エンディングノートに書いておいてほしい3つの項目

はじめに

 「終活」がブームになってもうどれくらい経つでしょうか。今ではすっかり一般常識として浸透し、新聞や雑誌、テレビの情報番組などで「終活」という言葉を見かけない日はないのではないかと思うほどです。

 とはいえ、終活という言葉は非常に幅広く、さまざまなことを含みます。身の回りの片付け、住んでいる家の手入れ、最近疎遠になっていた親戚の消息を確かめる、財産の整理……。まさに千差万別、人それぞれに定義されることは違うでしょう。

 そんな「人生の終わり」にまつわることを、一冊のノートにまとめて書いておこうというのが、「エンディングノート」です。

 エンディングノートは遺言とは異なり、法的な効力は一切持ちません。そのかわり、形式にとらわれず自分の意志で思い思いのことを書き残すことができるのです。

 市販のエンディングノートは書店で売っていますし、自治体でエンディングノートを制作し、配布している市町村もあります。エンディングノートを書くためのセミナーや書き方講座も、自治体や司法書士事務所などが主催して開かれています。

 では、そのエンディングノートを受け取る側の子供や家族としては、どのようなことを書いておいてほしいと考えているのでしょうか。やはり、医療や介護に関すること、相続や財産に関すること、そして本人の思いや気持ちではないでしょうか。

 2018年11月に公表された「親の終活に関する意識調査 」(株式会社鎌倉新書)では、子供側の実に7割が「終活については『親から自分たちに』相談してほしい」と考えていることがわかりました。さらに、9割の子供が「終活に取り組んでおかないと困ることがある」と回答しています。

 子供が親に終活やエンディングノートについて話を持ちかけるということは、裏を返せば「親が亡くなる」ということを前提にしなければいけません。子供として気後れするのは当然でしょう。

 そこで活躍するのがエンディングノートです。遺言書と違って気軽に取り組めるエンディングノートなら、書く側のハードルも低いはず。元気なうちに、先回りしてエンディングノートを書き始めるのも一つのやり方です。

エンディングノートについて考えるときに

 近年エンディングノートは広く認知されるようになりましたが、その大きなきっかけになったのが、2011年に公開された映画「エンディングノート」(監督・砂田麻美/プロデューサー・製作/是枝裕和)です。国内の興行収入は1億円を超え、海外の映画祭でも好評を博した作品です。

 この映画は、監督の砂田麻美さんが自らの手で父の砂田知昭さんにカメラを向け、その最期までの道程を記録したドキュメンタリー。砂田監督は、『そして父になる』『万引き家族』などで世界的に知られる是枝裕和さんの元で映画制作を学び、映画『エンディングノート』が初の劇場公開作品です。

 この映画は、砂田監督が撮りためた映像を是枝さんに見せ、その内容を高く評価した是枝さんのプロデュースで劇場公開を迎えたものです。その映像には、砂田さんの父・知昭さんが人生の「エンディング」を迎える様子が映し出されていたのです。

 砂田監督の父、砂田知昭さんは、高度経済成長期を支えた世代です。化学メーカーの熱血営業マンとして67歳まで仕事一筋の生活を続け、定年後の第二の人生を楽しみにしていました。

 しかし毎年受けていた健康診断で、ステージ4の胃ガンが発覚しました。腕利きの営業マンとして「段取りの名人」といわれた砂田さんは、人生最後のプロジェクトとして「エンディングノート」に取り組むことにしたのです。

 家族の一員でもある砂田監督は、自分の葬儀の準備までもきっちりと段取りしようとする知昭さんの様子を、自身が担当したカメラとナレーションを通じてあくまで冷静で客観的に、しかしあたたかく見つめます。

