エンディングノートを作ろうと思ったら、まずどうする?
最近、注目が集まっている「エンディングノート」。なんとなく名前を知っていたり、「興味はある」という方は多いのではないでしょうか。
実は最近、市町村などの地方自治体でエンディングノートを制作するところが増えています。横浜市では、18ある区のすべてでエンディングノートを作っています。お住まいの自治体でも作っているかもしれません。問い合わせてみてはいかがでしょうか。
2018年の日本人の平均寿命は、女性が87.32歳、男性が81.25歳で、いずれも過去最高を記録しました。さらに、100歳以上の人口は連続で増えて7万人を超え、日本はまさに長寿国家といえるでしょう。(2019年9月13日、厚生労働省発表)。
つまり、「ご長寿あたりまえ」となってきたのが現代日本の実態です。となると、家族や親族、友人の方はもちろん、ご近所や仕事相手の方などなど、多くの方の「人生の終わり方」を目にする機会も増えてきたことと思います。
そこで、近年話題に登ることが多くなってきたのが「終活」です。
みんなで一斉に受験勉強をして、学校を卒業したら「就活」で一斉に就職し、婚期が近づいてくると「婚活」。そして人生の夕暮れが見えてくると「終活」というわけです。もちろん、誰もが同じやり方で「就活」「婚活」「終活」をする必要はありません。しかし「人生の秋」が近づいてくるとなると、「秋深し 隣は何をする人ぞ」ではありませんが、他の人がどう備えているかについて気になるのは人情というもの。終活ブームが盛んになったのもうなずけるところです。
さて、終活のひとつの形として近年話題に登ることが多いのがエンディングノートです。
人生の終わりを意識したときに、「書き残しておきたい」「伝えておきたい」ということを書き綴るのがエンディングノートです。
エンディングノートには、定まった形式や決まり、約束ごとはありません。エンディングノートを書こうという人が100人いれば、100通りのエンディングノートがあるのです。
エンディングノートには、大きくとらえて6つの目的があります。
①実用的な情報:
財産や資産が、どこにどれだけあるのか。銀行口座や不動産など。
②健康・医療面での意向:
自分が病気や事故などで意志を伝えられなくなった場合にどうするか。延命措置など。
③亡くなったあとの処置:
伝えたい人や伝えたくない人、葬儀の形式や規模、葬儀に呼んでほしい人など。
④人生を振り返る:
自分の人生とはなんだったのか、やってきたこと、やり残したことは何か。
⑤家族としての歴史:
家族の一員として、親として、子として積み重ねてきた家族史を書いてみる。
⑥自分の人生の総まとめ:
残りの人生をどう過ごすかを考える。①~⑤までのことを考えていくと、自然と自分の人生のまとめとなります。
ここで挙げた6つのテーマのうち、何に重点を置くかは人それぞれでしょう。誰にでも、自分なりのエンディングノートの構成があるはずです。
とはいえ、自分でイチからエンディングノートを作るのもたいへんなこと。ほとんどの人は、「まず何から手をつけていいのやら……」と呆然としてしまうことも多いでしょう。
そんな方のために、最近では市町村などの地方自治体が住民サービスの一環としてエンディングノートを制作し、配布するケースが増えています。
では、いくつかの自治体のエンディングノートについて見てみましょう。
横浜市の取り組み~18区すべてでエンディングノートを制作
神奈川県横浜市は、人口374万5,377人の大都市です。企業のオフィスや大学など、働き盛りや若年層が多く、北部は東京のベッドタウンとしての役割も果たしているため、子育て世帯もたいへん多い都市です。
古くから「若者の街」というイメージもあるように、横浜市の65歳以上の人口の割合を示す高齢化率は24.3%。全国平均の28.1%よりも少なく、人口割合として「若い」街であることは間違いありません。
しかし、横浜市の65歳以上の高齢者人口は91万1,658人。これは千葉市(97万人)、北九州市(96万人)の総人口に迫る人数で、横浜市ではおよそ政令指定都市ひとつ分を構成するだけの人々が「人生の夕暮れ」に近づいていることがわかります。
横浜市も、高齢化問題と終活をどうするかという問題には直面せざるを得ないのです。
さて、その横浜市では18ある行政区のすべてがエンディングノートを制作しています。全国の自治体でエンディングノートへの取り組みは進んでいますが、300万を超える人口をカバーするすべての区でエンディングノートを制作しているのは非常にまれ。いわば、横浜市はエンディングノート先進都市といえるでしょう。
横浜市役所・高齢在宅支援課の担当者の方にお話をうかがってみました。
―横浜市では、18ある区のすべてでエンディングノートを制作しています。とても先進的な取り組みだと思いますが、これは市側から各区に指導した結果なのでしょうか?
