エンディングノートを書くメリットとは

エンディングノートに書くこと

はじめに

約50年前は、日本では祖父母、両親、子どもたちで暮らす三世代同居が一般的で、近所の人たちとの繋がりも色濃くありました。現在では、核家族や一人世帯といった家族形態が増えています。また、都心部では周囲から孤立して生きる人が増えてきています。周囲との関係が希薄なために、人知れず亡くなる「孤独死」は近年増加した社会問題のひとつです。また、日本の平均寿命は、男性が81歳、女性が87歳と世界に誇る長寿国ですが、その一方で介護を必要としない「健康寿命」は、男女共に70代前半。多くの人が支援や介護を必要とする状態を何年も過ごすことになっています。

そうした状況のなかで、注目を集めているのが「終活」という言葉。この言葉は、2010年と2012年に流行語大賞にノミネートされました。終活とは、生きているうちから自分自身の身に「もしも」のことがあったときのために、身辺の整理をすることです。「自分が病に倒れることや死ぬことなんて考えたくない!」という人もとても多いかと思います。しかし、「もしも」のときは誰にでも必ず訪れるのです。その時のために事前に備えることはとても大切です

 終活では、具体的にどのようなことを行なうのでしょうか? 人によって多少の違いはありますが、多くの人は、「お金の計画を立てる」「持ち物の整理をする」「介護を受けるための準備をする」「治療の希望について考える」「延命処置について考える」「お葬式の準備をする」「お墓を検討する」「遺言書を作る」そして、「エンディングノートを書く」などを行なっています。

 エンディングノートとは、自分に万が一のことがあったときに伝えたい情報やあなたの想いを記すことができる「もしものときのための意思表示ノート」です。エンディングノートを書くことはもっとも気軽に始められる終活のひとつであり、これから行なうべき終活の計画を立てるのにも役立ちます。

エンディングノートに書く内容には、「自分史」「家族や友達への思い」「財産、遺産に関する情報」「パソコンやデジタルサービスのこと」「介護や終末期医療について」「葬儀について」などがあります。それでは、それぞれの項目を順番に見ていきましょう。

① 自分史

エンディングノートには、自分史を記すことができます。生まれた場所や、そのときの体重、身長、お父さんやお母さんの名前、幼少期の大切な思い出……。人によっては「こんな情報が何の役に立つの?」と疑問に思うかもしれません。あなたのことは、家族はみんな知っているんじゃないかと思うからです。しかし、家族であってもあなたのことで知らない部分は多くあるものです。あなたが、どんな子どもで、どんなニックネームで友達から呼ばれていたのか、小学校のころに得意だった科目、苦手だったこと……。じっくり考えてみると、家族でも話したことのないことがあったと気がつくのではないでしょうか? さらに、あなたの子どもが成人して親元を離れたあとは、きっとあなたについて知らないことも増えていくはず。普段の会話ではなかなか伝えられないことを、エンディングノートであれば、書き記すことができます。そして、そうした自分史は、「もしも」のときにとても役立ちます。

人は、大切な人が旅立つと大きな喪失感に襲われます。「もっとこうすればよかった」「もっと親孝行したかった」「自分のことをどんな風に思っていたんだろう?」「近くにいたのに、知らないことが多すぎる……」と、もう会えない人を思ってさまざまなことを悩みます。

そんなときに、あなたがエンディングノートで自分史を記していたら、そこにある情報はその人にとってとても大切なメッセージになります。

例えば、老いた父親がエンディングノートに自分史を記し、そのノートを子どもたちが見るのを想像してみてください。「ああ、お父さんってこんなことを考えていたんだ……」と、父親の新しい一面を知ることができるはずです。そして、子どもたちが父親のことを語り合うきっかけになります。亡くなった人のことを語り合うのは、残された人たちにとってとても大切な「グリーフケア」となります。 グリーフケアとは、死別による損失感から回復するための援助のこと。喪失感を抱えた人にとって、その人のことを語らう時間はとても重要です。その語らいのきっかけとして、エンディングノートの自分史はとても役に立ちます。

 もちろん、自分史は誰かのためだけに書くのではありません。自分史を書くことで、自分自身の人生を振り返ることもできます。「小学生のころに好きだったこと」「中学生時代によく行った場所」「大学時代に熱中した趣味」など、エンディングノートに書いたことをきっかけに、思い出の場所へ再び行ってみたり、地元の旧友に再会したり、仕事や介護などに追われていつのまにかやめてしまった趣味を再開することもあるかもしれません。人生を振り返ることで、自分らしさを取り戻すきっかけになるはずです。

