これで安心!はじめてでもわかるエンディングノート

エンディングノートとは?

はじめに

 エンディングノートとはなんでしょうか。それは、「人生のエンディングをどう迎えたいか」を考え、書き記すためのものです。

 エンディングノートには、遺言書・遺書とは違い、定まった形式や決まりや約束ごとはなにもありません。書く人一人ひとりが、自分が人生の終焉を迎えるにあたって、誰に対して何を書き、何を残すか。人生のエンディングを迎える人が100人いれば、100通りのエンディングノートがあるのです。

 大きく分けると、エンディングノートには二つの役割があります。

 まず第一に、家族に向けて自分の意志や足跡、残していくものを伝えることです。

① 財産や資産が、どこにどれだけあるのか。
  銀行口座や不動産などの情報を伝える。

② 自分が病気や事故などで意志を伝えられなくなった場合にどうするか。
  延命措置や病名告知など、医療に関すること。

③ 亡くなったあとのこと。
  伝えたい人や伝えたくない人、葬儀の形式や規模、
  葬儀に呼んでほしい人など。

そして第二に、エンディングノートはノートを書く本人自身のためでもあります。

④ これまでの人生を振り返る。
  自分の人生とはなんだったのか、やってきたこと、やり残したことは何か。 

⑤ 家族としての生活史を考える。
  家族の一員として、親として、子として積み重ねてきた家族史を書いてみる。

⑥ 残りの人生をどう過ごすかを考える。
  これらのことを書き留めていくと、自然とこれからどうやって
  「エンディング」を迎えるかを考えることになります。 

 ここで挙げた6つのテーマのうち、何に重点を置くかは書く人次第です。あなた自身の人生を振り返り、自分なりのエンディングノートの構成を考えてみてはどうでしょうか。

 もちろん、既成のエンディングノートを利用するのもよいことです。ここ最近エンディングノートには注目が集まっていますから、商品として販売されているもの、自治体やNPOなどが配布しているものなど、さまざまなエンディングノートが出回っています。

 既成のエンディングノートを手に取ってみてから、自分なりのエンディングノートを作ってみてもよいでしょう。

 人間は一人で生まれ、死ぬときも一人だという言い方もありますが、実際にはそれまでの人生と同じようにさまざまな人々との関わりのなかで人生を終えていきます。周囲の人たちとどう向き合うか、ノートを作るなかで振り返ることも、またエンディングノートの大きな役割のひとつです。  

エンディングノートと遺書の違い

 一見近いもののように感じられる「遺言書」と、エンディングノートが大きく異なるのは法的な効力です。

 遺言書は、自筆遺言書なら文面・日付・氏名を自筆して押印する、公正証書遺言なら公証人が立ち会って作成するなど、正式な遺言書として認められるためのさまざまな条件があります。

 それは、上で見たように遺言書には大きな効力があるためなのです。推理小説などで「遺言書の偽造」という話が出てくるのも、正しく作られた遺言書の効力はくつがえすのが難しいからです。

 大きな注意点として、たとえ家族や相続人でも、封をされた遺言状は勝手に開封してはいけません。家庭裁判所で、相続人の立ち会いのもとで開封し、裁判所の検認(有効な遺言書かどうか、加除訂正や日付、署名など開封した日現在の遺言書の状態を明確にし、偽造・変造を防ぐための手続き)を受けなければいけないのです。これは、故人から遺言状を預かって保管していた場合でも同様です。

 公証人の立会いのもとで作成された公正証書遺言書は、公証役場に控えが保管されているため、開封してもかまいません。

 遺言書を勝手に開封した場合は、5万円以下の罰金が課せられる場合があります。それほど、遺言書には法的な効力があるのです。

 法的な拘束力を持つ遺言書と違って、エンディングノートはいつでも書き直したり書き加えたり、さらにはゼロからもう一度書いてもいいのです。人生の黄昏時、日々思うことを書き綴った日記やイラスト、俳句や短歌も、また立派なエンディングノートになります。

 たとえば、昔の写真アルバムから写真を選んで、その頃の思い出を一言ずつ書いていくのはどうでしょうか。書いているとき身近にご家族がいれば思い出話に花が咲きますし、亡くなったあとで家族が見返してみると、本当に素敵なノートになることでしょう。

ご自身や残される家族のためのエンディングノート

 エンディングノートには、ご自身や残される家族が「死」という大きな悲しみの前に立たされたときに、毎日を支えとなる「杖」としての役割があります。

 「死を意識する」というのは誰しも恐ろしいことです。実際に病を得て否応なく意識させられる場合はもちろんですが、ある程度の年齢に至って「これまで生きてきた人生よりも、死ぬまでの時間のほうが短い」と気づいたとき、身近な人が亡くなったときやその人が亡くなった年齢を過ぎたときなど、「死」を意識するきっかけはたくさんあります。

 人が亡くなるということは、言うまでもなく非常に大きな出来事です。大きな病気で回復が望めないことがわかると、本人はもちろんのこと家族や親族、知人友人に至るまで、心に大きな衝撃を受けます。

 この悲しみ、痛みはあまりにも大きいため、誰しも自分だけで短い期間に回復することはできません。長い病気をされて……という場合は自分なりに覚悟はしているかもしれませんが、それでも強い衝撃と喪失感に心を支配されます。事故や急病などの場合は、言うまでもありません。

 ある一定の年齢を過ぎると、「これは誰にでも起こることだ」と自分を納得させ、自分を守ろうとする心の動きが生まれます。しかし、だからといってそのとき感じた怒りや悲しみといった強い感情は消えてしまうわけではありません。心の中にずっしりと折り重なっていくのです。

