 死後に遺言を使って無償で財産を譲ることを「遺贈」といい、遺贈によって寄付をおこなうことを「遺贈寄付」といいます。 遺贈の対象は相続人に限られません。遺言者が望む人や団体へ自由に寄付できます。
また、公益団体との間で死亡後に寄付をおこなう内容の贈与契約を締結したり(死因贈与契約)、生命保険金の受取人に非営利団体を指定するなどの方法もあります。
本人の死後、相続人によって遺贈寄付するパターン
遺贈寄付は、以下のように相続人によってなされることもあります。
- 相続財産の寄付:手紙、エンディングノート、口頭などにより、遺族に相続財産の全部または一部を寄付することを依頼。または相続人自身の意思で寄付する
- 香典返し寄付:遺族(喪主)が香典のお返しに代えて、故人が支援していた公益団体に寄付する
遺言による寄付の2つの種類
遺贈には「特定遺贈」と「包括遺贈」という2つの種類があります。
遺言者が思い描く寄付を実現するためには、遺贈寄付の種類を知っておくことが重要です。種類についてあやふやなまま進めてしまうと、思い描く寄付ができない可能性があるからです。
特定遺贈と包括遺贈の意味や違いについて、順番に見ていきましょう。
特定遺贈とは
特定遺贈とは、特定の物を指定しておこなう遺贈のことです。 たとえば遺言者がA団体に100万円寄付したいと思いました。
遺言書を使って「遺産の中から100万円の現金をA団体に寄付してください」と指定しました。遺産の中の100万円という現金を指定しています。 このように特定の財産を指定しておこなう遺贈が特定遺贈です。
包括遺贈とは
包括遺贈とは、割合を指定しておこなう遺贈のことです。
遺言者が「遺産の3割をA団体に寄付してほしい」と遺言書をしたためました。特定の財産を指定したわけではありません。遺産の中の3割です。
遺産の中には現金もあれば、不動産もあります。有価証券や車もあるかもしれません。包括とは「ひっくるめて」という意味ですから、財産の種類問わず遺産の3割が寄付されます。
このように割合によって遺贈する方法を包括遺贈といいます。
遺言による寄付のメリット
遺言による寄付のメリットは2つあります。
遺産を誰に渡すか自分で決められる
ひとつは自分の遺す財産を誰に渡すか自由に判断できることです。医学や化学の進歩のために、研究機関に寄付する。自分がかなえられなかった夢を目指してがんばっている子供たちのために使う。病気の治療のためにつくしてくれた病院に感謝の気持ちをこめて寄付する。自分の夢や志を、寄付というかたちで応援することも可能です。遺産が人や国、研究、夢、技術発展などに寄付で貢献することには、満足感もあるのではないでしょうか。
相続人の税金が軽くなる
もうひとつは相続人の税金が軽くなることです。国や地方公共団体、特定の公益法人に寄付した財産は、相続税の非課税財産となります。そのため、遺言による寄付をおこなうと、相続税の負担を軽くできます。
たとえば、遺産が8,000万円あり、相続人が1人だったとします。遺言による寄付の分は1,000万円です。
遺産8,000万円から遺言による寄付の分を引くと、残りは7,000万円になります。 遺産8,000万円と遺産7,000万円。相続税の計算に使う場合、課税のベースになる遺産額は小さい方が、計算結果である相続税の税額も小さくなるのです。相続税の計算をするときは他にも控除をおこなうため、これはあくまでわかりやすい例になります。実際はもっと複雑なので、注意してください。
寄付をした分だけ相続税が軽くなる可能性がある。これは、遺言による寄付のメリットです。
遺贈寄付の流れ
遺贈寄付の流れの例は以下のとおりです。自身が亡くなった後にきちんと実行されるよう、生前のうちからよく検討しておくことが重要です。また、一度は専門家に相談しておくことをおすすめします。
- 遺贈寄付の情報を集める
- 専門家に相談する
- 寄付先を決める
- 財産の配分を決める
- 遺言書を作成する
- 亡くなった後に遺言が執行される
- 遺産の一部が寄付される
遺言で寄付するときの6つのポイント
遺言による寄付には、法律や税金の面で注意したいポイントが6つあります。
遺言による寄付は死後におこなわれますから、やり直しがききません。遺言者が本当に願った寄付をするためにも、ポイントに気をつけることは重要です。
また、寄付は受け取ってくれる相手がいるからこそできること。寄付によって遺産を渡すときは、寄付先のことも考えて計画を立てたいものです。遺言による寄付の計画を立てるときに注意したいポイントを順番に見ていきましょう。
①遺言による寄付では遺留分に配慮する
遺言による寄付で注意したいポイントのひとつが「遺留分」です。
遺留分とは、配偶者・子供・直系尊属(祖父母など)に認められた、遺産の最低限の取り分になります。
配偶者・子供・直系尊属には、相続人の組みあわせによって最低限もらえる遺産が定められているのです。 遺産はもともと遺言者の財産。遺言者の財産ですから、遺言者が自由に処分できるはずです。しかし、遺産は遺された家族の生活に欠かすことのできない財産でもあります。
父親が自分名義の持ち家や預金をすべて赤の他人に寄付したらどうでしょう。父親名義の家に住んでいた母親と子供は家を失うことになるのです。父親が一家を支えていた場合は、今後の生活費である預金も失うことになります。遺留分が法律で保障されているのは、遺された家族が生活に困らないようにするためなのです。
相続人の遺留分を侵害する遺言による寄付も可能です。しかし、遺留分を侵害する遺言による寄付をおこなうと、相続人から「遺留分があるので、遺留分の分の遺産は返してほしい」と主張されることがあります。この主張を遺留分侵害請求といいます。