家族や友人への想い

 エンディングノートには、家族や親しい友人への想いもしっかりと記しておきましょう。日ごろ言えない感謝の思いや伝えたいことを書けば、そのノートを手にした人にとって、あなたからの最期のメッセージはとても大切な贈り物になるはずです。

財産、遺産に関する情報

 財産や遺産に関する情報をエンディングノートに記しておけば、残された家族の負担を大きく軽減させることができます。まずは、エンディングノート内にある財産一覧表を作成しましょう。あなたが所有する預貯金や株式、不動産、生命保険などの財産。また、借金や住宅ローンなどの負債です。どれもあなたが病気になったり亡くなった後でも、家族がすぐに調べることができそうなものばかりですが、夫婦でもすべてを把握できているとは限りません。ましてや、親元を離れた子どもたちではなおさらです。もし、口座を見落としてしまえば、「時効消滅」といって払い戻しできなくなってしまう可能性もあります。自分自身で財産を把握するためにも、一度は一覧表を作るようにしましょう。

 ただし、ひとつ注意が必要なのは、財産についてすべてを詳細に書く必要はないということです。預金通帳の暗証番号や通帳や印鑑の保管場所はノートには記載せず、信頼できる人に直接伝えたほうが安心ですし、財産のことは家族であってもすべては知られたくないと思います。たとえば、生命保険のことであれば、加入している保険会社の名前を記しておけばOKです。会社名さえわかれば、残された人はそこに問い合わせて手続きを行なうことができます。それでは、それぞれの項目で何を書くべきかを記しておきます。

①預貯金……金融機関名、支店名、口座の種類、口座番号、名義人

②貸金庫……金融機関名、支店名、契約内容

③株式……金融機関名、取引店名、口座番号、名義人

④不動産……物件名、住所、登記簿上の住所

⑤生命保険……保険会社名、担当者名、連絡先

⑥年金……種類、基礎年金番号、年金証書番号

⑦債務……債入先、連絡先、債入金額、債入日、返済方法、完済予定日

 さらに、万が一のときに誰に財産管理を任せたいかも書いておきましょう。突然の事故や脳梗塞、認知症など、自分自身の意志が伝えられなくなったとき、もっとも信頼できる人は誰ですか? 多くの人は「家族」や「恋人」、「親友」と答えるでしょう。その人の氏名をエンディングノートに書いておけば、万が一のときに、その人に管理してもらうことができます。ただし、注意しておきたいのは、エンディングノートに書くだけでは法的な拘束力はないということです。もし、あなたが財産管理をぜったいにこの人にお願いしたという人がいるのであれば、「財産管理等の委任契約書」「任意後見契約書」を正式に作りましょう。

 あなたの財産や持ち物を、誰が引き継ぐのかを記しておくことも忘れてはいけません。財産の分配を決めていなかったことによって、残された人たちが争い、関係が壊れてしまうことがあるからです。万が一のときに、あなたの財産を誰にどのように分けて欲しいのかをあらかじめエンディングノートに記しておきましょう。ただし、エンディングノートに記しておくだけでは十分ではありません。法的な拘束力を持たせるためには、「遺言書」を作成する必要があります。

パソコンやデジタルサービス

 現在は、多くの人が、パソコンやスマートフォンを使用しています。そこには、人に見られたくないものもあれば、家族に残しておきたいデータもあるかと思います。エンディングノートには残したいデータのある場所と、削除して欲しいデータのある場所を書いておきましょう。見られたくないデータはひとつにまとめて、家族写真など残したいデータはそうとわかるようにまとめておきます。それをエンディングノートで記せば、残された人たちはあなたの希望を尊重することができます。また、見られたくないデータには、パスワードをつけるなどするとより安心です。

介護や終末期医療について

 脳梗塞など、突然、意思疎通ができなくなってしまうことがあります。そのときのために、エンディングノートには、介護や終末期医療(ターミナルケア)についての希望をしっかりと書いておきましょう。

 介護では、できる限り自宅で過ごしたいのか、家族の介護を望むのか、希望する病院や施設はあるのかなど。また、認知症になったときに任意後見人を決めているのか、または配偶者か子どもに任せるかなども記します。