 このように、「大切な人や身近な人が亡くなる」という事態に直面すると、人は喪失感や強い悲しみとそこから立ち直ろうという気持ちの間を行き来して、その都度心を痛めます。この状態をどうやってケアするか、ということで最近よく聞かれるようになった概念が「グリーフケア」です。

 グリーフとは、深い悲しみを意味する言葉です。

 個人によって差はありますが、多くの人は「死別」という大きな痛手を受けると、「亡くなった人への思い出が募る」・「亡くなった人が本当にいなくなってしまったことによって疎外感を感じる」・「何もする気がなくなり、空虚に感じる」という状態を行き来しながら、いずれは現実に適応していきます。

 グリーフケアはこの状態から無理やり立ち直らせるのではなく、それぞれのタイミングを見計らいながら寄り添うケアです。グリーフケアには「強い悲しみに備え、感情を軟着陸させる準備をする」「悲しみに直面しすぎないようにする」など、いくつものアプローチがあります。

 エンディングノートを作るという作業も、グリーフケアのひとつといえます。本人にとっても、家族にとっても、来るべき喪失の痛みを和らげるための助走のようなものです。

 ノートを作る本人は、これまでの人生を思い返しながら整理し、家族との絆を再び確認することができます。

 人生を構成してきたさまざまなパーツをひとつひとつ確認し、見直して並べ直してみる。そうするなかで、これまで悔いが残っていたこと、やり残したことにもそれぞれ意味があることがわかるかもしれませんし、「どうしてもあの人に会っておきたい」という自分の気持ちに気づくこともあるでしょう。

 それを言葉にして書き残しておくのも良し、敢えてそのままにしておくのも良し。そうやって「心の棚おろし」をしていくことで、だんだんと迷いや苦しみから抜け出せるかもしれません。

 家族は、エンディングノートを作る作業に寄り添うことで、心の準備を整えることができます。本人はもちろん、家族もまた「心の棚おろし」をしながら、現在の状況と来るべき未来に備えることができます。

 もちろん、いざということが起きた後は、エンディングノートを読み返すことが残された家族にとってグリーフケアの一助となります。

「あのときお父さんは『やっぱり美大に行っておけばよかった』って言ってたけど、あれは本音だったよねえ」

「お母さん、『子育ては楽しいことばっかりだった!』って言ってたけど、ホントかしら。確かにニコニコしてたよね」

 そんな話をしながら、エンディングノートのページをめくる。すると、やはり家族の顔には自然と微笑みが浮かぶでしょう。

 大切な家族がつらい悲しみに打ちのめされたままでいるのは、本人としても望むところではないでしょう。その痛みを少しでも軽くすることは、本人から家族へ残せるひとつの思いやりです。そのために、エンディングノートが果たすことができる役割は大きなものがあるのです。

 格言や名言じみた、肩ひじ張った文章である必要はありません。「どうしても伝えたい」「知ってもらわなければ」でなくてもいいのです。普段着で、ありのままの言葉をそっと置いておく。そんなエンディングノートは、家族にとってとても大切なものになるはずです。

 突然目の前にあらわれた「死」を見つめて進むとき、本人と家族の足取りを支えてくれる「杖」が、エンディングノートのもうひとつの役割なのです。

エンディングノートを準備するメリット

人生を振り返ることができる

 意味合いからエンディングノートが持つ性質を大きく分けると、「本人と家族の心の整理のため」、そして「亡くなったあとに必要な情報の整理のため」となるでしょうか。 

 本人と家族の心の整理のためには、エンディングノートはさまざまな役割を果たすことができます。

 「人生の終わり」を意識したときに、人は何を思うのでしょうか。

 そのとき自分が、人生という旅路の中でどの道程に立っていると感じているか。道半ばなのか、やるべきことはやったのか。心残りのことがあるのか、満ち足りているのか。

 「すべては満足で、いつ終わりが来てもいい」と常日頃思いながら暮らしている仙人のような人は、世の中には少ないでしょう。

 誰もが動揺する「人生の終わり」のとき。まずひとつ考えたいのは、「自分は何者なのか」という問いへの答えではないでしょうか。それを形にすることは、「自分史」を書き残すことを意味します。

 市販・配布されている多くのエンディングノートに、まず自分のプロフィールを書く欄があるのは、そういう理由からのように思えます。

 いつどこで生まれ、どんな食べ物が好きで、どんな土地に住み、どんな学校に行き、どんな仕事をしていたのか……。そんなことを書き連ねていくなかで、忘れていた自分の側面や、影響を受けた本や映画、長らく会っていない友人の顔など、忘れていたたくさんの記憶に再び出会うことがあるでしょう。

 以前、「自分史」を書くというブームがありました。自分史のメリットには、自分が生きてきた歴史を振り返り、自分だけの生きた証を残せること、自分のこれまでを考えることで改めて自分自身を知ること、それによって新たに生きがいを見つけたり自分自身を好きになれること、などがあるといいます。

 自分の人生にひとつの区切りをつけ、先を見通すために書くエンディングノート。エンディングノートに関心をひかれたことは、「自分史」を書き始めるための大きなモチベーションになるでしょう。

 また、「自分を振り返る」ということは、家族との新しいコミュニケーションを生む母体にもなります。「家族だから、わざわざ言うまでもない」と思っていたことでも、改めて書き出してみることは大切です。きっと、家族の誰もが知らなかった、驚くようなことがあるはずです。

 ご自分の子供たちがどこの小学校に通っていたかは覚えているでしょうが、それでは子供たちはあなたが通った小学校のことを知っているでしょうか? 多くの場合「聞いたことがない」という返事が返ってくるでしょう。