 さて、この映画の中で、知昭さんは「エンディングノート」と名付けたToDoリストを作ります。どんなものか、見てみましょう。

 知昭さんのToDoリストに並んでいたのは、「式場の下見をすること」「長男に希望する葬儀の形式を引き継ぐこと」「気合を入れて孫と遊ぶこと」「神父を訪ねること」「キリスト教の洗礼を受けること」、そして、「妻に(初めて)愛していると言うこと」などです。

 現在多くの方が取り組んでいるエンディングノートとは少し内容が異なり、どちらかというと「人生のなかでやり残したこと」に近いことがわかります。それでも、葬儀の形式などは多くの方が気になるところでしょう。

 6ヶ月間の闘病と「エンディング」に向けた時間を知昭さんと家族はどう過ごしたのか、ぜひDVDなどで映画「エンディングノート」をご覧になってみてください。

エンディングノートに必要なものは

 さて、映画『エンディングノート』は、実の娘が父の最期を記録した映画でした。実際のエンディングノートで、「子供が書いておいてほしいこと」とはどんなことでしょうか。

 まず、エンディングノートに書いておくべき基本的な情報について整理してみましょう。

・自分のこと

 生い立ち、プロフィール

 家族の連絡先

 友人の連絡先

 緊急連絡先

・住まいのこと

 どこに住みたいか

 それまで住んでいた住宅について

・介護、医療について

 誰に、どこで介護してほしいか

 入所したい施設

 介護費用について

 持病について

 病名や余命の告知

 延命治療や胃ろうの是非

 臓器提供や献体について

・食事について

 好きなもの、嫌いなもの、食事の量や回数など

・財産の管理について 

 遺言書の有無、保管場所

 財産と負債

 貯金、有価証券、その他の財産について

・葬儀について

 自分が望む葬儀の形式、規模

 戒名など宗教的なことについての希望

 最期を看取ってほしい人

 お墓の有無、その後の管理

・伝えたいこと

 家族に伝えたい、効いてほしいメッセージ

 引き続き、映画『エンディングノート』の砂田知昭さんをモデルケースに考えてみましょう。

 知昭さんが作ったToDoリストの多くは、「伝えたいこと」にあたります。「介護、医療について」の中にある「病名や余命の告知」についての項目は、末期がんが見つかったことでエンディングノートを作ることになった知昭さんにとってはあまり必要ありません。一方で、「延命治療や胃ろうの是非」については、緩和ケアをどうするかなど、家族と話し合った上でもっと細かい希望を書いておく必要があるでしょう。

 一方で、「私は70歳。年齢のわりに元気ハツラツだけど、いずれ来る老いを前に準備をしておこう」という人がエンディングノートを手にしたとします。現在健康だ、ということであれば、「介護、医療について」の項目にはまだ現実味がないでしょうし、「葬儀について」と言われても「まだ先でいい」と考えるかもしれません。

 こういう方にとっては、これまでの自分を振り返り、人生を再び見つめ直すきっかけとしてエンディングノートは役に立ちます。自分史を書くようなつもりでこれまでの人生を年代別に思い出して書き留めてみたり、押し入れにしまいっぱなしだった昔のアルバムを開き、自分や配偶者、子供たちの昔の姿に目を細めるのもいいものです。人によっては、財産を整理したり生前贈与について考えるきっかけにもなるでしょう。

 このように、エンディングノートを書く人が置かれている状況によって、何を書いておくべきかはまったく異なってきます。「○○について書かなければダメだ」と義務感を持ってしまうと、ついつい手が遠のくもの。まずは自分なりの取り組み方で、ノートに向かってみてください。

書いてほしいこと① 医療・介護についての意志

 エンディングノートを書く上で、切実に必要とされているのは「医療・介護について」の意思です。急病で倒れて意識が回復しない、交通事故で意識不明になった、認知症などで会話や意思の疎通が難しいなど、本人が意思の表明をできない状態になると、医療の方針についての判断は家族が下すことになります。特に、延命治療を行うかどうかについての判断は、そのまま本人の生命に関わる問題のため、事前に家族の間で意思を共有しておく必要があります。