 アレルギーの有無や苦手な食べ物、好きな食べ物、好きなおやつ、趣味や好きな音楽、本、テレビなども、介護のときに役立つので書いておきましょう。どうしてこんなことを書くのかと不思議に思うかもしれませんが、たとえば、意思疎通が十分にできなくなったときのために、自分の好きなものや苦手なものをあらかじめ伝えておけば、あなたが上手に気持ちを伝えられなくなったとしても、相手があなたの気持ちを汲み取ることができるようになります。

 さらに介護のことだけではなくて、終末期医療についての希望も記すようにしてください。尊厳死や延命について考えるのは気が重いかも知れませんが、最期のときまであなたらしく過ごすための大切な意思表示です。たとえば、エンディングノートで記すことができるのは、以下のような項目です。

①病名や余命の告知を希望するか

②終末期医療の希望と、尊厳死を望むかどうか

③臓器提供の意思

④検体の意志

 ①の病名と余命の告知については、10年前であれば深刻な状況であるほど告知は行なわない傾向にありました。近年は告知する方針へ移り変わっています。しかし、人によっては最期まで穏やかに過ごしたいという考えから告知を望まないケースもあります。告知をするかしないかはそれぞれメリットとデメリットがありますので、よく調べて周囲と相談して書いておきましょう。

 ②では、尊厳死や延命についての希望を記載します。たとえば、疾患や老衰によって次第に口から食事をするのが難しくなってくることがあります。その際、延命処置として「胃ろう(おなかにチューブを入れて、直接胃に栄養を入れられるようにすること)」を作ることがあります。胃ろうについては、医療者の間でもさまざまな意見があり、胃ろうによって体力がついて予後が良くなると推奨する人もいれば、胃ろうを作っても長期的な予後が期待できないから反対だという医療者もいます。慎重な検討を行なって、胃ろうを作るかどうかを判断することが大切です。

 こうした、終末期医療における意志は「リビングウィル」といいます。最期のときまで、あなたが自分の意志と誇りを持って生きるための意思表示だといえます。延命維持の措置には、胃ろうのほかに、人工呼吸器装置、中心静脈管を通した人工栄養補給、水分補給、人工透析、化学療法、抗生物質投与、輸血なども含まれます。さらに、脳死状態で回復の見込みがない場合に、延命処置をのぞむかどうかも記すことができます。延命処置を望まずに「尊厳死」を希望する場合には、主治医にはっきりと意思表示を行なう必要があります。尊厳死を希望する場合には、日本尊厳死協会に入会するか、「尊厳死宣言公正証書」を作成する必要があります。

 ③の臓器提供を希望する場合にも、エンディングノートの記載しておきましょう。エンディングノートに記しておけば、いざというときに家族が確認することができます。臓器提供をする場合には、「臓器提供意思表示カード」などを所有している必要がありますが、家族の承諾がなければ実際の提供はできません。生きているうちから、家族にその意志を伝え、同意を得る必要があります。

 ④の献体とは、医学・歯学の大学における解剖学の教育と研究に役立てるため、自分の遺体を無条件に提供することを言います。そのためには、生きているうちに献体したい大学などに登録し、家族の同意を得ている必要があります。献体の登録情報については、エンディングノートにしっかりと記入して、死後に登録団体に連絡するように記しておくことが大切です。献体を行なうと、遺骨が家族のもとに戻るのは約1~2年後。事前に家族と十分に話し合いましょう。

葬儀について

これまでは、仏教などのしきたりに則って、葬儀儀式や告別式を行なうことが一般的でした。最近では、さまざまな葬儀方法が登場し、人生最期のときまであなたらしく過ごすことができるようになっています。家族や親しい間柄のみで行なう「家族葬」やお通夜を行なわずに告別式から火葬までを1日で行なう「一日葬」、故人の好きな曲でお別れをする「音楽葬」、さらには、「散骨」や「樹木葬」といった新しい葬儀のスタイルもあります。近年注目を集めるさまざまな葬儀の特徴を以下に記します。

①家族葬

大人数呼ばず家族だけで行なう葬儀です。参加者は故人との最期の時間をゆっくりと過ごすことができます。さらに、故人に思いを寄せる人のみで執り行うことができるため、参加者で悲しみや思慕を共有できることも大きなメリットです。

