財産、遺産に関する情報
財産や遺産に関する情報をエンディングノートに記しておけば、残された家族の負担を大きく軽減させることができます。まずは、エンディングノート内にある財産一覧表を作成しましょう。あなたが所有する預貯金や株式、不動産、生命保険などの財産。また、借金や住宅ローンなどの負債です。どれもあなたが病気になったり亡くなった後でも、家族がすぐに調べることができそうなものばかりですが、夫婦でもすべてを把握できているとは限りません。ましてや、親元を離れた子どもたちではなおさらです。もし、口座を見落としてしまえば、「時効消滅」といって払い戻しできなくなってしまう可能性もあります。自分自身で財産を把握するためにも、一度は一覧表を作るようにしましょう。
ただし、ひとつ注意が必要なのは、財産についてすべてを詳細に書く必要はないということです。預金通帳の暗証番号や通帳や印鑑の保管場所はノートには記載せず、信頼できる人に直接伝えたほうが安心ですし、財産のことは家族であってもすべては知られたくないと思います。たとえば、生命保険のことであれば、加入している保険会社の名前を記しておけばOKです。会社名さえわかれば、残された人はそこに問い合わせて手続きを行なうことができます。それでは、それぞれの項目で何を書くべきかを記しておきます。
①預貯金……金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、名義人
②貸金庫……金融機関名、支店名、契約内容
③株式……金融機関名、取引店名、口座番号、名義人
④不動産……物件名、住所、登記簿上の住所
⑤生命保険……保険会社名、担当者名、連絡先
⑥年金……種類、基礎年金番号、年金証書番号
⑦債務……債入先、連絡先、債入金額、債入日、返済方法、完済予定日
さらに、万が一のときに誰に財産管理を任せたいかも書いておきましょう。突然の事故や脳梗塞、認知症など、自分自身の意志が伝えられなくなったとき、もっとも信頼できる人は誰ですか? 多くの人は「家族」や「恋人」、「親友」と答えるでしょう。その人の氏名をエンディングノートに書いておけば、万が一のときに、その人に管理してもらうことができます。ただし、注意しておきたいのは、エンディングノートに書くだけでは法的な拘束力はないということです。もし、あなたが財産管理をぜったいにこの人にお願いしたという人がいるのであれば、「財産管理等の委任契約書」「任意後見契約書」を正式に作りましょう。
あなたの財産や持ち物を、誰が引き継ぐのかを記しておくことも忘れてはいけません。財産の分配を決めていなかったことによって、残された人たちが争い、関係が壊れてしまうことがあるからです。万が一のときに、あなたの財産を誰にどのように分けて欲しいのかをあらかじめエンディングノートに記しておきましょう。ただし、エンディングノートに記しておくだけでは十分ではありません。法的な拘束力を持たせるためには、「遺言書」を作成する必要があります。
パソコンやデジタルサービス
現在は、多くの人が、パソコンやスマートフォンを使用しています。そこには、人に見られたくないものもあれば、家族に残しておきたいデータもあるかと思います。エンディングノートには残したいデータのある場所と、削除して欲しいデータのある場所を書いておきましょう。見られたくないデータはひとつにまとめて、家族写真など残したいデータはそうとわかるようにまとめておきます。それをエンディングノートで記せば、残された人たちはあなたの希望を尊重することができます。また、見られたくないデータには、パスワードをつけるなどするとより安心です。
介護や終末期医療について
脳梗塞など、突然、意思疎通ができなくなってしまうことがあります。そのときのために、エンディングノートには、介護や終末期医療(ターミナルケア)についての希望をしっかりと書いておきましょう。
介護では、できる限り自宅で過ごしたいのか、家族の介護を望むのか、希望する病院や施設はあるのかなど。また、認知症になったときに任意後見人を決めているのか、または配偶者か子どもに任せるかなども記します。
アレルギーの有無や苦手な食べ物、好きな食べ物、好きなおやつ、趣味や好きな音楽、本、テレビなども、介護のときに役立つので書いておきましょう。どうしてこんなことを書くのかと不思議に思うかもしれませんが、たとえば、意思疎通が十分にできなくなったときのために、自分の好きなものや苦手なものをあらかじめ伝えておけば、あなたが上手に気持ちを伝えられなくなったとしても、相手があなたの気持ちを汲み取ることができるようになります。
さらに介護のことだけではなくて、終末期医療についての希望も記すようにしてください。尊厳死や延命について考えるのは気が重いかも知れませんが、最期のときまであなたらしく過ごすための大切な意思表示です。たとえば、エンディングノートで記すことができるのは、以下のような項目です。
①病名や余命の告知を希望するか
②終末期医療の希望と、尊厳死を望むかどうか
③臓器提供の意思
④検体の意志
①の病名と余命の告知については、10年前であれば深刻な状況であるほど告知は行なわない傾向にありました。近年は告知する方針へ移り変わっています。しかし、人によっては最期まで穏やかに過ごしたいという考えから告知を望まないケースもあります。告知をするかしないかはそれぞれメリットとデメリットがありますので、よく調べて周囲と相談して書いておきましょう。
