形見分けで父の車を子にあげました。相続の対象になるのでしょうか?
先日、父の四十九日法要をしていた際に「おじいちゃんの車もらってもいい?」と息子に言われたため、承諾しました。特に何も考えていませんでしたが、これは相続の対象になりますか?
形見分け、というのは法律用語ではなくあくまで俗語になりますが、本人が形見分けのつもりで行った行為であっても法的に「遺産を相続した」状態になってしまうこともあります。
「形見分け」か「遺産相続」か
形見分けとは、故人が愛用していた品物を親戚や友人に分けることです。着物やアクセサリー、家具、小物などを分けることが多いでしょう。これは、一般的には共同相続人から特定の相手への贈与に該当すると考えられます。
多くの場合、相続人は、「親の残したいろいろな物を思い出として取っておきたい」という心情で形見分けを行います。アクセサリーや小物などであれば、遺産分割の範囲外と認識されるでしょう。
ただ、もしこれが実質的に財産価値を持つ物だった場合、相続人の主観的な気持ちに関係なく「相続した」という法的評価になってしまうことがあります。
特に自動車など、下取りに出してもある程度の財産価値がつくような品物については慎重に行わなくてはなりません。これらは共同相続人全員の承認のもとで行うと良いでしょう。
では、「相続した」ことによる問題とはどのようなものでしょうか? 大きく2つあります。
1.遺産分割協議を経ずに特定の相続人が持って行ってしまったことによる問題
誰から見ても「一般的な財産価値はない」着古した洋服や靴、その他の日用品などであれば感情的な問題以外は起こらないでしょう。
しかし自動車などの場合、他の相続人からすると、「あれは財産として価値があるから本来は相続人全員で話し合うべきなのに、一人が勝手に持って行ってしまった」ということになり、後から紛争が生じる危険もあります。
2.相続放棄すべき案件だった場合に「法定単純承認」になってしまう問題
実は被相続人(亡くなった人)には財産より借金の方が多かったという場合、本来は家庭裁判所で相続放棄の手続きをするべきです。
ただ、相続人がプラス財産を承継する意思があるとみられる行動(財産の一部の処分など)をするとそれにより相続を承認したこととなり放棄はできなくなってしまうのです。(=法定単純承認)。
相続放棄とは、被相続人のプラスの財産とマイナスの財産のすべてを放棄することです。
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単純承認にならないケース
相続財産に対するすべての行為が単純承認になるわけではありません。
葬儀費用を相続財産から出した場合
葬儀費用については、妥当な金額であれば相続財産から支払ったとしても単純承認にあたらないとされています。また仏壇や墓石についても必要最低限の範囲であれば可能とされています。
ただし、相続財産以上に多額の債務があるのをわかっていながら葬儀費用を支払った場合、単純承認とみなされる可能性があるので注意してください。
生前の入院費を相続財産から支払った場合
被相続人の生前にかかった入院費や治療費の支払いについては、期限が到来している債務に該当するため、相続財産から支払った場合でも単純承認に該当しません。ただし、被相続人の所持金ではなく、銀行預金からおろして支払う場合は、専門家に確認してからのほうが良いでしょう。
孫が相続人ではないことによる問題
このご質問の場合、前提として法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)ではない「孫」に形見分けをしようとしています。
よって、法的効力を持たない単なる形見分けであれば問題ありませんが、自動車の場合は「財産価値あり=遺産分割という意味を持つ」となる可能性も高くなります。 その場合は「代襲相続」となるか、遺言書などで「遺贈」がされている場合でなければ直接孫に財産を移転させることはできません
いったん、法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)の誰か、もしくは法定相続人全員の共有という形で相続人に帰属させてからその人(又はその人たち)から孫に贈与れたという法的構成になります。
当然、そうなれば金額によっては贈与税がかかってくることにも気をつけなくてはなりません。
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