 では、医療についての意思の大切さについて、実際のエンディングノートを見ながら考えてみましょう。

 宮崎県宮崎市は、エンディングノート「わたしの想いをつなぐノート」を制作し、希望する高齢者に配布しています。平成26年から始まったこの取り組みでは、すでに数万人の高齢者にエンディングノートを手渡しています。

 このエンディングノートは、終末期医療の現場に携わる医療スタッフの声をくみ上げて作られました。「わたしの想いをつなぐノート」には「書き方の手引き」が添付されています。手引きには、市民一人ひとりが自分らしい終末期を迎えるために、元気なときからら考える助けになってほしいという願いから、終末期医療において患者本人の意思をきちんと伝えることがいかに大切かがしっかり説明されています。

 まず、延命治療についてです。病気や加齢による衰弱が進行し、治療による回復が見込めず、やがて死を迎える状態を「終末期」といいます。終末期の医療では、延命治療を行うかどうかという大きな選択が迫られますが、多くの場合患者本人は自分の意思を伝えることができない状態にあります。

 延命治療を行い、可能な限り長く生きるか。延命治療をせず、自然に任せるか。または、痛みを取り除いて穏やかな生活を送るか。人によってさまざまな選択肢があります。

 延命治療を望む場合は、大きく分けて2つの選択肢があります。

 「生命維持のための最大限の治療」を望む場合は、心臓が停止すれば心臓マッサージ(胸骨圧迫)と電気ショック、呼吸が止まった場合は気管挿管や気管切開による人工呼吸器の装着を行います。人工呼吸器は、本人が自力で呼吸できなくても生きつづけることができる非常に効果的な医療措置ですが、現在の日本の法制度ではいったん装着されると取り外すことは困難です。

 最大限の治療ではなく、「継続的な栄養補給」を希望することもできます。口から食べ物を摂ることができなくなった場合に行う、経鼻胃管栄養や胃ろうによる継続的な栄養補給のことです。胃ろうは本人の意識がなくても人工的に栄養を補給し続け、生きつづけることができますが、ここ数年安易な胃ろうのの是非が問われています。

 延命治療を望まない場合の選択肢も、大きく分けて2つです。

 「自然に委ねる」場合は、積極的な治療は行わず、必要最低限の医療的サポートにとどめます。衰弱が進み、身体的な機能が弱っていくと、あまり栄養を必要としなくなってつらさや痛みはあまり感じないと言われています。

 「痛みをとる」という方針は、近年非常に注目されています。いわゆる緩和ケアです。鎮痛剤や医療用麻薬などを用いて、末期がんなどの激しい痛みを和らげます。積極的に延命のための治療は行わないので、本人のQOL(生活の質)を向上させ、終末期をよりおだやかに過ごすことができる選択肢です。

 ほかに、点滴などを使って水分を維持する程度にするなどの選択肢もあります。

 これらの選択肢について、どのような意思を持つか。これを、患者側が医療者側に表明しておく必要があります。先に述べたように、終末期の患者は自分で意思表示を行うことが困難な場合がほとんどです。つまり、終末期に至る前に自分の意思をエンディングノートに記入し、「事前指示書」として残しておく必要があるのです。

実例からみる、延命治療の意思表明

 宮崎市の「わたしの想いをつなぐノート・書き方の手引き」では、実際の事例を紹介しています。

 まず、意思表明がうまく行ったケースです。

 69歳の男性、末期がん患者Aさんの場合です。Aさんは抗がん剤治療を受けない選択をし、自宅で最期を迎える希望を持っていました。入院していた病院と地域の医療スタッフとの連携で、自宅での療養がスタート。Aさんは、医師による訪問診療、訪問看護ステーション、薬剤師による居宅療養管理指導、福祉用具レンタルなど、さまざまな在宅医療・福祉サービスの提供を受けていました。