②一日葬

 通夜式を行なわずに、告別式と火葬式を1日で行ないます。通夜式を行なわないぶん、金額を抑えられるメリットがあります。

③音楽葬

仏教などの形式にとらわれない自由な弔いの形である「自由葬」のひとつで、故人の好きな音楽を葬儀で流します。無宗教の方であれば、会場を自分の好きなように演出をすることができます。舞台を作ってコンサートのようにしたり、個性的な飾り付けをしたり、お気に入りのレストランや場所を選んで開催するなど、自由な感性を発揮できます。場合によっては、通常の通夜式や告別式に音楽を取り入れることも可能です。

④散骨

 海へ散骨するプランが人気を集めています。

⑤樹木葬

 墓石の代わりに樹木をシンボルとするお墓です。お墓の跡継ぎを必要としない永代供養のひとつで、一般的なお墓よりも安く抑えられる傾向にあります。

⑥市民葬・区民葬

 自治体がサービスとして行なう葬儀です。葬儀費用が安く抑えられることがいちばんのメリットですが、利用できる葬儀社は自治体によって定められており必要最低限の葬儀しか行なうことができません。そのため、遺影の撮影や搬送車などの、通常の葬儀であれば当然ついてくるサービスが含まれていないことも。安くしようとしたつもりが、余計に高くなってしまったというケースもあります。

⑦自宅葬

通常、ホールや会館などでたくさんの人を招いて行なう葬儀を「一般葬」といい、対して、自宅で葬儀を行なうのは「自宅葬」といいます。日本では、これまで自宅葬のほうが一般的でした。しかし、多くの人が住むアパートやマンションでは葬儀を行なうことが難しいため、自宅で葬儀することが減っています。近年になって自宅葬であれば、費用を抑えられることや、最期のときまで慣れ親しんだ自宅で過ごせて、家族や親しい友人に静かに見送られることができるため、再び家族葬が注目を集めています。

⑧生前葬

さいきんでは、生前葬というタイプの葬儀も登場しています。自らが主催となって、死ぬ前に告別式を行なう新しい葬儀のかたちです。生前に葬儀を行なうことで、これまでお世話になった人にお礼やお別れを伝えることができます。また、家族や近しい間柄だけで行なう「密葬」を希望している場合、多くの友人たちを葬儀に招くことができないため、御礼を伝える機会として設けることもあるようです。

「死ぬ前に葬儀をするなんて……」と不謹慎に思われる方もいるかも知れませんが、生前に葬儀をすることで、新しい人生のスタートになったり、周りの人と想いを深め合う素敵な機会とすることができると、近年人気を集めています。

このように、葬儀だけでもさまざまなタイプのものがあります。きっとあなたにあったものがあるはずです。どのタイプが自分の希望に合っているのかを考え、エンディングノートに希望を記しておくとよいでしょう。誰を呼んでほしいのか、どんな花を使って欲しいのか、どんな音楽を流して欲しいのか、棺おけに入れて欲しいものや、どんな服を着たいかなど、そうした内容まで書いておくとよりよいお葬式ができるはずです。

エンディングノートとは?

エンディングノートのはじまり

 エンディングノートが注目を集めるようになったのは、2010年ごろからだといわれています。2011年には「エンディングノート」という題のドキュメンタリー映画がヒットしたことでより広く知られることになり、2011年の流行語大賞に「エンディングノート」がノミネートしました。2012年の経済産業省の調査によれば、30歳以上でエンディングノートをいずれ書くつもりだという人は40パーセント以上にのぼるそうです。

エンディングノートと遺言書の違い。エンディングノートのメリット

そもそもエンディングノートと遺言書との違いは何でしょうか? いちばんの違いは、遺言書には法的拘束力がありますが、エンディングノートにはない点です。では、どうしてわざわざエンディングノートを書くのか? そこには、遺言書にはないエンディングノートならではのメリットがあるからです。エンディングノートのメリットは、なにより遺言書より気楽に書けること。さいきんでは、書店に行けばさ まざまな種類のエンディングノートを購入できます。自治体で無料配布されていたり、ウェブサイトで無料ダウンロードすることもできます。

遺言書には法律に定められた書き方があり、それに則っていないと無効になってしまいます。弁護士などに依頼すれば、そのぶんの費用もかかります。また、基本的には死後の財産分与について記載することを目的としているため、家族への思いを記すのに最適とはいえません。