 小学校の頃、どんな学校に通い、どんな先生とどんな級友がいたか。給食で嫌いだったものは、放課後どんな遊びをしていたのか。

 そんなことを記憶のなかから拾い出してくる作業は、周囲の家族や知人、友人と新たなコミュニケーションのきっかけになります。それは、個人だけではなく家族の歴史、「家族史」を紡ぐ作業に他なりません。

「私が通ってた小学校、お父さんが子供のころはまだなかったの?」「同級生だったあいつ、県議会議員になったんだよな」「給食の牛乳、ガラス瓶に入ってて紙のフタがついてたんだぞ。それをメンコ代わりにして遊んでたんだ」「日本でサッカーのワールドカップをやったとき、お父さんは一生懸命チケットを取って見に行ったんだ」……。

 故郷の実家の、長らく開けたこともない押入れのなかには古いアルバムが眠っているもの。旧家であれば、もう誰だかわからなくなってしまった、リッパなひげを生やしたご先祖様の古ぼけた写真や肖像画が飾ってあるかもしれません。そんな昔々のことに、子供時代はワクワクしたことを覚えていませんか。

 そんな歴史に、自分と家族の人生をプラスして次の世代に引き継いでいく。「家族史」としてのエンディングノートには、そんな役割もあります。

 これから辛い闘病生活が待っていたとしても、こんな思い出の玉手箱を開いて親しい人々と共に慈しんだ記憶は、大きな助けになることは間違いありません。

終活のチェックリストになる

 近年「終活」が流行していますが、エンディングノートは終活のためのチェックリストとしての役割も果たします。

 実は、エンディングノートは終活ブームよりも早く世の中に登場した言葉です。Googleの検索キーワードで見ると、「終活」は2010年までほとんど検索されなかった一方で、「エンディングノート」は2000年代初頭からじわじわと検索数を伸ばし、2010年を過ぎると爆発的に普及します。 

 その大きなきっかけになったのが、2011年に公開されたドキュメンタリー映画「エンディングノート」(監督・砂田麻美/プロデューサー・製作/是枝裕和)です。国内の興行収入は1億円を超え、海外の映画祭でも好評を博しました。 

 砂田監督の父、砂田知昭さんは、高度経済成長期を支えた世代。熱血営業マンとして67歳まで仕事一筋の生活を続け、定年後の第二の人生を楽しみにしていました。

 しかし毎年受けていた健康診断で、ステージ4の胃ガンが発覚。「段取りの名人」といわれた砂田さんは、人生最後のプロジェクトとして「エンディングノート」の取り組むことにしました。 

 家族の一員でもある砂田監督は、自身が担当したカメラとナレーションを通じて父・砂田さんと家族が最後に迎える「エンディング」にどう対峙していくかを、ときに冷静に、ときに明るく、暖かく描きます。 

 映画の中で、砂田さんは「エンディングノート」と名付けたチェックリストを作ります。まさに段取り命の営業マンの面目躍如という感じですね。

 砂田さんのToDoリストに並んでいたのは、「式場の下見をすること」「長男に希望する葬儀の形式を引き継ぐこと」「気合を入れて孫と遊ぶこと」「神父を訪ねること」「洗礼を受けること」……そして、「妻に(初めて)愛していると言うこと」。この砂田さんのリストには、「人生のエンディングについて考える」うえでの大切なヒントがたくさん詰まっています。 

 砂田さんと家族はどのような「エンディング」を迎えたのか。当事者の目線でつづられた貴重なドキュメンタリーですから、ぜひDVDなどでご覧になることをお勧めします。 

 さて、あなたならどんなチェックリストを作るでしょうか。砂田さんのように前向きで明るく、これからやってみたいことをリストアップするか、事務的に後に残る家族にとって必要なことを書き綴っておくか。

 これも人それぞれですが、一般的なエンディングノートには以下のような項目が上げられています。

 「終活チェックリスト」としてのエンディングノートの役割がおわかりいただけるでしょう。

・自分のこと

 生い立ち、プロフィール

 家族の連絡先

 友人の連絡先

 緊急連絡先

・住まいのこと

 どこに住みたいか

 それまで住んでいた住宅について

・介護、医療について

 誰に、どこで介護してほしいか

 入所したい施設

 介護費用について

 持病について

 病名や余命の告知

 延命治療や胃ろうの是非

 臓器提供や献体について

・食事について

 好きなもの、嫌いなもの、食事の量や回数など

・財産の管理について 

 遺言書の有無、保管場所

 財産と負債

 貯金、有価証券、その他の財産について

・葬儀について

 自分が望む葬儀の形式、規模

 戒名など宗教的なことについての希望

 最期を看取ってほしい人

 お墓の有無、その後の管理

・伝えたいこと

 家族に伝えたい、効いてほしいメッセージ

エンディングノートだけではできないこと

的拘束力を持つことはできない

 エンディングノートには、そもそも法的な効力はありません。何をどのような形で書いても構いません。

 遺言書とは違いますから、亡くなった後にエンディングノートを巡った骨肉の争いが起きる……ということもまずないでしょう。

 逆にいえば、法的な効力も正しい形式もないものですから、どんなタイミングでどんな内容を書いてもいいのです。紙のノートに手書きでもいいですし、パソコンやスマホを使って書いてもいいでしょう。