 介護に当たっていたAさんの奥さんと、在宅医療に関わっているスタッフ全員が、「自宅で苦しみなく最期を迎えたい」というAさんの意思を確認し、共有できている状態でした。

 最終的には本人の希望通り、緩和ケアで痛みを和らげながら、満足な最期を迎えることができたとのことです。

 次に、意思表明がうまくいかなかったケースです。

 78歳の男性患者、Bさんの場合です。重度の肺疾患があり、在宅で酸素吸入の措置を受けていました。さまざまな在宅医療・介護サービスも利用しながら、療養生活を送っていました。自宅のなかでときどき転ぶことはあったものの、家族はその対応には慣れていました。

 ある日、遠くに住んでいる親戚が訪ねてきていたときにBさんが転倒。あわてた親戚が救急車を呼んでしまったため、救急病院に搬送されて入院。結局、Bさんが望んでいた自宅での最期は迎えることができませんでした。

 もしエンディングノートなどにはっきりと本人の意思について記載があり、それを親戚まで共有できていれば、Bさんの望みどおりにできたかもしれません。

 次は、エンディングノートなど本人の意思を確認する手段がなかったケースです。

 80歳のCさんは認知症で、娘のDさんの介護を受けていました。Cさんの容態が次第に悪くなり、Dさんは医師から延命治療をどうするかについて聞かれましたが、Dさんは母親のCさんとそういう話をしたことはありませんでした。

 Dさんは自分の兄弟とも話し合い、「元気だったころの母の性格を考えると、延命治療は望まないのではないか」と考え、医師に伝えました。数日後、Cさんは延命治療を受けることなく亡くなりました。

 Cさんの意思を直接確認できなかったDさんは、「本当にこれで良かったのだろうか」と悩みましたが、Cさんの遺品の整理を行ったところ、Cさんが「もしもの時は、延命治療はしないでほしい」と書いたメモが出てきたとのこと。Dさんはほっと安堵したそうです。

 最後に、延命治療の意思表示を変更した患者さんのケースです。

 57歳の男性患者、Eさんは神経系の難病がありました。当初は「人工呼吸器はつけないでほしい」と考え、エンディングノートにもそう書いていました。

 しかし、家族から「一日でも長く生きてほしい」と強い願いを伝えられ、また孫の成長を見守りたいという気持ちも湧いてきたことから、Eさんはエンディングノートを書き直しました。

 延命治療について、家族や医療関係者としっかり話し合ったことで、結果としてエンディングノートでの意思表示を変更したわけです。

 その後Eさんは人工呼吸器や胃ろうの処置を受けながら、家族との時間を過ごすことができたそうです。

書いてほしいこと② 相続・財産・持ち物について

 先に引用した調査では、子供側が「終活で一緒に取り組んでおかないと困る」と考えていることのベスト3が、「持ち物の整理」「財産の整理」「お葬式」でした。

 持ち物の整理は、思った以上に手間取るものです。数年に一度のペースで引っ越しを繰り返している家庭ならまだしも、数十年ひとつの家に住み続けた場合はなかなか手がつけられません。

 そんな家には、「一見大事そうに見えるけどよくわからないもの」「一見不要そうに見えるけど大事なもの」がたくさんあります。「古いケースに入った高価そうな楽器」、「いつからあるのかわからない、和綴じの古文書」

当の本人なら重要性は一目瞭然ですが、たとえ子供や家族でも判断できないものは多いでしょう。一番いいのは、本人が元気なうちにいわゆる「断捨離」をして、きれいさっぱり片付けてしまうこと。しかし現実問題として、そんなことはめったにできません。

 そこでエンディングノートの出番です。例えば、上で挙げた「実は大事なもの」は、ちゃんと指定して誰かに譲り渡すなど始末をつけること。そして、「それ以外はすべて処分すること」と書いておけば、あとは子供や家族が気兼ねなく片づけられるというものです。