エンディングノートが求められる時代背景

 こうした「終活」や「エンディングノート」などが注目を集めるのには、どのような時代背景があるのでしょうか? まず、少子高齢化が上げられます。日本は現在、高齢化率が28.1%の「超高齢社会」です。そのため、人生の最期について考える高齢者が多くいて、「人生の最期をどのように過ごすか」を社会で考える動きが大きくなってきたといえます。最期のときの過ごし方を考えることは、これまで不謹慎だととらえられてきましたが、こうした社会背景によって「終活」をポジティブにとらえるようになってきたのです。

 さらに、近年では「孤独死」も大きな社会問題となっています。エンディングノートが直接的な解決にはなりませんが、おひとりの方でもエンディングノートに希望を書いておけば、信頼できる友人や親類などに、自分の意志を伝えることができます。また、おひとりさまで、ペットと共に暮らしている人も増えています。その場合には、自分がいなくなったときのペットのことがとても心配なはずです。そんなときでも、エンディングノートを書いておけば、ペットのことを頼れる人に伝えることができます。ペットの好きな食べ物や持病、かかりつけの病院、保険、いざというときに誰に預けたいかなどを記載しておくと、もしものときに役立ちます。

エンディングノートの意味

人生を振り返るきっかけにしよう

 子育てや仕事をリタイヤしたあと、ふと「私の人生っていったいなんだったんだろう」と立ち止まってしまうことが誰にでもあるはずです。そんなときにも、自分自身の人生を振り返るためにエンディングノートは役立ちます。エンディングノートでは、あなたの誕生から現在までを振り返って書くことができます。そうすることで、これまでの人生のなかで大切にしてきたものや、出会えた人を思い出し、自分自身の人生の豊かさに気がつくことができるはずです。

病に伏したときの希望を伝える

 歳を重ねても健康であり続けたいものですが、どんなに健康を心がけていても突然の病に倒れてしまうことがあります。2019年における日本の死因ランキングでは、悪性新生物(ガン)、心疾患、肺炎、脳血管疾患が上位を占めています。長期的な療養を必要とする疾患も多く、そのときには介護を必要とします。これまでの日本では病に倒れたときには、長期的に入院することが多かったですが、現在では在宅療養へシフトしていて、自宅にいながら介護を受けることが一般的になっています。そのなかで、自分に合うデイサービスや施設、介護者が見つからずに苦労されている方も多くいます。自身が認知症や脳梗塞に倒れたときのことを考えるのは、気が進まないかと思いますが、どんな状況になっても自分らしく過ごすために、あらかじめその時のことを考え、希望を記しておくことはとても大切です。そして、終末期の治療を望むのか、尊厳死を望むのかについてもしっかりと記しておきましょう。そして、亡くなったあとの臓器提供や献体の希望についても記しましょう。

残された家族の負担を軽減する

 大切な人が亡くなると、残された家族には大きな負担がかかります。葬儀の準備や公的書類の手続き、お金のこと……。たとえば、あなたにもしものことがあったとき、家族はそのことを親戚や友人に連絡する必要があります。葬儀社や葬儀の形式も決めなければなりません。お通夜や葬儀の進行も大変です。死亡診断書や死亡届、火葬届けなどの書類を準備し、健康保険や年金の手続きや保険会社とのやりとり、預貯金の確認、公共料金やクレジットカードなどの解約手続きも行なわなければなりません。それらが終わった後にも、遺品整理が続きます。

 これらに関わる情報についてもエンディングノートにしっかりまとめて書いておけば、こうした手続きや決定の負担も軽減させることができます。「もしも」のときに誰に連絡するかや、保険会社のこと、公共料金のことなどを記しておけば、残された家族はスムーズに解約の手続きを行なうことができるはずです。

 あまりにもやることが多すぎると、家族は落ち着いてあなたとお別れすることができなくなってしまいます。最期のお別れを、家族が穏やかに過ごしてもらうためにも、きちんとエンディングノートを書いておきましょう。

終活のチェックリストに活用する

 近年、「終活」が注目を集めて、実際に行なっている人も増えています。その理由には、自分の死後に家族に迷惑をかけたくないという思いや、自分自身が親の遺品整理を経験したことで自分の子どもには同じ経験をして欲しくないと感じたこと、歳を重ねたことで不要なものが増えていることなどが「終活」のきっかけになることが多いようです。終活で行なうのは、お墓を決めたり、お葬式のことを調べること、お金の計画を立てること、介護や治療について考える、持ち物の整理、デジタルデバイスの整理、お金の整理、遺言書の整理……など多岐にわたります。