 自分なりの、オリジナルのものを残せるところが、エンディングノートの魅力のひとつです。

遺言書、遺産分割協議書も必要となる

 では、遺産の相続について自分の意志を反映させるためにはどうすればいいでしょうか。

 そこで、遺言書の出番となります。場合によっては遺産分割協議書も必要になるでしょう。

 まず遺言書が持つ力について見ていきます。

 遺言書には、遺産相続に関する法的な効力があります。正しい書式・手続きに基づいて作成された遺言書は、以下のような事柄について効力を持ちます。

 ●財産の承継・処分に関する行為

 ・相続する財産の割合、財産の分割方法、遺贈などについて

 一般的な遺言書で、もっとも重要な部分です。ここで指定しない限り、相続する財産は法定相続人のあいだで一定の割合で分割されます。

 亡くなった方に配偶者と子供がいる場合は「配偶者1:1子供」となります。子供が複数人いる場合は等分に分割されます。

 配偶者と父母(親)がいる場合は、「配偶者2:1親」の割合です。複数名の親が生存している場合は等分で分割です。

 配偶者と兄弟姉妹がいる場合は、「配偶者3:1兄弟姉妹」です。同様に、兄弟姉妹が複数人いれば等分です。

 遺言で指定すれば、この割合を変更したり、第三者に遺贈することができます。例えば、「長男○○が遺産のすべてを相続する」と書いた場合、配偶者や他の子供は遺産を相続できないことになります。

 しかし、民法では「遺留分」として法定相続人のうち配偶者・子供・親にはそれぞれの法定相続分の半分を得る権利を認めています。

●相続人に関する行為

 ・相続人の廃除(相続人から外すこと)、廃除の取消し

上に挙げた「法定相続人」から、特定の人を外すことを「廃除」といいます。「排除」と混同しやすいのでご注意ください。

 相続の廃除は相続人に「著しい非行」があった場合などに行われます。「非行」には亡くなった人に対する虐待や暴行、不倫などで配偶者としての義務を果たしていない場合などがあります。

 しかし実際には、相続人の廃除には「権利の剥奪」という面もあるため、相続人側から異議の申立てがあった場合などはかなか行われないようです。

●身分に関する行為

 ・子供の認知、未成年後見人の指定など

ミステリーや韓流ドラマだとお馴染みの「子供の認知」です。法的には、子供の母親は出産の事実を持って確定します。結婚している夫婦から生まれた子供の場合は父親も確定となりますが、婚姻状態にない女性から生まれた子供の場合は父親による認知を経てはじめて父親であることが法的に確定します。

遺言による認知は、子供の出生時までさかのぼって適用されます。つまり、生まれたときから子供であることが法的に確定し、法定相続人としての権利も得るのです。

なお、遺言で認知しようとしている子供が成人に達している場合は本人の同意が必要です。また胎児である場合は母親の同意が必要になります。

●その他(祭祀承継者の指定、遺言執行者の指定など)

 ・祭祀承継者(お墓や仏壇などの管理、葬儀・仏事の運営をする者)の指定、遺言執行者(相続人の廃除・廃除の取り消し・子供の認知、第三者への遺贈手続きなどを執行する者)の指定

 お墓の管理や法事を執り行う人を、「遺言執行者」といいます。

「遺言執行者」は、遺言状に書かれた事項が確実に実現されるために必要な一切の行為を行う権限を持ちます。相続人のうち1人でもかまいませんし、弁護士などの有資格者や、さらには法人を執行者として指名することができます。

 遺言執行者は相続財産の目録を作ったり、預貯金などの解約、不動産などの名義変更を行うことができます。特に第三者への不動産の遺贈を行う際に重要です。本来は相続人全員が登記義務者として名義変更手続きを行わなければなりませんが、遺言執行者は単独で行えます。相続人のなかに認知症などで自分の意志を明らかにできない者や、重病などで移動できない者がいる場合は遺言執行者の存在は非常に有益です。

 次に、遺産分割協議書です。

 相続人同士で遺産の分割について話を行うことを、「遺産分割協議」といいます。その結果を示すために作成するのが遺産分割協議書です。

 相続の際、必ず遺産分割協議書が必要なわけではありません。

 遺産分割協議書が必要なのは、

 ・遺言書がない場合

 ・遺言書で一部の財産についてしか定めていない場合

 ・相続人が複数いる場合

 です。

 遺産分割協議書は、後々のトラブル防止のために、相続人同士が相続の内容などについて共通認識を持ち、書面に残すことに大きな意味があります。これにより、分割される遺産の詳しい内容、遺産分割協議の詳細を記録に残すことができます。遺産分割協議書は、実際の相続手続きにも活用できます。不動産の名義変更や預金口座からの出金などは、遺産分割協議書がなければ行なえない場合もあります。

 遺産分割協議書を作成しなかった場合、罰則などはありませんが、相続人以外が遺産を処分してしまうなどトラブルのもとになります。

 さて、このように重要な役割を持つ遺産分割協議書ですが、実は被相続人が亡くなる前に作ったものは法的な効力を持ちません。相続が発生するのは、被相続人が亡くなった瞬間からです。相続人が亡くなった事実を知っているかどうかは問われません。

 しかし、「遺産分割協議」にあたる話し合いを事前にしておいたり、書面に残しておくこと自体が禁じられているわけではありません。むしろ、被相続人と相続人になる家族・親族が事前にきちんと話をし、書面に残しておく方がその後のトラブルを避けるためには大切かもしれません。もちろん、このような話し合いで決めたことを遺言書に残しておけば法的な裏付けを得ることができます。

エンディングノートが未然に防げるトラブル

介護や延命治療に関する問題

 身体や健康に関すること、介護や延命治療に関することで、本人と家族の認識が異なっているとトラブルになる可能性があります。このような問題については、きちんとエンディングノートに自分の意志を書き留めておくといいでしょう。

 告知や延命措置、介護などについては家族の意見も大きく影響します。例えば延命措置については、「意識不明になった本人は延命措置を望まず、家族も同意していた。しかし、普段交流がなかった兄弟がやってきて『なるべく長く生かしてほしい』と言ったために……」という話はよく聞きます。特に延命治療については、一度人工呼吸器をつけるなどの処置を行なうとその後は亡くなるまで止めることは難しいのが一般的です。

