法人ではない個人事業。事業用の口座預金は相続の対象になる?
亡くなった父は個人事業をやっていたようです。事業用の口座預金は相続の対象になりますか?
個人事業で使用している口座の名義人はあくまで「個人」ですので、名義人である事業主に相続が発生するとその人の相続人に引き継がれることになります。
個人事業における「事業資金」の位置づけ
個人事業を営んでいる人は、「事業資金用口座」としてプライベートの財産と分けることを自分で決めて、そこで管理していることが多いでしょう。
ただ、その口座の通帳に屋号等をつけられない金融機関も多く、外形上は個人と仕事上の資産が区別できないこともよくあります。事業での損失を個人の財産から補填してしまうなど、事業を営んでいく段階で財産が混じり合ってきてしまうことも考えられます。
結局、個人の相続財産として相続手続することになる
上記のように名義上も事業用財産であることを明らかにできない以上、事業主に相続が発生したら遺言等で誰かに引き継がせる指定をしていない限り、基本的には法定相続人(民法で定められた範囲の相続人)が権利を持ち、全員で遺産分割協議を行って承継者を決めなくてはならなくなります。
個人事業主の相続の場合、事業用、非事業用財産もすべて含めて相続の対象となりますが、事業用の場合は負債もかなりの金額にのぼることがあるのでそちらにも気を付けなくてはなりません。遺産分割をしないと、財産は法定相続人の共有状態になっています。
もし、相続人に事業を引き継ぐ意思がなく、負債が多い場合に金額によっては相続放棄を検討しなくてはならないこともあるでしょう。
▶相続放棄をするには、家庭裁判所に「相続放棄の申述書」を提出する必要があります。
明確に分けるメリットがある場合とは?
もし個人事業を法人化して個人の物と分ければ税務上のメリット、そしてそれ以外のメリットもあります。 具体的メリットを考えてみましょう。
たとえば事業主が死亡しても会社自体がなくなるわけではありませんから、個人事業主が死亡した場合のように「相続税で多額の現金を持って行かれてしまい、事業に支障が出た」ということにならずに済むことです。
また、個人事業であれば相続によって上記のように法定相続人に権利が発生してしまうため財産が散逸するおそれがありますが、法人ならそのような心配がありません。さらには、もし事業が傾いた場合であっても法人の場合はあくまで個人の財産と別物として扱われるので会社を整理をすれば事業主個人の財産を守れることになります。
ただし、銀行などの金融機関は多くの場合、「法人への融資をする場合は代表者個人を連帯保証人につける」という処理をしています。もし代表者が保証人になってしまっているのであれば会社を畳むと同時に代表者の破産手続き等も行わなければならなくなります。
個人事業主が死亡したときの届け出
個人事業主が死亡した場合、相続手続きを進めるためにさまざまな届け出が必要になります。
- 死亡届
- 廃業届
- 事業廃止届
- 給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
- 所得税に関係した書類の提出
- 消費税に関係した書類の提出
- 準確定申告
死亡届
個人事業主が死亡した場合、亡くなった個人事業主の本籍地か死亡地または死亡届を出す届出人の住所地の市役所・区役所・町村役場に死亡届を提出します。提出期限は死亡を知った日から7日以内です。
廃業届
個人事業主が死亡して後継者が相続する時は、死亡した個人事業主の廃業届を出し、その後で後継者が新たに開業届を提出します。提出期限は、相続の場合は死亡から1か月以内です。
事業廃止届
相続される個人事業主が課税事業者だった場合は、事業廃止届出書を提出します。提出期限はありませんが、すみやかに提出すると定められています。
給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出
相続される個人事業主が従業員を雇って給料を支払っていた場合、給与支払事務所等の開設・移転・廃止の届出書を提出しなければなりません。死亡による廃業の場合は「廃止」カテゴリーの「廃業又は清算結了」にチェックします。
所得税に関係した書類の提出
所得税に関する書類は、被相続人が青色申告をしていた場合であっても死亡による事業廃止の場合は「所得税の青色申告の取りやめ届出書」は提出する必要がありません。
ただし、相続人が新たに青色申告を申請する場合は、「所得税の青色申告承認申請書」を提出する必要があります。
消費税に関係した書類の提出
故人が消費税を納める課税事業者だった場合は、「個人事業者の死亡届出書」を提出します。これは、死亡の後、速やかに納税地を管轄する税務署長へ提出します。
準確定申告
個人事業主が死亡した場合、相続人がその年の確定申告を行います。これを「準確定申告」と言います。
準確定申告では、1月1日から被相続人が死亡した日までの所得と税額を計算し、提出期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から4か月以内」です。
準確定申告はすべての相続人で行わなければなりません。各相続人が連署で提出するか、相続人ごとに別々に作成して提出します。
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