 どれから手を付けたらよいのかわからず、なかなか終活に踏め出せないという人も多い。そんな人はまずはエンディングノートから書きはじめて、ページを進めるごとに、終活の手続きを進めていくことができます。どこまで終活を終えたか、そのチェックリストに、エンディングノートは役立つのです。

エンディングノートの書き方のコツ

まずは書く。空白は気にしない

 エンディングノートを購入したはいいが、いざ書こうとするとなかなかページが進まない……といった方も多くいるようです。きちんと書こうとするまじめな方ほどそうなってしまいがち。そういう方は、はじめから、ちゃんと書こうとせずに気軽に書いてみることが大切です。すべてを埋める必要はありません。空白があっても気にせず、気が向いたページから書いてみましょう。自分史のページは、思い出を振り返ることができるので、楽しく書き進めることができるはずです。

セミナーへ参加しよう

 エンディングノートでもっとも多くの方がつまずくのが、お金についての項目だと思います。エンディングノートには、預貯金や年金、ローン、負債、貸付金、クレジットカード、株式、不動産などについて記すことができますが、他人には見られたくない項目のため、どこまで書いていいのかわからない、また、そもそも書き方がわからないという人が多くいます。そんなときには、エンディングノートの書き方セミナーに参加するとよいでしょう。葬儀社や自治体、保険会社、ショッピングモールなどの主催で「終活セミナー」が開催されているケースも増えています。その多くが短時間のセミナーなので、気軽に参加することができます。終活セミナーでは、エンディングノートの書き方のほかに、相続や葬儀、介護、お墓のことなども教えてくれます。自治体で行なうセミナーであれば、参加費も無料~千円程度ととても安価。セミナーでは質問できる時間も設けられているケースが多いため、実際にプロに疑問を聞くこともできます。

 そうしたセミナーの多くで講師をするのが、「終活カウンセラー」という資格を持つ方です。終活カウンセラーとは、終活についての幅広い知識を持って、終活をサポートしてくれる人のこと。保険会社や葬儀社には終活カウンセラーの資格を持った方が所属していることが多いようです。終活カウンセラーは、相続や遺言、保険、葬儀、お墓、介護などについて幅広い知識を持っているため、エンディングノートにつまずいたときにも、どのように書き進めればよいのか的確にアドバイスをすることができます。

弁護士事務所などへ相談する

 よりくわしく相談したい場合には、個人で弁護士事務所などへ相談するのをオススメします。自治体などで行なわれる「終活セミナー」に参加するよりは、高額となることが一般的ですが、より丁寧に対応してもらえるます。終活に特化した「終活弁護士」として活動する弁護士も増えてきていて、終活弁護士であれば、エンディングノートや終活でどんなことにつまずきやすいのか、その対処法も熟知しています。相続のことなどをより具体的に相談したいなら、終活弁護士の所属する弁護士事務所に問い合わせることをオススメします。

エンディングノートを準備しよう

エンディングノートの選び方

エンディングノートは書かなければいけない事柄が決まっているものではありません。遺言書とは異なり、公式な書類ではないので、お気に入りのノートに書き込んだり、wordやexcelなどのデータで残してもいいのです。

とはいえ、「何を書けばいいのかわからない」という方が大半だと思います。そこで、書店や文房具店などで販売されているエンディングノートを活用するのがオススメです。

現在、エンディングノートはさまざまな種類のものが販売されています。たとえば、財産や葬儀などあらゆる項目を網羅したものや財産について細かく項目があるもの。病気などで自分が正常な判断をできなくなったときの対応についての項目があるものや葬儀について細かく項目があるもの。自分史が中心のものや大切な人へのメッセージをたくさん書けるもの。選ぶ際に自分が何について書き記したいのかを明確にしましょう。

葬儀や遺言についての解説が付いているものもありますし、エンディングノートに記されている項目を見て、「こんなことについても書いておいた方がいいのか」と初めて気づくこともあります。

さいきんでは、ノート以外に手帳タイプのものやアプリ、収納ポケットなどの付属品が付いているものもあるので、よく見比べてみて、自分の希望に合ったエンディングノートを選びましょう。

オススメのエンディングノート5選

数あるエンディングノートの中でもオススメの5冊セレクトしました。ぜひご参考にしてください。

「もしもの時に役立つノート」コクヨ

大手文房具メーカーのコクヨが発売し、発売6年で60万部を超える大ヒットのエンディングノートです。全体的にオレンジ色がベースで、マンガやイラストが使われており、読みやすいデザインになっています。