横浜市健康福祉局高齢在宅支援課(以下担当者) いいえ、エンディングノートについてはもともと各区の取り組みのなかからはじまり、市民の皆さんから大きな反響があったことを受けて「では全市でやりましょう」となったのです。
―トップダウン型ではなく、ボトムアップ型のアプローチでスタートしたんですね。もともとは、どこの区でスタートしたんでしょうか。
担当者 もともとは、平成19(2007)年に泉区でスタートした取り組みです。当時は利用される方がそれほどいらっしゃらなかったので、一時制作されていない時期もありました。
その後、磯子区が平成24(2012)年に「磯子区版エンディングノート」として配布を開始しました。これが大きな反響を呼びまして、その後8つの区にエンディングノートへの取り組みが広がりました。
―磯子区のエンディングノートは、新聞やマスコミでも多く取り上げられましたね。
担当者 そうですね。それを受けて、平成30(2018)年に「それでは横浜市全体でやりましょう」ということになり、他の10区も準備をはじめました。平成31(2019)年度から、横浜市のすべての区でエンディングノートを制作し、配布しております。
―今年から全横浜市でスタートしたのですね。反響はいかがでしょうか。
担当者 横浜市全体としての取り組みは今年度からですので、「何部印刷して何部お配りした」という数字はまだ出ていません。ですが、各区で行っているエンディングノートの書き方講座や、映画「エンディングノート」の無料上映会などの催しはたいへん多くの方からお申込みをいただいています。あっという間に定員いっぱいになってしまったため、急遽追加でイベントを開催したこともあります。いくつかの区では、すでに今年度分として印刷したエンディングノートを配布し終えてしまい、増刷していると聞いています。
―市民の方の関心の高さを感じますね。今後についてはいかがでしょうか。
担当者 大きな反響もいただいていますし、エンディングノートについては今年度のみの取り組みで終えることは考えておりません。次年度以降も、積極的に取り組みを続けていきたいと考えております。
横浜市磯子区「磯子区版エンディングノート」
それでは、ここからは各区のエンディングノートを実際に見てみましょう。まずは、横浜市のエンディングノートへの取り組みを大きく前進させた磯子区版からです。
磯子区のエンディングノートは、区の高齢者支援にあたる現場の声から生まれました。磯子区福祉保健センターの職員と、磯子区内地域ケアプラザの地域包括支援センターの社会福祉士が、普段の支援活動のなかで感じていることを中心になって作りました。磯子区版エンディングノートは、福祉サービスと支援をもっと深くすることを目標に、次の5つの思いを込めたものです。
・自分の生活を見直す
・大切に生きようと意識するようになる
・自分のことを自分で決める
・書き終わって安心する
・大切な人に希望を伝える
「エンディングノートはスターティングノートでもある」。磯子区版エンディングノートの紹介ページに書かれたフレーズは、エンディングノートを書く立場に立った人を勇気づけてくれますね。元気なときから準備・計画を進め、自分の思いを周囲に伝えておくことで、「終活」をスムーズに進めることができるはずです。
磯子区版エンディングノートの最大の特長は、全16ページとボリュームを抑えてあることでしょう。記入する内容もチェック式で、とにかく取り組みやすく、エンディングノートを書くことへのハードルを最大限低くしてあります。
制作にあたったスタッフからは、「高齢者支援サービスは、仕組みの導入だけでは実際の課題を解決するには至らないのではないか。そのすき間を埋めるツールとしてエンディングノートを活用したい」「誰でも最期まで自分らしく生きたいと願う一方で、人の思いを受け入れ、受け継いでいく人間関係が希薄になりがちな現代だからこそ、このノートが役に立つと思う」などの意見が上がったといいます。
磯子区では、映画「エンディングノート」の無料上映会や、エンディングノートの書き方講座などを実施しています。
横浜市保土ヶ谷区「わたしのこれまで、そしてこれから」
保土ヶ谷区では、「わたしのこれまで、そしてこれから」と題したエンディングノートを制作しています。
ボリュームは全24ページ。「はじめに」の項目で、「『エンディング』という名前から『自分にはまだ早い』『終わるなど縁起でもない』と暗いイメージで捉えられがちですが【わたしのこれまで、そしてこれから】はあなたのライフプランを考えるノートです」としているように、前向きでポジティブに取り組めるエンディングノートです。
目次には「わたしのこと」「大切なもの」「連絡先」「資産・負債など」「相続・遺言」「介護についての希望」「医療についての希望」「葬儀」「お墓」「その他のおねがいごと」「これからのわたし」という項目が並びます。