 そして財産の整理です。

 遺産相続で残された家族が……というのは、2時間ドラマなら楽しく見られるものですが、自分の親族が巻き込まれるとなると話は別です。残された家族が骨肉の争いを繰り広げる、後の世代のためにと苦労して手に入れた家や土地が結局売却されて第三者の手に渡るなどということは、避けられるなら避けたいもの。

 本来ならば、相続や財産については遺言書という形で法的にしっかり決めておくことがベストです。ですが、法的に有効な遺言書を作るにはそれなりの手順が必要ですし、内容も民法で定められた形式に沿っている必要があります。

 また、大きな違いとして、遺言書は本人が亡くなったあとのことしか書くことができませんが、エンディングノートはそのような制限は一切ありません。遺言書は「相続」という法的手続きの中で力を発揮するものですが、エンディングノートに書く内容は、法的な力を持たない代わりにどのようなことでもよいのです。

 そして、エンディングノートには、遺言書の文面には反映できない気持ちや思い、本人の考え方を書くことできます。

 例えば遺言書には、「長男Aには次の不動産を相続させる。土地:○県○市○○○○ 建物:木造二階建て家屋」「次男Bには、上記以外のすべての財産を相続させる」というように、あえて言えば無味乾燥な書き方しかできません。

 一方で、エンディングノートには「長男Aには、わたしたち家族が30年に渡って暮らしてきた○市の土地・建物を相続してほしい。長男の妻C、孫D、孫Eの4人家族で生活するには、あの家ならぴったりだと思う。Aが子供のころに遊んでいたあの庭で、CとDが元気に育っていく姿が目に見えるようだ。残りの財産については、次男のBに継いでほしい。自営業を営むBには、換金しにくい不動産よりも現金などのほうが便利だろう。多くはないが○○銀行の口座と、○○の株券がある。株は値上がりしたタイミングで現金化しておいたほうがいいぞ」などと書くことができます。もちろん、生前に遺産の分割について本人や家族のあいだで話し合い、変更してもいいでしょう。これなら、いざという時が来ても、それぞれが納得した形で相続手続きに臨むことができます。

 それでは、遺言書についてかんたんに見てみましょう。

 遺言書には、大きく分けて「自筆証書遺言」「公正証書遺言」「秘密証書遺言」があります。

 「自筆証書遺言」は、遺言者が紙とペンなどを使って自分で遺言書を書くものです。遺言の全文・日付・氏名を自書し、印鑑を押すことで遺言書とすることができます。

 自筆証書遺言を作ること自体に特別な手続きはいりませんが、遺言書を発見した相続人は家庭裁判所による「検認手続」を受けなければいけません。この手続きを経て、はじめて有効な遺言書としての効果を発揮します。

 また、遺言書は遺言者や家族が管理することになります。悪意のある家族がいれば、遺言書を隠したり偽造したりするリスクがあります。専門家のチェックを受けていない場合など、遺言書に不備があれば無効になる可能性もあります。

 「公正証書遺言」は、証人2名が立ち会った上で公証人が遺言書を作成するものです。被相続人である遺言者から聞き取りながら、公的な立場である公証人が遺言を作成しますから、偽造や変造のおそれがありません。また、公正証書遺言の原本は公証役場で保存されますから、紛失するおそれもありません。

 「秘密証書遺言」は、遺言者が自分で用意した遺言書を2名の証人と共に公正役場に持ち込み、遺言書の存在を保証してもらうものです。公証人と証人が携わることでは公正証書遺言と似ています。しかし、遺言書の内容については公証人と証人は一切知ることができません。自筆証書遺言と同様に、形式が正しくなければ遺言としての効力を発揮できず、また、遺言書は自分で保管しなければいけないので、自筆証書遺言と同様に偽造や隠蔽などのリスクは避けられません。