必要な項目が揃っており、とても実用的なので、エンディングノートとしてだけでなく家族が入院したときなど、もしものときにも役立ちます。法律相談ポータルサイトの弁護士ドットコムが特別協力として監修しているので安心感もあります。

中は大きく「はじめに」「自分のこと」「資産」「気になること」「家族・親族」「友人・知人」「医療・介護」「葬儀・お墓」「相続・遺言」「その他」の10項目に分かれています。

それぞれの項目内の細かい項目には、財産や葬儀などの基本情報だけでなく、「気になること」に「WebサイトのIDについて」や「ペットについて」など、あまり他のエンディングノートに載っていないような項目があるので便利です。また、「相続・遺言」の項目では相続と遺言書の基礎知識がわかりやすく図解で説明されているので参考になります。

写真やメディア(CD・DVD)を保管できるディスクケースが付いているのも嬉しいポイントです。

中紙になめらかな書き心地で長期保存に適した「コクヨ帳簿紙」を使用していたり、本を開いたときに平らになる製本になっているのもコクヨならではの特徴です。また、オレフィンカバーが付いているので、きれいな状態で保管できます。

「未来を見つめるエンディングノート」主婦の友社 

表紙に優しいイラストが描かれており、全体的にピンク色がベースのやわらかい感じです。かわいいイラストが描かれたノートマーカー(しおり)も付いているので、女性が手に取りやすいデザインです。

中は「もしもの時に役立つノート」のように、大きく「はじめに」「いざというとき必要なこと」「お金・資産」「わたしのこと」「家族・親族」「友人・知人」「医療・介護」「葬儀・お墓」「相続・遺言」「その他」の10項目に分かれています。

細かい項目も「もしもの時に役立つノート」と似ており、実用度が高いです。「もしもの時に役立つノート」と比べると、文字が少し大きく、記入するスペースが少し広いため、ゆったりと書き込めます。「医療・介護」「葬儀・お墓」の項目にはQ&A形式で基本情報が載っているので役立ちます。

こちらも「もしもの時に役立つノート」と同じようにオレフィンカバーが付いているので、きれいな状態で保管できます。

「アクティブノート」オフィスシバタ 

このノートは、必要なとき、必要な人に、必要な情報を伝えるために、3冊のノートで構成されています。万が一のときに救急隊に見てほしい「赤のノート」、生きているうちに見て、知っておいてほしい「緑のノート」、亡くなってから見てほしい「黄色のノート」です。

いつか見せようと引き出しに入れたまま最期まで気づかれずに終わってしまったり、生前に第三者に見られてトラブルが生じたりしないために作られたため、書き手と読み手の両方を意識して作られている印象です。財産や大切な人へのメッセージなど、限られた人にしか見られたくないものが間違って他の人に見られる心配が少ないので安心です。

「赤のノート」は、急な病に倒れたり、事故にあったときに、救急隊に自分の医療に関する情報や希望を伝えるためのノートです。緊急連絡先やかかりつけ医院、飲んでいる薬のほか、病名や余命の告知、延命処置についてなどを記入する項目があります。ノートを見つけやすい玄関のドアなどに吊るしておけるように、紐を通す穴が開いています。

「緑のノート」は、「こんなふうに介護をしてほしい」「お葬式はこうしてほしい」など、亡くなる前に読んでほしい内容を伝えるためのノートです。家族や親戚についてなど基本情報のほか、介護や葬儀、お墓について記入する項目があります。

「黄色のノート」は、財産に関することや家族へのメッセージなどを記入し、判断能力が低下して介護などで費用が必要になったときや、死後に財産を整理するときなどに見てもらうためのノートです。不動産や預貯金、年金、保険などのほか、メッセージを書く欄があります。

3冊に分かれているという変わった形式に少し戸惑うかもしれませんが、書き方ガイドブックが付いているので困ることはありません。また、3冊をまとめている特製フォルダは3mmのマチがあるため、写真や書類、手紙なども挟めます。