「わたしのこと」には、氏名や住所、本籍地などの基本情報から、趣味や特技、好きなスポーツやテレビ番組、本や映画、もう一度行ってみたいところなど、家族のあいだでの話題作りになる記入欄が。また、「ライフイベント」として生まれてから10代まで、20代、30代など年代ごとに自分史・家族史を書き込むページもあります。持病やかかりつけ医、かかりつけ薬局やケアマネージャーの連絡先など、重要な連絡先はこちらにまとめられています。
「大切なもの」には、家族や知人・友人に譲りたいものについて記入できます。ペットの名前や年齢、飼育上の留意点、自分の代わりに飼育を頼める人の連絡先などについてもこちらです。
「連絡先」のページには、家族・親族・友人などの連絡先を記入できます。入院時・葬儀時にそれぞれ連絡するかどうかの希望も書き込めます。
「資産・負債など」では、現在の収入と振込口座、預貯金のある銀行口座、生命保険・医療保険・損害保険の会社名と内容・連絡先、所有している不動産の情報、株・国際などの有価証券、クレジットカードとカード会社の連絡先、負債がある場合は借入先と連絡先、死亡時特約などを記録できます。
注意書きとして、預貯金や保険、不動産などについての情報は相続人や遺言執行者が相続手続きを行う際に必要な情報であることが書かれています。また、資産と負債を整理することで、老後の資金計画を考えてみるように勧めています。
「相続・遺言」では、遺言書の有無、種類(自筆証書遺言書か公正証書遺言書か)、作成年月日、保管場所、資産や負債の管理を依頼している人がいるか、いる場合はその連絡先を書くことができます。自筆証書遺言書と公正証書遺言の区別について、法定相続人と相続割合など、相続の基礎知識について記載されているので便利です。
「介護についての希望」では、介護が必要になった場合に生活したい場所、介護してもらいたい人、介護費用について、本人の判断能力が低下した場合にお金の管理を依頼する相手(親族、任意後見人、成年後見人)について記入できます。生活したい場所と介護してもらいたい人については希望する順番をつけることができます。
「医療についての希望」では、治癒が難しい病気などになり自分の意思を伝えられなくなったらどんな医療やケアを受けたいか、医療やケアについて自分で決められなくなったら代わりに誰に話し合ってほしいか、どこで最期を迎えたいかを書いておくことができます。「どんな医療やケアを受けたいか」の項目では、延命のための治療を望むか、苦痛をやわらげる緩和ケアを望むか、一切の治療を望まないかを選ぶことができます。自分の代わりに医療やケアについて話し合って欲しい人の項目には配偶者や子供などの家族から友人・知人、かかりつけ医までの選択肢があります。
また、医療についての項目の最後には横浜市が発行している「もしも手帳」、保土ヶ谷区医師会が患者に渡している「連絡ノート」の紹介があります。
「もしも手帳」は簡易版のエンディングノートのようなもので、上記の病気などで自分の意志が伝えられない状態などに「もしも」なった場合どうしたいか、を書いておくものです。お薬手帳のカバーに入れて持ち歩くことができるため、万が一外出先で急病などのために意識が無くなった場合に役に立ちます。
「連絡ノート」は、診察にあたる医師などの医療関係者が患者についての情報を共有する役割を持つノートです。家庭医、巡回看護師、ケアマネージャーなどがそれぞれ患者の様子や体調などを引き継ぎ、よりよい医療・介護をすすめるために役に立ちます。このノートにも、本人記入欄として延命治療を行うかどうか、もしものときに救急車を呼んでほしいかどうか、意思の疎通が難しくなった場合に連絡する連絡先などを記入することができます。
どちらも、保土ヶ谷区のエンディングノートと一緒に活用しましょう。
「葬儀について」では、葬儀の形式や規模、場所、葬儀会社等との契約の有無、葬儀費用、亡くなったことを知らせたい相手、遺影にしたい写真についてを書くことができます。
「お墓について」は、お墓の埋葬についての希望の有無と、希望するお墓がある場合はその場所と連絡先、埋葬費用の有無についてを記入します。横浜市営の墓地・納骨堂についてのお知らせもありますから、検討してみてはどうでしょうか。
「その他のこと」では、解約する必要があるインターネットやケーブルテレビの契約について、自分がやってきたことで続けてほしいこと(庭の手入れ、自治会の行事など)について記入できます。
「これから」を考える保土ヶ谷区のエンディングノート
さて、ここまで見てきた保土ヶ谷区のエンディングノート、いかがだったでしょうか。必要な情報を過不足なく整理することができ、自治体が行う行政サービスとの連携も考えられた、非常にオーソドックスにまとまったノートです。
しかし、保土ヶ谷区のエンディングノートにはまだ続きがあります。
「その他のこと」までページをめくってきた人に対し、「おつかれさまでした」と呼びかけて、次のような言葉を投げかけています。
ここまで書いてみて、いかがでしたか?いろいろと備えることや、片付けることが見えてきましたか?