 現在は家族の同意があれば延命中止が可能な場合もありますが、かつては延命措置を中止した医師が殺人罪に問われたこともあるほどです。

 そんな誰もが望まない事態を防ぐために、延命措置についてエンディングノートに記入しましょう。本人の直筆で記述され、家族も確認できてていれば、家族や親族のあいだでの意思共有もできやすくなるでしょう。

 最近注目されているのが、胃ろうの是非です。胃ろうは、口から食事を摂ることが難しくなってきた患者が、栄養補給のために胃にカテーテルを挿入し、栄養補給を行なう医療手段のことです。広く行われている延命治療のひとつですが、「必要以上に寿命を引き延ばしている」という批判もあります。

 本人の意識がない状態で、家族に胃ろうをするかどうかの判断を問われる場合もあります。多くの医師が、治る見込みがない患者にも胃ろうなどの栄養供給は場合によって必要だと考えていますが、人それぞれの判断は尊重される必要があります。胃ろうなどの経管栄養の是非についても、自分の意志を書いておきましょう。

 がんなどの重い病気になった際に告知を望むかどうかも書いておきましょう。介護や延命治療に関する希望を書いておけば、不意の急病や事故で意志の伝達が難しくなった場合でも周囲が対処することができます。

 重い病気が見つかったことをきっかけにエンディングノートを書く場合は、告知などについて改めて書く項目は不要かもしれません。しかし定年退職や還暦など人生の節目としてエンディングノートを手に取る場合なら、自分自身の死生観について考えるためにも書いてみることをお勧めします。

遺産・相続に関する問題

 上でも見たように、エンディングノートには遺言書のような法的な効力はありません。しかし、エンディングノートにきちんと記載しておくことで防ぐことができる相続のトラブルはいくつか考えられます。

 まずは遺言書がどこにあるかです。非常に大切なものなのできちんとしまっておくのは必要ですが、だからといって誰にもわからない場所にしまい込んでしまっては元も子もありません。公証人の立ち会いのもとで作った公正証書遺言なら、公証役場に写しが保管されているので安心ですが、せっかく作った遺言書が正しく効力を発揮できるように、相続人にわかるような場所に保管し、エンディングノートにも書いておきましょう。

 相続する遺産についての情報も大切です。遺言書ですべての財産について事細かに記載してあれば別ですが、多くの場合は「○○の建物と土地は長男太郎に、現預金については長女花子に、他のすべての財産は次男二郎が相続する」などある程度まとめて表記します。

 この例の場合なら、長男が相続する土地と建物以外の資産について把握しておく必要があります。つまり相続の手続きを進めるには、銀行などの金融機関にある預貯金の口座や不動産、株式など有価証券、貴金属などの「プラスの資産」と、借入金やローンなどの「マイナスの資産」について調べる必要があるのです。

 これらについて、きちんとまとめておくと相続の手続きがスムーズにかつ混乱なく進みます。

葬儀・お墓に関する問題

 これも大きな問題です。特に葬儀とお墓のあり方については、近年これまでの常識が大きく変わりつつあります。

 まずは葬儀について見てみましょう。

 かつて、葬儀は「家」として行なうものでした。亡くなったのが家長の立場にある人なら、家の跡を継ぐのが誰なのかを世間に広く知らせ、そうでない場合は「家」としての体面を表現する儀式の場でもありました。いわば、パブリック(公式)な行事として扱われていたのです。現代でも、大会社の経営者が亡くなると「社葬」として大々的な葬儀が行なわれますし、多くの人に愛された俳優などの著名人が亡くなった場合は「お別れの会」としてファンも参加できる葬儀が行なわれます。

 しかし近年、その性格は徐々に変わりつつあります。大家族から核家族へと日本の家族制度が変質していくなかで、葬儀もパブリックな儀式から故人その人を弔うものへと変わってきました。葬儀が「個人化」したことで、弔われる本人の「どういう葬儀にしたいか」という意志が反映されるようになってきたのです。

 これを受ける形で、日本の葬儀は多様化しています。主に、「より小さく、より簡素に」という方向に進化を続けているのです。

 ここ最近、新聞の訃報欄などを見ると「葬儀は関係者で済ませた」「告別式は行なわず、親族だけで密葬を行なった」などという表記を見かけます。かつては「葬儀・告別式は○○市の○○葬儀場で、○日○時から。喪主は長男の○○氏」という表記が多かったことを思い出される方もいるでしょう。

 ここ数年、葬儀にかける費用・葬儀に出席する人の数はそれぞれ減少を続けています。これは、いわゆる「家族葬」という近親者だけの小規模な葬儀が流行しているためです。

 先に挙げたような「パブリックな儀式」としての葬儀は、どうしても大規模かつ高額になりがちでした。「家」という組織の体面を保つために必要だったわけですが、個人のためのセレモニーとなると事情がかわります。弔われる側としても「家族に負担をかけたくない」という考え方が多くなってきているのです。

 エンディングノートでは、葬儀についてどうしてほしいか、規模感や費用などについて書き留めるとよいでしょう。もちろん、家族とじっくり話して決めてもよいですし、自分の希望を優先して書いてもかまいません。どちらにせよ、弔う側が満足のいく形になるのがベストです。

 費用や規模の面だけでなく、最近は故人が好きだった映像や音楽などを流すという葬儀も増えてきています。「自分らしい葬儀」について、考えてみてもよいでしょう。

 次に、お墓についてです。

「親の代からのお墓や仏壇をどうするか」という問題は、今後もより増えてくるでしょう。先祖代々のお墓やお位牌、仏壇などの管理や法事(仏事)などを受け継いでいく人のことを「祭祀承継者」といいます。

