兄が勝手に作った認知症の母親の遺言は有効ですか?
兄が勝手に母親の公正証書遺言を作りました。母親は認知症で、もはや遺言書の書き直しは不可能ですが母親の死後に遺言書の有効性を争うことは可能でしょうか?
公正証書遺言とは
公正証書遺言は、公証役場にて遺言者が遺言の趣旨を口述し、公証人(元判事や検事など、法律実務に精通した者が就任する公務員)の面前で遺言者の意思を確認した上で作成される遺言書です。
公証人のほか証人も2名必要で、作成には費用もかかります。一方、遺言書が無効になる危険性はなく、公証役場で保管するため、自筆証書遺言に比べても改ざんや紛失の恐れは非常に少ないと言えるでしょう。
まずは相続人同士での話し合い
遺言書の内容に不満があった場合は、まずは相続人同士で話し合いを解決を試みます。相続人だけだと話し合いが不安という場合には弁護士などの専門家を間に挟み、解決を試みましょう。
公正証書遺言が無効であると考える理由を具体的に説明して、遺言の内容が無効であると合意できた場合には、相続人全員で遺産分割協議をして分け方を決めます。
遺言無効確認調停・遺言無効確認訴訟をおこなう
話し合いで解決できない場合には、遺言無効確認調停や遺言無効確認訴訟により解決を目指します。
調停は家庭裁判所にて、調停委員会が当事者の間に入って当事者の意見を擦り合わせて、当事者同士の合意による解決を目指す手続きです。
それでも無効になるケースもある
遺言者が認知症であっても、遺言書を作れる可能性があります。被相続人(亡くなった人)の死亡後に公正証書遺言の内容を見た相続人が、「これは相続人の意思ではない」として有効性を争うケースも時々あります。 ごくまれにではありますが、遺言書の有効性を巡って裁判にまで発展したケースの中には、公正証書遺言が本人の意思によって作られたものではないとする判決が出ることもあります。
有効な遺言ができる人の条件は、①15歳以上、②遺言能力があることです。遺言能力とは、遺言をする時点で遺言に関しての判断能力があるかどうかということです。
厳格に作られたはずの公正証書遺言でなぜこのようなことが起こるのでしょうか。 これには、各公証人ごとの「本人確認レベルの違い」ということが関係しています。
公証人Aは「では、あなたは誰に何の財産をあげたいのですか?」と自分の遺言内容を本人の口から言わせようとします。それによって、より強固な真実性を確保しようとするのです。
一方で公証人Bはあらかじめ聞いていた遺言内容を読み上げ、「これでいいですか?間違いありませんね?」と確認するだけです。 このような違いがあるため、公証人Bのようなケースでは遺言者はただうなずいただけに過ぎないのに、公正証書遺言ができあがってしまうという状況になるのです。
公正証書遺言が無効にされた裁判例
過去に公正証書遺言が「無効」と判断された裁判例はこのようなものです。
「被相続人が遺言時点ですでに認知能力、計算能力などに衰えがみられていたが、それでも公証人の問いかけに対して『はい』という返事をした。しかし本当に本人が公証人の説明していることを理解していたのか疑問が残るとされた」
「遺言者は癌の治療薬のため朦朧としており、公証人による読み上げ中に目を閉じていたり、自分の年齢を間違えたりしていたため、遺言能力がないとされた」
ただ、やはり一般的には公正証書遺言には証拠能力が高いとされているため、よほど当時判断能力がなかったとする裏付けができなければ遺言を無効とすることは難しいのではないでしょうか。
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