ここまで書いたら、「○○しなくては」とか「○○しておく必要がある」という義務感でいっぱいになってしまったかもしれません。
ここからはご自分の気持ちに正直に、「これからやってみたいこと」を考えてみましょう。
いざ自分がエンディングノートを書く立場になったとしたら、「これも決めなくては」「あれは誰に頼めばいいんだろう」と頭がいっぱいになってしまうのは当然のことかもしれません。そんな方に対し、保土ヶ谷区のエンディングノートは「ここからは自分の気持ちに正直に」とやさしく呼びかけます。
エンディングノートは、「これからのわたし」の項目へと進みます。この項目には、「1年後、3年後、10年後のあなたを想像してみませんか」として、「何歳くらいには」「こんなことをしていたい」「そのために今からこんなことをしてみます」を書く項目が用意されています。大きな病気や障害に直面してエンディングノートを手に取った方は、あるいは先のことなど考える余裕もないほど追い詰められているかもしれません。
でも、そんなときだからこそ、あえて先のことを考え、そのために行動してみるというのは大切なことです。これまでやってみたいと思っていたのに手をつけなかったこと、何となく先延ばしにしていたことは、誰にでもあるのではないでしょうか。それは旅行や観劇かもしれませんし、語学の勉強かもしれません。人によってそれぞれです。
エンディングノートを手にするという、人生が大きな節目に差し掛かったときだからこそ、新しいチャレンジに踏み込んでもいいかもしれません。保土ヶ谷区のエンディングノートは、そんなきっかけをくれるノートです。
東京都狛江市「狛江市エンディングノート これからも まえむきに えがおで」
東京都狛江市は、平成27年度の行政提案型市民協働事業として、NPO法人狛江共生の家と共に「狛江市エンディングノート これからも まえむきに えがおで」を作成しました。狛江市内在住の65歳以上の方と、その支援者あてに無料で配布されています。
「書きやすさ」と「狛江らしさ」にこだわったのが、このエンディングノートの特色です。
「書きやすさ」は、余白が多く自由記述できる欄が多いところからも見て取れます。冒頭には「エンディングノートの書き方・注意点」として、以下の項目を上げています。
◆好きなページから書き始めましょう。
◆必要だと思うページを選んで書いても良いでしょう。
◆何度書き直しても大丈夫。その際は、更新日を記入しましょう。
◆定期的に振り返り、状況に応じて修正することをお勧めします。
◆ページが足りないときは、コピーして追加してください。
◆好きな写真を貼る、資料をはさむ等、自由にお使いください。
◆家族と相談しながら書いても良いでしょう。
◆大切な人以外に見られたくないページは、袋とじにしておくことができます。
◆このノートがあることを誰かに伝え、存在を明らかにしておきましょう。
「好きなところから書いていい」「何度書き直しても、修正しても、ページを追加してもいい」という言葉からは、少しでもエンディングノートに感じるハードルを低くしようという心づかいが感じられます。
「狛江らしさ」がわかるのが、各項目の扉などに入るイラスト。「こまえの魅力創作展」の入選作品など、狛江市のさまざまな風物を描いた絵がふんだんに使われています。特に、「お気に入りの場所」のページに描かれた多摩川の風景や昔ながらの古民家は郷愁を誘います。
全体の構成で目を引くのが、「袋とじ」の項目。扉には「袋とじの中は、個人的な内容であるため、みなさんに
お見せするものではなく、私にもしものことがあったとき、(○○○○ )さん (関係:○○ )に開封してほしいと思います。」とありますが、袋とじの中に何を書き込むかは自由です。こうしておけば、ごくごく限られた相手にだけ伝えたいメッセージや、貴重品の保管場所を内密に伝えることができます。
宮崎県宮崎市「わたしの想いをつなぐノート」
九州は宮崎県の県庁所在地、宮崎市でもエンディングノートの制作・配布を行っています。平成26(2014)年からの3年間で、約1万9000冊を配布しました。