 祭祀承継者を誰が務めるかは、遺言書で指名することができます。

 昔ながらの「家制度」では、先祖の霊を祀り、代々お墓を守っていくのは長男の役目でした。家屋敷や田畑などの財産を受け継ぐ長男=家長のシンボルとして、お墓や仏壇を管理する役割も長男に課せられていたのです。

 しかし核家族化と大都市への人口集中が進む現在、祭祀承継者としての役割は重荷になるという面も否めません。縁が薄くなった田舎に、お墓の手入れや法事のためだけに行き来するのは難しいと考える人も増えています。

 昨今、故郷にある昔からのお墓を「墓じまい」して都会の納骨堂に改葬したり、永代供養墓に移す例も増えています。法事も、葬儀と同様に簡略化が進んでいるのです。

 亡くなった後に自分の葬儀をどうしてほしいか、お墓はどうするべきか。はっきりとした意志をエンディングノートに書き残しておくことで、親族間のトラブルを未然に防ぐことができるでしょう。

エンディングノートの書き方 

基本編

 さて、ここからはエンディングノートの基本的な書き方について見ていきましょう。各項目ごとに、例を挙げながら確認します。

・自分や家族に関する基本情報

 自分の名前、住所、生年月日、血液型、電話番号、メールアドレスを書いておきます。

・自分の身体のこと(病気など)

 現在かかっている病気の病名、かかりつけの病院・クリニック、処方されている薬について書きます。これまでかかった病気の既往症、アレルギーなどの体質についての情報も書いておきましょう。

・公的書類の情報

 健康保険証の番号、国民年金の基礎年金番号、後期高齢者医療保険の番号、介護保険証の番号、マイナンバーなどを控えておきます。年金手帳や保険証など、それぞれどこに保管してあるか、家族が預かっている場合は誰が持っているかも書いておきます。

・緊急連絡先

 同居している家族・緊急連絡先となる家族については住所、電話番号、携帯電話の番号、メールアドレス等複数の連絡手段を明記しておくと便利です。独立した子供など、遠くに住んでいる家族についても書いておきましょう。

財産編

・預貯金

 遺言書の項目でも触れましたが、相続すべき預貯金の所在は明らかにしておく必要があります。また、場合によっては医療費や入居している施設の費用などを口座から支払う必要がある場合もありますので、きちんと書いておきましょう。金融機関の名称、支店名、口座の種類(普通・当座・定期など)、口座番号、名義人を記録します。

・株式・有価証券

 株式や、国債・投資信託などの有価証券についても記録します。株式の場合は銘柄名、持ち株数、名義人、預入証券会社名を書きます。国債や投資信託の場合は、名称と番号、購入窓口と連絡先などを書いておきましょう。

・クレジットカード情報

 クレジットカードの詳しい情報は、亡くなった場合の廃止手続きなどに必要になります。カード会社名、カード番号、名義、引き落とし口座についてまとめておきましょう。

・不動産

 多くの人の場合、手持ちの資産のなかでもっとも額が大きなものは不動産になるのではないでしょうか。相続の際に分割される財産としても大きなウエイトを占めます。ここでは所有している土地や建物の住所・地番、名義人、持ち分、名義人の名称、抵当権設定の有無を記録しておきます。

・貸金庫・トランクルーム情報

 人によっては貸金庫に現金や貴重品、トランクルームに荷物を保存している場合があります。いざエンディングノートに書こうとしてふと思い出すこともありますから、よく考えてみましょう。貸金庫やトランクルームの名称、暗証番号など開けるために必要な情報、場所などを書き留めておきましょう。

・貴金属・美術品・宝飾品など

 金地金などの貴金属や高級時計、絵画や彫刻などの美術品、宝石や貴金属を使った宝飾品などは、換金性の高い資産と見ることができます。これらも相続の対象になりますので、保管場所などを記載しておきましょう。エンディングノートを書くタイミングで、鑑定に出しておおよその価格を把握しておくのもよいでしょう。

・借入金・ローン

 これまで見てきた「プラスの資産」に対し、借入金やローンなどは「マイナスの資産」といえるでしょう。住宅ローンなどは、団体信用保険に加入していれば亡くなった場合は残額を払わなくても良くなる場合があります(保険金で充当される仕組み)。

 借入金などの残額と資産の合計額を比較して借入金などが上回る場合は、相続放棄を選択したほうがよい場合もあります。その判断を的確に下すためにも、借入金などの詳細はきちんと把握しておきましょう。

 借入先、連絡先、借入額、毎月の返済額と返済日、返済期限、返済残高(いつ現在の残高か)、担保の有無と詳細、保証人と連絡先などを記載します。

保険・個人年金編

・各種保険

 生命保険、損害保険、傷害保険などの情報は、死亡保険金の支払いや解約などの手続きのために必要です。保険会社名と連絡先、保険の種類と内容、契約者名、被保険者名、保険金受取金、保険金額、満期期日などを記載しておきます。

・個人年金

 個人年金は生命保険の一種と見ることができます。一定期間決まった額を受け取れる「確定年金」タイプと、亡くなるまで受け取ることができる「終身年金」タイプがあります。どちらも、被保険者が亡くなった後に遺族が残りの年金相当額を受け取ることができる場合がありますので、きちんと記録しておきましょう。

 個人年金の種類と名称、保険会社や連絡先などn情報を書いておきます。

 

遺言・形見分け編

・遺言書に関する情報

 さて、遺言書についてももちろん書いておく必要があります。まずは遺言書の有無からです。遺言書がない場合、亡くなった人の財産は法定相続人のあいだで法律で決められた割合で分割されます。「家と土地は長男、預貯金は長女……」など自分の意志を反映した遺産分割を行いたい場合は遺言書を残す必要があります。