 正しい書式・手続きに基づいて作成された遺言書は、以下のような事柄について効力を持ちます。

●財産の承継・処分に関する行為

 ・相続する財産の割合、財産の分割方法、遺贈などについて

 一般的な遺言書で、もっとも重要な部分です。ここで指定しない限り、相続する財産は法定相続人のあいだで一定の割合で分割されます。

 遺言で指定すれば、この割合を変更したり、第三者に遺贈することができます。例えば、「長男○○が遺産のすべてを相続する」と書いた場合、配偶者や他の子供は遺産を相続できません。

●相続人に関する行為

 ・相続人の廃除(相続人から外すこと)、廃除の取消し

 上に挙げた「法定相続人」から、特定の人を外すことを「廃除」といいます。相続の権利を剥奪する手続きですから、よほどのことがないと認められることはないようです。

●身分に関する行為

 ・子供の認知、未成年後見人の指定など

 ドラマではお馴染みの「子供の認知」です。遺言で認知しようとしている子供が成人に達している場合は本人の同意が必要です。また胎児である場合は母親の同意が必要になります。

●その他(祭祀承継者の指定、遺言執行者の指定など)

 ・祭祀承継者(お墓や仏壇などの管理、葬儀・仏事の運営をする者)の指定、遺言執行者(相続人の廃除・廃除の取り消し・子供の認知、第三者への遺贈手続きなどを執行する者)の指定

 先祖代々のお墓やお位牌、仏壇などの管理や法事(仏事)などを受け継ぎ、担っていく人のことを「祭祀承継者」といいます。

「遺言執行者」は、遺言状に書かれた事項が確実に実現されるために必要な一切の行為を行う権限を持ちます。相続人のうち1人でもかまいませんし、弁護士などの有資格者や、さらには法人を執行者として指名することができます。

 遺言執行者は相続財産の目録を作ったり、預貯金などの解約、不動産などの名義変更を行うことができます。

 さて、このように法的に強い力を持つ遺言書ですが、「うちはそこまでしなくても……」とか、「わざわざ遺言書を書くほどの財産はない」とお思いの方もいるでしょう。エンディングノートは、そういう方にとっては非常に適した意思表示の手段といえるでしょう。また、「きちんと遺言書を作っておきたい」という方にとってもエンディングノートは有用です。遺言書では遺産の相続について決定することができますが、財産の詳細についてはエンディングノートに記載しておいたほうが便利です。

 自筆証書遺言や秘密証書遺言は、家庭裁判所による検認を経ないで無断で開封すると、最高5万円以下の罰金が課せられますので、そうそう「ちょっと見てみる」とか「書き直しておこう」ということはできません。一方でエンディングノートには法的な力はありませんから、必要に応じて確認したり、生前に追記・修正することなども可能です。

書いてほしいこと③ 家族への思い、メッセージ

 ここまで取り上げてきた「書いてほしいこと」は、どちらかというと実用的な性格が強いものでした。しかし、エンディングノートに求められるものは、もちろんそれだけではありません。

 家族として暮らしてきた長い時間は、あなたにとってどういうものだったのか。あなたが子供だったころは、どんなものを見て、何を考えて暮らしてきたのか。配偶者とはどうやって出会い、結婚して家族になったのか。初めて子供を授かったときにはどう感じたのか……。

 これまでは、「わざわざ言わなくても」なんて思っていたそんなことを、改めてあなた自身の言葉で書き綴る。これは、エンディングノートにしか担えない役割です。

 形式が自由なエンディングノートだからこそ、自分なりの言葉で書いてみてください。

 きっと新しい発見や、これまで忘れていた思い出に出会うことができるでしょう。

おわりに

 エンディングノートに書いてほしいことは、「医療・介護について」「持ち物・財産・相続について」、そして「家族への思い」。

 エンディングノートに託すこと、かける思いは人ぞれぞれです。だからこそ、ノートを受け取る子供たちや家族がいつまでも大切にできる、あなたのことを考えるよすがになるものとして、しっかりと気持ちを込めたエンディングノートにしたいですね。

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