宮崎市の医療や介護の現場では、かねてから延命治療の可否など「看取り」の問題について注目されていました。現在国の政策として、高齢の患者はできるだけ病院から家庭に戻す「在宅医療」の取り組みが進められていますが、人生の最期をどう迎えたいかは十人十色です。たとえば都市部なら殺風景な病院ではなく、人生をかけて築いた自宅で過ごしたいという方もいれば、農村部には人生の最期くらいは病院できちんと看取ってほしいという方もいます。
しかし、本人が今わの際まで明晰な意識を保ち、治療内容を決められる状態でいることは非常にまれです。そこで家族が治療方針を決めることになりますが、本人の意識がどこまで家族に伝わっているか、意見を聞く家族はどこまでの範囲なのかはケース・バイ・ケースです。
そこで、宮崎市では市民一人ひとりが将来自分の意思決定能力が下がったときに備えて、人生の最期の時間をどう過ごしたいかを意識して考えていけるように、という目的でさまざまな情報提供をはじめました。その一環として、「わたしの想いをつなぐノート」が制作されたのです。
この取り組みの中では様々な意見がかわされ、「なぜ民間でも販売しているエンディングノートを行政が作るのか」という疑問や、「配布にあたっては、きちんと『水先案内人』を務められる医療従事者が必要だ」という運用面での方針などが議論されました。
そして制作・配布に至った「わたしの想いをつなぐノート」には、3つの基本的な考え方があります。
まず、「『書きたくない』という希望を大切にすること」です。エンディングノートを進んで書こうとしない人に、無理に書かせてはいけない、という考え方です。「早く決めろ」と急かすような態度や雰囲気は、大きなプレッシャーとなります。場合によっては、「治療を続けたい」「もっと生きたい」という思いを踏みにじることになりかねません。
次に、「本心を汲み取ろうとする姿勢を大切にすること」です。例えばエンディングノートに「人工呼吸器をつけないでほしい」と書いてあったとします。それを見た医療者が、単純に「人工呼吸器を希望しないのか」と判断をしてしまってはいけない、ということです。なぜその決断をしたのか、その背景を考えることが終末期の医療・介護には大切なのです。
最後に、「『文書』だけを独り歩きさせないこと」です。エンディングノートには法的な拘束力はありません。これは、書店で売っているエンディングノートでも、市役所が制作して配布しているエンディングノートでも同じです。これがもし、「お役所からもらった書類に書いたのだから」というように強制力を持つ使い方をされるようでは本末転倒だ、ということです。エンディングノートは、医師からコ・メディカルスタッフ、看護師、患者の家族、そして患者本人も含めたチームで取り組む「看取り」という人生最後の場面を、円滑に運ぶための道具なのです。
「わたしの想いをつなぐノート」には、「書き方の手引き」が添えられています。この手引きでは、この3つの基本的な考え方を生かし、最大限有効に活用されるための情報提供として、心臓マッサージやカウンターショック、気管挿管、経鼻胃管栄養や胃ろうなど延命治療の具体的な内容を詳細に解説しています。また、自宅など住み慣れた場所で最期を迎えたいという方のためにはどうすればいいか、病院の地域連携室などへの相談から在宅医療の環境をどう整えるのか、在宅医療を支える医療専門スタッフなどについてもわかりやすく書かれているます。さらに、宮崎市で在宅医療や緩和ケアを選択した方の実例も紹介されており、自分の「エンディング」をどう迎えるのかを考えるために非常に助けになります。
宮崎市では、「わたしの想いをつなぐノート」の配布は内容について熟知している市の職員か、講習を受けたエンディングノートアドバイザー(医師、保健師、看護師、介護支援専門員等)か、市職員による出前講座(市民10人以上が集まると開催できる)で、本人に直接手渡しするのが原則だとしています。
それだけ慎重に、かつ効果的にエンディングノートを運用しようという姿勢が見えてきますね。
終わりに
ここまで4つの地方自治体が制作・配布しているエンディングノートについて見てきました。それぞれの特色や考え方はありますが、行政が提供している住民サービスや医療サービスとどうつなげるか、そして高齢化が進み「エンディング」や「看取り」の際に何が必要なのかが一般にも認知されてきたことがよくわかります。
お住いの自治体に、エンディングノートについて問い合わせてみてはいかがでしょうか。