 エンディングノートには、遺言書の種類(自筆遺言書・公正証書遺言書・秘密証書遺言書)、遺言書を保管している公証役場や弁護士などの関係者と連絡先、保管場所について書いておきましょう。

・遺産分割の希望

 遺産をどう分割してほしいか、本人の希望として書いておくことができます。資産と相続人の氏名・続柄、連絡先などを書いておきましょう。

 繰り返しになりますが、エンディングノートには法的な拘束力は一切ありません。相続人の間で合意がなければエンディングノートに書かれた「希望」は効力を持ちません。後々問題になる可能性を考えると、遺産分割についてはエンディングノートと同じく遺言書にもきちんと書いておくべきでしょう。

・形見分け

 愛用していた身の回りの品、趣味の道具などは大切に使ってくれる人に渡したいもの。そんな形見の品を誰に渡すかも書いておきましょう。高価なもので、遺産分割の対象になる可能性があるものは別途遺言書や遺産分割の希望の欄に書いておいたほうがよいでしょう。

・遺品について

 遺品の扱いというのは難しいものです。故人にとっては意味のあるもの、思い入れの深いものでも、残された家族にとっては使いようがない……というものもたくさんあります。思い切ってすべて処分するか、家族の判断に任せるかの意志を書き残しておきます。また、個別の品物について希望がある場合(趣味の道具をサークル仲間や知人に譲るなどの場合)についても書いておきましょう。

もしものときの生活編

・介護

 介護が必要になったときにどうするか、というのは非常に深刻な問題です。本人が意志をはっきり表明できる状態ならいいのですが、そうでない場合、家族は頭を悩ませます。

 エンディングノートには、どのような介護の形を望むかを書いておきましょう。自宅で家族に見てもらいたいのか、ヘルパーさんにお願いしたいのか、施設への入居を望むのかなど、考え方はさまざまです。もちろん、費用面や家族のマンパワーなど現実的な問題はありますから、「家族に任せる」のも立派な選択肢です。

 介護施設や依頼するヘルパーさんがすでに決まっている場合は、連絡先などを書いておきましょう。

・告知・延命治療など

 病気になった場合は、病名の告知や延命治療などについての希望を書いておきます。

 近年は、がんなどの大きな病気の場合でも本人への告知が行われるケースが増えてきました。告知を行ったほうが、患者も一体になって積極的に治療に臨めるという考え方によるものです。とはいえ、従来どおり「そういうことは無理に知りたくない」という希望も当然あっていいはず。告知をしてほしいかどうか、自分の希望を書いておきましょう。

 延命治療についても同様です。緩和ケア医療の進歩もあり、終末期医療には「まず延命」という選択肢以外にも「なるべく自然な形で」という考え方も浸透してきました。家族間での意志の共有のためにも、エンディングノートにしっかり書いておくといいでしょう。

・携帯電話情報 

 携帯電話は、通話などに使用しなくても月々の基本料金が引き落とされます。使用者が亡くなった場合は解約の手続きが必要ですが、携帯電話キャリアによっては面倒な手順がある場合もあります。可能なら生前に名義を変更するなどの手続きをしておきましょう。

 エンディングノートには、キャリア名、契約者名、携帯電話番号、メールアドレス、解約の際の連絡先、料金引き落とし口座について記録しておきます。

・パソコン・プロバイダ情報

 インターネットのプロバイダ契約も、解約にはそれなりの手間がかかります。エンディングノートにプロバイダ名、契約者名、IDや契約者番号、メールアドレスについて記録しておきましょう。

 また、パソコンには他人に見られたくないデータ等が保存されている場合もあると思います。信用がおける家族や知人にデータの消去やパソコンの処分を頼んでおくといいでしょう。その際、ログインIDやパスワードについて記載しておくとスムーズです。

・WEBサービス・会員サービス情報

 インターネットの普及で、多くの人がSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)のアカウントを持つようになりました。SNSのアカウントや、その他のインターネット上のサービス等についても記載しておきます。登録しているメールアドレス、ID、パスワード等を書き留めておきましょう。

・ペットについて

 もし愛するペットを残して世を去らなければならないとしたら……その悲しみはどれほどでしょうか。しかしその前に、ペットを残して入院したり、施設に入居する可能性も考えておかなければいけません。エンディングノートには、いざという時にペットを誰かに託すことを考え、さまざまな情報を記入しておきましょう。

 まず、ペットの名前や呼び方、種類、生年月日、避妊手術・去勢手術の有無、予防接種の有無等の基本的な情報が必要です。次に、エサの種類や一日のエサやりの回数と量、散歩が必要な場合はその頻度などお世話のための情報。そしてかかりつけの獣医さんについても連絡先を書いておきます。

 そして、もし飼い主が先に亡くなった場合にペットをどうしたいかの希望も書いておきます。家族に任せるか、他に託す相手がいるか。事前に話し合いをしておく必要もあるでしょう。

 最後に、ペットが亡くなった場合についても書いておきます。ペット葬やペット霊園も増えています。そのようなサービスを利用したい場合は、事前に手続きをした上でエンディングノートに書いておきます。

葬儀・お墓編

・葬儀の有無

 葬儀についての考えも、エンディングノートにはとても重要な項目です。

 まず、葬儀自体を望むかどうかという選択があります。その上で、葬儀を行うならどのような葬儀にしてほしいか、葬儀をしない場合はどうするか書いておきましょう。もちろん、家族に一任するというのもひとつの選択です。