②では、尊厳死や延命についての希望を記載します。たとえば、疾患や老衰によって次第に口から食事をするのが難しくなってくることがあります。その際、延命処置として「胃ろう(おなかにチューブを入れて、直接胃に栄養を入れられるようにすること)」を作ることがあります。胃ろうについては、医療者の間でもさまざまな意見があり、胃ろうによって体力がついて予後が良くなると推奨する人もいれば、胃ろうを作っても長期的な予後が期待できないから反対だという医療者もいます。慎重な検討を行なって、胃ろうを作るかどうかを判断することが大切です。
こうした、終末期医療における意志は「リビングウィル」といいます。最期のときまで、あなたが自分の意志と誇りを持って生きるための意思表示だといえます。延命維持の措置には、胃ろうのほかに、人工呼吸器装置、中心静脈管を通した人工栄養補給、水分補給、人工透析、化学療法、抗生物質投与、輸血なども含まれます。さらに、脳死状態で回復の見込みがない場合に、延命処置をのぞむかどうかも記すことができます。延命処置を望まずに「尊厳死」を希望する場合には、主治医にはっきりと意思表示を行なう必要があります。尊厳死を希望する場合には、日本尊厳死協会に入会するか、「尊厳死宣言公正証書」を作成する必要があります。
③の臓器提供を希望する場合にも、エンディングノートの記載しておきましょう。エンディングノートに記しておけば、いざというときに家族が確認することができます。臓器提供をする場合には、「臓器提供意思表示カード」などを所有している必要がありますが、家族の承諾がなければ実際の提供はできません。生きているうちから、家族にその意志を伝え、同意を得る必要があります。
④の献体とは、医学・歯学の大学における解剖学の教育と研究に役立てるため、自分の遺体を無条件に提供することを言います。そのためには、生きているうちに献体したい大学などに登録し、家族の同意を得ている必要があります。献体の登録情報については、エンディングノートにしっかりと記入して、死後に登録団体に連絡するように記しておくことが大切です。献体を行なうと、遺骨が家族のもとに戻るのは約1~2年後。事前に家族と十分に話し合いましょう。
葬儀について
これまでは、仏教などのしきたりに則って、葬儀儀式や告別式を行なうことが一般的でした。最近では、さまざまな葬儀方法が登場し、人生最期のときまであなたらしく過ごすことができるようになっています。家族や親しい間柄のみで行なう「家族葬」やお通夜を行なわずに告別式から火葬までを1日で行なう「一日葬」、故人の好きな曲でお別れをする「音楽葬」、さらには、「散骨」や「樹木葬」といった新しい葬儀のスタイルもあります。近年注目を集めるさまざまな葬儀の特徴を以下に記します。
①家族葬
大人数呼ばず家族だけで行なう葬儀です。参加者は故人との最期の時間をゆっくりと過ごすことができます。さらに、故人に思いを寄せる人のみで執り行うことができるため、参加者で悲しみや思慕を共有できることも大きなメリットです。
②一日葬
通夜式を行なわずに、告別式と火葬式を1日で行ないます。通夜式を行なわないぶん、金額を抑えられるメリットがあります。
③音楽葬
仏教などの形式にとらわれない自由な弔いの形である「自由葬」のひとつで、故人の好きな音楽を葬儀で流します。無宗教の方であれば、会場を自分の好きなように演出をすることができます。舞台を作ってコンサートのようにしたり、個性的な飾り付けをしたり、お気に入りのレストランや場所を選んで開催するなど、自由な感性を発揮できます。場合によっては、通常の通夜式や告別式に音楽を取り入れることも可能です。
④散骨
海へ散骨するプランが人気を集めています。
⑤樹木葬
墓石の代わりに樹木をシンボルとするお墓です。お墓の跡継ぎを必要としない永代供養のひとつで、一般的なお墓よりも安く抑えられる傾向にあります。
⑥市民葬・区民葬
自治体がサービスとして行なう葬儀です。葬儀費用が安く抑えられることがいちばんのメリットですが、利用できる葬儀社は自治体によって定められており必要最低限の葬儀しか行なうことができません。そのため、遺影の撮影や搬送車などの、通常の葬儀であれば当然ついてくるサービスが含まれていないことも。安くしようとしたつもりが、余計に高くなってしまったというケースもあります。
⑦自宅葬
通常、ホールや会館などでたくさんの人を招いて行なう葬儀を「一般葬」といい、対して、自宅で葬儀を行なうのは「自宅葬」といいます。日本では、これまで自宅葬のほうが一般的でした。しかし、多くの人が住むアパートやマンションでは葬儀を行なうことが難しいため、自宅で葬儀することが減っています。近年になって自宅葬であれば、費用を抑えられることや、最期のときまで慣れ親しんだ自宅で過ごせて、家族や親しい友人に静かに見送られることができるため、再び家族葬が注目を集めています。
⑧生前葬
さいきんでは、生前葬というタイプの葬儀も登場しています。自らが主催となって、死ぬ前に告別式を行なう新しい葬儀のかたちです。生前に葬儀を行なうことで、これまでお世話になった人にお礼やお別れを伝えることができます。また、家族や近しい間柄だけで行なう「密葬」を希望している場合、多くの友人たちを葬儀に招くことができないため、御礼を伝える機会として設けることもあるようです。
「死ぬ前に葬儀をするなんて……」と不謹慎に思われる方もいるかも知れませんが、生前に葬儀をすることで、新しい人生のスタートになったり、周りの人と想いを深め合う素敵な機会とすることができると、近年人気を集めています。
このように、葬儀だけでもさまざまなタイプのものがあります。きっとあなたにあったものがあるはずです。どのタイプが自分の希望に合っているのかを考え、エンディングノートに希望を記しておくとよいでしょう。誰を呼んでほしいのか、どんな花を使って欲しいのか、どんな音楽を流して欲しいのか、棺おけに入れて欲しいものや、どんな服を着たいかなど、そうした内容まで書いておくとよりよいお葬式ができるはずです。