遺留分侵害請求があると、寄付を受け取った個人や団体は、遺留分に応じて金銭で返さなければいけません。寄付先は遺留分侵害請求に応じるため、現金を準備しなければならないのです。 寄付先に潤沢な資金やすぐに売却できる財産があるとは限りません。相続人の請求により、資金調達に苦労する可能性があります。さらに、相続人と寄付先が遺留分をめぐってトラブルになることも考えられます。
遺言で寄付をおこなうさいは、遺留分に配慮して計画を立てることが重要です。
②遺言による寄付の種類に注意する
遺言による寄付には包括遺贈と特定遺贈があります。
遺言による寄付をおこなうときは、寄付の種類に注意が必要です。特定の財産を遺言により寄付したい場合は特定遺贈。遺産から割合で寄付したいときは包括遺贈。思い描く寄付にあわせて、寄付の種類を使い分けることが重要です。
また、包括遺贈を使う場合は、特に注意が必要になります。 包括遺贈は割合による寄付。指定した割合をひっくるめて寄付する方法です。ひっくるめられる遺産にはプラスだけでなく、借金などのマイナスも含まれます。 寄付先が包括遺贈で寄付してもらった遺産を確認してみたら、負担しきれないような借金があった。結果、寄付先は借金に困ってしまい、相続放棄した。包括遺贈にはこのようなリスクがあるのです。
包括遺贈は法定相続人(子供や配偶者、直系親族など)と同じ権利を得ます。相続人と同じ権利を得た結果、寄付先が遺産分割協議に参加するケースもあります。遺産分割協議で寄付先と相続人が揉める可能性もあるはずです。 包括遺贈を使う場合は、寄付先の負担にならないよう注意する必要があります。
③遺言による寄付が確実におこなわれるように対策する
遺言執行者を指定しておくなど、寄付が確実におこなわれるよう対策することが重要です。
遺言書に寄付についてしたためても、寄付がおこなわれない可能性があります。相続人が遺言内容を無視して勝手に遺産を使い込むリスクもあるのです。遺言による寄付がおこなわれなくても、遺言者はすでに故人。遺言者自身による寄付はできません。遺言を作成する段階で寄付が確実におこなわれるように対策する必要があります。
遺言による寄付が確実におこなうための対策としては、遺言執行者を指定する方法があります。遺言執行者は遺言内容を実現してくれる人のことです。 遺言執行者は相続人でもなれます。ただ、遺言による寄付を確実におこなうためにも、司法書士や弁護士などの専門家を指定した方が無難です。
④公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度を活用する
遺言による寄付をしようとしても、遺言書を相続人に見つけてもらえないリスクがあります。遺言書は本物か。寄付が本当に遺言者の意思によるものか。遺言書の有効性をめぐってトラブルになる可能性もあります。 遺言による寄付をするときは、公正証書遺言や自筆証書遺言保管制度を利用し、リスクやトラブル対策をしておくことが重要です。
公正証書遺言とは、公証役場で作成する遺言書のことです。 公証役場の公証人は法律と文書作成の専門家。公正証書遺言は専門家のサポートのもとで作成します。 公正証書遺言は専門家が関与して作るという点で、信用力の高い遺言書です。遺言書で揉める可能性がある場合は、公正証書遺言を使ってトラブル対策する方法があります。公正証書遺言は公証役場で保管されるため、遺言書を見つけてもらえないというリスクの対策にもなるのです。
自筆証書遺言を利用する場合は、令和2年にスタートした自筆証書遺言保管制度を利用する方法もあります。自筆証書遺言保管制度は、法務局で遺言書を預かってもらえる制度です。遺言書によるトラブルやリスクの対策になります。
⑤遺言による寄付では寄付先に注意する
遺言による寄付をおこなうときは寄付先にも注意する必要があります。
寄付金控除の対象になる団体に寄付すれば、所得税の税制優遇も受けられます。寄付金控除の対象にならない団体に寄付してしまうと、所得税の税制優遇は受けられません。所得税の税制優遇も受けたい場合は、寄付金控除の対象になる団体か確認することが重要です。したがって節税のために寄付するときは注意が必要になります。税理士などの専門家にもアドバイスを受けてはいかがでしょう。
⑥遺言による寄付では譲渡所得税にも注意が必要
不動産をそのまま寄付すると、時価で譲渡したものと判断されます。利益に対してみなし譲渡所得課税がおこなわれるため、税金負担が発生する可能性があるのです。
みなし譲渡所得課税の支払い義務者は相続人になります。寄付は遺言者が決めたこと。それなのに、相続人に税金による負担がかかってしまうのです。 対策としては、寄付する不動産を売却し、経費や税金を引いてから現金を寄付する方法などがあります。 遺言による寄付を計画する段階で相続人の負担についても対策しておくことが重要です。
まとめ
遺言による寄付は可能です。ただし遺贈の種類やポイントに注意しなければ、寄付が寄付先や相続人の負担になってしまうことがあります。
思い描く遺言による寄付を実現するためにも、計画作りは重要です。税理士などの専門家に相談し「理想の寄付」について考えてみてはいかがでしょう。「いい相続」では、相続に強い専門家をご紹介しています。遺言書の作成をしたい方はぜひ、お問い合わせください。
▼実際に「いい相続」を利用して、行政書士に相続手続きや遺言書の作成を依頼した方のインタビューはこちら
ご希望の地域の専門家を探す
ご相談される方のお住いの地域、遠く離れたご実家の近くなど、ご希望に応じてお選びください。