・葬儀に関する希望

 葬儀をする場合、すでに葬儀業者や互助会などに申し込みしている場合はそちらの連絡先を書いておきます。また、葬儀費用の準備があるかどうか、ある場合は預入口座などを書いておきます。

 葬儀の形式も重要です。まず一般の方も参列できる一般葬か、家族だけの家族葬か、最近増えている火葬式(直葬)かの希望を書きます。

 次に宗教です。仏式の場合は宗派の指定はあるか、菩提寺や檀家になっているお寺があるか。もしくは神道式か、キリスト教式か、その他の宗教か。特定の宗教に基づかない無宗教という希望もあるでしょう。

 仏式なら、戒名についても注意が必要です。戒名は生前につけてもらうことができるため、すでに戒名を持っている場合はその戒名を、新たに戒名を授けてほしい場合はその旨書いておきます。戒名がないと仏式のお葬式ができないというわけではありませんので、念のため。

 遺影も、「この写真を使ってほしい」というものがあれば事前に用意しておきましょう。保管場所をエンディングノートに書いておきます。

 他に、棺に入れてほしいものや、葬儀での服装などに希望がある場合もエンディングノートに書いておきましょう。

・亡くなったことを伝えたい人

 最後に、葬儀をする場合に「この人は呼んでほしい」という人の連絡先を書いておきます。住所録を別に作っておいて、エンディングノートに添えておくのもいいでしょう。また、「知らせたくない人」がいる場合はこれも書いておきましょう。

・お墓について

 葬儀の次はお墓についてです。お墓に関する常識も、近年大きく変化したものの一つです。

 先祖代々のお墓がいいのか、新しく建ててほしいのか、すでに購入してあるお墓や納骨堂があるのか。それぞれ場所と連絡先・管理先を書いておきましょう。新たに購入してほしい場合は、その費用についても書き残します。

 樹木葬や散骨などのサービスを利用する場合も、運営している業者の連絡先を書いておきます。

 また、これを機に先祖代々のお墓について一度考え直してみるのもよいでしょう。代を重ねて縁が薄くなってしまった遠方のお墓をいつまで守るか。「墓じまい」や合葬などを検討してもいいかもしれません。

メッセージ

 最後に、エンディングノートを後に手にする家族や友人、知人に向けたメッセージを残しましょう。形や書式が決まっているものではありませんから、そのとき心に浮かんだことを思ったままに書き綴り、後から書き加えたり修正してもいいでしょう。いずれにせよ、後にエンディングノートを読んだ人が、書いたあなたを思い出すよすがになるものです。肩に力を入れず、ふと思ったことや気づいたことを書いていくだけでも、立派なエンディングノートになります。

エンディングノートの活かし方

保管方法

 せっかく書いたエンディングノートも、いざという時に読んでほしい人の手元になければしかたがありません。元気なうちから保管場所をしっかり決め、家族や周囲の人にも伝えておきましょう。もし内容的に今すぐ読まれて困るものでなければ、一度読んでもらったり、一緒に書いてもいいかもしれません。

法的な効果とご家族への伝え方

 繰り返しになりますが、エンディングノートには法的な拘束力はありません。相続などのことについて、法的な力を持つのは遺言書だけです。「わざわざ大層に遺言書なんか作らなくても……」と思っていても、エンディングノートとして整理していくうちに「きちんと効力のある遺言書を作ろう」と思い立つ場合もありますし、遺言書を補足するものとしてエンディングノートを活用できる場合もあります。

 前段の「保管方法」でも触れましたが、エンディングノートの存在と保管場所についてはきちんと家族に伝えておきましょう。内容や詳細について話をしたり情報共有してもいいですし、「いざという時までは見ないで」とお願いしてもいいでしょう。いずれにせよ、せっかくのエンディングノートですから、活用してもらう準備はしておきたいものです。

安心できる終活のために必要なこと

 エンディングノートは、終活のひとつのツールです。

 終活は「人生の終わりを迎える準備」という意味で市民権を得た言葉です。しかし最近では、終活は改めて人生を振り返り、その意味を見出すという「新しい門出」のきっかけになるというポジティブな意味合いも出てきました。

 エンディングノートを書くという行為は、これまでの人生と今このときの自分の総ざらい、いわば「人生の棚おろし」をすることです。新しい発見もあるでしょうし、忘れていた大切な人や出来事を思い出すこともあるでしょう。

 エンディングノートを前にすると、どうしても湿っぽくなりがちになる気持ちは誰しもあります。

 しかし、もう一度人生のドアを開けてみる、知らないうちにしまいこんでいた人生の宝箱を開けることにつながるノートだと考えれば、前向きにエンディングノートに取り組むことができるでしょう。

 かつて、「人生の再出発」といえば60歳のとき、還暦を意味していました。

 定年が65歳に延長された企業が増え、平均寿命も大きく伸びた現在とは異なり、かつて60歳というと十分長寿のうち、という認識でした。還暦の際に着せられる赤いちゃんちゃんこは、赤ん坊が生まれたときに着る産着を意味しています。「還暦」という言葉自体、干支が5周して「暦が還る」という意味から出てきた言葉です。人生について改めて考える「節目」としては、大きな意味があるでしょう。

 60歳以降も、70歳(古希)、77歳(喜寿)、80歳(傘寿)、90歳(卒寿)など年齢から見た節目は、それぞれエンディングノートを手に取るタイミングに適しています。

 自分自身の年齢もですが、親の世代が節目の年齢を迎えることによって、エンディングノートについて考えるきっかけになるでしょう。

 終活をはじめるのは、自分のタイミングで。

 エンディングノートも、自分なりの取り組み方でスタートしてみてください。

 大きな安心とともに、人生の終幕を見つめることができるはずです。

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