「夢をかなえるエンディングノート 女性版」木村台紙エンディングノート制作部門 

老舗の台紙屋が発売したエンディングノートのため、前撮り遺影写真(2Lサイズ)用の台紙セットと手紙ホルダーが付いており、ノートよりもこちらのほうがメインといった印象です。写真台紙の表紙はピンク色の布製で立派なつくりで、自分の気に入った遺影用の写真をきれいに保管しておくことできます。残された家族が写真選びに困ったり、自分の希望しない写真が使われてしまうといったことを避けられます。

エンディングノートは、表紙はえんじ色、中面は淡いピンクと水色のやわらかい印象で、22ページと薄いです。1ページごとにシンプルなつくりで、自分史や感謝の気持ちなどを、細かい項目がなく、フリーで記入するようになっています。そのため、実用度を求めている方にはあまりオススメできません。反対に、細かい項目を気にせず自由に書きたい方にはピッタリです。ラインすらないので、好きなように絵や図を描くこともできます。

台紙セットとエンディングノートを一緒に保管するボックスなどは付いていないので、気を付けないとバラバラになってしまう危険性もありますが、一方で、それぞれ保管したい場所に置くこともできます。

遺影用の写真を用意したり、自分自身について文章で記すことによって、前向きな気持ちで過去と未来への自分と向き合うことができるかもしれません。プレゼントにもオススメです。

「My Life Binder」レイメイ藤井  

文具メーカーが発売したシステム手帳形式のエンディングノートです。見た目は普通の手帳で、エンディングノートに見えません。カバーが合皮でしっかりしたつくりのため、本体が480gと少し重いです。

いちばんのポイントは、手帳がリフィル式のため、自分で必要なページを取捨選択できるところ。人によって書きたい項目や文量が異なるので、必要に応じて別売りのリフィルを購入し、好きなように追加したり、差し替えたりできるのは便利です。

リフィルは他のA5サイズの手帳にもファイルできるので、愛用のシステム手帳を「My Life Binder」として使用することもできます。リフィル用紙は文具メーカーらしく、長期保存に最適な「帳簿紙」という、少し黄みがかった紙を使用しています。

最初の時点では「自分自身のこと」「「もしもの時」のために」「親族・友人・知人の連絡先」「メッセージ」の4項目、40種・56枚のリフィルを収録。内容は行政書士の阿部隆昭氏が経験に基づいて監修しており、実用的な項目が並んでいます。書き方ガイドブックが付いているので、迷わず書き進められます。

カードポケットやフォト・ポストカードポケット、大型ポケット、ペンホルダーも付いているので、お気に入りの写真や重要なカード類などを一緒に保管できます。

エンディングノートの活かし方

保存方法

 エンディングノートには多くの個人情報が書かれています。そのため、エンディングノートを金庫やタンスにしまいこみ、家族にも隠している方も多いようです。しかし、それでは「もしも」のときに、エンディングノートを活用することができません。たとえ、終末期の治療や葬儀のことを書いておいたとしても、エンディングノートの存在を家族が知らなければ、それを役立てることができません。とくに、終末期から葬儀までの期間は家族がとてもあわただしく過ごすことが多いです。葬儀も終えて落ち着いた頃になって、エンディングノートを見つけるケースが多くあります。そうしたことを防ぐためにも、やはりエンディングノートの保管場所は信頼できる人には伝えておいたほうがよいでしょう。

法的な効果

 さらに、終末期の治療方針や延命、臓器提供、献体などには、家族の同意が必要となります。あなたがもし終末期の延命処置を希望しない場合や死後の臓器提供を希望していたとしても、家族が拒否すれば、あなたの希望は叶えることができません。エンディングノートをきっかけに、あなたの意志をご家族に伝えて、話し合いの機会を持つようにしてください。また、相続については、遺言書を作成することをおすすめします。

安心できる終活のために必要なこと

 終活で行なうことはとてもたくさんあり、一朝一夕にできるものではありません。はじめる時期は70歳を越えたら、80歳を越えたら……という基準があるわけではなく、「やろうかな」と思ったときがはじめどきです。そして、終活のスタートに、エンディングノートを書きはじめるのはとてもよいと思います。

 終活の目的は決して、家族に迷惑をかけないためだけではありません。あなたが人生を振り返り、これからの人生をよりよく生きるためでもあります。エンディングノートを書き始めるのは、何歳からでも早くはないし、遅くもありません。「人生について振り返りたいな」「家族に想いを伝えたい!」「これからのお金のことが不安で解消したい」、きっかけはなんでも良いのです。

 これからの人生を豊なものにするために、エンディングノートを書き始めることからはじめましょう。

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